課題文型は「感想文」でも「要約」でもない
小論文の出題形式のうち、最も多いのが課題文型です。文章が与えられ、それを踏まえて自分の考えを述べるという形式です。
ここで多い失敗が二つあります。一つは、課題文の要約だけで字数を使ってしまうこと。もう一つは、課題文をほとんど使わずに自分の意見だけを書いてしまうこと。どちらも「踏まえて」という条件を満たしていません。
この記事では、課題文をどう読み、どう使い、どこから自分の考えに入るかを、手順として整理します。総合型選抜でも一般選抜の小論文でも、作業は共通です。
1. 課題文の読み方
まず読解です。ここを急ぐと、後の作業が全部ずれます。
作業1:筆者の主張を一文で書く。この文章で筆者が最も言いたいことを、自分の言葉で一文にします。書けなければ、読めていません。
作業2:筆者が反対しているものを特定する。評論的な文章には、必ず批判の対象があります。筆者が何を問題だと考えているか。ここが分かると、主張の輪郭がはっきりします。
作業3:根拠を挙げる。筆者はなぜそう言えると考えているのか。データ、事例、論理。根拠の種類を確認します。
作業4:前提を探す。筆者が当然のこととして扱っている事柄。ここは明示されていないことが多く、見つけると論点になります。
この4つを、余白にメモします。時間にして5〜8分。急ぎたくなりますが、ここを飛ばして書き始めると、途中で論が崩れます。
2. 課題文をどう使うか
読んだあと、それをどう答案に組み込むか。関わり方には段階があります。
段階1:賛成して発展させる。筆者の主張に同意し、別の事例や領域に広げる。最も書きやすい形ですが、同意しただけでは評価されません。筆者が触れていない何かを加える必要があります。
段階2:条件をつける。「筆者の主張は、ある条件下では妥当だが、別の条件では成り立たない」という形。最も答案にしやすく、かつ思考が見える形です。迷ったらこの型を勧めています。
段階3:前提を問う。筆者が当然としている前提を取り出し、それが成り立つかを検討する。難度は上がりますが、うまくいけば強い答案になります。
段階4:反対する。筆者の主張を否定する。可能ですが、根拠が弱いと単なる反発に見えます。反対するなら、筆者の根拠のどこが不十分かを具体的に示す必要があります。
どの段階を選ぶかは、課題文と自分の持っている材料によります。無理に段階3や4を狙うより、段階2で内容のある答案を書くほうが評価されます。
3. 構成の型
課題文型の答案の構成を示します。800字程度を想定します。
第1段落:課題文の主張の確認(2〜3文)。要約ではなく、これから自分が扱う部分に絞って触れます。全体を要約する必要はありません。
第2段落:自分の立場の提示(1〜2文)。賛成か、条件付きか、前提を問うか。ここを明確にします。曖昧にすると、以降の全部が曖昧になります。
第3〜4段落:根拠(本論)。ここが答案の中心です。自分の立場を支える理由を、具体例や事例とともに述べます。
第5段落:反論への応答。自分の立場に対する反論を挙げ、それに答えます。この段落があると、答案の厚みが変わります。
第6段落:結論(2〜3文)。立場を再確認し、残る課題に触れて閉じます。
字数配分の目安は、確認1割、立場1割、本論5割、反論応答2割、結論1割。本論と反論応答で7割を占める形が標準です。
4. 「条件をつける」を具体的に
最も使いやすい段階2について、詳しく説明します。
この型の骨格は、「筆者の主張はAという条件下では妥当だが、Bという条件下では別の考慮が必要になる」という形です。全面的な賛成でも反対でもないため、思考の跡が見えます。
条件の立て方には、いくつかの軸があります。
対象の範囲。筆者が一般論として述べていることが、特定の集団や状況では当てはまらない。年齢、地域、規模、分野。範囲を限定すると、例外が見つかります。
時間の幅。短期では妥当だが長期では違う、あるいはその逆。多くの政策的な議論は、この軸で分かれます。
資源の有無。筆者の提案が、一定の資源(時間、費用、人手)を前提にしている場合、それがない状況ではどうなるか。
目的の違い。何を達成したいかによって、妥当な手段が変わる。筆者の目的設定自体を明示することで、別の目的を持つ立場が見えます。
これらの軸を頭に入れておくと、初見のテーマでも条件を立てられます。暗記した知識ではなく、考える手順として機能します。
5. 具体例の入れ方
本論を支えるのは具体例です。ここでの失敗も型が決まっています。
失敗1:例が主張とずれている。挙げた例が、自分の主張を支えていない。書く前に「この例は何を示すためか」を確認します。
失敗2:例が長すぎる。具体例を詳しく書きすぎて、字数を圧迫する。例は2〜3文で足ります。重要なのは例そのものではなく、そこから何が言えるかです。
失敗3:不正確な数値を使う。うろ覚えの統計を書くと、内容全体の信頼が落ちます。正確に覚えていない数値は使わないのが原則です。「近年増加している」といった定性的な表現にとどめます。
失敗4:個人的な経験だけに頼る。自分の体験は説得力を持つ場合もありますが、一般化には限界があります。個人の経験を挙げるなら、そこから一般的な構造を取り出す一文を添えます。
良い具体例の条件は、主張との対応が明確で、短く、検証可能であることです。派手さは要りません。
6. 反論への応答
反論に触れる段落は、答案の質を大きく左右します。
ここで重要なのは、強い反論を選ぶことです。簡単に論破できる弱い反論を挙げても、評価されません。むしろ「反論を検討したふり」に見えます。
自分の主張に対する最も強い反論は何か。それを挙げ、その反論にも一理あることを認めたうえで、それでも自分の立場を取る理由を述べます。
応答の仕方には型があります。範囲を限定する(その反論は別の場面では成り立つが、この文脈では当てはまらない)、程度を示す(そのリスクはあるが、得られるものと比べて小さい)、条件を加える(その懸念に対処するには、この条件が必要になる)。
この段落があると、自分の立場の限界を自覚していることが伝わります。断定だけの答案より、はるかに評価されます。
7. 時間配分
試験時間を60分、800字と仮定して配分を示します。
課題文の読解:10分。前述の4作業をメモしながら行います。
構成の作成:10分。各段落に何を書くかを、箇条書きで並べます。ここで結論まで決めます。書きながら考えるのを避けるためです。
執筆:30分。800字なら、構成が決まっていれば書けます。
見直し:10分。誤字、主語と述語の対応、段落のつながり。内容の大幅な修正はこの段階ではできないため、形式の確認に絞ります。
配分で最も削られやすいのが構成の時間です。早く書き始めたくなりますが、構成に10分かけたほうが、結果的に速く終わります。構成なしで書くと、途中で行き詰まり、書き直すことになります。
8. 文章の書き方
内容とは別に、文章そのものについての注意点を挙げます。
一文を短くします。小論文では、修飾が重なった長い文が書かれがちです。読みにくいだけでなく、主語と述語がずれる原因にもなります。1文40〜60字を目安にします。
文末を揃えます。「である」調で統一します。「です・ます」と混ざるのは、明確な減点対象です。
接続詞で論理を示します。「しかし」「したがって」「一方」。段落と段落のつながりが見えるように置きます。ただし、多用すると読みにくくなるため、段落の最初に1つ程度で足ります。
主観的な表現を避けます。「〜と思う」「〜な気がする」。主張は断定するか、根拠とともに述べます。逆に、断定できないことを断定するのも避けます。「〜と考えられる」「〜の可能性がある」といった表現で程度を示します。
問いかけで終わらない。「私たちはどうすべきだろうか」で結ぶ答案をよく見ますが、これは自分の考えを述べていません。結論では、立場を示します。
原稿用紙の使い方を確認しておきます。段落の字下げ、句読点の位置、数字の書き方。形式の不備で減点されるのは、もったいないことです。
9. 練習の進め方
小論文は、書いた本数で伸びるわけではありません。進め方を示します。
段階1:構成だけを作る練習。課題文を読み、構成を箇条書きで作る。ここまでで止めます。所要時間は20分程度。これを複数本行うと、読解と構成の速度が上がります。全部を書くより効率的です。
段階2:本文を書く。構成の練習を重ねたうえで、通しで書きます。週に1本程度で足ります。
段階3:添削を受ける。自分では気づけない部分があるため、他者の目は必要です。添削を受けるときは、点数ではなく「どこが伝わっていないか」を聞きます。
段階4:書き直す。添削を受けたら、必ず書き直します。読んで終わりにすると、次も同じ書き方になります。書き直して初めて、指摘が身につきます。
本数の目安としては、構成だけの練習を20本、通しで書くのを10本程度あれば、形は作れます。そこから先は、志望校の傾向に合わせた調整になります。
10. 材料をどう集めるか
手順があっても、書く材料がなければ内容が薄くなります。材料の集め方を述べます。
頻出テーマを絞ります。学部系統によって出題テーマは偏ります。医療系なら医療と生命倫理、教育系なら教育と子ども、社会科学系なら社会制度や労働。志望学部の過去問を数年分見れば、傾向が分かります。
テーマごとに、対立する二つの立場を整理します。賛成の根拠2つ、反対の根拠2つ。これを1テーマあたりA4で1枚程度にまとめます。
10テーマほど作れば、多くの出題に対応できます。完全に一致しなくても、似た構造の議論として使えます。
材料集めの情報源は、新書、新聞、専門誌の入門的な記事など。1テーマ15分程度で、対立の構造を掴む読み方をします。深く読み込む必要はありません。
この作業は、現代文や英語長文の背景知識としても効きます。科目をまたいで使える投資だと考えると、時間を割く意味が見えます。
11. 課題文型以外の形式
課題文型を中心に述べてきましたが、他の形式についても触れておきます。手順の大部分は共通です。
テーマ型。短い問いだけが与えられる形式。「地方創生について論じよ」のような出題です。課題文がないぶん、自分で論点を切り出す必要があります。漠然と書くと散漫になるため、最初に問いを絞ります。「地方創生」なら、「人口移動」「産業」「行政の役割」のどれを扱うかを決めてから書きます。
資料型。グラフや表が与えられる形式。ここでの失敗は、資料の説明だけで終わることです。読み取れることを述べたうえで、そこから何が言えるかに進む必要があります。また、資料から言えないことを言わないのが鉄則です。相関があることと、因果があることは別です。
英語課題文型。英文を読んで日本語で論じる形式。読解の負担が加わりますが、書く作業は同じです。英文の主張を取り違えると全部ずれるため、読解に時間を多めに配分します。
複数資料型。文章と図表が組み合わさる形式。増えている形式です。ここでは、資料間の関係が問われます。補完しているのか、矛盾しているのか。そこに論点があります。
どの形式でも、立場を決めて、根拠で支え、反論に応えるという骨格は変わりません。形式ごとの違いは、材料をどこから取るかだけです。
12. 何が採点されているか
採点の観点は大学によって異なりますが、共通して見られる要素があります。
問いに答えているか。最も基本的で、最も落としやすい点です。設問が「筆者の主張を踏まえて論じよ」なら、踏まえていなければ減点されます。書き終えたら設問文を読み返す習慣をつけます。
主張が明確か。読んで、この人が何を主張しているかが分かるか。曖昧な答案は、内容があっても評価されません。
根拠と主張が対応しているか。述べた理由が、実際にその主張を支えているか。ここがずれている答案は多くあります。
論理に飛躍がないか。AからBへ進むときに、間が抜けていないか。自分では分かっていても、読み手には見えません。
日本語として読めるか。誤字、文法、文末の統一。内容以前の部分です。
このうち、対策で最も改善しやすいのは問いに答えることと日本語の正確さです。この二つを確実にするだけで、平均的な答案より上に行けます。
13. 面接との接続
総合型選抜では、小論文と面接が組み合わさることがよくあります。この二つは切り離せません。
面接で聞かれるのは、多くの場合書いた内容の掘り下げです。「なぜその立場を取ったのか」「別の考え方についてはどう思うか」。小論文で反論を検討していれば、この質問に答えられます。検討していなければ、その場で考えることになります。
また、面接では話す形で論じることになります。書くときと違い、構成を練る時間がありません。ここで効くのが、日頃の材料集めです。テーマについて対立の構造を知っていれば、口頭でも組み立てられます。
練習としては、書いた小論文を口頭で要約するのが有効です。1分で、立場と根拠を説明する。これができれば、面接での応答も同じ形で作れます。
もう一つ、答えられない質問への対処も準備しておきます。知らないことを知っているように答えるのは、最も避けたい対応です。「その点については十分に検討できていません」と述べたうえで、考えられる方向を示す。この対応のほうが評価されます。
14. 最後に
小論文は、才能や文才の科目だと思われがちです。しかし実際には、手順の科目です。
読む手順、構成を立てる手順、根拠を並べる手順、反論に応える手順。どれも訓練で身につきます。そして、手順を持っている受験生は多くありません。ここが差のつきやすい領域である理由です。
一方で、手順だけでは内容が薄くなります。材料——そのテーマについて何を知っていて、何を考えたことがあるか——が必要です。この部分は短期では作れません。だからこそ、早い時期から少しずつ集めておく意味があります。
そして、小論文の訓練は受験だけのものではありません。立場を決め、根拠で支え、反論に応えるという作業は、大学に入ってからのレポートでも、その後の仕事でも使います。受験のために覚えることではなく、これから使う技術を先に身につけると考えると、取り組み方も変わってくるはずです。
15. 提出前の確認項目
書き終えたあとに確認する項目を、順に並べます。試験でも練習でも同じです。
設問文を読み返す。問われたことに答えているか。条件(字数、使うべき語、触れるべき観点)を満たしているか。ここで外していると、内容が良くても届きません。
自分の立場が一文で言えるか。答案を読み返し、「結局何を主張しているか」を一文にしてみます。できなければ、主張が埋もれています。
根拠が主張を支えているか。各段落の内容が、立場の補強になっているか。関係の薄い記述があれば削ります。
指示語と主語を確認する。「それ」「これ」が何を指すか明確か。主語が抜けている文がないか。
文末の統一。「である」調で揃っているか。
字数。指定の8割は最低限です。9割以上を目標にします。
この確認には5分程度かかります。時間配分に最初から組み込んでおくと、慌てずに済みます。書き終えた直後は、自分の答案の欠点が見えにくいものです。項目を決めて機械的に確認するほうが、感覚で読み返すより漏れが減ります。
当塾の立場
当塾では小論文の指導を行っています。その前提でお読みください。
指導で最も時間をかけるのは、書く前の読解と構成です。書き始めてから考えると、途中で論が変わり、修正が効きません。構成が決まっていれば、書く作業は速く進みます。
また、模範解答を覚えることを勧めません。出題されるテーマは予測できず、覚えた内容が使える保証がないためです。覚えるべきは内容ではなく、手順です。
そして、特定の立場を教えることもしません。どの立場を取るかは受験生が決めるべきことで、塾が決めると考える機会を奪います。指導するのは、選んだ立場をどう支えるかの技術です。
まとめ
- 課題文型は要約でも感想でもない。踏まえて自分の考えを述べる。
- 読解は4作業。主張を一文で・反対しているものを特定・根拠・前提。
- 関わり方は4段階。迷ったら「条件をつける」を選ぶ。
- 構成は確認1/立場1/本論5/反論応答2/結論1の配分。
- 具体例は2〜3文で足りる。うろ覚えの数値は使わない。
- 反論は強いものを選ぶ。弱い反論への応答は評価されない。
- 練習は構成だけを20本、通しを10本。書き直しまでが1本。
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