記述問題は「感想」ではない
現代文の記述問題で点が来ない生徒の答案には、共通点があります。本文を読んで自分が感じたことを書いているという点です。本文の内容には触れているものの、設問が求めている形になっていない。
記述問題は作文ではありません。設問が指定した条件に従って、本文から必要な要素を取り出し、指定の字数で再構成する作業です。創造ではなく、操作です。この認識の切り替えができると、点数は動きます。
この記事では、設問の要求をどう分解するか、答案にどの要素を入れるか、そして自己採点をどうするかを整理します。
1. 設問の要求を分解する
まず、設問文そのものを分解します。ここを飛ばして本文に戻る生徒が非常に多くなっています。
設問文には、次の要素が含まれています。
問われている対象。傍線部のどの部分についてか。傍線部全体か、その中の特定の語か。
問いの種類。「どういうことか」なのか「なぜか」なのか。この二つは求められる答案の形が違います。
条件。「本文中の語句を用いて」「〜の違いを明らかにして」「具体例を挙げて」といった指定。
字数。何字以内か。字数は要素の数を示唆します。
この4つを、本文を読む前に確認します。特に問いの種類は決定的です。
2. 「どういうことか」と「なぜか」
この二つの違いを整理します。
「どういうことか」は言い換えです。傍線部の内容を、より分かりやすい言葉に置き換えます。答案の末尾は「〜ということ。」となります。傍線部に含まれる比喩、指示語、抽象語を、本文の他の箇所の言葉で説明するのが基本の作業です。
「なぜか」は理由です。傍線部の内容が成り立つ原因や根拠を述べます。答案の末尾は「〜から。」となります。ここで多いのが、理由ではなく言い換えを書いてしまう誤りです。
見分け方として、答案を書いたあとに末尾を確認する習慣をつけます。「なぜか」に対して「〜ということ。」で終わっていれば、それだけで大きく失点します。
もう一つ、「どのような気持ちか」という問いもあります。これは心情の説明ですが、感想ではありません。状況と、それに対する反応という形で書きます。「悲しい」だけでは点になりません。何があって、その結果どういう感情が生じたかを書きます。
3. 答案に入れる要素の数
記述問題の採点は、要素ごとの加点で行われるのが一般的です。つまり、必要な要素が入っていれば点が来て、入っていなければ来ません。文章の巧拙は主要な評価対象ではありません。
そこで重要になるのが、何個の要素を入れるべきかの判断です。目安として、字数から逆算します。
40字程度なら2要素、60字なら2〜3要素、80字なら3要素、100字以上なら3〜4要素。これはあくまで目安ですが、字数に対して要素が少なすぎる答案は、どこかが抜けている可能性が高くなります。
逆に、要素を詰め込みすぎて字数が足りなくなる場合もあります。その場合は、優先順位をつけます。傍線部に直接対応する要素が最優先で、背景の説明は削れます。
4. 本文からどう取り出すか
要素を本文のどこから取るか。ここにも手順があります。
まず傍線部の直前直後を見ます。指示語があれば、指す内容を特定します。接続詞があれば、前後の論理関係を確認します。この作業だけで、答案の骨格の半分は決まることがあります。
次に、同じ内容を述べている他の箇所を探します。評論文では、同じ主張が形を変えて複数回現れます。傍線部が抽象的なら、どこかに具体的な説明があるはずです。逆に具体的なら、どこかに抽象的なまとめがあります。
対比に注目します。評論文の多くは対比で構成されています。Aについて説明する際、Bとの違いが述べられていれば、その違いが答案の要素になります。
5. 書き方の手順
要素が揃ったら、文として組み立てます。ここにも順序があります。
先に末尾を決めます。「〜ということ。」なのか「〜から。」なのか。末尾が決まると、そこに向かって文を組む形になり、途中で問いの種類を見失いません。
次に、中心となる要素を最後に置きます。日本語は文末に重点が来ます。最も答えたい内容を末尾近くに置き、補足的な説明を前に置くと、読み手にとって答えが明確になります。
そのうえで、前から順に条件を足します。「〜という状況において」「〜であるために」といった修飾を前方に配置します。
気をつけたいのが、一文が長くなりすぎることです。80字以内なら一文でまとめるのが自然ですが、100字を超える場合は二文に分けたほうが読みやすくなります。ただし、二文に分けると主語がずれやすいため、分けた場合は必ず読み返します。
もう一つ、本文の表現をそのまま使ってよいかという問題があります。「本文中の語句を用いて」と指定があれば当然使いますが、指定がない場合も、本文のキーワードは使うのが基本です。ただし、傍線部そのものに含まれる語をそのまま使うのは避けます。言い換えになっていないためです。
6. 失点の型
記述の失点には、決まった型があります。自分がどの型で落としているかが分かると、対処が早くなります。
型1:要素の欠落。必要な要素のうち1つか2つが入っていない。最も多い失点です。多くの場合、傍線部の直前直後しか見ていないことが原因です。
型2:問いへの不対応。「なぜか」に言い換えで答える、「どういうことか」に理由で答える。末尾を確認する習慣で防げます。
型3:本文にない内容の混入。自分の知識や感想を入れてしまう。特に、本文のテーマについて知識がある場合に起きやすくなります。知識があることが不利に働く典型例です。
型4:抽象のまま。傍線部の抽象語を、別の抽象語に置き換えただけ。「近代的な主体性」を「自律的な個人性」に言い換えても、説明したことになりません。本文中の具体的な記述に落とす必要があります。
型5:指示語の残存。答案の中に「それ」「このこと」が残っている。答案だけを読んで意味が通るかを確認します。
型6:字数オーバーまたは大幅な不足。字数の8割に達していない答案は、要素が足りていない可能性が高くなります。
7. 自己採点の方法
記述問題は、自己採点が難しいと言われます。しかし、要素ごとの加点という仕組みを利用すれば、ある程度は可能です。
手順はこうです。まず、模範解答を要素に分解します。「AがBである/その結果Cが生じる/だからDと言える」というように、意味のまとまりで区切り、番号をつけます。
次に、自分の答案に同じ要素が含まれているかを、一つずつ照合します。含まれていれば丸、含まれていなければバツ。これで、何点分を落としたかが分かります。
そして、バツがついた要素について、本文のどこにその根拠があったかを探します。ここが最も重要な作業です。根拠の場所が分かれば、次に同じ型の設問が出たとき、そこを見に行けます。
この照合作業は、1問あたり10分程度かかります。長文を何本も解くより、1本を丁寧に照合するほうが、記述の点数は上がります。解く量より、照合の密度です。
8. 抽象語をどう扱うか
評論文には、日常では使わない抽象語が出てきます。「近代」「主体」「表象」「疎外」「再帰性」といった語です。
これらの語は、本文の中で定義されていることが多くあります。筆者は読者が知らない前提で書くため、どこかで説明を加えます。その説明箇所を見つけられれば、語の意味を辞書的に知らなくても読めます。
ただし、頻出の抽象語については、あらかじめ知っておくほうが速くなります。用語集を1冊持ち、出会った語に印をつけていく方法が現実的です。暗記する必要はありません。「見たことがある」状態を作るだけで、読解の速度は変わります。
注意したいのは、用語集の定義を答案にそのまま持ち込まないことです。本文での使われ方が一般的な定義とずれている場合、用語集の定義で書くと失点します。あくまで本文が優先です。
9. 小説の記述は何が違うか
評論文と小説では、記述の作法が変わります。混同すると点になりません。
小説で問われるのは、多くの場合心情とその理由です。ここで避けたいのが、「かわいそうだから悲しい」といった、読者としての共感を書いてしまうことです。求められているのは、登場人物の心情が本文のどの描写から読み取れるかです。
手順としては、まず傍線部の周辺から、心情を示す直接的な記述を探します。「〜と思った」「胸が締めつけられた」といった表現です。次に、間接的な描写を探します。行動、表情、風景、会話の間。小説では、心情が直接書かれず、動作や情景で示されることが多くあります。
そして、その心情が生じた出来事を特定します。答案は「Xという出来事があったため、Yと感じている」という形になります。出来事と心情のどちらかが欠けると、要素の欠落として減点されます。
もう一つ、心情の変化を問う設問があります。この場合は、変化前と変化後の両方を書く必要があります。変化のきっかけとなった出来事も含めると3要素です。字数が多い設問では、この形が想定されています。
小説で難しいのは、本文に書かれていないことを推測する誘惑です。物語として自然な解釈でも、本文に根拠がなければ書けません。「おそらくこう思ったはずだ」という推測は、評論文以上に危険です。
10. 古文・漢文への波及
記述の作法は、古文や漢文の説明問題にもそのまま使えます。
古文の「どういうことか」も、現代文と同じく言い換えです。違うのは、まず古文を現代語に直す工程が加わることです。ここで多いのが、逐語訳をそのまま答案にしてしまう誤りです。訳は答案ではありません。訳したうえで、主語を補い、指示語を開き、省略を埋める必要があります。
古文では主語の省略が頻繁に起こります。答案で主語が曖昧だと、それだけで減点されます。誰が誰に対して何をしたのかを明示するのが基本です。
漢文の説明問題も同様ですが、加えて故事や思想的な背景が問われることがあります。この場合は、書き下し文の内容だけでなく、筆者が何を主張しているかまで踏み込む必要があります。
11. 練習の組み立て方
記述の練習量は、多ければよいというものではありません。
週に2問から3問で十分です。ただし、1問あたり解く時間と同じかそれ以上を照合に使います。15分で書いたなら、15分から20分を照合と本文確認に充てます。
ノートの作り方も決めておきます。左に自分の答案、右に模範解答の要素分解、下に落とした要素と本文の根拠箇所。この3点セットで1問1ページ。10問ためたところで見返すと、自分の失点の型が見えます。
添削を受けられる環境があるなら、活用する価値は大きくなります。ただし、点数だけを聞くのでは意味がありません。どの要素が入っていないか、その要素は本文のどこにあったかを聞きます。ここまで聞いて初めて、次に活きます。
時期の目安としては、記述の作法自体は高2のうちに固めておくのが理想です。高3では、志望校の出題形式に合わせた調整に時間を使えます。字数や設問の傾向は大学ごとに違うため、過去問での調整期間が必要になります。
12. 記述は何点分あるか
対策の優先度を決めるには、配点を知っておく必要があります。
国公立の二次試験では、現代文がほぼ記述で構成される場合があります。この場合、記述の作法を知っているかどうかが、そのまま得点差になります。
一方、私大では選択式が中心で、記述が出ない場合もあります。志望校が選択式のみなら、記述の練習に多くの時間を割く必要はありません。ただし、記述の訓練は選択肢問題にも効きます。要素を意識して本文を読む習慣がつくと、選択肢の吟味が正確になるためです。
総合型選抜や推薦を考えている場合、記述の力は小論文に直結します。設問の要求を分解し、条件に従って書くという作業は、小論文の課題文型でそのまま使われます。現代文の記述と小論文は、別の科目ではありません。
13. 答案を直す——具体例
実際の直し方を、架空の例で示します。設問は「傍線部『言葉は世界を切り分ける』とはどういうことか、80字以内で説明せよ」とします。
改善前の答案。「言葉によって世界が分けられるということ。言葉がなければ世界は一つのままだが、言葉があることで区別が生まれるということ。」
この答案の問題は明確です。傍線部の語(言葉・世界・切り分ける)をほぼそのまま使っており、言い換えになっていません。「分けられる」は「切り分ける」の同語反復です。字数は足りていますが、要素は実質1つしかありません。
改善後の答案。「本来は連続していて区切りのない対象を、その言語が持つ語彙の区分に従って、別々のものとして認識するようになるということ。」
この答案では、(1) 対象はもともと連続している、(2) 言語の語彙が区分を与える、(3) その結果として別々のものと認識される、という3要素が入っています。傍線部の語を繰り返さず、本文の説明に置き換えています。
なお、改善するときに難しい専門用語を持ち込むのは逆効果です。学術用語を使えば高度に見えますが、本文で定義されていない語を使うと、説明したことになりません。平易な日本語で、本文に書かれている内容を再構成するのが正解です。
直すときの着眼点は三つです。傍線部の語をそのまま使っていないか。指示語が残っていないか。抽象語を抽象語で置き換えていないか。この3点を確認するだけで、答案の質は変わります。
14. 時間配分
記述問題は時間を食います。試験全体の配分を決めておかないと、書けたのに他が解けなかったという事態になります。
目安として、字数の2倍の秒数を書く時間として見積もります。80字なら160秒、およそ3分。これに、要素を探す時間が加わります。合計で1問5分から7分程度です。
本文を読む時間を含めると、評論文1題で20分から25分が標準的な配分になります。試験時間が80分で大問が4つなら、この配分でちょうど収まります。
注意したいのは、1問に固執しないことです。要素が見つからない設問に10分かけるより、他の設問を確実に取るほうが総得点は高くなります。時間を決めて、超えたら部分点狙いで書いて次に進む判断が必要です。
部分点狙いの書き方も知っておく価値があります。要素が2つしか見つからなくても、その2つを明確に書けば加点されます。空欄にすると0点です。分からなくても書くというのは、記述では特に重要です。
15. 傍線部の前後をどこまで見るか
「傍線部の前後を読め」とよく言われますが、どこまでを前後とするかが曖昧なまま使われています。基準を持っておくと迷いません。
第一の範囲は同じ段落です。傍線部が含まれる段落は、原則として一つの話題でまとまっています。ここに答案の中心要素があることが最も多くなります。
第二の範囲は前後の段落です。接続詞で始まる段落は、前の段落との論理関係が明示されています。「しかし」で始まれば対比、「つまり」で始まれば要約、「たとえば」で始まれば具体例。この関係を使うと、必要な情報がどちらにあるかの見当がつきます。
第三の範囲は本文全体です。傍線部が筆者の主張そのものである場合、根拠は文章全体に分散していることがあります。この場合は、段落ごとの要点をたどり直す必要があります。字数が多い設問(120字以上)では、この範囲まで見ることが想定されています。
判断の目安として、字数と探索範囲は比例します。40字なら同じ段落、80字なら前後の段落、120字以上なら本文全体。この対応を頭に入れておくと、探す範囲を決められます。
16. 段落要約という下準備
記述が安定しない生徒に勧めているのが、段落ごとの一行要約です。
やり方は単純で、各段落の横に、その段落が何を言っているかを15字程度で書きます。全文を読み終えたあと、その要約だけを縦に読むと、文章の流れが見えます。
この作業には二つの効果があります。一つは、設問を解くときに戻る場所が分かること。要素を探すとき、要約を見れば該当段落の見当がつきます。もう一つは、要点と例示を区別する訓練になることです。要約しようとすると、どこが中心でどこが補足かを判断せざるを得ません。
ただし、試験本番でこれをやる時間はありません。これは演習期の訓練であり、本番では頭の中で同じ処理を行えるようになっているのが目標です。訓練として3か月ほど続けると、要約を書かなくても段落の役割が見えるようになります。
この訓練は、小論文の課題文読解にもそのまま使えます。課題文型の小論文では、まず筆者の主張を要約する工程が入るためです。現代文の訓練が、そのまま出願後の武器になるという点は、早い時期に知っておく価値があります。
当塾の立場
当塾では、記述の指導でまず設問文を分解させます。本文に戻るのはそのあとです。順序を逆にすると、本文の印象に引きずられた答案になります。
また、模範解答を写して終わりにしません。模範解答と自分の答案を比べ、どの要素が足りなかったか、その要素は本文のどこにあったかを特定させます。この作業をしないと、次も同じ抜け方をします。
そして、「読解力」という言葉で片づけないようにしています。記述で点が来ない原因は、多くの場合、読解力ではなく操作の手順にあります。手順は教えられますし、短期間で変わります。
まとめ
- 記述は作文ではなく操作。設問の条件に従って本文から要素を取り出す。
- 本文に戻る前に、設問文を対象・問いの種類・条件・字数の4つに分解する。
- 「どういうことか」は言い換え、「なぜか」は理由。末尾を確認する。
- 字数から要素数を逆算する。40字で2要素、80字で3要素が目安。
- 失点には型がある。要素の欠落・不対応・混入・抽象のまま・指示語の残存。
- 自己採点は模範解答を要素分解し、落とした要素の根拠を本文で探す。
- 解く量より照合の密度。週2〜3問で足りる。
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