「AIに奪われない仕事」という問いの立て方
進路相談で、「AIに仕事を奪われない分野はどこか」という質問を受けることが増えました。関心の向きとしては自然ですが、この問いの立て方には難点があります。
第一に、予測が当たらないことです。10年後にどの職業がどうなっているかを正確に言える人はいません。予測に基づいて進路を決めると、予測が外れたときに立て直せません。
第二に、職業を単位にして考えると粗すぎることです。一つの職業は多数の作業からできており、変化するのは職業全体ではなくその中の作業です。同じ職名でも、やることが入れ替わっていきます。
この記事では、予測に頼らずに進路を考える枠組みを示します。学部選びや、大学で何を学ぶかを考えるときの材料として読んでいただければと思います。
1. 職業ではなく作業で考える
まず、単位を変えます。職業ではなく、作業で考えます。
どんな仕事も、複数の作業の束です。たとえば医師の仕事には、診察、検査結果の読み取り、患者や家族への説明、治療方針の判断、記録、他職種との連携などが含まれます。このうち、機械が支援しやすい作業と、しにくい作業があります。
変化が起きるとき、職業がまるごと消えるより、束の中身が入れ替わるほうが普通です。ある作業の負担が減り、別の作業に時間が回る。その結果、同じ職名でも求められる能力が変わります。
この見方をすると、問いが変わります。「この職業は残るか」ではなく、「この仕事のどの作業が自分にとって中心か」になります。中心だと思っている作業が支援の対象になるなら、別の作業に軸足を移す必要があるかもしれません。
2. 三つの軸
作業を分類する軸を三つ挙げます。これは断定的な予測ではなく、考えるための道具として使ってください。
軸1:入力と出力が明確か。何を入れれば何が出るべきかがはっきりしている作業は、支援が入りやすくなります。逆に、何を問うべきかから決める作業は、人が関わり続けます。
軸2:責任を伴うか。判断の結果に責任が生じる場面では、誰かがその責任を引き受ける必要があります。技術がどれだけ進んでも、責任の所在は人に残ります。
軸3:身体と場所を伴うか。現場で人や物に直接関わる作業は、性質が異なります。ここは技術の進み方が別の道筋をたどります。
この三つで自分の関心のある仕事を分解すると、どの部分が中心かが見えてきます。三つとも同じ方向に振れている仕事はほとんどありません。多くの仕事は混在しています。
3. 大学で学ぶことの意味
では、大学で何を学ぶべきか。ここでも、資格や知識の有無だけで考えると危うくなります。
大学で身につくもののうち、持ち運びができるものを意識する価値があります。具体的には次のようなものです。
問いを立てる訓練。何が問題かを自分で定義する作業。卒業論文や研究の過程で鍛えられます。学部や分野を問いません。
証拠を評価する訓練。この主張の根拠は十分か、別の説明は成り立たないか。理系の実験でも、社会科学の調査でも、人文学の文献読解でも、形は違えど同じ作業です。
専門の言葉を持つこと。ある領域について、素人とは違う精度で語れること。これは分野固有のものですが、一つ持つと他の領域を見る目も変わります。
これらは、特定の技術が変化しても価値が下がりにくい部分です。学部選びを「将来性」で決めるより、こうした訓練が積める環境かどうかで見るほうが、判断として安定します。
4. 過去の変化から分かること
技術による仕事の変化は、今回が初めてではありません。過去の例から言えることを整理します。ここでは具体的な統計を挙げず、繰り返し観察されてきた傾向だけを述べます。
傾向1:消えるより、変わることのほうが多い。ある技術が普及したとき、その技術が担った作業は減りますが、周辺に新しい作業が生まれます。職業そのものが消える例より、内容が変わる例のほうが多く観察されます。
傾向2:変化の速度は分野によって大きく違う。同じ時期でも、急速に変わる領域と、ほとんど変わらない領域があります。規制のある分野、身体を伴う分野、信頼の蓄積が必要な分野は、変化が遅くなる傾向があります。
傾向3:新しく生まれる仕事は、事前には名前がない。10年後に多くの人が就いている仕事の中には、今は名前がないものが含まれます。したがって、今ある職業の一覧から選ぶという発想自体に限界があります。
傾向4:変化に対応できたのは、特定の技術に詳しい人ではなく、学び直せる人だった。技術そのものは陳腐化します。陳腐化しないのは、新しいものを学ぶ手順を持っていることです。
この4つから導かれる示唆は、予測に賭けるより、変化に対応できる状態を作るほうが合理的だということです。
5. 学部選びへの具体的な当てはめ
では実際に、学部をどう選ぶか。
第一に、関心の方向を優先します。関心がない分野で4年間続けるのは、想像以上に難しいことです。そして、関心のない分野では深く学べません。浅い理解は、どの時代でも価値が低くなります。
第二に、訓練の質を見ます。その学部で、実際に何をするのか。実験があるのか、論文を書くのか、議論の機会があるのか。シラバスや卒業論文のテーマ一覧を見ると、実態が分かります。
第三に、移動の可能性を見ます。途中で関心が変わったとき、どこまで動けるか。転部や副専攻の制度、他学部の科目の履修可能性。これは入学前には見落とされがちですが、後で効いてきます。
第四に、資格系の学部は別の考え方が要ります。医療、教育、法律などの資格に直結する学部は、進路が絞られるぶん明確です。ここでは「変化への対応」より、その職業を続けたいかどうかの判断が先に来ます。
6. 何が強みになるか
変化の中で強みになりやすい要素を挙げます。これも予測ではなく、構造から言えることです。
二つの領域をまたげること。一つの分野で最上位になるのは難しいことですが、二つの分野をそこそこ知っている人は希少になります。医学と工学、法律と統計、言語と地域研究。組み合わせは無数にあります。
問いを立てられること。答えを出す作業の支援は進みますが、何を問うべきかを決める作業は残ります。ここは訓練で伸びる部分です。
人と組めること。一人で完結する仕事は少なく、多くは他者との連携で進みます。説明する、聞く、調整する。この能力は測りにくいぶん、代替もされにくくなります。
学び直せること。新しい分野に入るときの手順を持っていること。何から読むか、誰に聞くか、どう試すか。この手順は、一度身につけると何度でも使えます。
これらはいずれも、特定の技術に依存しません。だからこそ、進路を決める時点で意識しておく価値があります。
7. 高校生のうちにできること
では、高校生のうちに何をしておけばよいか。
一つの分野を深く見る経験を持つ。何でも構いません。関心のあるテーマについて、本を数冊読み、自分なりの疑問を持ち、それを書いてみる。この経験があると、大学での学び方が分かります。
苦手な分野を切り捨てすぎない。文系だから数学は不要、理系だから文章は不要、という切り分けは、後で制約になります。特に数量的な情報を読む力は、どの分野でも必要になっています。
自分が何に時間を使っているかを記録する。関心は、言葉より行動に表れます。自由な時間に何をしているかを一週間記録すると、自分の傾向が見えます。
大人に話を聞く。実際に働いている人に、仕事の内容を作業の単位で聞いてみる。「何をしている時間が長いか」「どの作業が面白いか」。職業の名前だけでは分からないことが分かります。
8. 総合型選抜との関係
ここまで述べた考え方は、総合型選抜の準備とよく重なります。
総合型選抜では、志望理由書や面接でなぜその分野を学びたいのかが問われます。ここで「将来性があるから」という理由は、あまり評価されません。理由が外部の予測に依存しており、本人の関心が見えないためです。
評価されやすいのは、自分の経験から出発している理由です。何かに疑問を持ち、調べ、それでも解けなかった問いがある。その問いを大学で扱いたい。この形であれば、面接での掘り下げにも答えられます。
つまり、進路を関心から考えることは、受験の戦術としても有利に働きます。本音と建前を分ける必要がないという点で、準備の負担も軽くなります。
逆に、関心が固まっていない段階で総合型選抜に出願すると、志望理由が薄くなります。この場合は、一般選抜を軸にしながら、関心を育てる期間を取るという判断もあり得ます。制度に自分を合わせるのではなく、自分の状態に合う制度を選ぶという順序です。
9. 不安との付き合い方
将来が読めないことへの不安は、当然のものです。ただ、この不安の扱い方によって、判断の質が変わります。
不安が強いとき、人は確実そうに見えるものに引き寄せられます。資格、大企業、安定した職種。これ自体は悪いことではありませんが、不安を減らすための選択は、関心を無視しやすくなります。
実際には、確実に見えるものが確実とは限りません。過去にも、安定と思われた分野が変化した例はあります。逆に、当時は不安定と見られた領域が拡大した例もあります。確実さの見積もりは、あてになりません。
現実的な構えは、不確実であることを前提に、動ける状態を保つことです。一つの道に全てを賭けない。学び直す手順を持っておく。別の分野の人と話せるようにしておく。これらは不安を消しはしませんが、不安があっても動けるようにします。
そして、高校生の段階で完全な答えを出す必要はありません。今の関心から出発して、変わったら修正する。これで十分です。最初から正解を選ぼうとすると、選べなくなります。
10. 保護者の方へ
進路について、家庭でどう関わるか。いくつか申し上げます。
「その学部で食べていけるのか」という問いは、慎重に扱う必要があります。現実的な心配として当然ですが、この問いを早い段階で強く出すと、本人は関心を語らなくなります。関心を語らない状態で決めた進路は、後で続きません。
代わりに有効なのは、その分野で実際に何をするのかを一緒に調べることです。どんな授業があるか、卒業生はどこに進んでいるか、どんな研究があるか。調べる過程で、現実的な検討が自然に入ります。
また、ご自身の世代の常識をそのまま当てはめないことも重要です。学部の名称、就職の仕組み、働き方は、この20年で変わっています。名称が同じでも中身が違う学部もあります。
そして、進路は変えられるということを、本人に伝えていただきたいと思います。一度の選択で決まると思うと、選べなくなります。大学に入ってからでも、卒業してからでも、方向は変えられます。この前提があると、本人は自分の関心に正直になれます。
11. 作業で分解してみる——三つの例
実際に、関心を持たれやすい職業を作業に分解してみます。断定ではなく、考え方の練習として読んでください。
例1:医療職。作業を並べると、情報の収集、検査の実施と読み取り、診断の判断、患者や家族への説明、処置、記録、他職種との調整。このうち読み取りや記録は支援が入りやすい部分です。一方、説明と調整は、相手の理解度や状況に合わせる必要があり、性質が違います。「医師になりたい」で止まらず、この中のどの作業に惹かれているかを考えると、学部選びの精度が上がります。看護、リハビリ、臨床検査など、隣接する職種のどれが合うかも見えてきます。
例2:法律に関わる仕事。条文や判例の検索、事実関係の整理、法的な構成、依頼者との面談、交渉、書面の作成、法廷での活動。検索と整理は支援が進みやすい部分です。一方、どの事実を法的に意味があるものとして拾うかという判断や、依頼者の状況に踏み込む場面は、人が担い続ける領域です。法学部に進むかどうかを考えるとき、この違いを知っておくと、学ぶことの意味が具体的になります。
例3:ものを作る仕事。設計、試作、検証、量産の調整、現場での調整、顧客との要件のすり合わせ。ここでは身体と場所を伴う作業の比重が高く、変化の道筋が他と異なります。同じ「エンジニア」でも、画面の中で完結する領域と、現物に触れる領域では性質が違います。
三つに共通しているのは、職業名では見えなかった違いが、作業に分解すると見えてくるという点です。この作業を自分の関心のある分野でやってみることを勧めます。大学のウェブサイトや、実際に働いている人の話が材料になります。
12. 科目の選択にどう反映するか
高校での科目選択は、進路の幅を実質的に決めます。ここにも考え方を当てはめます。
最も注意したいのが、数学を早い段階で切ることです。文系に進む場合でも、経済学、心理学、社会学、教育学など、数量的な扱いをする分野は多くあります。入試で使わなくても、大学で必要になる場面があります。
同様に、理系に進む場合でも文章を書く訓練は必要です。研究は書くことで完結します。実験ができても、書けなければ伝わりません。
科目選択の場面で「まだ進路が決まっていない」という状態はよくあります。その場合は、選択肢を狭めない側を選ぶのが原則です。あとから足すより、最初から持っているほうが負担は軽くなります。
ただし、負担を無視して全部を抱えると、どれも中途半端になります。切るなら意識的に切る。なんとなく避けた結果として選択肢が消えていた、という状態を避けることが重要です。
13. 「文系は不利か」という問い
技術の話をすると、文系が不利ではないかという質問が出ます。これも問いの立て方を変える必要があります。
文系・理系という区分は、日本の高校・大学の制度上の区分であり、仕事の現場に対応しているわけではありません。実際の仕事の多くは、両方の要素を含みます。技術に関わる仕事にも、要件を言語化し、関係者と合意を作る作業があります。人文・社会系の仕事にも、データを扱う場面があります。
したがって、有利・不利を区分で語ることには無理があります。問題は区分ではなく、片方しか持っていないことです。文系で数量が全く扱えない、理系で書くことが全くできない。この状態が制約になります。
高校生の段階でできるのは、自分が避けている側を、最低限のところまで持っておくことです。得意にする必要はありません。避けなくて済む程度で十分です。
そのうえで、深める側は関心で決めます。関心のない分野を「有利そうだから」という理由で選ぶと、深まりません。そして、深まっていない知識は、どの分野でも価値が低くなります。
14. 最後に
この記事で述べたことを、一つにまとめます。
予測に賭けないこと。どの分野が有望かという予測は当たりません。当たらない予測に進路を合わせると、外れたときに立て直せません。
代わりに、自分の関心から出発し、変化に対応できる状態を作る。関心は自分の中にあるもので、外部の状況に左右されません。そして、学び直せる手順と、領域をまたぐ視野があれば、状況が変わっても動けます。
高校生にとって、進路の決定は重い問いに見えます。しかし実際には、一度きりの決定ではありません。大学に入ってから関心が変わることは普通にありますし、それは失敗ではありません。むしろ、学んだ結果として関心が変わるのは、学びが機能した証拠でもあります。
今の時点で必要なのは、完璧な答えではなく、次の一歩を決められる程度の手がかりです。何に時間を使ってきたか、何を面白いと感じたか。そこから始めれば十分だと考えています。
当塾の立場
当塾は、「この分野が有望だ」という形の進路指導を行いません。予測を提供する立場にないためです。
代わりに行っているのは、本人の関心がどこにあるかを言語化する作業です。何に時間を使ってきたか、何を面白いと感じたか、何に納得がいかなかったか。ここから出発したほうが、外部の予測に合わせるより長続きします。
そのうえで、進路は変えられるということも伝えています。学部を選んだら人生が決まるわけではありません。選択を一度きりの賭けにしないこと。これが、予測が難しい時代の現実的な構えだと考えています。
まとめ
- 「どの職業が残るか」は予測が当たらない。単位を職業から作業へ変える。
- 作業を見る軸は3つ。入出力の明確さ/責任の所在/身体と場所。
- 過去の変化から言えるのは、消えるより中身が入れ替わるということ。
- 大学で得るべきは問いを立てる訓練・証拠を評価する訓練・専門の言葉。
- 学部は「将来性」ではなく、関心・訓練の質・移動の可能性で見る。
- 強みになるのは、領域をまたぐ・問いを立てる・人と組む・学び直せること。
- 不安を消そうとして確実そうなものを選ぶより、動ける状態を保つ。
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