中だるみは性格の問題ではない
中高一貫校に通う生徒の保護者から、最も多く聞く相談が中だるみです。入学時は意欲的だったのに、中2から中3にかけて成績が下がり、そのまま戻らない。本人に聞いても「特に理由はない」と言う。
これを本人の性格や怠惰の問題として扱うと、解決しません。中だるみは、一貫校の構造から生じる現象です。公立中学であれば高校受験という区切りが強制的に訪れますが、一貫校にはそれがありません。構造上、目標が消える期間が生まれます。
この記事では、中だるみがなぜ起きるのかを分解し、高2までに何をしておくべきかを整理します。
1. なぜ起きるのか
原因は複数あります。よく見るものを挙げます。
目標の消失。入学という目標を達成したあと、次の目標が6年後にしかありません。中1の段階で大学受験を実感するのは難しく、実質的に目標のない期間が数年続きます。
相対的な位置の変化。入学前は上位にいた生徒が、入学後は中位になります。同程度の学力の集団に入るのですから当然ですが、本人にとっては「できなくなった」という体験になります。この落差が意欲を削ります。
進度の速さ。先取りカリキュラムでは、理解が追いつかないまま先へ進みます。一度分からなくなると、追いつくための労力が大きく、あきらめが生じやすくなります。
評価の緩やかさ。高校受験がないため、成績が悪くても進学できます。危機感が働きにくい構造です。
部活と行事の比重。一貫校では部活や行事に力を入れる学校が多く、時間の大半がそちらに向かいます。これ自体は悪いことではありませんが、学習との配分が崩れると成績に出ます。
これらはいずれも、本人の意志の問題ではなく環境の問題です。だからこそ、環境の側を設計することで対処できます。
2. いつ起きるか
時期にも傾向があります。
中1の2学期。入学直後の緊張が解け、最初の下降が起きやすい時期です。ただしこの段階の下降は一時的なことが多く、過度に反応する必要はありません。
中2の通年。最も深くなる時期です。学習内容が抽象化し、数学では文字式や関数、英語では文法の体系が本格化します。同時に、部活の中心学年になり時間が減ります。この二つが重なります。
中3から高1。公立生が高校受験に向かう時期に、一貫生は平常運転です。ここで差が生まれることがあります。ただし一貫生は先取りをしているため、表面上は問題が見えません。見えないまま進むことが、後で効いてきます。
高1の後半。ここで戻らないと、高2以降の回復が難しくなります。実質的な分岐点です。
3. 数学が最も危ない
科目別に見ると、中だるみの影響が最も出るのは数学です。理由は明確で、積み上げ式の科目だからです。
中2の連立方程式や一次関数でつまずくと、中3の二次関数、高1の二次関数と続く流れが全部崩れます。英語も積み上げですが、語彙で部分的に補えます。数学にはその逃げ道がありません。
そして一貫校では、進度が速いぶん、つまずいてから気づくまでの時間が長くなります。定期テストで点が取れていても、解法を覚えているだけで理解していない状態が起きます。この状態は、範囲の広い実力テストや模試で初めて露呈します。
確認の方法として、1学期前の単元の問題を、予告なしに解かせるのが有効です。直前に詰め込んだ知識ではなく、定着したものだけが残ります。ここで解けない単元があれば、そこが戻るべき地点です。
4. 早期に気づくための兆候
成績が下がってから気づくと、回復に時間がかかります。数値に出る前の兆候を挙げます。
勉強時間はあるのに内容を説明できない。机に向かっている時間は変わらないのに、何をやったかを聞くと答えが曖昧。作業をしているだけで、理解が進んでいない状態です。
提出物が直前になる。計画の破綻は、成績より先に提出物に出ます。
質問しなくなる。分からないことがあっても聞かなくなるのは、分からない箇所が多すぎて特定できなくなっているサインです。
特定の科目の話題を避ける。会話の中でその科目が出ると話をそらす。苦手意識が固定しかけています。
「どうせ無理」という言い方が増える。これは意欲の問題ではなく、回復の見通しが立たないことへの反応です。見通しを示すことが対処になります。
これらの兆候は、定期テストの点数より数か月早く現れます。点数が下がるのを待たずに手を打てば、戻る労力は小さくて済みます。
5. どこまで戻るかの決め方
戻ると決めたとき、どこまで戻るかの判断が要ります。戻りすぎても時間を失い、戻り足りなければ同じことが起きます。
手順としては、現在の単元から逆にたどります。今つまずいている単元が何を前提にしているかを確認し、その前提が理解できているかを問題で確かめます。できていなければさらに一つ前へ。できた地点が、戻る到達点です。
数学の場合、多くは中2の一次関数か、中1の文字式まで戻ることになります。ここは抽象化の最初の関門で、ここを曖昧にしたまま進んでいる生徒が非常に多くなっています。
英語の場合は、動詞の形まで戻ることが多くなります。時制、助動詞、準動詞。文の中で動詞がいくつあり、どれが主となる動詞かを判別できない状態だと、高校英語は読めません。
戻る作業にかかる時間は、単元数によります。2単元なら2〜3週間、5単元なら2か月程度。この見積もりを本人に伝えることが重要です。終わりが見えない作業は続きません。
6. 目標の作り方
中だるみの根本原因が目標の消失であるなら、対処は目標を作ることです。ただし「難関大に行こう」では機能しません。遠すぎるためです。
機能しやすいのは、次のような形です。
検定などの外部指標。英検や数学の検定は、学年に関係なく受けられ、結果が明確に出ます。半年から1年先の目標として扱いやすく、大学入試にも接続します。中2・中3の時期に英検を進めておくと、高校で時間の余裕が生まれます。
関心のある分野の探究。本人が興味を持っている領域について調べ、まとめる。これは総合型選抜の材料になりますが、それ以前に、学ぶことが自分ごとになるという効果があります。
短期の目標。「次の定期テストで数学を10点上げる」のような、1〜2か月で結果が出る目標。達成の感覚を取り戻すために有効です。
避けたいのは、順位や偏差値だけを目標にすることです。相対評価の目標は、周囲の状況で変動するため、努力と結果が対応しません。中だるみの状態にある生徒には、対応が見える目標のほうが効きます。
7. 学校との付き合い方
一貫校では、学校が用意する補習や講習が充実している場合があります。これをどう使うかも考えどころです。
学校の補習は、学校の進度に追いつくためのものです。つまり、戻る作業には向きません。すでに崩れている土台がある場合、学校の補習に出ても解決しないことがあります。
一方で、学校の教員は本人の状況を継続的に見ています。面談の機会は使う価値があります。ただし「成績を上げたい」ではなく、「どの単元から分からなくなっていると見えるか」を聞くと、具体的な情報が得られます。
また、一貫校では課題の量が多い場合があります。全てをこなすことが目的化すると、理解が伴わない作業になります。優先順位をつける判断が必要で、これは本人だけでは難しいことがあります。
8. 一貫校の利点をどう使うか
ここまで問題点を述べてきましたが、一貫校には固有の利点があります。中だるみの対処と並行して、こちらも意識しておく価値があります。
最大の利点は、高校受験に使う時間を別のことに充てられることです。公立生が中3の1年間を高校受験に使う一方、一貫生はその時間を自由に使えます。
この時間の使い方として有効なのは、第一に英語の資格です。中3から高1にかけて英検などを進めておくと、大学入試の英語外部検定利用に直結します。多くの大学が出願要件や加点に採用しており、高3で慌てて取るより余裕があります。
第二に探究活動です。学校の探究の授業がある場合はそれを使い、ない場合も自分でテーマを持つ。総合型選抜では、高1・高2からの継続的な取り組みが評価されます。高3から始めた活動では、厚みが出ません。
第三に読書と体験です。数値にならないため軽視されがちですが、小論文や面接で使える材料になります。何を読み、何を経験したかは、直前に用意できないものです。
これらは中だるみの対処とも矛盾しません。むしろ、学習以外の領域で目標が生まれることで、学習の側も動き出すことがあります。
9. 高2までにやっておくこと
高2の終わりが、実質的な締め切りになります。そこまでに揃えておきたいものを挙げます。
数学と英語の土台。この二つは積み上げであり、高3では戻る時間がありません。高2までに、抜けている単元がない状態にします。
志望の方向性。学校名まで決める必要はありませんが、文系か理系か、どの領域に関心があるかは決めておきます。科目選択に関わるためです。
英語の外部検定。使う予定があるなら、高3の早い時期までに取得します。出願時に有効な期間があるため、逆算が必要です。
活動の記録。総合型選抜を視野に入れるなら、高1・高2でやったことを記録しておきます。あとから思い出して書くと、内容が薄くなります。
学習の習慣。これが最も重要かもしれません。毎日一定時間、自分で決めて机に向かう習慣。高3で初めて作ろうとすると、それ自体に数か月かかります。
10. 保護者の方へ
中だるみの時期、家庭での関わり方が難しくなります。いくつか申し上げます。
叱責は短期的にしか効きません。一時的に机に向かっても、原因が解消していなければ戻ります。そして、叱責が繰り返されると、状況を隠すようになります。
比較は逆効果です。入学時に同程度だった同級生や、兄弟姉妹との比較。これは自己評価を下げるだけで、行動は変わりません。
有効なのは、状況を一緒に把握することです。どの科目のどの単元から分からないのか。本人も分かっていないことが多いため、一緒に確かめる作業自体が助けになります。
そして、回復の見通しを示すことです。「2か月戻れば追いつく」という具体的な見積もりがあると、取り組めます。見通しのない努力を求められると、人は動けません。
最後に、中だるみは多くの一貫生が通る道だということも知っておいていただきたいと思います。特別に問題のある状態ではありません。構造上起きやすいことであり、対処の方法もあります。慌てて環境を大きく変えるより、原因を特定して手を打つほうが、結果的に早く戻ります。
11. 実際によくある3つのパターン
相談を受ける中で繰り返し見るパターンを、対処とあわせて挙げます。
パターン1:定期テストは取れるが模試が悪い。直前の詰め込みで点は取れるが、定着していない状態です。範囲が限定されているうちは隠れますが、高3の模試で露呈します。対処は、定期テストの2週間後に同じ範囲をもう一度解くこと。ここで解けるかどうかが定着の基準になります。
パターン2:部活が忙しく、時間がない。この訴えは多いのですが、実際に記録を取ると、時間はあることが多くなります。問題は総量ではなく、細切れの時間を使えていないことです。通学時間、部活前の30分。まとまった時間を待っていると、一日が終わります。細切れの時間に何をするかを決めておくと、量は確保できます。
パターン3:やる気が出ないと言う。この場合、やる気を先に求めても動きません。順序が逆で、行動が先、意欲は後です。5分でよいので毎日同じ時間に始める。始めてしまえば続くことが多く、続けば結果が見え、そこで初めて意欲が生まれます。「やる気が出たらやる」という順序は、多くの場合、いつまでも来ません。
いずれのパターンでも、共通しているのは状況が本人にも見えていないことです。時間の記録を取る、定着を確認する、始める時刻を決める。どれも、状況を見えるようにする作業です。
12. 高校から入る生徒との違い
高校から入学する生徒がいる学校では、一貫生と高入生の違いが話題になります。
一般に、一貫生は進度が先行しており、高入生は受験勉強の経験が新しいという差があります。高1の段階では一貫生が有利に見えますが、高2の後半以降でこの差は縮まることが多くなります。
理由は、高入生が高校受験で期限に向けて仕上げる経験をしているためです。計画を立て、苦手を潰し、本番に合わせる。この一連の作業を一度やった生徒は、大学受験でも同じことができます。一貫生はこの経験がないまま高3を迎えます。
したがって、一貫生が意識すべきは「仕上げる」経験を意図的に作ることです。検定でも模試でもよいので、期限を決めて、そこに向けて計画を立て、結果を検証する。この一巡を高2までに何度か経験しておくと、高3の動き方が変わります。
逆に言えば、一貫生であること自体は有利でも不利でもありません。先取りという利点を、仕上げる経験の不足が相殺しているという構造です。どちらを意識するかで、6年間の結果は変わります。
13. 学年ごとの具体的な目安
高2までにやることを、学年別に整理します。学校の進度によって前後しますので、目安としてお読みください。
中1。学習の習慣を作る時期です。内容そのものより、毎日決まった時間に机に向かう形を作ります。英語は音と文字の結びつけ、数学は正負の数と文字式。この二つを曖昧にしないことが、後の全てに効きます。
中2。最も注意が必要な学年です。一次関数と連立方程式、英語の時制と助動詞。ここでの理解が高校範囲の前提になります。定期テストの点数ではなく、時間が経ってから解けるかで判断します。
中3。公立生が受験に向かう時期。一貫生はこの時間を検定や探究に使えます。同時に、高校範囲の先取りが始まる学校が多く、ここで置いていかれると高1で苦しくなります。
高1。実質的な分岐点です。ここまでの抜けを埋める最後の機会になります。また、文理の選択が近づくため、関心の方向を考え始める時期でもあります。
高2。受験勉強の開始時期です。多くの学校で高校範囲が終わりに近づき、演習に入れます。総合型選抜を考えるなら、活動の実績を作る最後の年でもあります。高2の終わりに何を持っているかで、高3の選択肢が決まります。
14. 最後に
中だるみについて書きましたが、強調しておきたいのは、この期間が無駄だったわけではないということです。
成績が伸びていない期間にも、本人の中では何かが動いています。関心の対象が変わる、人間関係で悩む、自分の適性について考える。これらは数値に出ませんが、進路を決めるときの材料になります。
問題は、その期間に土台が崩れたまま気づかれないことです。関心が別のところにあるのは構いません。ただ、数学と英語の積み上げだけは、崩れると戻すのに時間がかかります。ここだけを見ておけば、他は本人に任せて構わないと考えています。
そして、立て直しは可能です。高1の後半からでも、高2からでも間に合った例を見てきました。ただし、遅くなるほど戻る労力は増えます。気づいた時点で手をつけるのが、結局は最も負担が軽くなります。
15. 環境を変えるという判断
立て直しがうまくいかないとき、転校や退学という選択が話題に上ることがあります。この判断についても触れておきます。
結論から言えば、環境を変えることが解決になるのは、原因が環境にある場合に限られます。学校の雰囲気が本人と決定的に合わない、人間関係が改善の見込みなく悪化している、といった場合です。この場合、学習面の問題は結果であって原因ではありません。
一方、原因が学習の積み上げの崩れにあるなら、環境を変えても同じことが起きます。新しい学校でも、崩れた土台はそのままだからです。まず原因を特定してから、環境の話をするという順序が要ります。
判断の材料として、学校以外の場面での様子を見ます。家庭や趣味の場でも意欲が落ちているなら、学校固有の問題ではない可能性があります。学校でだけ元気がないなら、環境要因を疑う根拠になります。
いずれにせよ、この判断は急がないほうがよいと考えています。中だるみの時期は一時的なことが多く、その最中に大きな決定をすると、後から見て過剰だったという結論になりがちです。半年単位で様子を見る余裕を持てるかどうかが、判断の質を左右します。
当塾の立場
当塾には一貫校に通う生徒も来ています。その経験から申し上げると、中だるみへの対処で最も効くのは、叱ることではありません。
効くのは、どこで分からなくなったかを特定して、そこまで戻ることです。多くの場合、本人は分からなくなった地点を自覚していません。特定できれば、戻る作業自体は数週間で終わることもあります。
また、学校の進度に無理に合わせない判断をすることがあります。学校が先へ進んでいても、土台が崩れているなら戻るほうが速くなります。定期テストの点数が一時的に下がっても、その方が結果的に間に合います。
まとめ
- 中だるみは性格ではなく構造の問題。区切りがないため目標が消える期間が生じる。
- 最も深いのは中2。高1後半で戻らないと回復が難しくなる。
- 影響が出るのは数学。積み上げ式で、逃げ道がない。
- 兆候は点数より数か月早く出る。質問しなくなる・提出物が直前になるなど。
- 対処は叱責ではなく、分からなくなった地点の特定と、そこまで戻る作業。
- 目標は検定・探究・短期目標のように、努力と結果が対応するものを置く。
- 高2までに、数学と英語の土台・方向性・検定・活動の記録・学習習慣を揃える。
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