「広報の仕事がしたい」では、志望理由書は通らない
経済・経営・商学部の志望理由書で最も多いのが、「将来は広報の仕事をしたい」「商品企画に関わりたい」という書き方です。
これが弱いのは、その仕事の実態を調べていないことが、書き方から分かってしまうためです。企業について調べる方法は公開されており、誰でも使えます。この記事では、その手順を扱います。
この記事は調べ方の説明です。投資判断や企業評価を目的とするものではありません。
1. なぜ具体性が求められるのか
経済・経営・商学部で学ぶのは、企業や市場の仕組みです。したがって、「企業を調べたことがあるか」は、学問への接続を示す指標になります。
- 調べていれば、業界の構造や課題に触れられます。
- 触れられれば、大学で何を研究したいかにつながります。
- つながれば、志望理由書の問い(RQ)が具体的になります。
逆に、調べていない場合、「興味があります」「貢献したいです」という文しか書けません。志望理由書で評価されない型の代表です。
2. 公開されている資料
上場企業については、法令に基づいて多くの情報が公開されています。無料で誰でも読めます。
| 資料 | 分かること |
|---|---|
| 有価証券報告書 | 事業内容、業績、リスク、従業員数、セグメント別の状況 |
| 決算短信 | 直近の業績。速報性が高い。 |
| 統合報告書・アニュアルレポート | 経営方針、中長期の戦略 |
| 決算説明会資料 | 図表が多く、初学者にも読みやすい |
| コーポレートサイトのIR欄 | 上記がまとまっている |
有価証券報告書は、金融庁の電子開示システムで検索できます。企業名で検索すれば、過去数年分が読めます。
最初に読むなら、4行目の決算説明会資料を勧めます。図表中心で、業界の構造がつかみやすくなっています。
3. 有価証券報告書のどこを読むか
全部読む必要はありません。高校生が使うなら、次の順です。
- 事業の内容——何で稼いでいるか。想像と違うことがよくあります。
- セグメント情報——部門ごとの売上と利益。主力事業が分かります。
- 事業等のリスク——企業自身が認識している課題。ここが最も使えます。
- 従業員の状況——人数、平均年齢、平均勤続年数。
- 経営方針・経営環境——今後の方向性。
3番目の「事業等のリスク」が、志望理由書の材料になります。企業が自分で「これが課題だ」と書いている部分だからです。ここから問いを立てると、具体性が出ます。
2番目も重要です。「有名な商品を作っている会社」の売上の大半が、別の事業から来ているということは珍しくありません。イメージで書くと、この点を外します。
4. 財務諸表の最低限
数字の意味が分からないと、資料が読めません。高校生に必要な範囲は限られます。
| 表 | 示すもの | 見るところ |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | ある時点の財産の状態 | 資産・負債・純資産の比率 |
| 損益計算書 | 一定期間の儲け | 売上高、営業利益、当期純利益 |
| キャッシュフロー計算書 | お金の動き | 営業活動によるキャッシュフロー |
最低限、次の関係を押さえてください。
- 資産=負債+純資産——貸借対照表は必ずこの形になります。
- 売上高−費用=利益——ただし利益にはいくつか段階があります。
- 利益が出ていても、現金がないことがある——だからキャッシュフロー計算書がある。
3番目は、簿記を学ぶと最初に驚く部分です。利益と現金は別物という理解は、経済系の学部で早い段階に必要になります。
5. 業界を見る
1社だけを見ても、その企業の位置が分かりません。同じ業界の複数社を比べてください。
- 売上高と利益率を並べる——規模と効率は別です。
- セグメント構成を比べる——同じ業界でも稼ぎ方が違います。
- リスク認識を比べる——業界共通の課題と、個社の課題が分かれます。
- 海外比率を見る——市場をどこに置いているか。
3番目が最も有用です。複数社が同じリスクを挙げていれば、それは業界構造の問題です。志望理由書で扱う問いとして成立します。
6. 使える枠組み
調べた事実を整理するには、枠組みが要ります。経営学の入門的な道具で足ります。
| 枠組み | 使いどころ |
|---|---|
| 市場での位置づけ(ポジショニング) | 価格と品質など2軸で競合を配置する |
| 誰に何を売るか(顧客と価値) | 対象と提供価値を言語化する |
| 収益の仕組み | どこで利益を得ているか。本体か、後続の消耗品か。 |
| 強みの持続性 | その強みは真似されないか |
| 提携・協業 | 単独でやらない選択の理由 |
1行目は紙に描けます。2軸を決めて競合を置くだけで、その企業の位置が見えます。軸の選び方自体が分析になります。
3行目も有用です。「何で稼いでいるか」は、想像と違うことが多くあります。
7. 志望理由書につなげる
調べた内容を、そのまま書いても評価されません。学問の問いに変換する必要があります。
| 調べた事実 | 問いへの変換 |
|---|---|
| 複数社が人手不足をリスクに挙げている | この業界の労働供給の制約は、何によって生じているか |
| 海外比率が上がっている | 国内市場の縮小に、企業はどう対応しているか |
| 収益源が本体でなく後続商品にある | この価格設計は、どういう条件で成立するか |
右列のように書けると、「大学で何を研究したいか」につながります。問いの立て方は志望理由書で詳しく扱っています。
また、この段階まで来ると、面接での深掘りにも耐えられます。調べた事実が背後にあるためです。
8. 注意点
- データは日付を確認する——決算は年に1回更新されます。
- 企業の自己申告である——都合の悪い情報が省かれる可能性を考慮する。
- 非上場企業は資料が少ない——同じ方法が使えません。
- 投資の話にしない——志望理由書で株価の話をしても、学問の話にはなりません。
- 数字を引用したら出典を書く
4番目は実際に起きます。企業分析と投資判断は別の話です。学部の志望理由としては、前者を扱ってください。
当塾の立場
当塾は総合型選抜の指導を行っており、この記事の内容はその業務と直接関係します。その前提でお読みください。
そのうえで、この作業を塾でやる必要はありません。資料は無料で公開されており、読み方も上に書いたとおりです。本人が数時間かければ、同じことができます。
当塾が関わるのは、主に「調べた事実を、学問の問いに変換する」段階です。ここは慣れが要る部分で、独力では時間がかかります。
逆に、調べていない状態で問いだけを立てようとしても、中身が出てきません。順序としては、まず調べる作業が先です。ここを飛ばして書き方の指導から入る形は、当塾では取っていません。
まとめ
- 「広報がしたい」が弱いのは、調べていないことが分かるから。
- 上場企業の情報は法令に基づいて公開されており、無料で読める。
- 最初に読むなら決算説明会資料。図表中心で読みやすい。
- 有価証券報告書は「事業等のリスク」が最も使える。
- 利益と現金は別物。だからキャッシュフロー計算書がある。
- 1社ではなく複数社を比べる。共通のリスクは業界構造の問題。
- 調べた事実は学問の問いに変換する。投資の話にしない。
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