リサーチクエスチョンの立て方——調べれば答えが出る問いは問いではない

調べれば答えが出る問いは、問いではない

総合型選抜の志望理由書では、多くの大学が「何を学びたいか」を問います。ここで求められているのは学部の説明ではなく、自分が解きたい問いです。この問いを、研究の世界ではリサーチクエスチョンと呼びます。

受験生が書く問いには、はっきりした型の失敗があります。もっとも多いのが、調べれば答えが出てしまう問いです。「日本の子どもの貧困率はどれくらいか」は、統計を見れば終わります。これは問いではなく、調べ物です。

この記事では、使える問いと使えない問いの違い、そして問いを絞る具体的な手順を整理します。

1. 使えない問いの4つの型

なぜ使えないか
調べ物型 日本の待機児童は何人か 検索で終わる。考える余地がない
大きすぎ型 教育格差をどうすればなくせるか 一生かけても終わらない。検証できない
賛否型 ゲームは子どもに悪影響か 条件を決めないと答えが定まらない
願望型 どうすれば全員が幸せになれるか 問いの形をした願望。反証できない

このうち大きすぎ型がもっとも多いと感じます。関心が大きいこと自体は悪くありません。問題は、大きいまま書類に書いてしまうことです。大きい問いは、読み手からは「まだ何も調べていない」ように見えます。

2. 使える問いの条件

逆に、使える問いには共通点があります。

  • 答えが1つに決まらない。立場や条件によって答えが変わる余地がある。
  • 調べる方法が想像できる。誰に聞くか、何を数えるか、何を比べるかが思い浮かぶ。
  • 答えが出たら、何かが変わる。分かっても何も変わらない問いは、問う意味が弱い。
  • 自分がその問いを持った理由を説明できる。借り物の問いは面接で崩れる。

2つ目が特に重要です。調べ方が思い浮かばない問いは、まだ大きすぎます。「どうやって調べるか想像できますか」と自問すると、絞るべきかどうかが分かります。

3. 問いを絞る4つの条件

大きい問いを使える大きさにするには、条件を足していきます。足す条件は次の4種類です。

条件 足す内容 例(元:教育格差をなくすには)
対象 誰のことか 中学生の
場所 どこのことか 公立中学校における
時期 いつのことか コロナ後の
比較 何と比べるか 学習塾に通う生徒と通わない生徒で

4つ足すと「コロナ後の公立中学校において、学習塾に通う中学生と通わない中学生では、家庭学習の時間の使い方にどのような違いがあるか」になります。まだ大きいかもしれませんが、調べ方が想像できる大きさにはなりました。

高校生の段階では、4つすべてを足す必要はありません。2つ足せば、かなり変わります。

4. 問いの動詞を選ぶ

問いの形は、使う動詞によって性質が変わります。どの動詞を選ぶかで、必要な調べ方も変わります。

動詞 問いの型 必要になるもの
どうなっているか 記述 観察・調査。まず実態を知る段階
なぜそうなるのか 説明 複数の説明を比べる。因果を主張するなら他の説明を排除する根拠
どう違うのか 比較 比べる軸を決める。条件を揃える
どうすればよいか 提案 先に記述と説明が要る。いきなり提案には行けない

受験生が書きたがるのは「どうすればよいか」です。しかし提案の問いは、実態と原因が分かっていて初めて立てられます。高校生の段階では、「どうなっているか」「なぜそうなるのか」から入るほうが、無理がありません。

5. 問いを立てる手順

実際の作業は、次の順で進めます。

手順 やること 目安
1 関心のあることを1文で書く(大きくてよい) 10分
2 その分野の入門書を1冊読む。専門用語を5つ拾う 数日
3 拾った用語で検索し、すでに分かっていることを確認する 数日
4 「分かっていないこと」を書き出す 30分
5 対象・場所・時期・比較の条件を足して絞る 30分
6 動詞を決める(記述か、説明か、比較か) 10分
7 「どう調べるか」を3行で書いてみる 20分

7で書けなければ、5に戻ってさらに絞ります。調べ方が書けるまで絞る——これが唯一の基準です。

6. 「まだ分かっていないこと」をどう見つけるか

手順4がもっとも難しい部分です。高校生が本格的な先行研究の調査をするのは現実的ではありません。それでも、次の方法でかなり見つかります。

  • 入門書の「今後の課題」を読む。章末や終章に、何が分かっていないかが書かれていることが多い。
  • 総説・レビューを探す。ある分野をまとめた文章には、対立する見解や未解決の点が整理されている。
  • data の欠落に注目する。「日本ではデータがない」と書かれていたら、そこが空白。
  • 自分の観察と本の記述がずれる箇所を探す。本には当てはまると書いてあるが、自分の周りでは違う。そのずれが問いになる。

4つ目は高校生に向いています。身近な観察と一般的な記述のずれは、実際に研究の出発点になるものです。

7. 志望理由書での書き方

問いが決まったら、書類では次の順に置きます。

  • 問いを1文で示す。条件を含んだ形で。
  • なぜその問いを持ったか。原体験と、そこで崩れた前提。
  • 自分で調べた範囲。読んだもの、分かったこと。
  • どこで行き詰まったか。方法が分からない、データがない、概念が整理できない。
  • 大学の何が必要か。その学部・学科・教員の何が、行き詰まりを解くのに必要か。

4つ目を飛ばすと、志望理由が「興味があります」で終わります。行き詰まりこそが、大学に行く理由です。

8. 絞り込みの実例——大きい問いを3つ絞る

実際に大きい問いを絞ると、どう変わるかを3つ示します。左が最初に受験生が書いてくる形、右が条件を足したあとです。

例1:環境問題に関心がある

段階 問い 状態
最初 環境問題をどう解決すべきか 大きすぎ。調べ方が想像できない
対象を足す 高校生は環境問題にどう関わっているか まだ広い。何を見ればよいか不明
場所と比較を足す 制服のリユース制度がある高校とない高校で、生徒の意識に違いはあるか 調べ方が想像できる(アンケート・比較)
動詞を決める 違いは「ある/ない」ではなく「どう違うか」を見る 比較の問いとして成立

最後の形は、環境問題の全体からは小さく見えます。しかし小さいから価値が下がるわけではありません。むしろ、実際に手を動かせる大きさまで降りてきたことが評価されます。

例2:教育格差に関心がある

段階 問い 状態
最初 教育格差をなくすには 提案の問い。実態も原因も未確認
動詞を変える 教育格差はどこで生まれているか 説明の問いへ。まだ広い
対象と時期を足す 中学生の家庭学習時間は、何によって差がつくか 調べる対象が定まった
比較を足す 部活動の活動時間の長短で、家庭学習の時間配分にどう違いが出るか 比較軸が明確。データも取れる

「なくすには」から「どこで生まれているか」へ動詞を変えたことが効いています。提案から記述・説明へ降ろすと、一気に扱えるようになります。

例3:AIに関心がある

段階 問い 状態
最初 AIは人間の仕事を奪うか 賛否型。条件次第で答えが変わる
対象を足す 高校生の学習において、生成AIはどう使われているか 記述の問いへ
比較を足す 生成AIを使う生徒と使わない生徒で、課題への取り組み方にどう違いが出るか 観察・聞き取りが可能
さらに絞る 英作文の課題に限って、下書きの作り方にどう違いが出るか 教科と場面が限定され、扱いやすい

3例に共通するのは、絞るほど問いが具体的になり、同時に「自分にしか書けない」形に近づくことです。大きい問いは誰でも書けますが、絞った問いは自分の観察がないと書けません。

9. 問いを持ち続けるための記録

問いは一度立てて終わりではありません。出願までの数か月、関心が続いていることを示せると強くなります。面接で「その後どうしましたか」と聞かれるからです。

大掛かりな記録は要りません。次の3項目を、1回あたり5行で残すだけで十分です。

項目 書くこと
日付と情報源 いつ、何を読んだか・誰に聞いたか
分かったこと 1行。分かった気になったことは書かない
新しく分からなくなったこと 1〜2行。ここが次につながる

3つ目を必ず書いてください。調べるほど分からないことが増えるのが正常です。この記録があると、面接で「調べるうちに問いがこう変わった」と話せます。問いが変わったこと自体は、むしろ良い材料になります。

10. よくある失敗

失敗 どう直すか
問いが途中で変わる 1文に固定し、全体をそれに合わせて書き直す
問いと志望学部が噛み合わない 問いを扱う学問領域を調べ直す。学部名ではなく研究内容で見る
用語を借りただけで説明できない 使う専門用語は、自分の言葉で30字で説明できるものに限る
問いが自分と無関係に見える 原体験との接続を1文足す
解決策まで書いてしまう 高校段階で答えを出す必要はない。問いの質で評価される

最後の点は誤解が多いところです。志望理由書は、答えを出す文章ではありません。これから解くに値する問いを持っていることを示す文章です。

11. 分野によって問いの立て方は変わる

同じ手順でも、志望分野によって重心が変わります。系統ごとの違いを整理します。

系統 問いの重心 よくある失敗
人文 概念の意味を問う。「〜とは何か」が成立する 感想と問いの区別がつかない
社会科学 関係を問う。「AとBはどう関係するか」 提案から入ってしまう
理工・情報 仕組みと条件を問う。「どういう条件でどう動くか」 作りたい物の話で終わる
医療・看護 実践上の判断を問う。「どういう場合にどう関わるか」 「役に立ちたい」で止まる
教育・心理 要因と効果を問う。「何が何に影響するか」 自分の経験を一般化する

人文系だけ「〜とは何か」という問いが成立する点に注意してください。社会科学で「幸福とは何か」と問うと、扱いにくい問いになります。同じ言葉でも、分野によって問いとして機能するかどうかが違います。

自分の問いがどの系統のものか分からないときは、その問いを扱っている本がどの棚にあるかを見てください。書店や図書館の分類は、学問の分類をおおむね反映しています。

12. 専門用語をどこまで使うか

調べていくと専門用語に出会います。書類に入れるかどうかの基準を示します。

  • 自分の言葉で30字で説明できる用語だけ使う。説明できない用語は、面接で必ず聞かれます。
  • 1つの書類で使うのは2〜3語まで。多いと、借りてきた印象になります。
  • 用語を使う目的は、問いを正確にすること。難しく見せるためではありません。
  • 定義が複数ある用語は、どの定義を使うか書く。「本稿では〜の意味で用いる」と一言添えます。

4つ目は高校生には難しく感じるかもしれませんが、逆に言えばここができると一段上に見えます。「格差」「共生」「多様性」のような語は定義が幅広く、書き手が何を指しているか不明なまま議論が進みがちです。一言で範囲を限るだけで、論が締まります。

13. 問いが変わってもよい

調べ進めるうちに、最初の問いが成立しないと分かることがあります。すでに答えが出ていた、前提が誤っていた、そもそも測れない。これは失敗ではありません。

むしろ問いが変わった経緯は、面接で最も話しやすい材料です。次の形で整理しておきます。

項目 書くこと
最初の問い どういう問いから始めたか
調べて分かったこと 何を読み、何が分かったか
なぜ成立しなくなったか 前提の誤り、既出、測定不能など
今の問い どう立て直したか

この4点が話せると、「調べた結果として問いが変わった」ことが伝わります。最初から完成した問いを持っている高校生より、変化を説明できる高校生のほうが自然です。

ただし、出願の直前に問いを変えるのは避けてください。書類全体を組み直す時間が要ります。変えるなら、書類作成に入る前です。

14. 提出前の自己点検

書き上げたあと、次の8項目を確認してください。1つでも「いいえ」があれば、そこが弱点です。

点検項目 確認の仕方
問いが1文で書けているか 書類から問いの1文を抜き出せるか試す
条件が2つ以上入っているか 対象・場所・時期・比較のどれが入っているか数える
調べ方が想像できるか 「どう調べるか」を3行で書けるか
動詞が明確か 記述・説明・比較・提案のどれかを自覚しているか
行き詰まりが書かれているか 「〜が分からなかった」に当たる記述があるか
大学固有の理由があるか 他大学に置き換えても成立する文になっていないか
用語を説明できるか 使った専門用語を30字で説明してみる
断定しすぎていないか 「必ず」「絶対」「〜である」を数える

6つ目が特に重要です。大学名を別の大学に差し替えても意味が通る志望理由書は、志望理由になっていません。その大学の研究内容、カリキュラム、教員の専門のどれかに触れる必要があります。

15. 入門書の選び方と読み方

手順2の「入門書を1冊読む」は、実際にやろうとすると迷う部分です。選び方と読み方を具体化します。

選び方

  • 新書から入る。専門書は前提知識を求めます。新書は分野の見取り図を示すために書かれており、高校生でも読み通せます。
  • 著者が研究者であるものを選ぶ。肩書きを確認します。ジャーナリストの本は読みやすい一方、分野の全体像より個別の事例に寄りがちです。
  • 刊行年を見る。制度やデータを扱う分野では、10年前の本は前提が変わっていることがあります。
  • 目次で選ぶ。目次がその分野の論点の一覧になっています。目次を読んで「どれも知らない」なら、それが読むべき本です。

読み方

読むところ 取り出すもの
1 目次 この分野にどんな論点があるか
2 序章 著者が何を問題だと考えているか
3 終章 何が分かっていて、何が未解決か
4 興味のある章だけ 専門用語と、根拠になっているデータ
5 参考文献 次に読むもの。繰り返し出てくる文献が基本文献

最初から通読する必要はありません。3の終章を早めに読むことを勧めます。未解決の問題がそこに書かれていることが多く、問いを立てる材料が直接手に入るからです。

読み終えたら、次の3つを1枚にまとめてください。専門用語5つとその説明、分かったこと3行、分からなくなったこと3行。これが志望理由書の「調べたこと」の原料になります。

16. データを扱うときの最低限

問いによっては、統計データを参照することになります。高校生が扱ううえでの最低限を挙げます。

確認項目 なぜ必要か
出典 官公庁か、学会か、企業の調査か。企業調査は目的が販売促進のことがある
調査年 何年のデータか。コロナ前後で断絶している分野が多い
対象と人数 誰に何人聞いたか。少数だと傾向とは言えない
質問文 どう聞いたか。聞き方で答えは変わる
実数か割合か 割合が増えても実数は減っていることがある

このうち質問文の確認を飛ばす人が多いものです。「満足していますか」と「不満はありますか」では、同じ対象でも結果が変わります。調査報告書の巻末に質問票が載っていることが多いので、一度は見ておいてください。

データが見つからない場合、それ自体が書く材料になります。「この点については公開されたデータが見当たらなかった」と書けば、調べた事実と行き詰まりの両方を示せます。無いものを無いと書けることは、弱さではありません。

17. 問いをめぐるよくある誤解

誤解 実際
誰も研究していない問いでなければならない 高校生に新規性は求められていない。自分の観察から立てたことが重要
社会的に重要な問いでなければならない 重要さより、検証できる形になっているかが見られる
大学の研究テーマに合わせるべきだ 合わせすぎると借り物になる。接点があれば足りる
問いは1つに絞らなければならない 書類では1つに絞るが、頭の中に複数あってよい
答えの見通しが立っていないと書けない 見通しは不要。むしろ答えが見えている問いは弱い

最後の項目は、ここまでの話とつながります。答えが見えている問いは、調べれば答えが出る問いに近いからです。分からないまま出願することに不安を覚えるかもしれませんが、分からないから大学に行くのだと考えてください。

当塾の立場

当塾は総合型選抜の指導を行っています。その前提でお読みください。

そのうえで、問いを講師が与えることはしません。与えられた問いは、面接で「なぜその問いなのか」と聞かれたときに答えられないからです。入門書の選び方、用語の拾い方、条件の足し方といった手順は示しますが、問い自体は本人が立てるものだと考えています。

また、高校生に学術的に新規な問いを求めることもしません。すでに研究されている問いであっても、自分の観察から立てた問いであれば、そこに至る過程が評価されます。新規性を求めて背伸びすると、借り物の問いになりがちです。

まとめ

  1. 調べれば答えが出る問いは問いではない。最多の失敗は「大きすぎ型」。
  2. 使える問いの条件は、答えが1つに決まらない・調べ方が想像できること。
  3. 絞るには対象・場所・時期・比較を足す。2つ足すだけでも変わる。
  4. 動詞で性質が変わる。高校生は「どうなっているか」「なぜそうなるのか」から入る。
  5. 「分かっていないこと」は身近な観察と本の記述のずれから見つかる。
  6. 書類では行き詰まりを書く。それが大学に行く理由になる。
  7. 答えを出す必要はない。問いの質で評価される。

選考内容・評価方法は大学ごとに異なり、毎年変更されます。実際の出願にあたっては志望校の最新の募集要項をご確認ください。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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