「長文が読めない」は診断名ではない
英語の相談で最も多いのが、長文が読めないという訴えです。しかしこれは症状であって、原因ではありません。同じ「読めない」でも、原因は少なくとも5つに分かれます。原因が違えば対処も違うため、まず切り分けが必要です。
切り分けをせずに「長文問題集を増やす」という対処をすると、多くの場合うまくいきません。単語が足りない生徒に長文を解かせても、知らない語が並んでいるだけで演習になりません。この記事では、原因の見分け方と、それぞれへの対処を整理します。
1. 5つの原因
まず、考えられる原因を並べます。
(1) 語彙が足りない。1文に3語以上知らない語がある状態。これは読解の問題ではなく、語彙の問題です。
(2) 文構造が取れない。単語は分かるのに、文がどこで切れるか、何が主語かが分からない。関係代名詞や分詞、倒置が出ると崩れる。
(3) 速度が足りない。時間をかければ読めるが、試験時間では終わらない。返り読みが多い。
(4) 内容が理解できない。英語としては読めているが、話題そのものが分からない。背景知識の不足。
(5) 設問の処理ができない。本文は分かるのに、選択肢で迷う、答えの根拠を本文から探せない。
この5つは段階になっています。(1)と(2)が土台、(3)がその上、(4)と(5)は別軸です。下の段が崩れていると、上の対策は効きません。
2. 自分の原因を見分ける手順
診断は簡単な手順でできます。時間をかけて構いませんので、実際にやってみてください。
手順1。解き終わった長文を、辞書なしで、時間無制限でもう一度読みます。これで内容が取れるなら、原因は(3)の速度です。取れないなら次へ。
手順2。同じ長文を、辞書を引きながら読みます。これで内容が取れるなら、原因は(1)の語彙です。取れないなら次へ。
手順3。日本語訳を見ます。訳を読めば内容が分かるなら、原因は(2)の文構造です。訳を読んでも内容が頭に入らないなら、原因は(4)の背景知識です。
手順4。内容は取れているのに正答率が低いなら、原因は(5)の設問処理です。
この4手順で、ほとんどの場合は原因が特定できます。複数が同時に該当することもありますが、その場合は下の段から手をつけます。
3. 語彙が原因のとき
語彙が原因の場合、長文演習の量を増やしても効果は薄くなります。単語帳を1冊決めて、回転数を上げるのが基本です。
ここで重要なのは、どの単語帳を選ぶかより、1冊を終えるかどうかです。複数冊に手を出して、どれも半分で止まっている状態が最も効率が悪くなります。
また、目標とする語彙数を把握しておきます。共通テストレベルと難関私大レベルでは要求が違い、必要な冊数も変わります。志望校の過去問を1年分眺めて、知らない語の密度を確認すると、現在地が見えます。
語彙が原因の場合、改善には時間がかかります。ただし、他のどの原因より、努力と結果が対応しやすい領域でもあります。ここで止まっている生徒には、まずここに集中するよう伝えます。
4. 文構造が原因のとき
文構造が取れない場合、単語を増やしても読めるようにはなりません。文法の学習に戻る必要があります。
ただし、文法問題集を解くことと、文構造を取れるようになることは別です。四択の文法問題が解けても、長文の一文を分解できないことはよくあります。必要なのは、英文を見て、主語・動詞・目的語を特定し、修飾関係を図示できるという作業です。
訓練の方法として、1日に3文から5文、実際に区切りを書き込みながら分解する練習があります。量は少なくて構いません。ただし、頭の中でやるのではなく、手を動かして書くことが重要です。書くと、自分がどこで曖昧にしているかが見えます。
崩れやすいのは決まった箇所です。関係代名詞の省略、分詞構文、同格のthat、長い主語、挿入句。この5つを集中的に扱うだけで、読める文はかなり増えます。
5. 速度が原因のとき
時間をかければ読めるのに、試験時間で終わらない。このタイプが、高校生では最も多くなります。
速度が出ない主因は返り読みです。英語を日本語の語順に組み替えながら読むため、一文を2回も3回も往復することになります。日本語として自然な訳を作ろうとするほど、この往復は増えます。
対処は、語順のまま前から理解する練習です。意味のまとまりで区切りながら、戻らずに進む。最初は理解が粗くなりますが、粗いまま最後まで行くほうが、精密に往復するより速く、しかも全体像は取れます。
具体的な方法として、すでに内容を理解した英文を、区切りながら音読するのが有効です。未知の英文で練習すると、内容理解に意識が取られて語順の訓練になりません。一度精読した文を素材にして、前から処理する感覚だけを身につけます。
もう一つの原因は、すべての文を同じ速度で読んでいることです。説明文には、要点の文と、それを支える例示の文があります。例示の部分は速度を上げて通せます。段落の最初の文を意識して読み、そこで述べられた主張の具体例が続くと分かれば、その部分は流せます。この強弱がつくだけで、体感の時間は変わります。
また、時間を測らずに演習していると、速度は上がりません。1問ごとに制限時間を決め、時間内に終わらなくてもそこで区切る。終わらなかった箇所を確認すれば、どこで時間を失っているかが分かります。
6. 背景知識が原因のとき
英語としては読めているのに、内容が頭に残らない。この場合、原因は英語ではありません。
入試の長文で扱われる話題には、一定の傾向があります。環境、科学技術、言語と文化、教育、医療、経済、人工知能。これらは現代文や小論文で扱われるテーマと重なります。日本語でその話題の基本的な議論を知っていれば、英語で読んでも予測が立ちます。
予測が立つと、読解は大きく楽になります。次に何が来るかが想像できるため、多少語が分からなくても補完できるためです。逆に、話題を知らないと、すべての文を等しく丁寧に読まざるを得ません。
対処として、入試頻出テーマの日本語での概説を読むことを勧めます。新書1冊を通読する必要はありません。テーマごとに、対立する二つの立場と、それぞれの根拠を押さえる程度で十分です。この作業は小論文の準備と重なるため、二重に効きます。
この原因は、本人が気づきにくいという特徴があります。「英語が読めない」と思い込んでいるため、日本語の知識を増やすという発想が出てきません。診断の手順3で、日本語訳を読んでも内容が入らないことを確認すると、本人も納得しやすくなります。
7. 設問処理が原因のとき
本文は理解できているのに、正答率が上がらない。この場合は、解き方の問題です。
最も多いのが、本文に根拠を求めず、内容から推測して答えているケースです。選択肢を読んで「だいたい合っていそう」で選ぶと、本文に書かれていない内容や、言い過ぎの選択肢を選んでしまいます。
対処は単純で、選んだ根拠の行を必ず特定することです。答え合わせのときに、正解の根拠が本文の何行目にあるかを書き出します。これを繰り返すと、根拠なしで選ぶ癖が消えます。
もう一つは、選択肢の作られ方を知らないことです。誤りの選択肢には型があります。本文にない内容を足す、程度を強める、因果を逆にする、一部だけ正しく残りが誤り。この型を意識すると、消去の精度が上がります。
特に注意したいのが、「本文の内容として正しいもの」と「筆者の主張として正しいもの」の違いです。本文に書かれていても、筆者が否定している内容であれば、主張としては誤りになります。設問が何を聞いているかを読み違えると、内容が分かっていても落とします。
8. 複数該当するときの順序
実際には、複数の原因が同時に該当することがよくあります。その場合の優先順位を示します。
最優先は語彙です。語彙が足りない状態では、他のどの訓練も効率が落ちます。文構造の練習をしようにも、単語が分からなければ分解のしようがありません。
次が文構造です。ここまでが土台であり、この二つが整うと、読解は一段安定します。
速度はその後です。読めない文が速くなることはありません。読める文が増えてから、速度に取り組みます。
背景知識と設問処理は並行で構いません。この二つは土台に依存しないため、いつからでも始められます。むしろ、語彙や文構造に取り組んでいる時期に、日本語でテーマを読む時間を作っておくと、後で効いてきます。
9. 誤解されやすい対処法
長文対策として広く言われている方法のうち、条件つきでしか効かないものを挙げます。
「多読すれば読めるようになる」。これは正しい面がありますが、条件があります。多読が効くのは、ほとんどの語が分かる文章を大量に読む場合です。知らない語が多い文章をたくさん読んでも、推測の練習にはなっても語彙は増えません。自分のレベルより少し易しい素材を選ぶ必要があります。
「速読のテクニックを身につける」。スキャニングやスキミングといった技法は、読める文があって初めて機能します。読めない文を飛ばす技術ではありません。土台がない段階で技法だけを導入すると、根拠なく答える癖がつきます。
「音読すれば伸びる」。音読は有効ですが、意味が分かっている文を読む場合に限ります。意味の分からない文を声に出しても、音の練習にしかなりません。精読したあとの復習として使うのが本来の位置づけです。
「単語は文脈で覚えればいい」。文脈で覚えるほうが定着しますが、それだけでは量が足りません。入試で必要な語彙数を文脈だけで揃えるには、読む量が現実的でなくなります。単語帳と読解の併用が現実解です。
10. 1週間の組み立て方
診断が終わったら、週単位で作業を割り当てます。原因別に例を示します。
語彙が原因の場合。毎日20分を語彙に固定。長文は週2本程度に抑え、演習ではなく素材として使います。読んだ文章の中で単語帳の語に再会することが目的です。
文構造が原因の場合。毎日5文の構造分解を書いて行います。時間にして15分程度。並行して、文法の該当単元を確認します。長文は週1〜2本。
速度が原因の場合。時間を測った演習を週3回。加えて、精読済みの文章の音読を毎日10分。この組み合わせが効きます。
背景知識が原因の場合。週に1テーマ、日本語で概説を読みます。15分程度で構いません。読んだ内容を3行でまとめておくと、小論文の材料にもなります。
設問処理が原因の場合。演習の本数は増やさず、復習の密度を上げます。1本あたり、全設問の根拠行を特定する作業に30分かけます。
いずれの場合も、週の終わりに何が変わったかを確認します。変化が見えない週が3週続くなら、診断が間違っている可能性があります。原因の切り分けに戻ります。
11. どのくらいで変わるか
改善までの期間は、原因によって大きく違います。ここを誤解すると、効果が出る前にやめてしまいます。
設問処理は最も速く変わります。根拠を特定する習慣がつけば、2〜3週間で正答率が動くことがあります。投下時間に対する効果が大きい領域です。
速度も比較的速く変わります。返り読みが減るまで1〜2か月。ただし、意識しなくなると戻りやすいため、継続が必要です。
文構造は中期です。3か月程度を見ます。分解の作業が自動化されるまで時間がかかります。
語彙と背景知識は長期です。半年から1年。ただし、この二つは一度積み上がると落ちにくく、他の科目にも波及します。
この時間差を知っておくと、計画が立てやすくなります。高3の秋に語彙から始めるのは、間に合わない可能性が高い。逆に、高1・高2のうちに語彙と文構造を終えておけば、高3では速度と設問処理に集中できます。
12. 保護者の方へ
お子さんが「英語が読めない」と言うとき、まず聞いていただきたいのは「どこで詰まっているか」です。単語なのか、文の構造なのか、時間なのか。本人も分かっていないことが多いため、一緒に切り分ける会話自体が役に立ちます。
模試の結果を見るときも、総合点だけでなく大問ごとの正答率と、時間内に到達したかどうかを確認します。最後の大問が白紙なら速度の問題であり、全体が均等に落ちているなら土台の問題です。同じ偏差値でも、中身は別物です。
また、教材を増やすことが解決になるとは限りません。原因が語彙であれば、新しい長文問題集を買っても状況は変わりません。手持ちの単語帳を終えるほうが効きます。買うより、終えるという判断のほうが、多くの場合は正解です。
13. よくある組み合わせと処方
現場で頻繁に見る組み合わせを、具体的に挙げます。自分に近いものがあれば、そこを出発点にしてください。
「模試の前半は取れるが、後半が白紙」。速度の問題です。ただし、その裏に文構造の甘さが隠れていることが多くあります。前半が取れているのは設問が易しいためで、一文あたりの処理は遅いままという状態です。速度の練習だけでは頭打ちになるため、構造分解を並行します。
「単語帳は終えたのに読めない」。語彙を訳語だけで覚えている場合に起きます。単語単体では答えられても、文中の形(派生語、句動詞、比喩的な用法)で出ると反応できません。単語帳の例文に戻る、あるいは読解で出会った語を単語帳に書き戻す作業が効きます。
「和訳はできるのに内容一致で外す」。設問処理の問題です。一文ずつは訳せても、文章全体で筆者が何を言いたいかを掴んでいない。段落ごとに一行で要約を書く練習が効きます。
「授業では読めるのに、自分で解くと読めない」。解説を聞いて分かることと、自分で構造を取れることの差です。授業の予習段階で分解を済ませ、授業では答え合わせに使う、という順序に変えます。
「共通テスト型は取れるが私大の長文で崩れる」。語彙と背景知識の問題です。共通テスト型は情報検索の性格が強く、難関私大の評論的な文章とは要求が違います。テーマ知識と抽象語彙を足す必要があります。
14. 記録の取り方
診断も改善も、記録がないと判断できません。ただし、複雑な記録は続きません。
長文を1本解いたら、次の4つだけを残します。かかった時間、正答数、間違えた設問の原因区分、知らなかった語の数。原因区分は、この記事の5分類のどれかを書くだけで構いません。
これを10本分ためると、傾向が見えます。原因区分が語彙に偏っているなら語彙へ、設問処理に偏っているなら復習の仕方へ、というように、次の一手が決まります。
感覚で「今日は調子が悪かった」と処理してしまうと、何も積み上がりません。調子ではなく原因で記録することが、遠回りに見えて近道になります。
15. 診断を間違えたときのサイン
最後に、切り分けが間違っていた場合に出るサインを挙げておきます。
取り組みを3週間続けて、体感も数値もまったく動かない場合は、診断が外れている可能性があります。特に多いのが、速度の問題だと思っていたら語彙だった、というパターンです。時間無制限で読めているつもりが、実は知らない語を無意識に飛ばして文脈で補っていた、という状態です。
この場合、もう一度手順2に戻り、辞書を引きながら読んだときに理解が変わるかを確かめます。辞書ありで明確に理解が良くなるなら、語彙が原因です。
逆に、対策が当たっているときは、点数より先に体感が変わります。「戻らずに読めた文が増えた」「知らない語があっても止まらなくなった」といった変化が、数値に出る1〜2か月前に現れます。この体感の変化を、改善の指標として扱って構いません。
16. 塾や先生への相談の仕方
診断を自分だけで行うのが難しい場合、人に見てもらうのが早道です。その際、相談の仕方によって得られるものが変わります。
「英語が苦手です」とだけ伝えると、一般的な助言しか返ってきません。代わりに、この記事の手順1から4をやった結果を持っていくと、話が具体的になります。「時間無制限なら読めます」「辞書を引けば読めます」「訳を読んでも内容が入りません」——どれに当てはまるかを言えるだけで、相手の助言は変わります。
あわせて、実際に解いた答案を持参します。どこに線を引いたか、どの選択肢で迷ったかが見えると、診断の精度が上がります。きれいに解き直したものではなく、迷った跡が残っている答案のほうが情報量があります。
相談の頻度も重要です。一度助言をもらって終わりにせず、2〜3週間後に経過を報告すると、診断が当たっていたかを確認できます。当たっていなければ、そこで方針を修正できます。
なお、「この参考書をやればいい」という形の助言だけが返ってくる場合は、診断が飛ばされている可能性があります。なぜその教材なのかを聞いてみてください。原因に対応した理由が返ってくるなら信頼できますし、返ってこないなら、もう一度症状を具体的に伝え直す価値があります。
当塾の立場
当塾では、長文が読めないという相談を受けたとき、まず原因の切り分けから始めます。いきなり長文の演習量を増やすことはしません。
その理由は、原因が違えば必要な作業が違うからです。語彙が原因の生徒に長文を解かせても、時間だけが過ぎます。文構造が原因の生徒に速読を教えても、速く読めない文が速くなるだけです。
また、「英語が苦手」という言葉をそのまま受け取らないようにしています。苦手意識と実際の弱点は一致しないことが多く、本人が語彙のせいだと思っていた原因が文構造だった、という例はよくあります。診断は本人の自己申告ではなく、実際に読ませて確かめます。
まとめ
- 「長文が読めない」は症状。原因は語彙・文構造・速度・背景知識・設問処理の5つに分かれる。
- 診断は4手順。時間無制限 → 辞書あり → 訳を読む → 正答率の順で切り分ける。
- 複数該当するときは下の段(語彙・文構造)から手をつける。
- 速読も音読も多読も、土台があって初めて効く。
- 改善までの期間は原因ごとに違う。設問処理は数週間、語彙は半年以上。
- 記録するのは時間・正答数・原因区分・未知語数の4つだけ。
- 3週間動かなければ、診断そのものを疑う。
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