素朴概念はなぜ教えても直らないのか
「夏が暑いのは、地球が太陽に近づくから」。
これは誤りです。そして——学校で正しい説明を受けた多くの人が、数年後にまた同じ答えをします。
この現象は40年以上研究されてきました。そして近年、研究者の見方そのものが変わりつつあります。
一言でいうと(この記事の結論)
誤った考えを名指しして否定する文章(反駁テキスト)は効きます。44の比較で g = 0.41 [4]。
294の効果量・26の調整変数を検討した事前登録メタ分析でも、一貫した有意な優位が確認されています [3]。
しかし——浮力の課題では、理科教師でさえ誤概念による干渉が残っていました [6]。
そして3学期後には、反駁的に教えた項目でさえ有意に低下しました [8]。
結論を先に7点書きます。
- 素朴概念は「それに矛盾する教育を、典型的に生き延びる」 [1]。
- 反駁テキストは効きます。g = 0.41、そして調整変数はこの効果を強めも弱めもしませんでした [4] [3]。
- 218研究・18,051人の統合では g = 1.10。ただし予測区間は [0.19, 2.38] [2]。
- 反証。誤概念は消えるのではなく、正しい概念と共存しているようです [6] [7]。
- 反証。3学期後には、反駁的に教えた項目でさえ有意に低下しました [8]。
- 反証。図を足しても、議論を足しても、さらに良くはなりませんでした [9] [10]。
- そして——教師に対しては、通常の反駁テキストは効きませんでした [13]。
1. 素朴概念とは何か
人は、教わる前から自分なりの説明を持っています。
季節の変化、力と運動、光合成、進化、電気。日常の経験から、筋の通った——しかし科学的には誤った——説明を作り上げています。
1982年、この分野の出発点となった論文(5,588引用)は、問題の核心を次のように書いています [1]。
これらの誤概念が「なぜそれほど『頑健』であり、それに矛盾する教育を典型的に生き延びるのか」——それを理解することが必要だ、と。
一言でいうと(「知らない」ではなく「別のことを知っている」)
白紙に書き込むのではありません。すでに書かれているものを、書き換える作業です。
——だから正しい説明を1回聞かせるだけでは、上書きされません。
これを概念変化(conceptual change)と呼びます [5]。
よく挙げられる例です [5]。
| 素朴概念 | 科学的な説明 |
|---|---|
| 夏が暑いのは地球が太陽に近いから | 地軸の傾きによる日射角と日照時間の違い |
| 重い物のほうが速く落ちる | 空気抵抗を除けば、落下は質量によらない |
| 植物は土から養分を得て育つ | 体をつくる炭素の大半は空気中の二酸化炭素から |
| 生物は必要に応じて進化する | 変異と選択の結果であり、目的はない |
2. 反駁テキストは効く
最も研究されている手法があります。
反駁テキスト(refutation text)とは——まず誤った考えを明示的に述べ、それが誤りであると言い、そのうえで正しい説明を与える文章です。
普通の説明文(誤りに触れず、正しいことだけ書く)との比較で、繰り返し検証されてきました。
Danielson 2024 は事前登録されたメタ分析で、未公刊の18本を含めています [3]。47本目の再現性の危機で見た基準に照らすと、これはかなり強い設計です。
一言でいうと(なぜ効くのか)
誤った考えを名指しすると、読み手はそれを心の中で「活性化」させます。
——活性化されたものだけが、書き換えの対象になります。触れなければ、そのまま残ります。
だから「正しいことだけ教える」は、効率が悪いのです。
1982年から研究されている古典的な所見でもあります。6年生のエネルギー概念を扱った研究では——反駁テキストを読んだ生徒が、説明文を読んだ生徒と通常の授業のみの生徒を上回った。一方、説明文の影響は無視できる程度で、通常の授業と同程度だった [14]。
20年分の蓄積
この手法は1980年代半ばから検証されてきました。2010年の総説(328引用)は、20年分の研究を整理し、二次分析で年齢による効き方の違いを探っています [18]。
一言でいうと(年齢差は見つからなかった)
発達的な関係は明らかにならなかった——つまり特定の年齢でだけ効く、という結果ではありませんでした [18]。
——結論は「従来の説明文よりも反駁テキストを読むほうが、概念変化に至りやすい」という、シンプルなものです。
教科書が主要な教材である以上、文章の書き方は実務的に重い論点です。
3. ただし、数字の読み方に注意が要る
g = 1.10 は、教育介入としては非常に大きい値です。そのまま受け取ってよいでしょうか。
その統合自身が、注意点を書いています [2]。
- 予測区間は [0.19, 2.38] ——効果量の分布に高い異質性がある
- メタ回帰モデルが説明できたのは、全体の異質性の 35% だった
生物領域に絞った30年分の統合は、さらに厳しい指摘をしています [7]。
- 効果量は、標本サイズと出版バイアスに強く影響されていた
- 最も効果的だった介入は、人体の循環系のようなより単純化された現象を扱ったものだった
- 驚くべき数の研究が、知識の再構造化ではなく知識の付加という、表面的な学習成果しか報告していなかった
一言でいうと(測っているものが違う)
「知識の付加」と「知識の再構造化」は別です [7]。
——正しい説明を新しく覚えることと、古い説明を捨てることは、同じではありません。
そして多くの研究は、前者しか測っていませんでした。次の節が、その帰結です。
4. 反証——消えるのではなく、共存する
この分野で、最も重要な転回です。
2017年、『Journal of Research in Science Teaching』に掲載された研究(97引用)は、浮力についての認知課題を、専門性の異なる4群に実施しました [6]。
対象——就学前児 → 小学生 → 中高生 → 理科教師
調べたのは、正しい答えを出すときに、2つの誤概念がどれだけ干渉するかです。
- 年齢・専門性が上がるにつれて、科学的な概念の優勢は進む
- しかし——誤概念は、科学的な専門性がより高い段階でも、遂行に干渉し続けた
- そして、その干渉のパターンは研究可能である
著者らはここから、「概念的優勢(conceptual prevalence)」という学習モデルを提案しています [6]。
一言でいうと(上書きではなく、競合)
誤った考えは、消えていません。正しい考えと同時に頭の中にあり、どちらが先に出てくるかを争っています [6]。
——正解できる人は、誤概念を持っていない人ではなく、誤概念を抑え込める人です。
そして理科教師でも、その抑え込みにコストがかかっていました。
この見方は、より広い総説にも取り入れられています [5]。
「より最近の研究は、概念変化が起きたあとに誤概念が永続的に消えるという考えに異議を唱えている。以前に獲得された誤った情報は、新たに獲得された正しい情報と依然として競合している。素朴な概念と科学的な概念が学習者の記憶のなかに共存し、正しい答えを出すために後者が使われるとき、抑制という実行機能が関与しているように見える」 [5]。
実行機能——とくに抑制——が、概念理解に関わっているという主張です。
5. 反証——持続しない
効果が続くかどうかは、別の問題です。
2017年、心理学入門の受講者を2年間追跡した研究の結果です(N = 111、全指標完了68人)[8]。
- 学期末の時点で、反駁的に教えられた概念のほうが、正しく認識されていた
- コースを超えても保持され、反駁的に教えられたもののほうが有意に多く残っていた
- 言語理解力(SAT批判的読解)が高い学生ほど、多く獲得し保持していた
- しかし——コース修了から3学期後に検査すると、反駁的に教えた項目でさえ有意に低下していた
- この低下は、言語理解力が低い学生でとくに顕著だった
一言でいうと(1年半で戻る)
効果はあります。しかし永続しません [8]。
——著者らは「反駁的な教授には、先行する誤概念を変えるうえで、小さいが有意な長期的利益がある」と結論しています。「小さいが」がついています。
そして理解力の低い学生ほど、戻りやすい。
この持続性の問題は、批判的レビューでも中心的に指摘されています [11]。方法論上の問題として挙げられたのは——研究内で単一の(あるいはごく少数の)主題しか使わないこと、概念変化におけるテストの役割、そして直後の事後テストを超えた変化の持続性です。
6. 反証——足しても、良くならない
「反駁テキストが効くなら、もっと工夫すればもっと効くはずだ」——そうはなりませんでした。
図についての研究では、興味深い非対称もありました。「通常テキスト+反駁図」を読んだ者は、「反駁テキスト+通常図」を読んだ者と同程度の成績だった——つまり反駁は、文章でも図でもよく、両方は要らないという結果です [9]。
一言でいうと(48本目と同じ形)
いじめ防止プログラムでも、構成要素の「数」は効果と無関係でした(3本前の記事)。
——ここでも同じです。盛り込めば効くわけではありません。
そして「興味を引く絵」は、はっきり害になっていました [12]。認知負荷の問題です。
7. 反証——この分野自体の方法論的な問題
2021年、『Educational Psychologist』に批判的レビューが掲載されました(57引用) [11]。
著者らは「反駁テキストが学習者の考えを変える能力は、条件づけられ、調節される必要がある」として、見過ごされてきた制約を列挙しています。
方法論上の問題
・研究内で単一の主題しか使わない
・概念変化におけるテストの役割が扱われていない
・直後の事後テストを超えた変化の持続性が確かめられていない
理論上の問題
・注意の指標をどう解釈するか
・どの知識領域が反駁に向いているのか
・何をもって「反駁的」な文章とするのか
・概念変化がどう起こるかについて、検討されていない前提がある
一言でいうと(「反駁テキスト」の定義が定まっていない)
何が反駁テキストなのかが、研究によって違います [11]。
——統合された g = 0.41 は、定義の揺れたものの平均です。
45本目の質的研究、46本目のデザイン研究で見たのと同じ、概念の輪郭が定まっていない分野の問題です。
なお、誤概念の頑健さによっても結果が変わります。生態学的役割についての誤概念を扱った研究では、反駁テキストと通常の説明文の両方が、多くの生徒に概念変化を起こしました——著者は理由の一つとして「その誤概念が比較的頑健でなかったこと」を挙げています [15]。
8. 大人には、どうか
ここで、この連載にとって不都合な研究が出てきます。
2022年、現職教員129人を対象にした実験です [13]。
教員が持っている誤概念として扱われたのは——「マルチメディア教材は、生徒の学習スタイルに合わせて調整する必要がある」。学習スタイル神話です。
- 3条件に割付——①説明文(直接の反駁なし)②通常の反駁テキスト ③個別化された反駁テキスト
- 個別化された反駁テキストが、最も強い概念変化を起こした
- それを駆動していたのは、罪悪感と羞恥の感情の高まりだった
- そして——通常の反駁テキストは、説明文と比べて概念変化を促さなかった
一言でいうと(大人には、そのままでは効かない)
通常の反駁テキストは、経験のある実践者には効きませんでした [13]。
——効いたのは「あなたはこう考えているはずだ」と個別に指摘したときで、その作用は罪悪感と羞恥によるものでした。
これは、この記事を含む啓蒙的な文章の限界を示しています。一般論として「それは誤りです」と書いても、読み手の考えは変わりにくい。
なお、小学4年生を対象とした最近の研究でも、反駁テキストは誤概念を有意に減らしたが、概念理解そのものの統計的に有意な増加にはつながらなかったという結果が出ています [16]。別の研究では「介入を行ったにもかかわらず、一部の誤概念は修正に抵抗した」と報告されています [17]。
9. この記事で言えないこと
- 「反駁テキストは効かない」とは言えません。事前登録メタ分析で一貫した優位が確認されています [3]。
- 「誤概念は直せる」とも言えません。理科教師でも干渉が残っていました [6]。
- g = 1.10 の予測区間は [0.19, 2.38] です [2]。次の1つの研究の結果は、この幅のどこかです。
- 効果量は出版バイアスに強く影響されていました [7]。
- 多くの研究が「知識の付加」しか測っていません [7]。「再構造化」の証拠は薄いままです。
- 「共存する」という見方は、比較的新しいモデルです [6]。確立した結論ではありません。
- 紹介した研究は、ほとんどが理科・生物領域です。他教科での一般化は確かめられていません。
- 日本の教科書・授業での実証は、この記事では扱えていません。
当塾の立場
先に、この記事が当塾にとって不都合な部分を書きます。
8節が、この連載そのものへの批判になっています。
通常の反駁テキストは、経験のある実践者には効きませんでした [13]。この連載は50本以上にわたって「よく言われているが、実はこうだ」という形の文章を書いてきました。それは、まさに通常の反駁テキストの形式です。
つまり、この連載を読んでも、読者の考えはあまり変わらない可能性があります。
そして効いたのは個別化された反駁で、その作用は罪悪感と羞恥でした [13]。当塾は、その手段を使いたくありません。だから、この限界は残ります。
この記事の内容は、塾に来なくても実行できます
家庭でできることを書きます。費用はかかりません。
- 正しい説明の前に、誤った考えを言わせる——活性化されたものだけが書き換わります [4]
- 「それは違う」と明示的に言う——触れずに正解だけ教えると、効果は通常の授業と同程度でした [14]
- 図か文章か、どちらかで反駁する。両方は要らない [9]
- 興味を引くための関係ない絵を入れない——認知負荷が上がり、有意に不利でした [12]
- 一度直っても、戻る前提でいる——3学期後には有意に低下していました [8]
- 間違えたことを責めない——誤概念は、経験から作られた筋の通った説明です [1]
- 「わかった」を「もう間違えない」と読み替えない——競合は残ります [6]
これを読んで、塾に通わずに実行する方がいるなら、それでいいと考えています。この7つは、家庭での説明の仕方の話です。
それでも塾に通いたい方へ
塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。理由を3つ書きます。
塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。
- 教える前に、その子が何をどう理解しているかを確認しますか
- 一度わかった単元を、あとでもう一度確認しますか
- 「わかった」はどうやって確かめますか
当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。
まとめ
- 素朴概念は「それに矛盾する教育を、典型的に生き延びる」 [1]。
- 反駁テキスト——44の比較で g = 0.41、多様な文脈で一貫し頑健 [4]。
- 294効果量・26調整変数の事前登録メタ分析でも、一貫した有意な優位 [3]。
- 218研究・18,051人で g = 1.10。ただし予測区間は [0.19, 2.38] [2]。
- 効果量は出版バイアスに強く影響され、多くが「知識の付加」しか測っていなかった [7]。
- 反証。浮力の課題では、理科教師でさえ誤概念による干渉が残った [6]。
- 誤概念は消えず、正しい概念と競合する。抑制という実行機能が関与する [5]。
- 反証。3学期後には、反駁的に教えた項目でさえ有意に低下した [8]。
- 低下は、言語理解力の低い学生でとくに顕著だった [8]。
- 反証。反駁図も、仲間との議論も、さらなる改善をもたらさなかった [9] [10]。
- 興味を引くだけの絵は、有意に不利だった(外在的な認知負荷の増加) [12]。
- 反証。教員に対しては、通常の反駁テキストは説明文と差がなかった [13]。
- そして——「わかった」は「もう間違えない」を意味しません。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【出発点】Posner, G. J. et al. (1982). Accommodation of a scientific conception: Toward a theory of conceptual change. Science Education. DOI: 10.1002/sce.3730660207
- Pacaci, C. et al. (2023). Effectiveness of conceptual change strategies in science education: A meta-analysis(218研究・18,051人). Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.21887
- 【事前登録・294効果量】Danielson, R. W. et al. (2024). The effectiveness of refutation text in confronting scientific misconceptions: A meta-analysis. Educational Psychologist. DOI: 10.1080/00461520.2024.2365628
- 【g = 0.41】Schroeder, N. L. & Kucera, A. C. (2022). Refutation Text Facilitates Learning: a Meta-Analysis of Between-Subjects Experiments. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-021-09656-z
- 【共存と抑制】Mason, L. (2020). Conceptual Change. Oxford Research Encyclopedia of Education. DOI: 10.1093/acrefore/9780190264093.013.870
- 【反証・理科教師にも干渉が残る】Potvin, P. et al. (2017). Toward a durable prevalence of scientific conceptions: Tracking the effects of two interfering misconceptions about buoyancy from preschoolers to science teachers. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.21396
- 【反証・出版バイアスと「知識の付加」】Aleknavičiūtė, V. et al. (2023). Thirty years of conceptual change research in biology – A review and meta-analysis of intervention studies. Educational Research Review. DOI: 10.1016/j.edurev.2023.100556
- 【反証・3学期後に低下】Kowalski, P. & Taylor, A. K. (2017). Reducing Students’ Misconceptions With Refutational Teaching: For Long-Term Retention, Comprehension Matters. Scholarship of Teaching and Learning in Psychology. DOI: 10.1037/stl0000082
- 【反証・図を足しても改善せず】Mason, L. et al. (2017). Textual and graphical refutations: Effects on conceptual change learning. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2017.03.007
- 【反証・議論を足しても改善せず】Asterhan, C. S. C. & Dotan, A. (2020). Refutation texts and argumentation for conceptual change: A winning or a redundant combination?. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2019.101265
- 【反証・方法論的批判】Zengilowski, A. et al. (2021). A critical review of the refutation text literature: Methodological confounds, theoretical problems, and possible solutions. Educational Psychologist. DOI: 10.1080/00461520.2020.1861948
- Jin, G. et al. (2023). Effects of Refutational Texts and Seductive Pictures on Conceptual Change. The Journal of Experimental Education. DOI: 10.1080/00220973.2023.2238644
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