数学不安は成績を下げるのか——相関の大きさ、因果の向き、介入の再現性

数学だけが怖い、という現象

国語や英語には普通に取り組めるのに、数学の問題を前にすると頭が白くなる。手順は知っているはずなのに、テストになると手が動かない。子どもの数学の宿題を見せられた保護者のほうが、先に身構えてしまう。

こうした、数学という特定の領域に結びついた緊張・恐れ・回避の傾向は、数学不安と呼ばれます。1970年代に測定尺度が作られて以来、半世紀にわたって研究が蓄積されてきました。近年はメタ分析(複数の研究を統計的に統合する手法)と縦断研究(同じ子どもを何年も追う研究)が増え、曖昧だった論点に数字がつくようになりました。

先に結論を書きます。数学不安と数学の成績のあいだには一貫した負の相関があるが、その大きさは小〜中程度で、因果は一方向ではなく、試験直前の短い介入が効くという初期の報告は大規模な追試で再現されていない。この記事では、測定、相関、因果の向き、家庭と教室での伝播、介入の順に、何が確かめられたかを整理します。

1. 数学不安はどう測られてきたか

数学不安の実証研究は、Richardson & Suinn (1972) が数学不安評定尺度(MARS)を発表したときに始まったとされます。数学に関わる場面を並べ、それぞれにどの程度の不安を感じるかを答えさせる自己報告式の質問紙です。以後の研究の多くが、この尺度かその派生版を使ってきました。

ただし原版は項目数が多く、学校での調査には重い。Hopko et al. (2003) は1,239人のデータから9項目の短縮版(AMAS)を作り、内的整合性と再検査信頼性、別の標本での妥当性を確認しています。現在の研究で最もよく使われるのは、この種の短い尺度です。

押さえておきたいのは、数学不安は「数学ができないこと」とは別に測られているという点です。尺度が聞いているのは能力ではなく、数学の場面で生じる情動です。また自己報告である以上、本人が自覚していない緊張や、答え方の癖は拾えません。

2. 相関の大きさ——メタ分析が示す数字

数学不安と数学の成績の相関は、複数のメタ分析で一貫して負です。Namkung et al. (2019) は学齢期の児童生徒を対象とした131研究、478の効果量を統合し、r = -0.34 という値を報告しました。Barroso et al. (2021) は対象を成人まで広げ、1992年から2018年までの747の効果量から r = -0.28 を得ています。

相関係数 r は -1 から 1 の値をとり、0 に近いほど関係が弱い。-0.3 前後という値は、心理学の慣例では小〜中程度に分類されます。数学不安が高い子は成績が低い傾向にあるが、不安だけで成績の大部分が説明できるわけではない、というのが数字の読み方です。

相関の強さを左右する条件も分かっています。Namkung et al. (2019) では、複数の手順を要する発展的な課題のほうが基礎的な計算課題より不安との負の相関が強く、期末試験や成績評定など「結果が成績に響く」測定のほうが、研究用に実施された測定より相関が強く出ました。Barroso et al. (2021) は、関連が幼い時期に始まって成人期まで続くこと、小学3〜5年生と高等教育段階ではやや小さいこと、公刊された研究のほうが未公刊の研究より強い相関を報告する傾向があることを示しています。

3. なぜ不安が解答を妨げるのか

不安が成績に影響する経路として最もよく検討されてきたのが、作業記憶(情報を一時的に保持しながら操作する能力)の占有です。心配や自己監視に注意が割かれると、多段階の計算に必要な容量が減る。この機構は、この連載でテスト不安とステレオタイプ脅威を扱った回で述べたものと同じです。

数学不安の研究でも、この説明と整合する所見が繰り返し得られています。前節で見た「発展的な課題ほど相関が強い」という結果は、作業記憶の負荷が大きい課題ほど不安の影響が出やすいという予測どおりです。Sorvo et al. (2022) は、生徒の実力に合わせた難易度の課題を与え、不安が喚起されたときに実力より低い成績になることを示しました。

ただし、機構の説明と因果の証明は別です。作業記憶が経路の一つであることは支持されていますが、不安が原因で成績が下がるのか、成績が低いから不安になるのかは、この機構だけでは決まりません。

4. 因果はどちら向きか

Carey et al. (2016) は、この問題を「鶏が先か卵が先か」と題した総説で整理しました。三つの立場があります。欠損説は、数学の成績が低いことが不安を生むと考える。妨害説は、不安が成績を下げると考える。相互説は、両者が悪循環をなすと考える。

Carey et al. によれば、証拠は研究の型によって分かれます。縦断研究と数学学習障害のある子どもの研究は欠損説を支持し、不安を実験的に操作して成績の変化を見る研究は妨害説を支持する。そこから、両方向の影響が同時に存在する相互説が最も整合的だと論じています。

縦断研究の代表例を挙げます。Ma & Xu (2004) は米国の中高生を複数年にわたって追跡したデータを構造方程式モデルで分析し、前年の成績の低さが翌年の不安の高さを予測する一方、前年の不安の高さは翌年の成績の低さをほとんど予測しないと報告しました。成績は不安より年ごとの安定性が高かった。これは欠損説に沿う結果です。

一方、より低年齢や別の移行期を対象にした研究では、逆向きの経路も検出されています。Cargnelutti et al. (2017) は小学2年生から3年生への変化を追い、3年生の時点では不安から成績への方向が優勢で、2年生の不安が3年生の成績に間接的に影響していたと報告しました。Sorvo et al. (2022) はフィンランドの6年生848人を7年生まで追い、6年生時点の高い不安が7年生の低い成績を予測する、小さいが有意な効果を見いだしています。

これらを並べると、「どちらか一方」と決めるのは証拠に合わないことが分かります。実務的には、不安を減らす働きかけと、できることを増やす働きかけの両方に根拠があると読むのが妥当です。

5. 親から子へ——宿題を手伝うときだけ伝わる

数学不安がどこから来るかを考えるうえで、家庭の役割を調べた研究があります。Maloney et al. (2015) は小学1・2年生を対象とした大規模な現場調査で、親の数学不安と、子どもの学年内での数学の伸びの関係を調べました。

結果は条件つきでした。親の数学不安が高いと、子どもはその学年で数学を学ぶ量が有意に少なく、年度末には数学不安も高くなっていた。ただしそれは、数学不安の高い親が数学の宿題を頻繁に手伝っていると報告した場合に限られました。手伝う頻度が低い場合、親の不安と子どもの学力や態度に関係はなかったのです。親の数学不安は子どもの読解の学力を予測しなかったため、効果は数学に固有と考えられます。

この結果は、「親が手伝うほどよい」という素朴な前提に注意を促します。著者らは、親の不安を減らすことと、手伝い方を支援することの両方を提案しています。ただし観察研究であるため、手伝いを減らせば改善するかどうかは、この研究だけでは分かりません。

6. 教師の数学不安と女子児童

教室でも同様の伝播が報告されています。Beilock et al. (2010) は、米国の小学1・2年生を受け持つ女性教師17人の数学不安を測り、その学級の児童117人(女子65人、男子52人)の数学の学力と、「誰が数学が得意か」についての信念を、年度の初めと終わりに調べました。

年度初めには、教師の数学不安と児童の学力に関係はありませんでした。年度末には、数学不安の高い教師の学級ほど、女子児童が「男子は数学が得意で、女子は読書が得意」という通念を支持しやすく、その女子児童の数学の学力が低くなっていました。男子にはこの関係は見られませんでした。通念を支持した女子は、支持しなかった女子や男子全体より有意に低い学力でした。

教師の不安が、児童の信念を介して学力に至るという経路です。ただし教師は17人と少なく、単一の学区の観察研究です。教師の不安を下げれば児童の学力が上がるかは、確かめられていません。それでも、数学不安は学習者だけの問題ではないことを示した研究として、よく参照されます。

7. 試験直前に不安を書き出す——期待と追試

介入研究で最も有名なのは、Ramirez & Beilock (2011) が Science 誌に発表した表出的筆記です。重要な試験の直前に、いま感じている心配を短時間書き出させる。心配を紙に移すことで作業記憶の占有を減らし、成績を守るという発想です。実験室での2つの実験と、実際の学校での2つの無作為化実験で、この介入は試験の成績を有意に高め、効果はテスト不安の高い生徒でとくに大きかったと報告されました。

しかし、その後の追試は芳しくありません。Camerer et al. (2018) は、2010年から2015年に Nature と Science に載った社会科学の実験21本を、原著者が確認した分析計画を事前登録したうえで、原研究の平均約5倍の標本で追試しました。原研究と同じ方向の有意な効果が得られたのは13本(62%)で、効果量は平均して原研究の約50%でした。Ramirez & Beilock (2011) はこの21本に含まれています。

Myers et al. (2021) は、この追試プロジェクトが Ramirez & Beilock の学校実験を2回追試し、十分な検出力をもつ2回とも表出的筆記の利益を見いだせず、効果量はわずかに負だったとまとめています。Myers et al. 自身も、大学の心理学の授業で行われた4回の実際の試験で表出的筆記と教示型の介入を試し、どちらもテスト不安を減らさず成績も改善しなかったと報告しました。

Ganley et al. (2021) は大学生300人を、5分以内で終わる4種類の介入(挑戦としての再評価、興奮としての再評価、表出的筆記、先を見通す教示)と統制群に無作為に割り当てました。どの介入も状態不安にも難しい数学課題の成績にも効果がなく、表出的筆記群ではむしろ状態不安の報告が高くなりました。試験直前の数分の筆記で成績が上がるという主張は、現時点では再現されていないと言わざるを得ません。

8. 「緊張は味方」と言い換える

もう一つの短時間介入が、覚醒の再評価です。Jamieson et al. (2010) は、大学院入試(GRE)を控えた受験者に模擬試験を受けさせる際、一方の群にだけ「緊張による身体の覚醒は成績を高める」と伝えました。この群は交感神経活動の指標である唾液アミラーゼが有意に上昇し、模擬試験の数学セクションで統制群を上回りました。1〜3か月後に本番の得点報告を持ち寄ると、やはり数学セクションで再評価群のほうが高かったと報告されています。

この研究は、不安を消すのではなく解釈を変えるという発想を示した点で重要です。ただし標本は小さく、前節の Ganley et al. (2021) では、同種の再評価教示が数学課題の成績に効果を示しませんでした。言い換え一つで数学の成績が変わるという単純化は、証拠が支えていません。

9. 何が効くのか——介入研究の統合

単発の介入が振るわない一方で、介入研究全体を統合すると別の像が見えます。Sammallahti et al. (2023) は50研究、75の効果量を統合し、数学不安の低減で g = -0.467、数学の成績の改善で g = 0.502 という中程度の効果を報告しました。認知的な支援を行う介入と情動の調整を扱う介入の両方が、不安の低減と成績の改善に効いていました。期間の長い介入と、12歳より上の生徒を対象にした介入で不安の低減が最も大きかった一方、研究の質は結果と関係していませんでした。

Codding et al. (2023) は幼稚園から高校までの学校ベースの介入17研究、1,786人を対象に、心理療法的な介入と数学のスキルを教える介入を比較しました。不安の症状を減らす効果は心理療法的介入のほうが大きく(g = -0.51 対 -0.32)、成績を上げる効果はスキル介入のほうが大きい(g = 0.76 対 0.12)。ただし研究の質を考慮すると、種類による差は有意ではなくなりました。

二つのメタ分析から読み取れるのは、効いているのは「不安を扱う」か「できることを増やす」かの二者択一ではなく、時間をかけて両方を扱う設計だということです。第4節で見た因果の双方向性とも整合します。どちらか一方を数分で動かそうとした介入が再現されなかったのは、この構造から見れば意外ではありません。

10. 証拠の限界

第一に、相関の推定には公刊バイアスの影響が疑われます。Barroso et al. (2021) は、公刊研究が未公刊研究より強い相関を報告する傾向を確認しています。真の関連は r = -0.28 よりやや弱い可能性があります。

第二に、因果の向きを扱った研究の大半は縦断的な観察研究です。時間的な先行は示せても、家庭環境や一般的な不安傾向といった第三の要因を完全には除けません。不安を実験的に操作した研究は成人が中心で、児童を対象にした実験は乏しい。

第三に、介入のメタ分析に含まれる個々の研究は小規模で、追試を経ていないものが多い。Sammallahti et al. (2023) の中程度の効果量が、大規模な追試でどの程度残るかは分かりません。

第四に、数学不安の測定は自己報告に依存しています。尺度の種類によって相関の大きさが変わることは Barroso et al. (2021) でも確認されており、「数学不安が高い」という判定は、どの尺度で測ったかを抜きには語れません。

まとめ

数学不安と数学の成績の負の相関は、131研究、747効果量という規模のメタ分析で確認されており、幼い時期から成人まで続きます。ただし大きさは r = -0.3 前後で、不安が成績の主因だと言える水準ではありません。

因果は一方向ではありません。低い成績が不安を生む経路と、不安が遂行を妨げる経路の両方が、対象と時期によって検出されています。数学不安は親から子へ、教師から児童へと、関わり方や信念を介して伝わることも観察されています。

試験直前に心配を書き出す介入は、事前登録された大規模な追試で再現されませんでした。一方、期間をとって不安の扱いと数学のスキルの両方に働きかける介入には、中程度の効果が統合されています。不安を消す手続きを探すより、できることを増やしながら不安と付き合う設計に根拠がある——現時点の証拠は、そう要約できます。

主な参照研究

  • Richardson, F. C., & Suinn, R. M. (1972). The Mathematics Anxiety Rating Scale: Psychometric data.
  • Hopko, D. R., et al. (2003). The Abbreviated Math Anxiety Scale (AMAS): Construction, validity, and reliability.
  • Namkung, J. M., Peng, P., & Lin, X. (2019). The relation between mathematics anxiety and mathematics performance among school-aged students: A meta-analysis.
  • Barroso, C., Ganley, C. M., et al. (2021). A meta-analysis of the relation between math anxiety and math achievement.
  • Carey, E., Hill, F., et al. (2016). The chicken or the egg? The direction of the relationship between mathematics anxiety and mathematics performance.
  • Ma, X., & Xu, J. (2004). The causal ordering of mathematics anxiety and mathematics achievement: A longitudinal panel analysis.
  • Cargnelutti, E., Tomasetto, C., & Passolunghi, M. C. (2017). How is anxiety related to math performance in young students? A longitudinal study of Grade 2 to Grade 3 children.
  • Sorvo, R., Kiuru, N., et al. (2022). Longitudinal and situational associations between math anxiety and performance among early adolescents.
  • Maloney, E. A., Ramirez, G., et al. (2015). Intergenerational effects of parents’ math anxiety on children’s math achievement and anxiety.
  • Beilock, S. L., Gunderson, E. A., et al. (2010). Female teachers’ math anxiety affects girls’ math achievement.
  • Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom.
  • Camerer, C. F., Dreber, A., Holzmeister, F., et al. (2018). Evaluating the replicability of social science experiments in Nature and Science between 2010 and 2015.
  • Myers, S. J., Davis, S. D., & Chan, J. C. K. (2021). Does expressive writing or an instructional intervention reduce the impacts of test anxiety in a college classroom?
  • Ganley, C. M., Conlon, R. A., et al. (2021). The effect of brief anxiety interventions on reported anxiety and math test performance.
  • Jamieson, J. P., Mendes, W. B., et al. (2010). Turning the knots in your stomach into bows: Reappraising arousal improves performance on the GRE.
  • Sammallahti, E., et al. (2023). A meta-analysis of math anxiety interventions.
  • Codding, R. S., et al. (2023). Meta-analysis of skill-based and therapeutic interventions to address math anxiety.

教育学・認知心理学・社会心理学・行動経済学・教育経済学の研究をもとにした連載です。

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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