学部名から中身は分からない
大学のパンフレットを開くと、聞き慣れない学部名が並んでいます。国際、総合、環境、情報、人間、共創、データサイエンス。名称だけでは、そこで何を学ぶのかが分かりません。
同時に、伝統的な名称の学部——法学部、経済学部、文学部——であっても、大学によって中身はかなり違います。同じ名前だから同じことを学ぶ、とは限りません。
この記事では、学部名に頼らずに中身を調べる方法を整理します。使うのは公開されている情報だけで、特別な手段は要りません。
1. なぜ名称で分からないのか
理由はいくつかあります。
理由1:学際的な編成が増えた。複数の分野をまたぐ学部が作られると、既存の名称では表せません。そこで新しい名称が作られますが、その名称は他大学と共通ではありません。
理由2:名称に広報の要素がある。学部名は受験生に向けた発信でもあります。内容を正確に表すことと、関心を引くことの両方が求められます。
理由3:同じ名称でも構成が違う。経済学部の中に経営系の学科がある大学と、経営学部が独立している大学があります。文学部に心理学があるところと、別の学部にあるところもあります。
理由4:改組が頻繁にある。学部の統合や分割、名称変更が行われます。過去の情報が現在と合わないことがあります。
したがって、名称は入口でしかありません。実際に何を学ぶかは、個別に調べる必要があります。
2. 何を見れば分かるか
調べる対象を、有効な順に挙げます。すべて大学のウェブサイトで公開されているものです。
その1:カリキュラム表(履修系統図)。4年間にどの科目をどの順で学ぶかが一覧になっています。必修科目を見ると、その学部が何を核と考えているかが分かります。選択科目より必修科目を見るのが要点です。
その2:シラバス。個々の科目の内容、教科書、評価方法が書かれています。興味のある科目を3つほど開くと、授業の水準と進め方が見えます。
その3:教員一覧と研究分野。どういう専門の教員がいるか。学びたい分野の教員がいなければ、その学部では深く学べません。教員の研究分野の分布が、その学部の実体です。
その4:卒業論文のテーマ一覧。公開している大学があります。学生が実際に何を扱っているかが、最も直接的に分かります。
その5:ゼミ・研究室の紹介。3年次以降にどこに所属するか。ここが学部生活の中心になります。
この5つを見れば、学部名からは分からない中身がかなり見えます。所要時間は1学部あたり30分程度です。
3. カリキュラムの読み方
カリキュラム表を見るとき、何に注目するか。
注目1:1年次の科目。入学後すぐに何を学ぶか。基礎科目が多いのか、早くから専門に入るのか。学部の設計思想が出ます。
注目2:必修の量。必修が多い学部は道筋が決まっており、少ない学部は自由度が高くなります。どちらがよいかは本人の性質によります。自由度が高いほうがよいとは限りません。自分で組み立てられないと、散漫になります。
注目3:演習・実習の有無。講義だけで構成されているか、演習が組み込まれているか。手を動かす機会の多さは、身につくものに直結します。
注目4:卒業論文の扱い。必修か、選択か。必修であれば、まとまった研究の経験が得られます。
注目5:他学部の科目を取れるか。関心が変わったときの柔軟性に関わります。
4. シラバスから読み取れること
シラバスは、一つの科目について書かれた設計書です。ここから読み取れることを挙げます。
到達目標。その科目を終えたときに何ができるようになるか。抽象的な記述が多いのですが、何を重視しているかは見えます。
各回の内容。15回分の予定が並んでいます。これを見ると、扱う範囲と深さが具体的に分かります。同じ科目名でも、大学によって扱う範囲は違います。
教科書と参考文献。ここが最も情報量があります。指定された本を調べれば、その科目の水準が分かります。入門書なのか、専門書なのか。書名で検索して目次を見るだけでも判断できます。
評価方法。試験なのか、レポートなのか、発表なのか。レポートの比重が高い学部では、書く力が継続的に求められます。
予習・復習の指示。授業外にどれだけの学習を求めているか。ここに書かれている量は、その学部の期待水準を示します。
1年生向けの必修科目と、3・4年生向けの専門科目を1つずつ見ると、入学時から卒業時までの距離が感じ取れます。
5. 教員の研究を見る
学部の実体を最も正確に表しているのは、教員の構成です。
教員一覧のページには、各教員の専門分野が書かれています。ここに自分の関心と重なる分野があるかを確認します。一人もいなければ、その学部では学べません。
さらに踏み込むなら、教員個人のページや研究業績を見ます。最近どういう研究をしているか。論文の題目を眺めるだけでも、扱っている問題が分かります。
注意点として、教員は異動します。入学時にいた教員が、3年次にいるとは限りません。特定の一人を目当てにするのはリスクがあります。分野としての厚み——同じ領域に複数の教員がいるか——を見るほうが安全です。
また、大学院の情報も参考になります。大学院に該当分野の研究科があれば、学部でもその分野が扱われている可能性が高くなります。
6. 複数の大学を比べる
同じ名称の学部を、複数の大学で比べてみると違いが見えます。
比べる観点を挙げます。
必修科目の違い。何を全員に学ばせるか。ここに各大学の方針が出ます。
専門に入る時期。1年次から専門があるか、2年次までは共通か。早く専門に入りたい人と、迷いながら決めたい人で、合う形が違います。
学科・コースの分かれ方。入学時に決まるのか、途中で選べるのか。入学時に決まる場合、選択の変更が難しくなります。
定員の規模。1学年何人か。少人数の演習があるかどうかに関わります。
資格や免許の取得。教職や学芸員など、取れる資格が違います。必要なら確認が要ります。
3つ程度の大学を並べて比べると、自分が何を重視しているかも見えてきます。比較すること自体が、基準を作る作業になります。
7. オープンキャンパスの使い方
実際に足を運ぶ機会があれば、ウェブサイトでは分からないことを確認します。
模擬授業に出る。実際の授業の雰囲気に近いものが体験できます。内容が分からなくても構いません。分からなさの質——難しいが面白いのか、関心が持てないのか——が判断材料になります。
在学生に聞く。用意された説明ではなく、実際の生活を聞きます。「授業以外の時間は何をしているか」「一番よかった授業は何か」「入る前と後で違ったことは何か」。この3つは、パンフレットには書かれていません。
施設を見る。図書館、実験室、自習スペース。4年間使う場所です。
通学経路を実際に通る。所要時間と混雑。毎日のことなので、影響は小さくありません。
行けない場合でも、オンラインの説明会や動画が公開されていることが増えています。授業の様子や研究室の紹介があれば、それを見ます。
8. 新しい名称の学部をどう見るか
近年設置された学部については、判断材料が少なくなります。見るべき点を挙げます。
母体となった学部は何か。多くの新学部は、既存の学部や学科を再編して作られています。どの分野の教員が中心になっているかを見ると、実体が分かります。教員一覧の専門分野の分布が、最も確実な手がかりです。
卒業生がいるか。設置から4年未満であれば、卒業生がいません。進路の実績も、卒業論文の一覧もない状態です。情報が少ないという条件を受け入れたうえで選ぶことになります。
複数分野を掲げている場合、どこまで深く学べるか。「文理融合」「学際的」という説明は魅力的ですが、広く浅くなる可能性もあります。カリキュラムを見て、どこかに深く入る道筋があるかを確認します。
大学院があるか。接続する大学院がある場合、その分野に一定の厚みがあると考えられます。
新しい学部が悪いという話ではありません。新設だからこその設備や制度が整っている場合もあります。ただ、判断材料が少ないという性質は踏まえて検討する必要があります。
9. 志望理由書に使う
調べた内容は、そのまま志望理由書の材料になります。書き方の要点を述べます。
よくある志望理由書は、どの大学にも使える内容になっています。「貴学の自由な校風に惹かれ」「充実した設備のもとで」。これでは、なぜその大学なのかが伝わりません。
具体性を出すには、調べた事実を使います。「この科目で扱われている内容が、自分の関心とつながっている」「この研究室のこの研究に関心がある」という形です。ここまで書けるのは、実際に調べた人だけです。
ただし、調べた事実を並べるだけでは足りません。自分の関心がどこから来たのか、そしてなぜそれがこの大学で扱えるのか。この接続が要ります。
構成としては、自分の経験と問い → その問いを深めるために必要なこと → それが学べる場所として大学を挙げるという順序が自然です。大学の紹介から始まる志望理由書は、多くの場合、順序が逆になっています。
10. 入学後に関心が変わったら
調べて選んでも、入学後に関心が変わることはあります。むしろ、学んだ結果として変わるのは自然なことです。
そのため、選ぶ段階で移動の可能性も見ておく価値があります。転学部・転学科の制度があるか、他学部の科目をどれだけ取れるか、副専攻の仕組みはあるか。
また、大学院で分野を変えるという道もあります。学部と異なる分野の大学院に進む例は珍しくありません。学部での選択が一生を決めるわけではありません。
この「変えられる」という前提を持っていると、選ぶときの緊張が下がります。完璧な選択をしようとすると、選べなくなります。今の関心から最も近いものを選び、違ったら動く。この構えのほうが現実的です。
11. 実際の手順——1週間でできること
調べ方を述べてきましたが、実際にどう進めるか。1週間で一通りできる手順を示します。
1日目:候補を10校ほど並べる。この段階では、学部名と立地だけで構いません。関心のある方向に近そうなものを広めに拾います。
2日目:カリキュラム表を見て5校に絞る。1校10分程度。必修科目を見て、自分の関心と重なるかを判断します。重ならないものはここで外します。
3〜4日目:5校のシラバスと教員一覧を見る。1校30分。興味のある科目を3つ開き、教員の専門分野の分布を確認します。
5日目:3校に絞り、比較表を作る。必修の量、専門に入る時期、学科の分かれ方、定員、取れる資格。表にすると差が見えます。
6日目:入試方式を確認する。ここで初めて入試の話に入ります。一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜のどれが使えるか。科目と配点、出願要件、日程。
7日目:まとめる。調べたことを1枚に整理します。この1枚が、以降の判断の土台になります。
合計で6〜8時間程度です。高2の夏や、高3の春に一度この作業をしておくと、その後の勉強の目的がはっきりします。何のためにやっているかが見えると、学習の持続が変わります。
12. 保護者の方へ
この調べる作業は、保護者の方が一緒に行うと進みやすくなります。
ただし、代わりに調べるのではなく、一緒に見る形にしていただきたいと思います。調べる過程で、本人が何に反応するかが見えます。「この科目は面白そう」「これはやりたくない」。この反応が、進路を決める材料になります。
また、ご自身の世代の学部の印象を一度外して見ていただけると、話が噛み合いやすくなります。学部の中身は変わっています。名称が同じでも、扱う内容が違うことがあります。
そして、この作業には受験勉強の動機づけという副次的な効果があります。行きたい場所が具体的になると、勉強の目的がはっきりします。漠然と「良い大学」を目指している状態より、続きやすくなります。
調べる時間は、勉強時間を削ることになります。しかし、方向が定まらないまま続ける時間と比べれば、6〜8時間は十分に見合う投資だと考えています。
13. 調べるときの落とし穴
この作業でも、気をつけたい点があります。
広報用の説明だけで判断しない。パンフレットやトップページの文章は、伝えたいことが選ばれています。書かれていることは事実でも、それが全体を代表しているとは限りません。カリキュラム表のような、加工されていない情報を見ます。
就職実績の数字を単独で見ない。就職先の一覧は、その学部の学生が実際に進んだ先を示しますが、人数や割合が示されていないことがあります。数字の作られ方は必ず確認します。
情報の年度を確認する。ウェブ上には古いページが残っていることがあります。カリキュラムは改定されます。何年度の情報かを見る習慣が要ります。
他人の評価を先に見ない。先に評判を知ると、それに沿った見方になります。まず自分でカリキュラムを見て、そのあとで他の情報に当たるほうが、判断が自分のものになります。
一度で決めようとしない。調べた直後の印象は変わります。1週間おいてもう一度見ると、違う感想になることがあります。期間をあけて2回見ると、判断が安定します。
14. 最後に
学部を調べる作業は、地味で時間がかかります。偏差値の一覧を見るほうが、はるかに速く候補を絞れます。
それでもこの作業を勧めるのは、入学後の4年間が、ここで決まるからです。入試は数日で終わりますが、大学生活は4年続きます。どちらに時間をかけて調べるべきかは、明らかだと思います。
そして、この作業自体が訓練になります。公開されている情報から、必要なものを取り出して比較する。これは大学でも、その後の場面でも使う作業です。志望校選びは、その最初の実践になります。
最後に一つ。調べても分からないことは、必ず残ります。実際に通ってみないと分からない部分があるのは当然です。分かる範囲で調べたうえで、残りは受け入れる。完全な情報を集めようとすると、いつまでも決まりません。
調べて、比べて、決める。決めたあとは、そこで何をするかに意識を移す。この切り替えができれば、選択の良し悪しを気にし続ける必要はなくなります。
15. 分野ごとの調べ方の違い
系統によって、見るべき点が少し変わります。主な系統について補足します。
人文系。教員の専門分野の分布が特に重要です。文学部といっても、扱う言語や地域、時代は大学によって偏ります。自分が関心を持つ領域の教員がいるかが決定的になります。また、卒業論文が必修かどうかも確認します。
社会科学系。理論を重視するか、実証や調査を重視するかで性格が分かれます。カリキュラムに統計やデータ分析の科目があるかを見ると、方向が分かります。近年はこの比重が高まっている学部が増えています。
理工系。学科の分かれ方と、研究室配属の時期を確認します。入学時に学科が決まるのか、2年次以降に選べるのかで、迷う余地が変わります。実験科目の量も、負担と得られるものの両方に関わります。
医療系。資格に直結するため、カリキュラムの自由度は低くなります。代わりに確認すべきは、実習の時期と場所、そして国家試験への対策の仕組みです。
教育系。教員養成が中心か、教育学の研究が中心かで大きく違います。同じ「教育学部」でも、免許の取得が前提のところとそうでないところがあります。
芸術・デザイン系。実技の比重と、入試での実技の有無を早めに確認します。準備に長い期間が要る場合があります。
いずれの系統でも、見る対象は同じです。カリキュラム、シラバス、教員、卒業研究。系統によって重みが変わるだけで、手順は共通しています。
当塾の立場
当塾では、志望校の相談のときに実際にウェブサイトを一緒に開きます。パンフレットの紹介文ではなく、カリキュラム表とシラバスを見ます。
理由は、受験生の多くがこの作業をしていないためです。学部名と偏差値、立地だけで候補を決めていることが少なくありません。中身を見ると、志望が変わることもよくあります。
また、総合型選抜を受ける場合、この作業が志望理由書に直結します。「貴学のこの科目、この研究室で学びたい」という具体性は、調べていなければ書けません。調べることは、受験の準備そのものでもあります。
まとめ
- 学部名からは中身が分からない。同じ名称でも大学ごとに違う。
- 見るのは5つ。カリキュラム表・シラバス・教員の研究分野・卒論テーマ・ゼミ紹介。
- カリキュラムでは選択より必修を見る。学部の核が分かる。
- シラバスでは教科書と参考文献が最も情報量が多い。
- 教員は異動する。特定の一人ではなく分野としての厚みで見る。
- 3大学ほど並べて比べると、自分が何を重視しているかも見えてくる。
- 調べた内容はそのまま志望理由書の具体性になる。
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