「分からないところがあったら聞きなさい」と言われても、何を聞けばいいのか分からない。これは怠けているのではなく、分からなさを言葉にする作業そのものが難しいからです。質問できる生徒とできない生徒の差は、性格ではなく、この作業の手順を持っているかどうかにあります。
もうひとつ、質問すれば伸びるという話も、そのままでは正しくありません。研究では、質問は2種類に分けられます。答えだけをもらって先に進む聞き方と、詰まっている場所を特定して自分で進めるようになる聞き方です。前者を繰り返しても、伸びません。
この記事は、質問の型を作ります。何を書き出し、どこまで自分で試し、誰にどう聞き、聞いたあとに何をするか。そのまま紙に書き写して使える形にします。
この記事の結論
- 質問には2種類あります。答えをもらうだけの聞き方(依存的)と、自分で進めるために必要な分だけもらう聞き方(道具的)です。伸びに効くのは後者だけで、研究でも質問の質によって成績との関連が変わることが示されています。
- 「質問すれば伸びる」の効果は、平均で見ると非常に小さい。37,941名を含む108件の研究をまとめたメタ分析の結論です。回数ではなく質の問題だということです。
- 「分からない」は5つに分けられます。用語・手順・理由・問題文の読み取り・計算。どれかによって、聞く相手も聞き方も変わります。
- 聞く前に、声に出して説明してみてください。説明を促す働きかけの効果をまとめたメタ分析では g = 0.55 と報告されています。説明している途中で、詰まりの場所が自分で見つかることがあります。
- 聞いたあとが本体です。その場で分かったことは、翌日には消えます。自分の言葉で書き直し、翌日に何も見ずに再現するところまでが質問の工程です。
「答えを教えて」と「どこが違うか教えて」は別の行動
研究の世界では、助けを求める行動をいくつかに分けます。代表的なのは、必要な分だけの手がかりを求めて自分で解き切ろうとする道具的な求め方と、答えそのものをもらって作業を終わらせようとする依存的な求め方です。そこに、そもそも聞かない回避が加わります。
チョウ(Chou)とチェン(Chen)は、学習システムの行動記録を機械的に分類し、この3つの型(道具的・依存的・回避)が実際のデータからも現れることを確認しています。つまりこれは理屈上の区別ではなく、行動として観察できる違いです。
では、質問する生徒ほど伸びるのでしょうか。大学生を対象にした大規模なメタ分析があります。
Fong CJ, Gonzales C, Hill-Troglin Cox C, Shinn HB. (2023). Academic help-seeking and achievement of postsecondary students: a meta-analytic investigation. Journal of Educational Psychology.
108件の研究(119標本、37,941名)を統合した結果、必要に応じて助けを求める行動と成績の間には正の関連がありましたが、平均の相関は非常に小さく、著者らは「長い目で見れば意味を持ちうる程度」と表現しています。そして重要なのはここです。助けの求め方の質によっては、より大きな関連が見られました。
この記事の立場はここから決まります。質問の回数を増やすことは目標にしない。1回の質問の中身を変える。
「分からない」を5つに分ける
「分からない」と一言で言っても、中身はまったく違います。まずこの分類を紙に書いて、机に貼ってください。
| 型 | 状態 | 自分でできること | 聞くときの言い方 |
|---|---|---|---|
| 用語 | 言葉の意味が分からない | 教科書の索引・巻末・辞書を引く | 「この語の定義は調べましたが、例が思いつきません」 |
| 手順 | 次に何をするか分からない | 例題の最初の一手を見る | 「2行目までは書けましたが、次に何をするか分かりません」 |
| 理由 | 手順は分かるがなぜそうするか分からない | 教科書の説明部分に戻る | 「ここで両辺を2乗してよい理由が分かりません」 |
| 読み取り | 何を問われているか分からない | 問題文を図・式・日本語に言い換える | 「問題文をこう読みましたが、合っていますか」 |
| 計算 | 方針は合っていたが答えが合わない | 1行ずつ戻して符号と移項を確認 | (原則として聞かない。自分で探す) |
この表の効果は、聞く前に型を選ぶだけで、質問の文が半分できあがることにあります。「分かりません」ではなく「理由が分かりません」になるだけで、返ってくる答えの精度が変わります。
いちばん下の「計算」は、原則として質問しないでください。人に探してもらうと、次も自分で探せません。3回探して見つからないときだけ聞きます。
質問を言語化する型
次の4つを埋めてから聞きます。口頭で聞く場合も、頭の中で埋めてから話しかけてください。
- どこまで分かっているか。「この問題は◯◯の公式を使うところまでは分かります」
- どこで詰まったか。「3行目で、xの範囲をどう決めるかで止まりました」
- 何を試したか。「教科書のp.52の例題を見て、同じようにやってみましたが、この問題は条件が1つ多くて当てはめられませんでした」
- 何を聞きたいか。「答えではなく、条件が増えたときにどこを見ればよいかを知りたいです」
4番が、道具的な質問と依存的な質問を分ける場所です。「答えではなく◯◯を知りたい」と自分で言えたら、その質問は伸びる側に入っています。
3番の「何を試したか」は、書くのが面倒で飛ばされがちですが、ここを書くと相手の答えが変わります。試したことが分かれば、相手は同じ説明を繰り返さずに済むからです。試したことが無いなら、まず試してから聞いてください。試していない質問は、依存的な質問になりやすいためです。
聞く前に、声に出して説明してみる
質問の型を埋める作業には、副産物があります。埋めている途中で答えが見つかることが、かなりの頻度で起きます。説明しようとすると、自分が飛ばしていた段階が表面に出るからです。
自分に向かって説明することの効果は、まとめて検討されています。
Bisra K, Liu Q, Nesbit JC, Salimi F, Winne PH. (2018). Inducing self-explanation: a meta-analysis. Educational Psychology Review.
64本の研究報告から69の効果量を集めた分析で、説明を促す働きかけの全体の効果量は g = 0.55 でした。学習課題の種類、教科、学年など20の条件を検討したうえで、幅広い場面で有効な働きかけになりうると結論しています。
実際の手順は簡単です。
- 問題文を、声に出して自分の言葉に言い換える。読み上げるのではなく、言い換えます。
- 「まずこれをやって、次にこうする理由は」と、手順を声に出して説明する。紙は見てよい。
- 説明が止まった場所に印をつける。そこが質問の場所です。
- 止まらずに最後まで説明できたら、質問は不要。もう一度解いてみてください。
聞ける相手がいない時間帯(夜、休日)にも使えることが、この手順の利点です。
誰に、いつ聞くか
同じ質問でも、場面によって適した聞き方が変わります。
| 場面 | 向いている質問 | 注意 |
|---|---|---|
| 授業中 | 用語・読み取り。全員に関係する疑問 | 手が挙がらない教室では、詰まった箇所に印をつけて授業後に回す |
| 授業の直後 | 理由。その場の説明を踏まえた質問 | 記憶が新しいうちが最も効率がよい。3分でよい |
| 家庭 | 手順。答えを持っている人がいない状況 | 保護者は解法を教えなくてよい。型の4項目を口頭で聞いてあげるだけで進む |
| 質問板・チャット | 用語・手順 | 文字にする作業自体が整理になる。返事を待つ間に先へ進む |
教室で聞けるかどうかは、本人の性格より教室の空気に左右されます。カラベニック(Karabenick)は、化学の6クラス883名と心理学の13クラス852名を対象に、クラスが何を重視していると感じられているかと、助けを求める行動の関係を調べました。
Karabenick SA. (2004). Perceived achievement goal structure and college student help seeking. Journal of Educational Psychology.
個人の目標を統制したうえでも、クラスが理解の深まりを重視していると感じられるほど、助けを求める行動が増え、避ける行動が減りました。逆に、できないところを見せないことを重視する空気が強いクラスでは、避ける行動が増えていました。シム(Shim)らが中学生373名を、スモーリー(Smalley)とホプキンス(Hopkins)が中等教育の47クラス551名を対象に行った研究でも、教室の雰囲気と質問の回避に関連が報告されています。
これは、聞けないことを本人の弱さとして扱うべきでないという意味でもあります。聞けない場所では聞かなくてよい。聞ける場所を1つ確保してください。
メールやチャットで聞くときの書き方
文字で聞く機会は増えています。口頭より難しい反面、書く作業自体が整理になります。次の順で書いてください。
- 1行目に、教材名とページと問題番号を書く。「◯◯問題集 p.52 大問3(2)」。これが無いと相手は答えようがありません。
- 自分の答案を、途中まででいいので全部載せる。写真でも構いません。書いた行が無いと、どこで曲がったかを指摘できません。
- 型の4項目を、そのまま4行で書く。分かっているところ、詰まった場所、試したこと、聞きたいこと。
- 「答えは書かないでください」と書き添える。本気で伸ばしたいなら、これを書いてください。
- 返事を待つ間、その問題を飛ばして先に進む。待つ時間を空けないことが、文字で聞くことの最大の利点です。
聞いたあとにやること
ここが最も飛ばされる工程で、最も差がつきます。教わった直後は、分かった感じが強い。その感じは、教えた人の説明が上手なほど強くなりますが、自分で再現できることとは別です。
- 説明が終わったら、その場でノートを閉じて、自分の言葉で言い直す。相手に聞いてもらいます。詰まったら、そこがまだ分かっていない場所です。
- 教わった内容を、自分の言葉で3行以内に書く。相手の言葉を写さないでください。
- その場で、同じ形式の問題を1問解く。解けなければ、質問はまだ終わっていません。
- 翌日、何も見ずにその問題をもう一度解く。ここで解けて、初めて完了です。
- 解けなかったら、同じ相手にもう一度聞く。「昨日教わりましたが、今日やったら解けませんでした」は、恥ずかしい報告ではなく、最も有益な報告です。
4番を入れるかどうかで、質問の価値が変わります。質問は、その場で終わる行為ではなく、翌日まで続く工程だと考えてください。
「聞けない」を解く
分からないのに聞かない状態は、広く観察されています。バトラー(Butler)の実験では、助けを求めるかどうかは、自分の能力が低く見られるという脅威をどう感じるかによって左右されていました。シー(Shih)が台湾の小学6年生298名を調べた研究でも、能力は変えられるという考え方を持つ児童ほど、質問を避ける態度が弱いという関連が出ています。チョン(Cheong)らが高校生314名を調べた研究では、理解を深めることを目標にしている生徒ほど道具的な質問が多く、依存的な質問は少ないという結果でした。
対処は、気持ちを変えることではなく、条件を変えることです。
- 聞く相手を、教室以外に1人決めておく。塾の講師、質問板、年上のきょうだい。誰でも構いません。
- 質問を紙に書いてから渡す。口で言わずに済むだけで、実行できる生徒はかなりいます。
- 「今週は3つ質問する」と数を決める。内容ではなく数を目標にすると、最初の一歩は出やすくなります。
- 答えをもらう質問から始めてよい。まず聞ける状態を作り、型は後から入れます。順序を逆にしないでください。
学年別の手順
| 学年 | この時期の課題 | やること |
|---|---|---|
| 小学生 | 「分からない」と言えること自体 | 5つの型のうち「用語」「計算」の2つだけ使う。保護者は答えを教えず「どこまで分かった?」とだけ聞く |
| 中学生 | 言語化と、聞いたあとの処理 | 型の4項目を紙に書いてから聞く。教わった翌日にもう一度解く工程を必ず入れる |
| 高校生 | 質問の相手と場面の使い分け | 5つの型で切り分ける。文字で聞くときは答案を必ず添える。「答えは書かないで」と明示する |
この記事で言えないこと
第一に、「質問できる子ほど伸びる」の効果は、平均で見ると非常に小さい。108件の研究をまとめた分析での平均の相関は小さく、質問の量を増やせば成績が上がるとは言えません。この記事が質より量を勧めないのは、そのためです。
第二に、質問の仕方を教えれば学力が上がる、とは言えません。アレヴェン(Aleven)らが知的チュータリングシステムで行った研究では、自動のフィードバックによって助けの求め方そのものは持続的に改善した一方、その領域の学習成果は改善しませんでした。
Aleven V, Roll I, McLaren BM, Koedinger KR. (2010). Automated, unobtrusive, action-by-action assessment of self-regulation during learning with an intelligent tutoring system. Educational Psychologist.
別の研究では改善が新しい学習にも及んだと報告されており、結果は一致していません。
Roll I, Aleven V, McLaren BM, Koedinger KR. (2011). Improving students’ help-seeking skills using metacognitive feedback in an intelligent tutoring system. Learning and Instruction.
58名と67名という小さな研究であることにも注意が必要です。質問の型を身につけることは、それ自体では成績を保証しません。
第三に、ここで引いた研究の多くは、大学生か、日本以外の中高生を対象にしています。教室で手を挙げることの意味は文化によって違い、そのまま当てはまらない部分があります。
第四に、この記事の型(4項目)、5つの分類、翌日の再確認といった手順は、研究が検証した形式ではありません。道具的な質問と依存的な質問の区別には根拠がありますが、それを紙の上でどう書かせるかまでは研究が決めていません。当塾で使っている運用の形です。
当塾の立場
この記事の手順は、塾に来なくても実行できます。紙1枚に4項目を書き、聞く前に声に出して説明し、教わった翌日にもう一度解く。それだけです。保護者にお願いしたいことも1つだけあります。解き方を教えようとしないでください。「どこまで分かった?」「何を試した?」の2つを聞くだけで、型の半分は埋まります。教科の知識は要りません。
そのうえで、外に相手がいることに意味がある部分もあります。カラベニックの研究が示したのは、聞けるかどうかが場の性質に左右されるということでした。学校の教室で聞けない生徒に「勇気を出せ」と言っても、条件は変わりません。武蔵野個別指導塾では、質問の型を埋めるところまでを一緒にやり、答えを先に言わないようにしています。それから、教わった内容を翌日にもう一度、何も見ずに解いてもらいます。その場で分かったことと、翌日に再現できることの差を測る——質問を、その場で終わる行為から、翌日まで続く工程に変えることが、1対1で見る側にできることだと考えています。
関連する研究の解説
- 1対1で教えると何が起きるか——チュータリング研究の効果量と、効かない条件——教わる側ではなく教える側から見た研究の整理です。
- 自己説明——「なぜそうなるか」を言わせると何が起きるか——聞く前に声に出して説明する工程の根拠を、詳しく扱っています。
- フィードバックはなぜ逆効果になりうるのか——教わった内容が、条件によっては学習を妨げることがある理由です。
出典
- Fong CJ, Gonzales C, Hill-Troglin Cox C, Shinn HB (2023). Academic help-seeking and achievement of postsecondary students: a meta-analytic investigation. Journal of Educational Psychology.
- Bisra K, Liu Q, Nesbit JC, Salimi F, Winne PH (2018). Inducing self-explanation: a meta-analysis. Educational Psychology Review.
- Karabenick SA (2004). Perceived achievement goal structure and college student help seeking. Journal of Educational Psychology.
- Aleven V, Roll I, McLaren BM, Koedinger KR (2010). Automated, unobtrusive, action-by-action assessment of self-regulation during learning with an intelligent tutoring system. Educational Psychologist.
- Roll I, Aleven V, McLaren BM, Koedinger KR (2011). Improving students’ help-seeking skills using metacognitive feedback in an intelligent tutoring system. Learning and Instruction.
- Butler R (1998). Determinants of help seeking: relations between perceived reasons for classroom help-avoidance and help-seeking behaviors in an experimental context. Journal of Educational Psychology.
- Cheong YF, Pajares F, Oberman PS (2004). Motivation and academic help-seeking in high school computer science. Computer Science Education.
- Shim SS, Kiefer SM, Wang C (2013). Help seeking among peers: the role of goal structure and peer climate. Journal of Educational Research.
- Shih SS (2007). The role of motivational characteristics in Taiwanese sixth graders’ avoidance of help seeking in the classroom. Elementary School Journal.
- Smalley RT, Hopkins S (2020). Social climate and help-seeking avoidance in secondary mathematics classes. Australian Educational Researcher.
- Chou CY, Chen WH (2025). Identifying student help-seeking behavior patterns and help-seeking tendencies from student problem-solving and help-seeking behavior data: an educational data mining approach. Educational Technology and Society.
