生成AIを受験勉強にどう使うか——効く使い方と害になる使い方

生成AIを受験勉強にどう使うか

生成AIについて、教育の現場では両極端な意見が飛び交っています。「使えば楽になる」という主張と、「使うと学力がつかない」という主張です。

実際に使ってみると、どちらも部分的に正しく、どちらも不十分だと分かります。作業によって、効く場面とかえって害になる場面がはっきり分かれるからです。

この記事では、その線引きを具体的に書きます。

1. まず、どこまでできるのか

現在の生成AIは、大学入試レベルの多くの問題に対応できます。数学の難問、現代文の読解、英語の長文、法律系の論述——いずれも一定以上の水準の答えを返します。

したがって、「AIには解けないから安心」という前提は成り立ちません。問題は、AIが解けることではなく、AIが解けるときに人間が何を学ぶべきかです。

一方で、次の点には注意が要ります。

  • 事実関係を誤ることがある——存在しない文献や、誤った制度の説明を、自信のある文体で出します。
  • 最新の制度に追いつかない場合がある——入試制度は毎年変わります。
  • 個別大学の要項までは正確でない——必ず一次情報を確認する必要があります。

出力を検証せずに使うのが、最も危険な使い方です。

2. 効く使い方

(1) 分からない箇所の説明を求める

参考書の説明が理解できないとき、別の説明のしかたを求めるのは有効です。「なぜそうなるのか」を何度でも聞けるのは、独学では得にくい環境です。

ただし条件があります。説明を読んだ後、自分で解き直すこと。読んで納得しただけでは、再現できません。

(2) 自分の答案を評価させる

小論文や記述の答案を入力し、「この答案の弱点は」と聞く使い方です。添削者が常時いない環境では、これはかなり有効です。

さらに効くのは、「この主張に対する最も強い反論は」と聞くことです。自分では思いつかない角度が出てきます。それに応える練習をすれば、小論文の再反論が強くなります。

(3) 調べ物の入口にする

知らない分野について、何を調べればよいかの見当をつける用途です。ただし、出てきた情報は必ず一次資料で確認します。入口としては優秀で、根拠としては使えません。

(4) 問題を作らせる

「この単元の類題を10問」といった使い方です。演習量を増やす目的なら機能します。ただし、既存の問題集のほうが質は安定します。

(5) 暗記の確認相手にする

覚えた内容を説明し、間違いを指摘してもらう使い方です。説明できるかどうかが定着の指標なので、この用途は理にかなっています。

3. かえって害になる使い方

(1) 答えを写す

言うまでもありませんが、宿題や課題の答えを出させて写す使い方です。作業は終わりますが、何も残りません。

そして、これは検出されるかどうかの問題ではありません。テストで自分の力が問われたときに、そこに何もないという結果になります。

(2) 志望理由書を丸ごと書かせる

面接が必須化される流れの中で、これは実務的に危険です。自分で説明できない文章を提出することになります。深掘りされれば止まります。

(3) 考える工程を飛ばす

最も見えにくい害がこれです。分からない問題に対して、考える前に聞いてしまう。

学力がつくのは、分からない状態にとどまって考えている時間です。そこを飛ばすと、理解した気にはなりますが、初見の問題に対応する力は育ちません。

対処は単純で、時間を決めることです。「10分考えてから聞く」と決めておく。この10分が、実際の学力を作ります。

(4) 出力をそのまま信じる

制度・要項・統計・文献——これらをAIの回答だけで確定させるのは危険です。誤っていても、文体は自信ありげです。

4. 現代文とAI——講師は不要になるのか

AIが現代文の問題を高い精度で解くことから、「現代文の勉強は不要になる」という議論があります。ここは分けて考える必要があります。

AIが解けることと、試験会場で自分が解けることは別です。入試は依然として、その場で自力で処理する能力を測っています。

そのうえで、AIが解けるという事実には別の意味があります。読解には再現可能な手順があるということです。センスではなく手順だからAIが処理できる。ならば、人間もその手順を学べます。

実際、AIに「なぜその選択肢を選んだのか、本文の根拠を示して」と問うと、手順が言語化されて出てきます。これは学習材料として使えます。

5. AIを使うと思考力が落ちるのか

この論点についても、極端な断定は避けるべきです。分かっているのは、使い方によって結果が分かれるということです。

使い方 起きること
考える前に答えを得る 考える時間が消える。負荷がかからない。
自分の答えを出してから検討させる 自分の考えとの差分を検討する負荷がかかる。
反論を出させて応える 思考の負荷はむしろ増える。
要約させて読む 原文を読む負荷が消える。
自分で要約してから比較する 要約力の確認になる。

共通しているのは、「自分が先に出す」工程があるかどうかです。先に出してから使えば負荷は残り、先に聞けば負荷は消えます。

これは道具一般に言えることでもあります。電卓が計算力を奪うかどうかは、筆算を身につける前に使うかどうかで変わります。

6. 家庭で決めておくとよいルール

  1. 先に自分でやる——時間を決めて考えてから使う。
  2. 答えではなく説明を求める——「答えは」ではなく「なぜそうなるか」。
  3. 出力は一次資料で確認する——特に制度・数値・文献。
  4. 提出物には自分の言葉で——説明できないものは出さない。
  5. 使った記録を残す——何をどう聞いたかを残すと、自分の弱点が見えます。

5番目は意外に有効です。何度も同じことを聞いているなら、そこが定着していない箇所です。記録が学習の診断になります。

当塾の立場

当塾では、生成AIの使用を禁止していません。禁止しても使われますし、使い方を教えないほうが害が大きいと考えているためです。

伝えているのは上記のルール、とくに「先に自分でやる」の一点です。授業でも、生徒が詰まったときにすぐ答えを出さず、どこまで分かっているかを言わせてから進めます。これはAIの使い方と同じ構造です。

一方で、志望理由書をAIで作ることは勧めていません。面接で答えられなくなるという実務上の理由からです。調べ物の入口と、書いた後の検討相手としてなら、有効な使い方だと考えています。

まとめ

  1. AIは入試レベルの多くを処理できる。「解けないから安心」は成り立たない
  2. 効くのは説明を求める/答案を評価させる/反論を出させる/確認相手にする
  3. 害になるのは答えを写す/丸ごと書かせる/考える工程を飛ばす/検証せず信じる
  4. 分かれ目は「自分が先に出す」工程があるか
  5. 制度・数値・文献は必ず一次資料で確認する。
  6. 志望理由書を丸ごと書かせると、面接で止まる
  7. 使った記録は自分の弱点の記録になる。

この記事と関わりの深い記事です。あわせてお読みいただくと、判断の材料が揃います。

記事全体の見取り図は記事の索引——テーマ別に、どれから読めばよいかにまとめています。

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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