インストラクショナルデザイン——「良い教材」を設計できるのか
同じ内容を教えるのに、教材の作り方で結果が変わる。これは経験的に誰もが知っています。
では——その「作り方」を、原理として書き下せるのでしょうか。
この問いに半世紀取り組んできた分野があります。インストラクショナルデザイン(ID)です。
一言でいうと(この記事の結論)
書き下せます。ただし、書き下された原則のいくつかは追試で消えました。
12の設計原則には効果量がつけられ [1]、29のレビュー・1,189研究を統合したメタメタ分析でも支持されています [2]。
一方で——統制された追試で「様相効果も冗長性効果も消えた」という報告があり [5]、826人の実際の中学校では信号化と冗長性が成り立ちませんでした [6]。
そしてメイヤー自身が2008年に冗長性原理を改訂しています [8]。
結論を先に8点書きます。
- 12の原則それぞれに効果量が報告されています(d = 0.36〜1.67)[1]。
- 29レビュー・1,189研究・78,177名のメタメタ分析が、11原則を支持しています [2]。
- 反証。統制された追試では、様相効果と冗長性効果がともに消えました [5]。
- 反証。826人の実校環境では、様相は成り立ったが信号化と冗長性は成り立ちませんでした [6]。
- メイヤー自身が「冗長な短い語句は、かえって成績を上げた」と報告しています(d = 0.47・0.70)[8]。
- 矛盾は「冗長性」という語を2つに割ることで整理されつつあります [10][11]。
- 設計モデル側では、4C/ID のメタ分析が d = 0.79 を報告しています [14]。
- ただし「小標本・非無作為割付・追跡の短さ」が共通の限界として挙げられています [16]。
なお、これらの原則が認知負荷理論からどう導かれるかは、直接指導と探究学習の記事で扱いました。この記事では導出ではなく、検証の結果を見ます。
1. 12の原則と、その効果量
2017年、この分野の中心人物が12の原則を効果量つきで整理しました(669引用)[1]。
まず出発点となる原則です。
マルチメディア原則——言葉だけより、言葉と図のほうがよく学べる。d = 1.67(5つの実験比較の中央値)
残りの11原則は、3つの群に分けられています。
| 群 | 原則 | 効果量 d |
|---|---|---|
| 余分な処理を減らす | 時間的近接(対応する視覚と言語を同時に) | 1.30 |
| 冗長性(話し言葉と同じ字幕を足さない) | 0.87 | |
| 空間的近接(文字を図の該当箇所の隣に) | 0.79 | |
| 一貫性(余分な素材を避ける) | 0.70 | |
| 信号化(重要な箇所を強調する) | 0.46 | |
| 必要な処理を管理する | 様相(文字ではなく音声で) | 0.72 |
| 分節化(複雑なものを段階的に) | 0.70 | |
| 事前訓練(鍵となる概念の名前を先に) | 0.46 | |
| 生成的処理を促す | 個人化(会話的な言葉づかい) | 0.79 |
| 音声(魅力ある人間の声) | 0.74 | |
| 身体化(身振りをする講師を映す) | 0.36 |
一言でいうと(ここに驚きがあります)
「話し言葉と同じ字幕を出さない」ほうが良い(冗長性、d = 0.87)。
「講師の静止画は出さない、ただし身振りをする講師は映す」(身体化、d = 0.36)。
「会話的な言葉づかいにする」だけで d = 0.79。
——直感に反する原則が、かなり含まれています。
この論文は、境界条件にも触れています。「いくつかの原則には境界条件がある。たとえば、知識の多い学習者よりも少ない学習者で、より強く効く」 [1]。
同じ著者は2021年、これを教育動画の設計原則としても整理し直しています [3]。
2. メタメタ分析——29のレビューを統合する
個別の実験だけでなく、レビューのレビューも行われています。
2021年、『Review of Educational Research』に掲載されたメタメタ分析です(156引用)[2]。
- 29のレビュー、1,189研究、78,177名
- 11の設計原則が、学習に有意で正のメタ分析的効果を示した
- 5つが、認知負荷の管理を有意に改善した
- 最大の効果は——第二言語動画への字幕、時間的・空間的近接、信号化
そして境界条件について、実務に直結する所見が報告されています。
一言でいうと(いつ設計が効くか)
「良い設計は、より複雑な素材において、そしてシステムがペースを決める環境(講義など)において、自分でペースを決める環境(ウェブサイトなど)よりも重要だった」 [2]
——自分で止められる教材なら、多少設計が悪くても学習者が補えます。
止められない教材(授業、動画の一斉視聴)では、設計の悪さが直接効きます。
著者らは「結果は両理論の多くの主張を支持した」と結論しています。
脳波で測ると、どうなるか
設計原則の効果は、多くの場合テストの得点と主観的な負荷の申告で測られてきました。これに対し、脳波(EEG)で直接測った研究があります [28]。
同じ英語教材について、5つの原則(信号化・一貫性・空間的近接・時間的近接・冗長性)を適用した版と、適用しない版を作り、28人の非母語話者を2群に分けました。
- 事後テストでもEEG解析でも、原則を適用した教材のほうが有意に低い認知負荷を課していた
- 最も学習の向上に寄与していたのは、信号化と空間的近接だった
ただし28人です。3節で見た826人の実校研究では、その信号化が成り立ちませんでした [6]。
3. 反証——追試で消えた原則
ここからが、この記事の本題です。
2022年、様相原理と冗長性原理を統制された条件で再検証した研究が発表されました [5]。
著者らの問題意識はこうです。「先行研究ではマルチメディア教材の統制が欠けており、これが妥当性への脅威を生んでいる。ある原則に従っていない単一の事例では、構成概念を代表するのに十分ではない」
そこで、他の設計原則をすべて満たした教材を作り、86人の大学生を3条件に無作為割付しました。
- 図+音声
- 図+文字
- 図+音声+文字
結果です。「保持テストと転移テストのいずれにおいても、3つの入力モード条件のあいだに統計的に有意な差はなかった。したがって、冗長性効果と様相効果はどちらも消失した」
実際の学校では、どうだったか
2020年、826人の中学生を対象に、実際の学校環境で様相・冗長性・信号化の3原則を検証した研究があります [6]。
電気の単元について、事前知識の低い生徒に10種類の条件を割り付けました。
- すべての条件で、生徒はある程度知識を得た
- 様相効果は成り立った
- 信号化原理と冗長性原理は、成り立たなかった
成人学習者を対象にした研究も、同じ方向を報告しています [7]。マルチメディア原理(複数表現 > 単一表現)は支持されましたが、様相と冗長性は支持されませんでした。むしろ「文字と音声を重複させた学習者が、重複のない学習者と同等の成績だった」——逆冗長性が観測されています。
一言でいうと
最も頑健なのは、いちばん単純な原則です。——言葉だけより、言葉と図。
細かい原則になるほど、追試で揺れます。
——この連載で繰り返し当たってきたパターンです。
4. メイヤー自身が、冗長性原理を改訂した
最も興味深いのは、提唱者自身の仕事です。
2008年、『Journal of Educational Psychology』に「マルチメディア学習における冗長性原理の改訂」という論文が掲載されました(322引用)[8]。
大学生に、雷の発生(実験1)と自動車のブレーキの仕組み(実験2)を説明するナレーション付きスライドを見せます。片方の群のスライドには、ナレーションと同一の2〜3語の短い文字が、図の対応する箇所の隣に置かれました。
結果です。
「図の中に短い冗長な語句を含んだ提示を受けた群は、冗長でない群を、その後の保持テストで上回った(d = 0.47 および 0.70)。ただし転移テストでは上回らなかった」
一言でいうと(原則が反転した)
「同じ言葉を字幕で出すな」が冗長性原理でした。
ところが——短く、図の該当箇所の隣に置くと、かえって成績が上がりました。
著者の説明は「冗長な文字が、余分な処理を誘発せずに学習者の注意を導いた」というものです。
——原則が間違っていたのではなく、条件が足りなかったということです。
さらに遡ると、2002年の研究(498引用)が既に条件を特定していました [9]。
「言葉が聴覚のみで提示されるより、聴覚と視覚の両方で提示されたほうが、学習者はよく理解した。ただし、他に同時進行の視覚素材がない場合に限る」
つまり——アニメーションを同時に見せているかどうかで、答えが反転します。
5. 矛盾の解き方——「冗長性」を2つに割る
この混乱を、概念を分割することで整理しようという試みがあります。
2023年、63の実証研究を分類したレビューが発表されました [10]。
- 内容の冗長性(content redundancy)——同じ情報が重複して提示される。処理が二重になり、容量を圧迫する
- 作業記憶チャンネルの冗長性(working memory channel redundancy)——視覚と言語の別々の処理チャンネルに対する、非効率な組み合わせ
この区別で整理すると、結果は次のようになりました。
| 冗長性の型と状況 | 効果 |
|---|---|
| 内容の冗長性(学習者の事前知識に依存) | 正 |
| チャンネル冗長性(図 + 書かれた文字) | 負 |
| チャンネル冗長性(ナレーション + 書かれた文字) | 正 |
同じ年の実験研究も、この区別を支持しています [11]。46人の大学生を対象にした2×2の被験者内計画で——
「内容の冗長性は学習成果を高め、認知負荷を下げた。一方、様相の冗長性は学習成果を下げ、認知負荷を上げた」
一言でいうと(これは良い科学です)
結果が矛盾したとき、概念を分けることで整理がついた例です。
「冗長性」という一つの言葉が別々の現象を指していたため、実験ごとに結果が反転していました。
——語彙研究や実行機能の記事でも見た、構成概念の分割という手続きです。
なお、この効果の歴史を整理した章は、「冗長性効果の歴史は、学術的健忘の歴史である」と書いています [12]。何十年にもわたって、発見され、忘れられ、再発見されることを繰り返してきた——理由として、効果が直感に反することと明確な理論的説明が長らくなかったことが挙げられています。
6. もう一つの系統——設計モデル
ここまでは個々の設計原則の話でした。IDにはもう一つ、設計の手順そのものを扱う系統があります。
1999年から2014年の113本の論文を内容分析した研究は、最も好まれているモデルを特定しています [17]。
- ADDIE——分析・設計・開発・実施・評価
- ARCS——注意・関連性・自信・満足(動機づけの設計)
- ガニェとブリッグス——9つの教授事象
- 4C/ID——4要素インストラクショナルデザイン
- ディックとケアリー
実務家199人への調査(2020年)も、ほぼ同じ顔ぶれを挙げています。ADDIE、遂行ギャップ分析、カークパトリックの評価モデル、アジャイル開発、迅速プロトタイピング、メリルの第一原理、認知負荷オーバーレイ [18]。
メリルの「第一原理」
2002年に提唱され2,117回引用されている第一原理は、諸理論に共通する処方を5つに絞ったものです [19]。
- 学習者が現実世界の問題解決に取り組むとき、学習は促進される
- 既有知識が新しい知識の基盤として活性化されるとき、学習は促進される
- 新しい知識が学習者に示されるとき、学習は促進される
- 新しい知識が学習者によって適用されるとき、学習は促進される
- 新しい知識が学習者の世界に統合されるとき、学習は促進される
提唱者自身は2021年、これを「処方的なインストラクショナルデザイン理論を作ろうとする試み」と位置づけ直しています [20]。
一言でいうと(これは検証可能な主張でしょうか)
「既有知識が活性化されると学習が促進される」——反証するのが難しい命題です。
5つとも、そう書かれれば誰も反対しません。
——1節の12原則が効果量を持っているのとは、性質が違います。枠組みであって、実験的主張ではありません。
「原則」と「モデル」は、証拠の性質が違う
ここで、1節と6節の違いをはっきりさせておきます。
一言でいうと
原則は実験的な主張です。だから消えることがあります。
モデルは手順の処方です。だから消えません——検証されないからです。
——消えない主張のほうが立派に見えますが、逆です。反証可能性がないだけです。
7. 4C/ID——効果量が報告されている設計モデル
設計モデルの中で、効果量が統合されている数少ない例が 4C/ID です。
このモデルは複雑な技能の習得を対象とし、教育プログラムを常に4つの要素から構成できると主張します [21]。
- 学習課題(全体としての現実的な課題)
- 支援的情報
- 手続き的情報
- 部分課題の練習
目標基盤型のアプローチが課題を個別の学習目標に分解するのに対し、4C/IDは「全体の、現実の課題」から設計を始めます [22]。
2021年のメタ分析は、20年以上の適用研究を統合しました [14]。
「4C/IDで開発された教育プログラムの使用は、遂行に高い影響を持つ(d = 0.79)。学問領域、研究の設計、アウトカム(知識および複雑技能)にかかわらず」
ただし学年段階が有意な調整変数で、高等教育段階でより適していると報告されています。
教師研修に絞った2025年の系統的統合(55研究)は、g = 0.76(SE = 0.31、p = 0.014)という中程度の正の効果を報告しました。ただし著者らは「4C/IDモデルに言及する多くの研究が、その実施の詳細な記述を欠いている」と述べています [15]。
2026年の高等教育に絞った系統的レビュー(14研究・1,109名)は、限界をより明確に挙げています [16]。
- 一貫した遂行と転移の向上が示された
- 足場を段階的に外す設計が、余分な負荷を減らした
- ただし内在的負荷は、全体課題学習の初期に高かった
- 共通の限界——小さな標本、無作為でない割付、追跡の短さ
一言でいうと(設計モデルの中では最も検証されている)
4C/ID は「効果量が報告されている数少ない設計モデル」です。d = 0.79、教師研修では g = 0.76。
ただし——「実施の詳細な記述を欠いている」研究が多いとされています [15]。
——32本目の授業研究で見たのと、同じ問題です。「そのモデルでやった」と書いてあるが、中身がばらばら。
8. ADDIE に、証拠はあるのか
最も広く使われているモデルについて、正直に書きます。
ADDIE は3,177回引用されている枠組みです [23]。実務家調査でも最も広く使われています [18]。
2022年、ADDIEの有効性を検証するメタ分析が試みられました [24]。
58本の論文のうち、メタ分析に適していたのは23本でした。
結論は「ADDIEモデルは、あらゆるオンライン教育環境において、異なる指導上の要求に適合する」「良い指導実践の追加的な情報源として価値がある」というものです。
一言でいうと(これは効果の証拠ではありません)
ADDIEを評価した研究の多くは、単一クラスの事前事後比較です。
「ADDIEで設計した授業を受けた群のほうが、統制群より成績が良かった」——という形の研究はありますが [25]、それは「丁寧に設計された授業のほうが良い」ことの証拠であって、ADDIEという手順が最良であることの証拠ではありません。
——比較対象が「何もしない」である限り、この区別はつきません。
モデル間を比較しようとした研究もありますが、その手法は質的指標による机上のベンチマーキングでした [26]。実験的な比較ではありません。
9. 境界条件——誰に、何に効くのか
設計原則が効く条件について、繰り返し出てくる3点を整理します。
(1) 事前知識が少ない学習者ほど、効く
1節のとおり「知識の多い学習者よりも少ない学習者で、より強く効く」 [1]。これは熟達化逆転効果と同じ構造です。
(2) 素材が複雑なほど、効く
2節のとおり「良い設計は、より複雑な素材において、より重要だった」 [2]。
(3) 学習者がペースを決められない環境ほど、効く
同じく2節。講義や一斉視聴では設計の悪さが直撃し、自分で止められる教材では学習者が補えます [2]。
読み書きに困難がある子どもでは
ディスレクシアのある11歳児26名と、通常の読み手38名を比較した研究があります [13]。
- 学習時間については、様相効果と逆冗長性効果が見られた——ディスレクシアのある子は、文字条件で学習に時間がかかった
- 知識の獲得については、様相効果も冗長性効果も認められなかった
- 作業記憶の差は、これらの効果に影響しなかった
著者らの結論は「ディスレクシアのある子どもには、音声または聴覚的な支援を提供するほうが効率的である」——成果ではなく効率の話です。
なお、VR・AR環境については検証がまだ薄い領域です。136本を対象としたレビューは「VR環境で原則の一つを検証した研究は5本のみ、AR環境では皆無」と報告していました [4]。その後ARでの検証も出ており、様相原理は支持されています [27]。
一言でいうと(3つの境界条件は、同じ方向を指しています)
学習者が自力で補えない状況ほど、設計が効く。
知識が少ない、素材が複雑、自分で止められない——いずれも「学習者の余力がない」状況です。
——逆に言えば余力のある学習者には、設計の良し悪しはあまり効きません。これは熟達化逆転効果そのものです。
日本語という条件
最後に、日本語の読者に関わる限界を一つ。
ここで挙げた原則の多くはアルファベット表記の言語で検証されています。日本語は漢字・ひらがな・カタカナが混在し、表意文字を含みます。
たとえば様相原理——「文字ではなく音声で」——は、文字を読む負荷が言語によって違うなら、効果の大きさも違いうるはずです。漢字は一語をまとまりとして読めるため、読解の負荷が音声より低い場面も考えられます。
これは当塾の推測であり、検証された主張ではありません。ただし「英語圏で得られた効果量を、そのまま日本語の教材に当てはめられる」という前提にも、根拠はありません。
10. 塾と家庭で、何が使えるか
ここからは、上の知見を当塾の実務に翻訳した部分です。研究が直接そう言っているわけではない箇所は、そう明示します。
(1) 言葉だけの説明をしない
1節のとおり、最も頑健で最大の効果量はマルチメディア原則(d = 1.67)です [1]。口頭説明だけで済ませず、図を描く。
(2) 図と文字を離さない
空間的近接 d = 0.79 [1]、メタメタ分析でも最大級の効果 [2]。板書で図と説明を別の場所に書かない。
(3) 重要な箇所を強調する
信号化 d = 0.46 [1]。ただし826人の実校環境では成り立ちませんでした [6]。効果は確実ではありません。
(4) 装飾的な図・逸話を削る
一貫性 d = 0.70 [1]。興味を引くための脱線は、学習を妨げることがあります。
(5) 話しかけるような言葉づかいにする
個人化 d = 0.79 [1]。費用ゼロで、効果量は空間的近接と同じです。
(6) 字幕・板書の重複は、条件次第と考える
3節・4節・5節のとおりです。短く、図の該当箇所の隣に置くなら、かえって良い [8]。アニメーションを同時に見せているときは、悪い [9]。
(7) 動画教材は「止められる」ようにする
9節のとおりです [2]。これは当塾の実務判断です——止められるなら、設計が完璧でなくても学習者が補えます。
一言でいうと(優先順位をつけるなら)
(1)(2)(4)(5) は効果量が大きく、追試でも比較的安定しています。——図を描く、離さない、余計なものを足さない、話しかけるように言う。
(3)(6) は揺れています。強調と重複は、条件次第です。
——迷ったら、揺れていないほうから手をつけてください。
11. この記事で言えないこと
- 「設計原則は効かない」とは言えません。29レビュー・1,189研究のメタメタ分析が11原則を支持しています [2]。
- 「12の原則はすべて確立している」とも言えません。様相・冗長性・信号化は追試で揺れています [5][6][7]。
- 効果量 d = 1.67 のような値は、実験室の統制条件で得られたものです。教室でそのまま再現するとは限りません。
- ADDIE に「手順として最良である」証拠はありません。比較対象が「何もしない」である研究がほとんどです [24][25]。
- 4C/ID の効果量には、小標本・非無作為割付・追跡の短さという限界があります [16]。
- メリルの第一原理は、実験的主張ではなく枠組みです [19]。
- 日本語という言語での検証は薄い領域です。ここで挙げた研究のほとんどは英語圏のものです。
- VR・AR環境での検証は、まだ始まったばかりです [4][27]。
- 10節の運用は当塾の実務判断です。
当塾の立場
先に、この記事が当塾にとって不都合な部分を書きます。
塾はオリジナル教材を売ります。「当塾独自の教材」「専用カリキュラム」。教材は、他塾との違いを説明するのに最も使いやすい材料です。
しかし——8節のとおり、「丁寧に設計した」ことの証拠と「その設計手順が最良である」ことの証拠は、別物です。比較対象が「何もしない」である限り、区別はつきません。
当塾のオリジナル教材が、市販の良質な問題集より優れているという証拠は、当塾にはありません。あるのは「その子に合わせて選び、順序を変えている」という説明だけです。
この記事の内容は、塾に来なくても実行できます
家庭でできることを書きます。費用はかかりません。
- 説明するとき、必ず紙に図を描く——最も頑健で最大の原則(d = 1.67)
- 図と説明の文字を、離して書かない——同じ紙の、同じ箇所に
- 面白くしようとして、関係のない話を足さない——一貫性の原則。よかれと思ってやることです
- 「〜します」ではなく「〜してみようか」と話しかける——個人化。費用ゼロで d = 0.79
- 動画教材は、止めながら見せる——止められる環境では、設計の粗さを学習者が補えます
これを読んで、塾に通わずに実行する方がいるなら、それでいいと考えています。自分で回せる家庭が月謝を払う必要はありません。
それでも塾に通いたい方へ
塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。理由を3つ書きます。
- オリジナル教材を優位性として主張しないこと。8節のとおりです。「独自教材」は、塾が最も作りやすく、最も検証されていない差別化です。当塾は市販教材も普通に使います。選び方と順序に意味があると考えているからです。
- 事前知識の少ない段階ほど、設計に手をかけること。9節のとおり、原則は知識の少ない学習者で強く効きます [1]。つまずいている単元ほど、図を描き、順序を組み直す価値があります。
- 原則の効果量が揺れていることを、隠さないこと。3節のとおり、様相・冗長性・信号化は追試で消えることがあります。「科学的に設計された教材です」と言い切る塾があれば、どの原則の話かを聞いてみてください。
塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。
- オリジナル教材は、市販教材と比べて何が違いますか
- うちの子の場合、どの順序で進める予定ですか。その理由は
- 説明のとき、図はどれくらい描きますか
当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。
まとめ
- 12の設計原則に、効果量がつけられている(d = 0.36〜1.67)[1]。
- 最大かつ最も頑健なのはマルチメディア原則——言葉だけより、言葉と図(d = 1.67)。
- 29レビュー・1,189研究・78,177名のメタメタ分析が、11原則を支持 [2]。
- 良い設計は、複雑な素材で、そして学習者がペースを決められない環境で、より重要 [2]。
- 反証。統制された追試で、様相効果と冗長性効果がともに消失 [5]。
- 反証。826人の実校環境で、信号化と冗長性は成り立たなかった [6]。
- メイヤー自身が改訂——短い冗長な語句は、かえって保持を高めた(d = 0.47・0.70)[8]。
- 条件は「他に同時進行の視覚素材がないこと」 [9]。
- 矛盾は「内容の冗長性」と「チャンネルの冗長性」を分けることで整理されつつある [10][11]。
- 「冗長性効果の歴史は、学術的健忘の歴史である」 [12]。
- 設計モデルでは 4C/ID が d = 0.79。ただし小標本・非無作為割付・追跡の短さ [14][16]。
- ADDIE には「手順として最良である」証拠がない。比較対象が「何もしない」である [24]。
- そして——原則は、事前知識の少ない学習者にこそ強く効く [1]。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
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教育学・認知心理学・社会心理学・行動経済学・教育経済学の研究をもとにした連載です。
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