「個別指導が向いている子」という言い方は雑すぎる
塾選びの記事でよく見るのが、「集団が向く子/個別が向く子」という分類です。しかし当塾で実際に生徒を見ていると、この分け方はあまり役に立ちません。
個別指導で伸びるかどうかを分けるのは、性格ではなくその生徒の学習が今どういう状態にあるかです。同じ生徒でも、状態が変われば適した形式も変わります。
この記事では、自塾が個別指導であることを踏まえたうえで、個別指導が効く条件と、効かない場合の両方を書きます。売り込みではなく、判断材料として読んでください。
1. 個別指導が構造的に有利な場面
(1) 学年をまたいで戻る必要がある
高2の生徒が中2の内容でつまずいている場合、集団授業では対応できません。授業は学年の進度で進むからです。数学の戻り学習で書いたとおり、数学は戻らないと進めない科目です。
個別指導なら、学年に関係なく必要な単元に戻れます。これは形式そのものが持つ利点で、講師の力量に依存しません。
(2) 教科ごとに現在地が大きく違う
英語は偏差値60、数学は40、という生徒がいます。集団授業ではどちらかのクラスに入るしかなく、片方が合いません。個別なら教科ごとに別の設計ができます。
(3) 詰まっている場所の特定が必要
「読解力がない」「長文が読めない」といった漠然とした症状の原因を特定するには、その生徒の答案と手の動きを見る必要があります。集団授業では、解説はできても一人ひとりの詰まりまでは追えません。
(4) 質問ができない
集団授業で手を挙げられない生徒は一定数います。分からないまま進むと、次回はもっと分からなくなります。個別なら、分からない時点で止まれます。
2. 個別指導が効かない場合
ここは正直に書きます。個別指導であれば必ず伸びる、ということはありません。
(1) 授業以外の時間に何もしていない
週1回90分の授業で、学力が大きく動くことはありません。成績を決めるのは、授業時間より家庭での学習時間です。授業は方向を決め、詰まりを外す場であって、量をこなす場ではありません。
「塾に行っているのに伸びない」という相談のうち、かなりの割合がこれです。この状態では、集団に変えても個別に変えても結果は同じです。
(2) 講師が生徒の手を見ていない
個別指導の形式を取っていても、講師が解説をして生徒がそれを聞くだけなら、集団授業と変わりません。むしろ人数が少ない分、非効率になります。
個別指導の価値は、生徒に解かせて、その手の動きを見るところにあります。解説の時間が長い個別指導は、形式の利点を使えていません。
(3) 競争環境が必要な生徒
周りにライバルがいることで動く生徒がいます。個別指導では、この効果が得られません。模試の結果などで代替はできますが、教室内の競争ほど直接的ではありません。
(4) 演習量が最優先の段階
すでに解き方は分かっていて、あとは量をこなすだけ、という段階の生徒に個別指導は割高です。この段階では自習室と質問対応があれば足ります。
3. 個別指導が機能する条件
形式の利点を実際に取り出すには、いくつか条件があります。塾を選ぶときの確認事項としても使えます。
- 授業中に生徒が手を動かす時間があるか——講師が話している時間の割合を聞いてください。
- 宿題の量と内容が決まっているか——授業外の学習が設計されていなければ、量が確保できません。
- 現在地の把握をしているか——最初にどこで詰まっているかを特定する手順があるか。
- 講師が固定か——毎回変わると、詰まりの履歴が引き継がれません。
- 進度の記録が残っているか——何をどこまでやったかの記録がなければ、設計になりません。
これらは、体験授業や説明会で確認できます。「一人ひとりに合わせます」という説明だけでは、上のどれも確認できていません。具体的に聞いてください。
4. 授業外の時間をどう設計するか
上で書いたとおり、成績を決めるのは授業外の時間です。ここが設計されていない個別指導は機能しません。
宿題の出し方
「この問題集の◯ページから◯ページ」という出し方では、やったかどうかしか分かりません。当塾で意識しているのは次の3点です。
- 量を数字で決める——1日何問か。週何日か。
- できたかどうかの記録を残させる——○△×の3分類。
- 次の授業で△と×を扱う——できた問題の解説はしない。
3番目が重要です。宿題を出しても、その結果を授業で使わなければ、宿題は出しっぱなしになります。△と×を授業で扱うと決めておけば、生徒は分類を真面目にやります。
時間の確保
「時間がない」という生徒の1週間を実際に書き出してもらうと、空いている時間が見つかることがほとんどです。部活のない日、移動時間、朝の時間。書き出す作業自体に価値があります。
5. どれくらいで結果が出るか
正直に書きます。教科と現在地によりますが、目安は次のとおりです。
| 状況 | 結果が見え始めるまで |
|---|---|
| 計算ミスなど、特定の操作の修正 | 2〜4週間 |
| 定期テストの点(範囲が限られる) | 1〜2回のテスト |
| 数学の戻り学習が必要な場合 | 2〜3か月 |
| 英語の語彙・構文の積み上げ | 3〜6か月 |
| 現代文の読解 | 数か月以上 |
この表を見て「遅い」と感じるかもしれません。しかしこれが実情です。1か月で偏差値が10上がるという話を、当塾はしません。そういう説明をする塾があれば、何を根拠にしているかを聞いてみてください。
ただし、動きが早い部分はあります。計算ミスの修正や、暗記科目の取りこぼしは短期で効きます。短期で動く部分から手をつけると、生徒が「やれば動く」と実感でき、その後が続きやすくなります。
6. 塾を選ぶときに聞くべきこと
形式(個別か集団か)よりも、次のことを聞くほうが判断材料になります。
- 最初に何をして現在地を把握しますか——テストだけか、答案の中身まで見るか。
- 授業中、生徒が手を動かす時間はどれくらいですか
- 宿題はどう決めて、どう確認しますか
- 講師は固定ですか。変わる場合、引き継ぎはどうしますか
- 成果が出ないとき、何をどう見直しますか
最後の質問がとくに有効です。うまくいかなかった場合の手順を持っている塾は、実務をやっています。「必ず伸びます」としか答えない場合、その手順がない可能性があります。
7. 講師が変わることの影響
個別指導では、講師が固定かどうかで結果が変わります。理由は、その生徒がどこで詰まるかという情報が、講師の頭の中に蓄積されるからです。
「この生徒は分数が絡むと崩れる」「文章題で条件を書き出さない」といった情報は、記録に書ききれない部分があります。講師が毎回変わると、この蓄積が失われ、毎回ゼロから探すことになります。
やむを得ず変わる場合、確認すべきは引き継ぎの中身です。「どこまで進んだか」だけでなく、「どこで詰まりやすいか」が引き継がれているか。前者しかないなら、進度管理はできても指導の設計は引き継がれていません。
8. 授業の質を家庭から確認する方法
保護者が授業を直接見る機会は限られます。それでも、次の3つは家庭から確認できます。
- 子どもに「今日は何をやったか」を説明させる——説明できないなら、聞いているだけの授業だった可能性があります。
- ノートを見る——生徒の字がどれだけあるか。講師が書いたものを写しただけなら、手を動かしていません。
- 宿題の内容を見る——量と内容が具体的に決まっているか。「復習しておく」だけなら設計されていません。
とくに1番目は有効です。説明できる内容は身についており、説明できない内容は身についていません。これは塾の質を測るだけでなく、その日の授業を定着させる作業にもなります。
当塾でも、授業の最後に「今日やったことを説明して」と聞くことがあります。ここで詰まれば、その場でもう一度扱います。持ち帰らせないほうが、結局は速く進みます。
当塾の立場
当塾は個別指導の塾です。そのうえで上に書いたとおり、個別指導が効かない場合があります。演習量が最優先の段階の生徒や、競争環境で伸びる生徒には、他の形が合うことがあります。
面談でそういう状況が見えた場合、当塾はそのまま伝えます。合わない生徒に入ってもらっても、結果が出ずに双方が損をします。
また、当塾が提供できるのは授業と設計であって、家庭での学習時間そのものではありません。ここを引き受けられるかのように説明するのは誠実ではないと考えています。塾でできることとできないことを、最初に分けて伝えるようにしています。
まとめ
- 「個別が向く子」は性格ではなく学習の状態で決まる。
- 個別が構造的に有利なのは、学年をまたぐ戻り/教科差/詰まりの特定/質問できない場合。
- 授業外に何もしていない場合、形式を変えても結果は同じ。
- 講師が話しているだけの個別指導は、形式の利点を使えていない。
- 宿題は量を数字で決め、○△×で記録させ、授業で△×を扱う。
- 結果が出るまでの目安は数週間〜数か月。短期で動く部分から着手する。
- 塾には「うまくいかないときどうするか」を聞くとよい。
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