慶應義塾大学法学部FIT入試は、A方式とB方式で別の入試です
FIT入試は「Flexible and Intelligent Thinking 入試」の略です。要項には、この学生を「教えたい」という法学部教員と、法学部を第一志望として「勉強したい」学生との間の良好な相性(fit)を実現するための入試だと書かれています。
A方式とB方式があり、出願資格も試験内容もまったく違います。同じ「FIT入試」という名前で括られているため混同されがちですが、準備の設計から別物として扱う必要があります。
この記事は2027年度の募集要項をもとに書いています。2027年度から変わった点も含めて整理します。
出典:慶應義塾大学「2027年度 法学部FIT入試 募集要項」(2026年9月11日確認)
1. 募集人員と地域ブロック
| 学科 | 募集人員 |
|---|---|
| 法律学科 | A方式・B方式 合計 最大80名 |
| 政治学科 | A方式・B方式 合計 最大80名 |
B方式には「地域ブロック枠」という仕組みがあります。日本全国を7つの地域ブロックに分け、各ブロックから法律学科・政治学科それぞれ最大10名程度を合格者とします。
地域ブロックは出身高等学校の所在地による区別です。居住地ではありません。ただし、選考の結果、地域ブロックの定員の充足率に著しい偏りが生じた場合や、定員の充足が困難な場合は、総合成績を優先した調整が行われます。
この方式は2012年度から導入されており、B方式による地方出身の入学者を支援する特別奨学金も設けられています。
2. 両方式に共通する条件
- 慶應義塾大学法学部(法律学科または政治学科)への志望理由、および入学後の目標と構想が明確であること。
- 第一志望としていずれかの学科での勉学を強く希望する者。また、合格した場合に入学することを確約できる者。
2番目は重い条件です。出願そのものが進学の意思表示になります。他大学を受けて比較してから決める、という使い方はできません。
3. A方式——実績で出願する
A方式の出願資格は、学歴要件と第一志望条件に加えて、次が求められます。
「学業を含めたさまざまな活動に積極的に取り組み、次に例示するような優れた実績をあげた者」
| 例示 | 内容 |
|---|---|
| (a) | 日本語以外のさまざまな外国語の学習に熱心に取り組み、かつその成果を検定試験などで証明できる者 |
| (b) | 文化・芸術・技芸・運動等の分野において優れた成績や成果を残したことが証明できる者 |
| (c) | 学外活動や課外活動において高いリーダーシップを発揮し、そのことが何らかの形で証明できる者 |
| (d) | ボランティア活動や地域の社会的活動などを熱心に行い、その実績を示せる者 |
| (e) | 国際交流や開発途上国援助などの活動に積極的に取り組み、その実績を示せる者 |
| (f) | 入試科目に限らない全般的な学業分野で極めて優秀な成績を収めたことを示せる者 |
| (g) | その他の分野で、自己の関心や興味からユニークな実績をあげたことを証明できる者 |
注目すべき点が3つあります。
- 評定平均の要件がありません。A方式には成績の数値基準がない。
- 英語外部検定も必須ではありません。(a)は例示のひとつです。
- (g)に「ユニークな実績」という受け皿があります。(a)〜(f)に当てはまらなくても道が開かれています。
実績や外国語能力を証明できる証明書、修了証、表彰状などがある場合は、「自己推薦書」の別添資料として提出します。
4. B方式——評定4.0以上が絶対条件
B方式はA方式と性格が逆です。実績ではなく学業成績で出願します。
- 在籍している、もしくは卒業した高等学校等より、調査書の発行が受けられる者。
- 高等学校等での学業成績が優秀で、高等学校等の全期間の成績を記載した調査書における指定の各教科(外国語、数学、国語、地理歴史、公民)および全体の学習成績の状況が 4.0以上の者。
- 在籍している、もしくは卒業した高等学校等に現在在籍している教員より1通の評価書(本学所定用紙)を提出できる者。
2番目の条件は厳格です。要項に明記されています。「指定の各教科(外国語、数学、国語、地理歴史、公民)のうち1教科でも学習成績の状況が4.0未満であった場合は、出願資格を満たしません。」
全体平均で4.0を超えていても、数学だけ3.8なら出願できません。5教科すべてで4.0以上が必要です。
さらに、B方式は学歴要件そのものがA方式より狭く設定されています。要項には「これ以外の者、例えば外国の高等学校の卒業(見込み)者、高等学校卒業程度認定試験(大学入学資格検定を含む)の合格者および科目合格者は出願できません」と書かれています。
5. 第2次選考の中身
第1次は書類選考。第1次合格者に対して、方式ごとに異なる第2次選考が行われます。
| 方式 | 第2次選考 |
|---|---|
| A方式 | 論述試験(45分)+口頭試問 |
| B方式 | 総合考査Ⅰ(45分)+総合考査Ⅱ(45分)+面接試験 |
A方式の論述試験
教員が模擬講義を行い、講義後に論述試験を行います。試験では、法律学ないしは政治学の修得に必要な理解力、考察力、表現力などを評価します(両学科とも同時に同一の内容にて実施)。
つまり、その場で講義を聴き、それについて書く形式です。事前知識を問う試験ではありません。
A方式の口頭試問——2027年度からの変更
複数の教員と1名の受験生で、口頭で与えられたテーマについて質疑応答を行い、受験生の学問的な理解力や知的表現力などを考査します(約15分)。
そして要項には、「今年度から、開始前の自己紹介の機会は設けません。」と明記されています。これは2027年度の変更点です。
実務的な意味は明確です。用意してきた自己PRを話す時間がありません。いきなりテーマについての質疑が始まります。自己紹介で場を作る準備をしていた受験生は、当日その機会がないことになります。
なお、この口頭試問は2022年度に導入されたもので、それ以前はグループ討論が行われていました。古い情報にはグループ討論対策が書かれていることがあるので注意してください。
B方式の総合考査
| 科目 | 内容 | 評価するもの |
|---|---|---|
| 総合考査Ⅰ | 与えられた資料(グラフ、表、データ、条文、判例など)から読み取れることを400字程度にまとめる | 社会科学に必要な論理的な思考力、考察力 |
| 総合考査Ⅱ | 与えられたテーマのもと400字程度の小論文を書く | 創造力、独創性、発想力 |
ⅠとⅡで評価軸が正反対です。Ⅰは資料に忠実に、Ⅱは自分の発想で。同じ調子で書くと、どちらかが評価されません。
6. 日程
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| Web出願 | 2026年8月3日(月)10:00〜9月3日(木)17:00 |
| 書類郵送 | 2026年9月1日(火)〜9月3日(木) 消印有効(速達・簡易書留) |
| 第1次選考合格発表 | 2026年9月15日(火)10:00(インターネット) |
| 第2次選考 A方式 | 2026年9月19日(土)9:40〜 三田キャンパス |
| 第2次選考 B方式 | 2026年9月20日(日)9:40〜 三田キャンパス |
| 第2次選考合格発表 | 2026年11月2日(月)10:00(インターネット) |
| 入学手続 | 2026年11月27日(金)〜12月11日(金) |
日程で注意すべき点が2つあります。
- 第1次合格発表から第2次選考まで4〜5日。9月15日発表、19日・20日試験。対策する時間はありません。
- 出願が8月3日開始と早い。書類は7月中に完成させておく必要があります。
7. 準備の設計
| 方式 | 逆算の起点 |
|---|---|
| A方式 | 実績と、その学問への接続。高2までに活動があり、高3春から書類と論述の準備 |
| B方式 | 5教科すべて4.0以上。高1から積み上げる。高3では動かせない |
B方式を検討するなら、高1の段階で成績の見通しを立てる必要があります。1教科でも4.0を割ると出願資格がなくなるためです。
共通して必要なのは「聴いて書く」訓練です。A方式は模擬講義後の論述、B方式は資料の読み取り。どちらも、その場で与えられた情報を処理して45分で書く形式です。
練習としては、新書の1章を読んで400字で要約し、続けて400字で自分の意見を書く。これを週1本。小論文の型と要約と選択肢が土台になります。
8. よくある誤解
「FIT入試は偏差値に関係なく受かる」
そういう説明を見かけますが、第2次選考では法律学・政治学の修得に必要な理解力・考察力・表現力が評価されます。学力を問わない入試ではありません。
「グループ討論の対策が要る」
2022年度から口頭試問に替わっています。古い情報です。
「自己紹介で印象づける」
2027年度から開始前の自己紹介の機会は設けられません。
「B方式は評定の平均が4.0あればよい」
違います。外国語・数学・国語・地理歴史・公民の各教科それぞれで4.0以上が必要です。
「併願できる」
できません。第一志望・入学確約が条件です。
当塾の立場
当塾は総合型選抜の指導を行っており、この記事には利害があります。その前提でお読みください。
そのうえで、FIT入試について当塾の考えを述べます。
「偏差値30でも慶應に100%合格」といった説明を、当塾はしていません。要項を読めば分かるとおり、第2次選考は模擬講義を聴いて論述する試験と、複数教員との口頭試問です。学力を問わない入試ではありません。
一方で、一般選抜とは別の能力を見ているのは事実です。英語・国語・地歴の点数を積み上げる力と、講義を理解して自分の考えを述べる力は、同じではありません。後者に適性がある受験生にとっては、意味のある経路です。
当塾がこの入試で最も重視するのは第一志望であることの確認です。合格すれば他大学には行けません。出願は8月3日に始まり、結果は11月2日に出ます。その3か月、進路が確定した状態で過ごせるかを、家庭で確認してから出願してください。
また、B方式を検討する場合は高1から評定を見ています。高3になってから「B方式で出したい」と言われても、5教科すべて4.0以上という条件は動かせません。
まとめ
- A方式とB方式は出願資格も試験内容も別物。募集は各学科A・B合計で最大80名。
- 両方式とも第一志望・入学確約が条件。
- A方式は実績で出願。評定・英語検定の数値要件はない。(g)に「ユニークな実績」の受け皿がある。
- B方式は外国語・数学・国語・地歴・公民の各教科で4.0以上。1教科でも下回ると出願できない。
- A方式の第2次は模擬講義→論述45分+口頭試問15分。2027年度から自己紹介の機会なし。
- B方式の第2次は総合考査Ⅰ(資料を400字でまとめる)+Ⅱ(400字の小論文)+面接。
- 第1次合格発表から第2次まで4〜5日。事前準備が前提。
この記事は2026年9月11日に慶應義塾大学の2027年度法学部FIT入試募集要項で確認した内容にもとづいています。要件・日程は変更されることがあります。出願前に必ず当該年度の要項をご確認ください。
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