「クラスが小さいほうがよく学べる」は、どこまで確かめられているか
学級の人数が少ないほうが、一人ひとりに目が届き、学力も伸びる。この考えは、保護者にも教員にも、ほとんど自明のものとして受け入れられています。日本でも公立小中学校の学級編制の標準は、法律で1学級35人へと引き下げられてきました。
ところが、これを研究として確かめようとすると、途端に難しくなります。学級の人数は偶然に決まるものではなく、小さな学級に学習の難しい子どもが集められていることもあれば、裕福な地域の学校で実現していることもある。単純に人数と成績を比べても、人数の効果は取り出せません。
それを乗り越えるために、1980年代のテネシー州で大規模な無作為化実験が行われました。先に結論を述べると、唯一の大規模実験は小さな学級に一定の効果を示したが、実験の外の証拠を集めると、平均的な効果は小さいか、検出できない水準にとどまる。
1. テネシーSTAR実験——何をどう調べたか
Project STARは、テネシー州議会が予算を投じて実施した4年間の研究です。Krueger (1999) の記述では、1985年の年度から、約11,600人の幼稚園年長の児童と教員が、各学校の中で3種類の学級に無作為に割り当てられました。13〜17人の小さな学級、22〜25人の通常学級、通常学級に専任の補助教員を付けたものです。学校の中で割り当てるため、学校ごとの地域差や予算差は比較に影響しません。
ただし、実験は設計どおりには進みませんでした。設計では3年生まで同じ種類の学級に留まるはずでしたが、2年生と3年生では約10%の児童が学級の種類を移動し、脱落も多かった。この「実施の不完全さ」が、のちの論争の火種になります。
2. 短期の効果——最初の年に4パーセンタイル
Krueger (1999) は、実施上の問題を複数の統計手法で処理したうえで、次の結論を出しています。小さな学級に入った最初の年に、標準テストの成績は約4パーセンタイル上がる。その後は通常学級の児童に比べて、1年あたり約1パーセンタイルずつ差が広がる。
一方で、補助教員を付けることには、ほとんど効果がありませんでした。大人の数を増やしても、学級を小さくしなければ成績は動かない。「目が届く」という素朴な説明では足りないことを示す対比です。
効果の大きさには偏りがありました。少数民族の児童と、給食費の補助を受けている低所得世帯の児童で、効果はより大きかった。
「成績の低い子ほど恩恵が大きい」と想像されがちですが、Nye, Hedges, Konstantopoulos (2002) はそれを検証し、否定的な結果を得ています。年長時点の成績が下半分・下位4分の1の児童を取り出しても、読解では効果がやや大きい程度で有意ではなく、算数ではむしろ上位の児童より小さかった。小さな学級は全体に効くが、低学力層に特別に効くという証拠はない、という結論です。
効果を標準偏差の単位に直すと、Filges, Sonne-Schmidt, Nielsen (2018) が4本のSTAR分析をまとめた表では、年長から3年生の読解で0.17〜0.34、算数で0.15〜0.33です。教育介入としては中程度で、無視できる大きさではありません。
3. 長期の追跡——大学進学は増え、収入は確認できず
STARの価値は、参加者を大人になるまで追えたことにあります。3年生を終えると全員が通常学級に戻りますが、Krueger, Whitmore (2001) は8年生までの成績と大学入学試験(ACTまたはSAT)の受験状況を追いました。小さな学級にいた児童は、その後の成績がいくらか高く、大学入学試験を受ける割合が上がっており、受験率における黒人と白人の差を54%縮めたと報告されています。著者らは、学級を22人から15人に減らす投資の内部収益率を5.5%と試算しています。
Chetty et al. (2011) は、11,571人の実験データを税務記録につなぎ、27歳時点の収入まで調べました。小さな学級にいた児童は大学に進学する確率が有意に高かった。しかし、27歳時点の収入への効果は統計的に有意ではなく、推定の精度も低かった。一方、年長で経験の長い教員に当たった児童は収入が高く、テストへの効果は学年が上がると薄れても非認知的な指標への効果は残ったと報告されています。
Dynarski, Hyman, Schanzenbach (2013) は大学の在籍記録で、より細かく調べました。小さな学級への割り当ては大学進学率を2.7パーセンテージポイント上げ、黒人の児童ではその2倍以上、最も貧しい3分の1の学校では7.3パーセンテージポイントでした。学位取得は1.6パーセンテージポイント増え、理工系や経済系の分野へ進む傾向も見られました。幼少期の数年間の介入が、20年後の進路に検出可能な差を残していることになります。
Fredriksson, Öckert, Oosterbeek (2013) はスウェーデンの行政データで、学級の上限人数の規則から生じる人数差を利用しました。小学校の最後の3年間(10〜13歳)に小さな学級にいた子どもは、13歳時点の認知・非認知能力と16歳時点の成績が高く、最終学歴、賃金、27〜42歳時点の所得にも正の効果が見られました。著者らは、賃金への効果は費用便益の検定を通る大きさだと述べています。
4. 同じデータから逆の結論——ハヌシェックの反論
STARの結果は政策に大きな影響を与えましたが、研究者の間では当初から異論がありました。代表的なのがHanushek (1999) です。第一に、実験の外にある大量の非実験的証拠は、学級規模の縮小で成績が一貫して改善するとは示していない。第二に、STARには設計と実施の問題があり、よく引用される結果は上方に偏っている可能性がある。第三に、仮に問題を無視しても、効果が見られるのは年長か、せいぜい1年生での、非常に大きく高価な縮小に限られる。13〜17人より大きな学級への縮小や、上の学年での縮小を支持する結果は、STARからは得られない。
これに対してNye, Hedges, Konstantopoulos (2000) は同じデータを再分析し、実施の不完全さはむしろ効果を過小評価する方向に働いた可能性が高く、効果は政策的に重要な大きさで学校の種類を問わず一貫していた、と反論しています。
5. 実験の外——自然実験は何を示したか
無作為化実験は一つしかありませんが、偶然に近い人数の変動を利用した「自然実験」は各国で行われ、結果は割れています。
Angrist, Lavy (1999) はイスラエルの公立学校で、12世紀の学者マイモニデスに由来する規則を利用しました。学級に上限があり、超えると分割されるため、児童数がわずかに違うだけで学級の人数が大きく変わります。1991年の4・5年生では、5年生で読解と算数の両方に有意な改善、4年生で読解により小さな改善が見られ、恵まれない家庭の児童で効果は大きかった。
ところが、同じ著者らが2002〜2011年のデータで同じ方法を適用したAngrist et al. (2019) では、学級規模の効果はまったく検出されませんでした。上限付近での在籍者数の操作もうかがえましたが、誕生日から在籍数を推定する修正版の規則でも結果は精度の高いゼロでした。同じ国、同じ方法で、効果が消えたことになります。
Hoxby (2000) は米国コネチカット州で、出生数の自然な変動から生じる学級人数の違いを使い、15〜30人の範囲で学級を小さくしても成績に効果はないと結論しました。推定は標準偏差の100分の3程度の改善なら検出できる精度で、「あったとしてもごく小さい」と読めます。
カリフォルニア州は1996年に州全体で低学年の学級を縮小しました。Jepsen, Rivkin (2009) の分析では、他の条件が同じなら小さな学級は3年生の算数と読解を高め、低所得の児童で効果が大きかった。しかし大量の教員を採用した結果、黒人児童が多い学校では教員の平均的な質が低下し、小さな学級の利益は一部、場合によっては全部が相殺されました。
日本でも同じ設計の研究があります。Ito, Nakamuro, Yamaguchi (2020) は、1学級40人を上限とし41人以上で分割する規則を利用し、ある県の公立学校1,064校の小4〜中3を3年間追いました。学力テストへの効果は平均すると小さく、学習塾に通っていない生徒でやや強い傾向がありました。非認知的な能力を改善する証拠は得られていません。
6. 全体をまとめると——148本のレビュー
個別の研究が割れているとき、頼りになるのは系統的レビューです。Filges, Sonne-Schmidt, Nielsen (2018) のキャンベル共同計画によるレビューは、41か国の148本の報告(127研究)を集めました。うち45本はSTARの分析です。ただしメタ分析に入れられたのは10研究だけで、うち4本がSTARでした。
結果は控えめです。STAR以外の研究を統合すると、読解では標準化平均差0.11(95%信頼区間0.05〜0.16)と、小さいながら有意な正の効果がありました。算数では−0.03(95%信頼区間−0.22〜0.16)で、有意ではありません。STARの結果はこれより良好ですが、著者らは全体の結論を変えないとしています。すべて介入した年度末の測定で、長期の効果は統合できていません。一部の生徒には逆効果になる可能性にも言及があります。
Altinok, Kingdon (2012) は、国際学力調査TIMSSの47か国のデータで、同じ生徒の科目間の成績差を科目ごとの学級人数の差と結びつけました。生徒自身を比較の基準にするため、学校や学級への振り分けの偏りが消えます。14か国で学級が大きいほど成績が低いという有意な効果が見られたものの、大きさはほとんどの国で小さく、著者らは効果はほぼないとする従来のメタ分析を裏づけるものと位置づけています。また、教員の質が高い国ほど、学級規模の効果は小さいという傾向も報告されました。
7. なぜ結果が割れるのか
実験は効果を示し、多くの自然実験とレビューは小さいかゼロに近い効果を示す。この食い違いは、問いの立て方の違いから生じています。
縮小の幅が違う。STARが比較したのは22〜25人から13〜17人へという大幅な縮小で、Hoxby (2000) が調べた15〜30人の範囲の変動は、現実的な数人の増減に近い。大幅な縮小で効果があったことは、小幅な縮小でも効果があることを意味しません。
教える人の供給が変わる。実験では既存の教員を配置できましたが、全州で実施すれば大量の教員を新たに採用することになり、Jepsen, Rivkin (2009) が示したように平均的な質が下がります。学級規模と教員の質は、予算のうえで競合します。
何を測るかが違う。テスト成績への効果は学年が上がると薄れます。Chetty et al. (2011) の非認知的指標への持続、Fredriksson et al. (2013) の成人後の所得への効果は、短期のテスト成績だけでは効果を見落とす可能性を示しています。
小さな学級で何をするかが決まっていない。人数を減らしても授業のやり方が変わらなければ、変わるのは教員一人あたりの負担だけです。補助教員に効果がなかったという所見は「大人の数」ではなく「学級の構造」が問題だと示唆しますが、どの構造が効くのかまでは分かりません。
8. 日本の文脈で
日本の公立小中学校の学級編制の標準は、現行の法律では小学校・中学校とも35人で、段階的な移行のため40人が残る学年もあります。政策上の「少人数学級」とは、この40人から35人への引き下げを指すことが多い。
この幅を研究に照らすと、注意が要ります。STARで効果が確認されたのは22〜25人から13〜17人への縮小で、日本の通常学級はSTARの「通常学級」より大きい。40人から35人という変化は、Hanushek (1999) が「STARからは支持されない」とした小幅な縮小にあたります。Ito, Nakamuro, Yamaguchi (2020) が日本のデータで平均的な効果は小さいと報告したことも、この見方と整合します。
もっとも、効果が小さいことと意味がないことは別です。Ito et al. (2020) では、効果は学習塾に通っていない生徒でやや強く現れました。STARで効果が少数民族や低所得世帯の児童に集中したことと構造は似ており、学級規模の効果は「平均」で語ると小さく、「誰に」で語ると見え方が変わります。
家庭の側から見れば、自分の子どもの学級が32人か38人かは、研究上の効果量からすれば成績を左右する主要な要因とは言えません。研究が繰り返し示してきたのは、人数そのものより、その人数で何が行われているかが結果を決めるということです。
9. 証拠の限界
この領域の知見を使う際の留保を述べます。
第一に、無作為化実験は一つしかありません。STARは1980年代のテネシー州、年長から3年生という条件で行われ、他の時代や国、上の学年にそのまま当てはめることはできません。Angrist et al. (2019) のように、同じ国でも時代が変われば効果は消えることがあります。
第二に、STARの実施には欠陥があり、脱落と学級間の移動をどう扱うかで推定値は変わります。Nye et al. (2000) は過小評価の方向に働くと見ますが、Hanushek (1999) は上方への偏りを疑っており、決着していません。
第三に、長期追跡は統計的な精度に限界があります。Chetty et al. (2011) の収入への効果は「有意でない」と同時に「精度が低い」もので、効果がないことの証明ではありません。
第四に、費用の問題をここでは扱っていません。Krueger, Whitmore (2001) やFredriksson et al. (2013) は投資として見合うと計算していますが、Hanushek (1999) やAltinok, Kingdon (2012) は同じ予算を教員の質に向けるほうが合理的だと示唆しています。
まとめ
少人数学級は効くのか。40年分の研究をまとめると、答えは「条件つきで、小さく、効く」です。テネシーの実験は、22〜25人から13〜17人への大幅な縮小が低学年の成績を中程度に押し上げ、大学進学率をいくらか高めることを示しました。効果は少数民族や低所得世帯の児童で大きく、スウェーデンでは成人後の所得にまで及んでいます。
一方で実験の外では、効果は小さいか検出できない場合が多い。系統的レビューでは読解で0.11、算数ではほぼゼロ。同じ国で効果が消えた例も、大規模に実施すると教員の質の低下が利益を打ち消した例もあります。
研究が一致して示しているのは、人数を減らすこと自体が学力を上げるのではない、ということです。小さな学級は、それを活かす教員と授業があってはじめて効果を持ち、その効果は学校の外で補われていない子どもに大きく現れる。学級の人数という一つの数字に、過大な期待も過小な評価も向けないための前提です。
主な参照研究
- Krueger, A. B. (1999). Experimental estimates of education production functions.
- Nye, B., Hedges, L. V., & Konstantopoulos, S. (2000). The effects of small classes on academic achievement: The results of the Tennessee class size experiment.
- Nye, B., Hedges, L. V., & Konstantopoulos, S. (2002). Do low-achieving students benefit more from small classes? Evidence from the Tennessee class size experiment.
- Hanushek, E. A. (1999). Some findings from an independent investigation of the Tennessee STAR experiment and from other investigations of class size effects.
- Krueger, A. B., & Whitmore, D. M. (2001). The effect of attending a small class in the early grades on college-test taking and middle school test results: Evidence from Project STAR.
- Chetty, R., Friedman, J. N., Hilger, N., Saez, E., Schanzenbach, D. W., & Yagan, D. (2011). How does your kindergarten classroom affect your earnings? Evidence from Project STAR.
- Dynarski, S., Hyman, J., & Schanzenbach, D. W. (2013). Experimental evidence on the effect of childhood investments on postsecondary attainment and degree completion.
- Fredriksson, P., Öckert, B., & Oosterbeek, H. (2013). Long-term effects of class size.
- Angrist, J. D., & Lavy, V. (1999). Using Maimonides’ rule to estimate the effect of class size on scholastic achievement.
- Angrist, J. D., Lavy, V., Leder-Luis, J., & Shany, A. (2019). Maimonides’ rule redux.
- Hoxby, C. M. (2000). The effects of class size on student achievement: New evidence from population variation.
- Jepsen, C., & Rivkin, S. (2009). Class size reduction and student achievement: The potential tradeoff between teacher quality and class size.
- Ito, H., Nakamuro, M., & Yamaguchi, S. (2020). Effects of class-size reduction on cognitive and non-cognitive skills.
- Filges, T., Sonne-Schmidt, C. S., & Nielsen, B. C. V. (2018). Small class sizes for improving student achievement in primary and secondary schools: A systematic review.
- Altinok, N., & Kingdon, G. (2012). New evidence on class size effects: A pupil fixed effects approach.
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