PISA・TIMSSをどう読むか——順位の意味と限界【研究29本】

PISA・TIMSSをどう読むか——順位の意味と限界

3年に一度、新聞に見出しが出ます。「日本、読解力◯位に後退」「数学的リテラシーは世界トップ級」。

そして政策が動き、教育論争が起きます。——では、その順位はどれだけ確かなものなのでしょうか。

一言でいうと(この記事の性格)
これは、この連載全体の方法論を扱う記事でもあります。
ここまで29本、当塾は「効果量はいくつか」「追試は通ったか」「出版バイアスを補正するとどうなるか」を問い続けてきました。
PISA の順位は、教育について最も広く流通している数字です。同じ問いを、この数字に当てます。

結論を先に8点書きます。

  1. 『Psychometrika』の再分析は「国順位が頑健であるという主張を支持しない」と結論しています [1]
  2. 反証。別の検証は「技術的選択は国レベルの結果に実質的な差をほとんど生まない」としています [6]
  3. 測定の非等価性を考慮すると、国の得点はかなり変わります——とくに東南アジア [13]
  4. 推定方法を変えると、順位がほぼ同じだった2国に有意差が出ます [3][12]
  5. 「PISA が上がれば経済成長する」という主張は、無効だと論じた研究があります [1b]
  6. 因果が逆の可能性。経済成長が先、PISA の変動が後という分析があります [4b]
  7. 日本の「PISAショック」は、通説とは違う経緯だったという研究があります [11b]
  8. そもそも、時間を通じて得点を有意に上げた国はほとんどありません [19b]

1. 順位表という形式

まず、PISA が何をしているかを確認します。

PISA は15歳を対象に、読解・数学・科学の3領域を測ります。そして結果は「リーグ表(league table)」——順位表の形で提示されます [13]

この形式には、統計的な前提があります。

一言でいうと(順位が成立する条件)
異なる国の得点を並べて比べるには、「同じものを測っている」ことが前提です。
専門用語では測定の等価性(measurement invariance)と呼びます。
・同じ問題が、どの国の生徒にとっても同じ難しさである
・同じ得点が、どの国でも同じ能力を意味する
——この前提が崩れると、順位そのものが意味を失います。

2. 順位は頑健か——再分析が出した答え

2014年、心理計量学の専門誌『Psychometrika』に、PISA 2006 の読解データを再分析した論文が掲載されました(136引用)[1]

検証したのは2点です——①PISAの国順位がモデルの不適合と特異項目機能(DIF)によって交絡されているか ②順位はスケーリングモデルの誤差に対して頑健か。

結論はこうでした。

「我々の分析は、PISAのスケーリングモデルの不適合について強い証拠を、そして特異項目機能について非常に強い証拠を提供する。これらの所見は、PISAが報告する国順位が頑健であるという主張を支持しない」

一言でいうと(DIF とは何か)
特異項目機能(DIF)とは——同じ能力の生徒でも、所属する集団によって正答率が違ってしまう項目のことです。
翻訳の微妙な違い、文化的な馴染み、カリキュラムでの扱われ方。こうした要因で、ある国の生徒にだけ易しい(または難しい)問題が生じます。
——そしてそうした項目が多ければ、合計得点の比較は歪みます。

推定方法を変えると、順位が変わる

具体的に、どれくらい変わるのか。

PISA 2012 のカナダとフィンランドの数学データに、2パラメータモデルを適用した研究があります。項目の困難度と分散のパラメータを2国間で異なることを許し、実際に数学クラスタの項目に解答した回答者に標本を限定したものです [3]

「ここで用いた方法から得られた能力得点は、フィンランドで有意に高い。これは両国に非常に近い順位を与えたPISAの結果とは、鋭い対照をなす」

同じ著者は、イタリアとスペイン(PISA 2009)でも同様の分析を行っています。PISA の得点はイタリア 489、スペイン 488 とほぼ同じでしたが、再分析では「スペインが有意に高い」という結果でした [12]

著者は「これらの結果は、PISAの方法論と、PISA結果が加盟国の教育政策形成において果たす役割について、深刻な疑問を提起する」と述べています。

3. 反証——「技術的選択は、結果を変えない」

この論争には、正反対の検証もあります。

2018年、PISAの得点の国際比較がスケーリングモデルの微妙な変更に対してどれだけ頑健かを調べた研究が発表されました [6]

検証された技術的選択は3つです。

  • 項目反応モデルの指定
  • 項目の困難度と識別力が国によって変動することを許すかどうか(項目×国の交互作用)
  • 生徒が到達しなかった設問をどう扱うか

そして著者らの結論は——

「我々の主要な発見は、これらの技術的選択が、国レベルの全体的な結果に実質的な差をほとんど生まないということである」

一言でいうと(どちらを信じるか)
2節と3節は、正面から対立しています。
そして——当塾には、どちらが正しいかを判定する能力がありません。これは心理計量学の専門的な論争です。
言えるのは「専門家のあいだで決着していない」ということだけです。
——そしてそれ自体が、順位を読むときに知っておくべき情報です。

交差的なバイアス源を検討した2024年の研究も、微妙な位置にあります。「検討した項目の大半に非等価性が存在し、調整変数を考慮すると個人の得点が変わりうる」としつつ、「国レベルの順位は、バイアスを考慮しても実質的には変わらなかった」と報告しています [7]

ただし同じ研究は「こうした非等価性の源に対処しなければ、政策形成は負の影響を受けやすい」とも述べています。

4. 誰が動くか——非等価性の影響

では、非等価性を考慮するとどの国の得点が動くのでしょうか。

PISA 2009 のデータで測定等価性を検討した研究(51引用)の結果です [13]

  • 一様DIFの形で、測定の非等価性が見出された
  • 非等価性は、研究した3尺度すべての大多数の設問で発生し、平均して中程度の大きさだった
  • 項目間でも国間でも、かなりばらついた
  • 非等価モデルでこのDIFを考慮すると、国の得点は「数学」「科学」、そしてとくに「読解」でかなり変わった
  • これらの変化は、地域的な国のまとまりで同時に同じ方向に起こる傾向があった
  • 最も影響を受けたのは東南アジアの国・地域で、当初の同質モデルで最高水準だった得点が、非等価性を考慮するとさらに上昇した

一言でいうと
補正すると、上位国がさらに上がりました。
これは「補正すると順位が入れ替わる」より、ある意味で厄介な所見です。
なぜなら——「上位国に学べ」という政策の方向は変わらないのに、その差の大きさが変わってしまうからです。

2026年には、測定バイアスを扱う新しい統計手法が『Journal of the American Statistical Association』に発表されました。「バイアスのないアンカー項目」や参照群の事前の特定を必要としない手法で、PISA 2022 の3領域に適用され、修正された成績順位が算出されています [2]

一方、PISA の運営側も対応しています。2015年からは部分等価アプローチ——大多数の項目には国際共通のパラメータを、不適合が特定された項目と国の組み合わせには国固有のパラメータを許す方法——が採られており、RMSD = .10 が最適な閾値だとする研究もあります [10]

5. コンピュータへの移行という断絶

もう一つ、比較可能性に関わる大きな変化がありました。

2015年、PISA はコンピュータ使用型調査に移行しました。

ドイツ・スウェーデン・アイルランドの予備調査データを用いた研究は、この影響を検証しています [14]

  • 考慮しないまま放置すれば、コンピュータ型テストへの変更は、PISA得点の比較可能性を制限しうる
  • 調査主催者は、このモード効果を考慮する方法論を用いている
  • 著者らの主要な結論——「なされた調整は、コンピュータ型テストへの移行に伴う潜在的な課題のすべてを克服するものではおそらくないが、まったく調整しないという代替案よりは改善である」

一言でいうと(時系列の比較)
「前回より順位が下がった」という報道は、2015年をまたぐとき、この問題を含みます。
紙とコンピュータでは、同じ問題でも解きやすさが変わる。そして変わり方は国によって違います(コンピュータの普及度が違うため)。
調整はされていますが——「すべてを克服するものではない」と、この研究は述べています。

項目反応理論のリンキング手法そのものも、2015年から変更されています。利用可能な全データを用いた同時較正により、全群でのフィットを最大化する項目パラメータを見つける方法です [8]

6. PISA は何を測っているのか

ここまでは「順位が正確か」の話でした。次は「そもそも何を測っているのか」です。

PISA のレビュー論文は、その二重性を指摘しています。「PISA は科学的な事業であると同時に、政治的な事業でもある」——測定の道具であると同時に、政策を動かす装置でもある、という指摘です [21b]

そして、測るものによって等価性の成立度が違います。

47か国のPISA 2015データにアラインメント法を適用した研究の結果です [22b]

  • 数学と科学の尺度は、高度に不変だった——国をまたいで比較できる
  • ICT(情報通信技術)の尺度は、大部分が不変ではなかった——比較が難しい

一言でいうと(どの数字が比較に耐えるか)
同じPISAの中でも、比較に耐える尺度とそうでない尺度があります。
学力そのもの(数学・科学)は比較的頑健。一方で質問紙で測る部分——ICT利用、学習意欲、自己概念など——は、文化差の影響を強く受けます。
——報道でよく引かれる「日本の子どもは自己肯定感が低い」のような数字は、この後者に属します。

実際、PISA 2012 の数学的自己概念を検討した研究は、「因子平均は国をまたいで比較可能ではない」と報告しています [23b]

PISAに関する査読論文を体系的にレビューした研究(130引用)は、全体の傾向をこう整理しています [16b]

  • PISAに関する研究は、その方法論と政策への影響について、継続的な議論を反映している
  • PISAデータの二次分析は増えているが、その多くは記述的である
  • 因果的な主張を支える設計にはなっていないものが多い

この最後の点は重要です。PISA は横断調査です。ある時点の15歳を測っているだけで、同じ子どもを追跡していません。

だから「◯◯をしている国は成績が良い」は相関であって、因果ではありません。因果推論の枠組みでPISA・TIMSS・PIRLSを用いた実証研究を概観したサーベイも、この難しさを扱っています [17b]

7. 「PISA が上がれば経済成長する」か

ここから、順位が政策に使われる理路に入ります。

PISA の影響力を支えてきたのは、次の主張です——「国際学力調査の成績を上げれば、GDP成長率が高まる」。

2017年、この主張を正面から検証した論文が発表されました(117引用)[1b]

タイトルは「無効な統計に基づく新しいグローバル政策レジーム?」です。

著者らはこう書いています。

「これらの主張は、世界銀行やOECDをはじめとする主要な国際機関が推進する政策改革の、主要な正統化の源泉を提供してきた。……我々は、これらの統計的主張を無効にする2つのオリジナル研究の所見を報告する」

そして——「新しいグローバル政策レジームが、欠陥のある統計の上に築かれているという事実に注意を喚起する」

8. 因果の向きが、逆かもしれない

さらに厄介な所見があります。

PISA と経済成長の時間的な前後関係を調べた研究の結果です [4b]

  • PISA 2000 の得点は、その後の経済成長を予測しなかった
  • PISA得点が上昇した国は、その改善「以前」に経済成長を経験していた
  • PISA得点が低下した国は、学力の低下「以前」に景気後退を被っていた

著者らの結論です。

「国際大規模学力調査の結果は、経済の変化を予測するのではなく、それに反応しているように見える」

一言でいうと(順序が逆)
「学力が上がったから経済が成長した」ではなく「経済が成長したから学力が上がった」——という順序です。
考えてみれば自然な話でもあります。景気が良ければ教育予算が増え、家庭に余裕が生まれ、子どもが落ち着いて勉強できる。
——貧困の記事で見た構造と、同じ方向です。

59か国を対象に2006〜2019年を分析した研究も、「PISAの結果と成長のあいだに、一般に因果的なつながりはない」と報告しています。東アジア諸国でも、PISAの結果は発展に追加的な役割を果たしていませんでした [5b]

9. 反証——「長期的には効く」という主張

ここでも、反対方向の証拠を挙げます。

2024年の研究は、PISA 2000 と2010〜2019年の経済成長の関係を31か国で、また複合的な認知スキルと成長の関係を80か国で分析しました [2b]

「PISAの得点やその他の認知スキルの測度は、多数の変数を統制してもなお、2010年から2019年のあいだの経済成長をある程度予測しうる」

ただし但し書きがあります——「その関係は中東諸国と実質的に関連していた。この地域の多くの国が、この期間に政治的不安定と石油収入の減少を経験したためである」

1975〜2018年のパネルデータを用いた別の研究も、「教育の質が経済成長の有意な因果要因であることを確認する」としています。ただし「議論した関係は長期的なものである」という留保付きです [20b]

一言でいうと
この論争も決着していません。
そして「長期的には効く」という主張は、検証が難しい——長期であればあるほど、他の要因が入り込むからです。
——言えるのは「短期の政策根拠としては弱い」までです。

10. 日本で、何が起きたか

この記事で最も日本に関係する研究です。

2008年、225回引用されている論文が、日本の「PISAショック」を分析しました [11b]

通説はこうです——「PISA 2003 で順位が下がり、そのショックによって文部科学省はゆとり教育を転換した」。

この研究は、その通説に疑問を呈します。

  • 日本のメディアは、PISA 2003 の所見を「当時の特定の文化的・政治的・経済的文脈に共鳴する仕方で」解釈した
  • 文部科学省は、その所見を「それ以外では極めて論争的だった政策措置を正統化するために」用いた
  • 「PISA 2003 ショックが文部科学省に論争的なゆとり政策を転換させた」という従来の解釈に疑問を呈する
  • 文部科学省は、外部参照(PISA)を利用して、新自由主義的な国家再編が進む時代に自らの政治的正統性を再確立した「能動的な主体」として再構成される

一言でいうと(順序が、ここでも逆)
「PISAの結果が政策を変えた」のではなく「変えたい政策のためにPISAの結果が使われた」——という読み方です。
8節で見た「因果の向きが逆」と、構造がよく似ています。
——これは日本を批判する話ではありません。次の節で見るとおり、同じことが各国で起きています。

各国で同じことが起きている

カナダ・中国(上海)・イングランド・フランス・ノルウェー・スイスの6事例を比較した研究の結果です(65引用)[14b]

  • 6事例のうち4事例で「スキャンダル化」という政策反応が見られた——変化を動機づけるために使われる手法
  • 6事例のうち5事例で「スタンダードに基づく改革」が見られた
  • ただし実際の改革には、国によって大きな違いがあった
  • PISAの結果が政策に対して因果的だったという考えには、時系列上の問題がある事例もある
  • 同様のPISA結果を得た国が、異なる政策で応じた——それぞれの文化的・歴史的な教育制度の軌跡を反映して

著者らの結論は印象的です。

「PISAの超国家的な呪縛は、PISAの結果が政治的レトリックの中で『魔法の杖』のように使われる、そのあり方にある。それは、改革のイデオロギー的な基盤から注意をそらす役割を果たしている」

11. 政策の「借用」という問題

10節で見たのは「同じ結果が異なる政策を生む」という現象でした。では、上位国の政策を借りてくることには、どんな問題があるのでしょうか。

PISA と政策借用(policy borrowing)の関係を数学教育の文脈で論じた研究は、哲学的な問題を指摘しています [18b]

一言でいうと(借りてこられないもの)
教育政策は、その国の文脈から切り離せません。
教師の養成制度、労働時間、社会的地位。家庭の期待。塾や習い事の位置づけ。試験制度。
——「上位国はこうしている」の「こう」だけを取り出しても、それを支えていた土台は付いてきません。

さらに根本的な指摘もあります。国際学力調査は、世界を「見る」だけでなく「作っている」という議論です [15b]

この論文は「PISAのように見る(seeing like PISA)」という表現を使い、国際調査の遂行性(performativity)——測ることが、測られる対象そのものを変えてしまう性質——について警告しています。

一言でいうと(測ることが、変えてしまう)
PISAで測られる能力が「重要な能力」だと各国が信じると、カリキュラムがそちらへ寄っていきます。
測定が現実を記述するのではなく、測定が現実を作る。
——これはテストの効果の記事で扱った「テストは学習を促す」とは、別の次元の話です。制度のレベルで同じことが起きます。

そしてこの構造は、塾業界にもそのまま当てはまります。偏差値という測定が重要だと信じられれば、指導は偏差値が上がる方向へ寄ります。測られないもの——たとえば、分からないことを分からないと言える力——は、削られていきます。

12. そもそも、順位は動くのか

最後に、素朴な事実を確認します。

2006・2009・2012年のPISAを用いて、実際に得点を有意に上げた国を体系的に分析した研究があります [19b]

「期待に反して、時間を通じてPISAの得点を有意に増加させた国は、ほとんどなかった」

そして、上昇した国の特徴です。

  • 2006年時点でPISAの得点が低かった国
  • 国レベルの基盤的な進展をより最近経験した国——より民主的な統治形態への移行、より高い所得階層への移行

一言でいうと
教育政策で順位を上げた国は、ほとんど見つかりませんでした。
上がったのはもともと低かった国と、国そのものが変わった国です。
——「◯◯国に学んで順位を上げる」という政策論の前提が、ここで揺らぎます。

批判の総合を試みた2020年の論文(124引用)は、より根本的な指摘をしています。PISAの3つの基本的な欠陥——「その根底にある教育観、その実施、そしてその解釈と世界の教育への影響」を挙げ、そして「積み上がる批判は、ほとんど無視されてきた」と述べています [9]

より穏当な立場からも、注意は促されています。方法論上の懸念——参加者の標本抽出、達成の推定モデル、トレンドの測定——を挙げた2016年の論文は、OECDがPISAの限界をより明確に伝えることを提案しています [11]

そして利益相反の指摘もあります。「OECDが試験機関として振る舞うと同時に、政策目的のためのデータ分析者・結果の解釈者としても振る舞う」という構造です [3b]。同じ論文は「PISAのテスト得点の誤差項は、試験機関が認めているよりかなり大きく、国順位を不安定にしている」とも述べています。

13. 塾と家庭で、どう読むか

ここからは、上の知見を当塾の実務に翻訳した部分です。研究が直接そう言っているわけではない箇所は、そう明示します。

(1) 順位の1〜2位の変動を、意味のある変化として読まない

2節・12節のとおり、誤差項は認められているより大きく [3b]推定方法を変えると順位がほぼ同じだった2国に有意差が出ます [3]

(2) 2015年をまたぐ時系列比較に、注意する

5節のとおり、コンピュータへの移行は比較可能性を制限しうる——調整はされていますが「すべてを克服するものではない」 [14]

(3) 「PISA が上がれば将来が良くなる」を、子どもに言わない

7節・8節のとおり、経済成長との因果は論争中で、因果の向きが逆である可能性も示されています [1b][4b]

(4) 「◯◯国の教育に学べ」を、そのまま受け取らない

10節・12節のとおり、同じPISA結果が異なる政策を動機づけ [14b]教育政策で順位を上げた国はほとんど見つかっていません [19b]

(5) PISA の問題そのものは、教材として有用

これは当塾の実務判断です。順位の解釈と、問題の質は別です。PISA型の設問——文章と図表を突き合わせ、根拠を示して答える形式——は、大学入学共通テストの方向とも重なります。

(6) 数字を見たら「誰が作ったか」を確かめる

12節のとおり、試験機関と解釈者が同一であることの利益相反が指摘されています [3b]これは当塾が、この連載全体で守ろうとしている規律でもあります。

14. この記事で言えないこと

  • 「PISA の順位は無意味だ」とは言えません。技術的選択は結果を変えないという検証もあります [6]
  • 「順位は正確だ」とも言えません。『Psychometrika』の再分析は頑健性を支持していません [1]
  • この論争は心理計量学の専門領域であり、当塾に判定する能力はありません。
  • 経済成長との関係も決着していません [1b][2b][20b]
  • 「因果が逆」という分析も、1つの分析です [4b]
  • 日本の事例の解釈は、政治学・比較教育学の分析であり、実験ではありません [11b]
  • PISA の運営側も、部分等価アプローチなどの対応を進めています [10][8]
  • この記事は PISA の「問題の質」を論じたものではありません。順位と解釈の話です。
  • 13節の運用は当塾の実務判断です。

当塾の立場

この記事は、当塾にとって特別な意味を持ちます。

この連載が守ってきた規律を、この数字にも当てました

ここまで29本、当塾は同じ問いを繰り返してきました。

PISA の順位は、教育について最も広く流通し、最も政策に影響を与えている数字です。だから同じ問いを当てました。

そして——当塾自身も、この連載で数字を出しています。だから12節で挙げた「試験機関と解釈者が同一であることの利益相反」は、当塾にも当てはまります。塾が教育研究を解説することには、同じ構造の問題があります。

当塾にできるのは、出典を全部示し、反証を同じ重さで載せ、都合の悪い数字を消さないことだけです。この連載が毎回「この記事で言えないこと」の節を置いているのは、そのためです。

この記事の内容は、塾に来なくても実行できます

家庭でできることを書きます。費用はかかりません。

  • 順位の1〜2位の変動に、一喜一憂しない——誤差項は認められているより大きい
  • 2015年をまたぐ時系列比較に注意する——コンピュータ移行の影響
  • 「PISAが上がれば将来が良くなる」を子どもに言わない——因果は論争中で、逆の可能性もある
  • 「◯◯国に学べ」をそのまま受け取らない——教育政策で順位を上げた国はほとんどない
  • そして——数字を見たら「誰が作ったか」を確かめる

これを読んで、塾に通わずに実行する方がいるなら、それでいいと考えています。自分で回せる家庭が月謝を払う必要はありません。

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。理由を3つ書きます。

  1. 「世界標準」「グローバル人材」を売らないこと。10節のとおり、PISAの結果は政治的レトリックの中で「魔法の杖」のように使われ、改革のイデオロギー的基盤から注意をそらすと指摘されています [14b]塾業界も同じ語彙を使います。当塾は、国際比較を根拠にした売り文句を使いません。
  2. PISA型の問題を、順位の話と切り離して扱うこと。13節のとおり順位の解釈と問題の質は別です。文章と図表を突き合わせ、根拠を示して答える——この形式の練習には意味があります。当塾はこれを「世界に遅れないため」ではなく「その形式が実際に出題されるから」という理由で扱います。
  3. 塾が出す数字にも、同じ疑いを向けてよいと言うこと。「合格実績」「偏差値の伸び」——塾が出す数字は、塾が集計し、塾が解釈しています。12節の利益相反の構造そのものです。当塾の数字も、そう見ていただいて構いません。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • 国際比較の話は、指導にどう関係しますか
  • 合格実績の数え方を教えてください
  • その数字は、誰が集計して、誰が解釈していますか

当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 順位が成立するには測定の等価性——同じ問題が同じ難しさであること——が前提になる。
  2. 『Psychometrika』の再分析は「国順位が頑健であるという主張を支持しない」 [1]
  3. 反証。「技術的選択は国レベルの結果に実質的な差をほとんど生まない」 [6]この論争は決着していない。
  4. 推定方法を変えると、順位がほぼ同じだった2国に有意差(カナダ/フィンランド、イタリア/スペイン)[3][12]
  5. 非等価性を考慮すると得点はかなり変わり、とくに東南アジアで上昇した [13]
  6. 2015年のコンピュータ移行。調整は「すべてを克服するものではない」[14]
  7. 「PISAが上がれば経済成長する」は無効な統計だと論じた研究 [1b]
  8. 因果が逆の可能性。経済成長が先、PISAの変動が後 [4b]
  9. 反証。長期的には因果があるという主張もある(ただし中東の影響が大きい)[2b][20b]
  10. 日本の「PISAショック」。通説とは逆に、変えたい政策のためにPISAが使われたという分析 [11b]
  11. 6事例中4事例で「スキャンダル化」。同じ結果が異なる政策を動機づけた [14b]
  12. そもそも、時間を通じて得点を有意に上げた国はほとんどない [19b]
  13. 利益相反。試験機関と、データ分析者・政策解釈者が同一である [3b]

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【順位の頑健性を否定】Kreiner, S. et al. (2014). Analyses of Model Fit and Robustness. A New Look at the PISA Scaling Model Underlying Ranking of Countries According to Reading Literacy. Psychometrika. DOI: 10.1007/s11336-013-9347-z
  2. 【無効な統計】Komatsu, H. et al. (2017). A new global policy regime founded on invalid statistics? Hanushek, Woessmann, PISA, and economic growth. Comparative Education. DOI: 10.1080/03050068.2017.1300008
  3. Ouyang, J. et al. (2026). Accounting for Measurement Bias: A New Framework for Reliable Country Ranking in Large-Scale Educational Assessments. Journal of the American Statistical Association. DOI: 10.1080/01621459.2026.2670732
  4. 【反証・ある程度予測する】Boman, B. (2024). Cognitive skills and economic growth in the twenty-first century: Evidence from PISA and cognitive ability studies. International Journal of Educational Research Open. DOI: 10.1016/j.ijedro.2024.100360
  5. McIntosh, J. (2019). PISA Country Rankings Valid? Results for Canada and Finland. Scandinavian Journal of Educational Research. DOI: 10.1080/00313831.2017.1420687
  6. 【利益相反の指摘】Carnoy, M. (2015). International Test Score Comparisons and Educational Policy: A Review of the Critiques. National Education Policy Center.
  7. 【因果の向きが逆】Feniger, Y. et al. (2018). Rethinking cause and effect. World Yearbook of Education 2019. DOI: 10.4324/9781315147338-8
  8. Szécsi, D. et al. (2024). PISA score as an inappropriate measure for growth? Empirical evidence from East Asia(59か国). Society and Economy. DOI: 10.1556/204.2024.00004
  9. 【反証・結果は変わらない】Jerrim, J. et al. (2018). How Robust Are Cross-Country Comparisons of PISA Scores to the Scaling Model Used?. Educational Measurement: Issues and Practice. DOI: 10.1111/emip.12211
  10. Xu, R. et al. (2024). Beyond group comparisons: Accounting for intersectional sources of bias in international survey measures. International Journal of Testing. DOI: 10.1080/15305058.2024.2364168
  11. von Davier, M. et al. (2019). Evaluating item response theory linking and model fit for data from PISA 2000–2012. Assessment in Education. DOI: 10.1080/0969594x.2019.1586642
  12. Zhao, Y. (2020). Two decades of havoc: A synthesis of criticism against PISA. Journal of Educational Change. DOI: 10.1007/s10833-019-09367-x
  13. Joo, S.-H. et al. (2020). Evaluating Item Fit Statistic Thresholds in PISA: Analysis of Cross-Country Comparability of Cognitive Items. Educational Measurement: Issues and Practice. DOI: 10.1111/emip.12404
  14. Rutkowski, L. et al. (2016). A Call for a More Measured Approach to Reporting and Interpreting PISA Results. Educational Researcher. DOI: 10.3102/0013189×16649961
  15. 【日本の事例】Takayama, K. (2008). The politics of international league tables: PISA in Japan’s achievement crisis debate. Comparative Education. DOI: 10.1080/03050060802481413
  16. McIntosh, J. (2019). PISA Country Rankings for Italy and Spain: Revised Results. European Education. DOI: 10.1080/10564934.2018.1530060
  17. Kankaraš, M. et al. (2014). Analysis of Cross-Cultural Comparability of PISA 2009 Scores. Journal of Cross-Cultural Psychology. DOI: 10.1177/0022022113511297
  18. Jerrim, J. et al. (2018). PISA 2015: how big is the ‘mode effect’ and what has been done about it?. Oxford Review of Education. DOI: 10.1080/03054985.2018.1430025
  19. 【6か国の政策反応】Baird, J. et al. (2016). On the supranational spell of PISA in policy. Educational Research. DOI: 10.1080/00131881.2016.1165410
  20. Gorur, R. (2016). Seeing like PISA: A cautionary tale about the performativity of international assessments. European Educational Research Journal. DOI: 10.1177/1474904116658299
  21. Hopfenbeck, T. N. et al. (2018). Lessons Learned from PISA: A Systematic Review of Peer-Reviewed Articles on the Programme for International Student Assessment. Scandinavian Journal of Educational Research. DOI: 10.1080/00313831.2016.1258726
  22. Cordero, J. et al. (2018). Causal Inference on Education Policies: A Survey of Empirical Studies Using PISA, TIMSS and PIRLS. Journal of Economic Surveys. DOI: 10.1111/joes.12217
  23. Cantley, I. (2018). PISA and policy-borrowing: A philosophical perspective on their interplay in mathematics education. Educational Philosophy and Theory. DOI: 10.1080/00131857.2018.1523005
  24. 【上げた国はほとんどない】Rowley, K. et al. (2019). Trends in International PISA Scores over Time: Which Countries Are Actually Improving?. Social Sciences. DOI: 10.3390/socsci8080231
  25. Goczek, Ł. et al. (2022). Does an increase in education quality cause developing countries to catch up?(1975–2018). International Journal of Management and Economics. DOI: 10.2478/ijme-2022-0028
  26. Sjøberg, S. et al. (2020). PISA: a political project and a research agenda. Studies in Science Education. DOI: 10.1080/03057267.2020.1824473
  27. Odell, B. et al. (2021). Testing measurement invariance of PISA 2015 mathematics, science, and ICT scales using the alignment method(47か国). Studies in Educational Evaluation. DOI: 10.1016/j.stueduc.2020.100965
  28. Ding, Y. et al. (2022). Measurement invariance of the mathematics self-concept scale in PISA 2012 across countries. Frontiers in Psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2022.887944

教育学・認知心理学・社会心理学・行動経済学・教育経済学の研究をもとにした連載です。

author avatar
ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

関連記事

PAGE TOP
お電話