法律の文章は、読み方の規則を知らないと読めない
法学部を志望する高校生が最初に触れるのは、条文か判決文です。そして多くの場合、最初の数行で止まります。
これは読解力の問題ではありません。法律の文章には固有の書き方の規則があり、それを知らないと読めないという構造の問題です。規則は数が限られており、覚えれば読めるようになります。
この記事は入門的な整理です。実際の法解釈は、専門的な文献で確認してください。
1. 条文の基本構造
法律の条文は、多くの場合、次の要素でできています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 要件 | どういう場合に |
| 効果 | どうなるか |
この2つに分けて読むのが、最初の作業です。「〜のときは、〜する」という形を探してください。
たとえば、ある行為が犯罪になるかを定めた条文なら、前半が「どういう行為をしたら」(要件)、後半が「どういう刑になるか」(効果)になります。
この分解ができると、事例問題は「この事案は要件を満たすか」という形に整理できます。法学の中心作業である「あてはめ」は、これを指しています。詳しくは法学部で学ぶことで扱っています。
2. 覚えるべき法令用語
日常語と意味が違う語があります。ここを間違えると、条文の意味が反転します。
| 語 | 意味 |
|---|---|
| 善意 | ある事実を知らないこと。親切という意味ではない。 |
| 悪意 | ある事実を知っていること。害意ではない。 |
| 又は/若しくは | 選択。段階がある場合、大きい区切りが「又は」。 |
| 及び/並びに | 併合。大きい区切りが「並びに」。 |
| その他/その他の | 「その他の」は前が後の例示。「その他」は並列。 |
| 推定する | 反証があれば覆る。 |
| みなす | 反証があっても覆らない。 |
| 準用する | 別の条文を、読み替えて適用する。 |
「善意・悪意」は最も有名な例です。「善意の第三者」は「事情を知らない第三者」という意味で、道徳的な評価は含みません。
「推定する」と「みなす」の違いも重要です。覆せるかどうかが決定的に違います。
3. 条・項・号
条文の場所を示す単位です。
- 条——第◯条。大きな単位。
- 項——条の中の段落。「第1項」「第2項」。条文では算用数字で示されます。
- 号——項の中の列挙。「第1号」「第2号」。漢数字で示されます。
- 但書(ただしがき)——「ただし、〜」以降。原則に対する例外。
- 本文——但書より前の部分。
「◯条1項但書」という引用は、その条文の1項の「ただし」以降を指します。但書は例外を定める部分なので、原則と分けて読む必要があります。
4. 判決文の読み方
判決文は長く見えますが、構造は決まっています。
| 部分 | 内容 | 重要度 |
|---|---|---|
| 主文 | 結論(誰の請求を認めるか等) | 高 |
| 事実 | 何が起きたか | 中 |
| 理由 | なぜその結論になるか | 最高 |
| 争点 | 当事者の主張の対立点 | 高 |
| 補足意見・反対意見 | 裁判官個人の見解 | 中 |
読むときは、「争点は何か」を先に押さえてください。争点が分かると、理由の部分で何が論じられているかが見えます。
また、判決の中で後の裁判に影響する部分と、その事案限りの部分があります。前者を取り出すのが、判例を学ぶということです。
5. 事例問題を解く手順
総合型選抜や小論文で法律系の事例が出た場合、次の手順で処理します。
- 登場人物と時系列を書き出す——誰が誰に何をしたか。
- 誰の、誰に対する、どういう主張かを特定する
- その主張の根拠になる条文を探す
- 条文を要件と効果に分ける
- 事案が要件を満たすか、1つずつ検討する
- 満たさない要件があれば、そこが争点
- 反対の結論もあり得るなら、両方書く
5番目が「あてはめ」です。要件を1つずつ検討することが、法的な思考の実質です。結論だけを書くと、途中の検討が評価されません。
7番目も重要です。入試で問われるのは正解ではなく、検討の過程である場合が多くなります。
6. 憲法から入る理由
法律の入門として憲法が勧められるのは、次の理由によります。
- 条文が少なく、通読できる——全体像がつかめます。
- 高校の公民と接続する——既習の知識が使えます。
- 価値の対立が見える——自由と公共の福祉、多数決と人権など。小論文の材料になります。
- 判例が有名——解説が豊富にあります。
読むときの要点は1つです。憲法が名宛人としているのは、国民ではなく国家(権力)だということ。ここを取り違えると、憲法に関する議論全体がずれます。
7. 民法・刑法の入口
| 分野 | 中心的な問い | 入口になる論点 |
|---|---|---|
| 民法 | 私人間の利害を、どう調整するか | 契約の成立、意思表示、第三者の保護 |
| 刑法 | どういう行為を、なぜ処罰するか | 因果関係、故意、正当防衛 |
民法で最初に面白さが分かるのは、「二人の言い分がどちらも正当なとき、どちらを保護するか」という場面です。取引の安全と、本来の権利者の保護が衝突します。
刑法では、因果関係が入口として適しています。行為と結果の間に何が入ると因果が切れるのか。この検討は、法律以外の議論にも応用できます。
8. 何から始めるか
- 憲法を通読する——条文だけ。1時間で読めます。
- 法令用語の一覧を確認する——上の表の程度で足ります。
- 有名な判例を3つ読む——解説つきのもの。争点を1文で言えるようにする。
- 事例問題を1つ、上の7手順で解く
- 入門書を1冊読む——分野を絞る。
1〜4は、高校生でも数週間で可能です。この段階まで来ると、法学部の志望理由書に具体性が出ます。「法律に興味がある」ではなく、「◯◯という論点に関心がある」と書けるようになります。
当塾の立場
当塾は法学部志望者の指導を行っており、この分野を扱うことには利害があります。その前提でお読みください。
そのうえで、高校生が資格試験の勉強を先取りすることは勧めていません。大学入学前に司法試験の勉強を始めても、土台がないまま進むことになります。
この記事で扱った範囲——条文の構造、法令用語、判決文の読み方——は、大学に入ってから最初につまずく部分でもあります。ここを先に知っておくと、入学後の立ち上がりが変わります。
また、法学部を志望していない生徒にも、この読み方は役立ちます。要件と効果に分ける読み方は、契約書、規約、募集要項にもそのまま使えます。入試の出願要件を正確に読むためにも有効です。
まとめ
- 条文は要件と効果に分けて読む。
- 善意=知らない、悪意=知っている。日常語と違う。
- 推定は覆せる、みなすは覆せない。
- 但書は例外。本文と分けて読む。
- 判決文は争点を先に押さえる。
- 事例問題は要件を1つずつ検討する。それが「あてはめ」。
- 憲法が名宛人とするのは国民ではなく権力。
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