机に向かって10分もたたないうちに、手がスマホへ伸びている。声をかければ「見てない」と返ってくる。取り上げれば静かになるが、翌日には同じことが起きる——この繰り返しに疲れている家庭は多いはずです。
この記事は、スマホの害を煽ることも、擁護することもしません。結論から言えば、研究が示している影響は多くの人が思っているより小さく、しかも研究どうしで食い違っています。ある実験では机の上に置いてあるだけで成績が落ち、別の実験では同じ手続きで何も起きませんでした。学校ごと持込を禁じた国の自然実験でも、成績が上がったという報告と、上がらなかったという報告の両方があります。
それでも「何もしなくてよい」という結論にはなりません。効果が小さいということは、手間と衝突の少ない運用だけを選んで淡々と続けるのが合理的だということです。この記事で決めるのは、取り上げるかどうかの二択ではなく、置き場所・記録・通知・家族の合意・破ったときの扱いという5つの運用です。順に決めれば、その日のうちに家庭の取り決めが1枚にまとまります。
この記事の結論
- 「机の上に置かない」は、効果が小さくても、費用がほぼゼロなのでやる価値がある。統合解析の全体効果は g = -0.14 程度で、記憶課題以外では統計的に有意ですらない。期待値を大きく見積もらないこと。
- 使用時間と成績の相関も小さい(r = -0.12 程度)。しかも観察研究なので、使用時間が長い子はもともと睡眠・家庭の状況・学力が違う可能性を差し引く必要がある。
- まず7日分の実測値を見る。本人も保護者も、自己申告では実際の使用時間を当てられない。端末が自動で記録している数字から始める。
- 意志ではなく状況を変える。「気をつける」より「別の部屋に置く」のほうが続く。これは自己制御研究が繰り返し指摘してきた点である。
- 取り上げるのではなく、運用を決めて、決めた日に見直す日も決める。学校単位の禁止は在校中の使用を減らしても1日の総使用時間は変えなかった。制限は「量」ではなく「場所」に効く。
「そこにあるだけで頭が鈍る」は、どこまで本当か
よく引かれるのは、机の上にスマホが置いてあるだけで作業記憶の成績が下がったという実験です。ウォード(Ward)らは、通知を見ていなくても、我慢して触らずにいても、端末がそこにあるだけで使える認知資源が減ると報告しました。依存の程度が高い人ほど損失が大きい、という但し書きもついています。
Ward AF, Duke K, Gneezy A, Bos MW. Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. J Assoc Consum Res. 2017;2(2):140-154.
この主張は広く引用されましたが、追試は割れています。ハルトマン(Hartmann)らは短期記憶と展望記憶(あとでやることを覚えておく力)で同じ操作を試し、全体としては効果が無かったと報告しました。さらに、事前登録つきの直接追試も行われています。ルイス・パルド(Ruiz Pardo)とミンダ(Minda)は、置き場所(机の上・ポケットやかばんの中・別室)と電源の入切を組み合わせた6条件で元の実験を再現しようとしましたが、条件間に差は見つかりませんでした。
Ruiz Pardo AC, Minda JP. Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychol. 2022;230:103717.
では全体としてどうなのか。ベットガー(Böttger)らは22件の研究・43の効果をまとめ、統合効果を g = -0.14(95%信頼区間 -0.24 〜 -0.03)と算出しました。方向は「置いてあると悪い」ですが、大きさは小さく、研究間のばらつきも大きい(I2 = 61.84)ものでした。領域を分けると、有意だったのは記憶だけ(g = -0.23、95%信頼区間 -0.36 〜 -0.10)で、注意(g = -0.07、95%信頼区間 -0.21 〜 0.06、p = 0.29)と全般的な認知成績(g = 0.10、95%信頼区間 -0.52 〜 0.72、p = 0.76)は有意になりませんでした。
Böttger T, Poschik M, Zierer K. Does the Brain Drain Effect Really Exist? A Meta-Analysis. Behav Sci. 2023;13(9):751.
同じ統合解析の付表を見ると、元になったウォードらの実験自体の効果は g = -0.17(95%信頼区間 -0.47 〜 0.12)と g = -0.25(95%信頼区間 -0.58 〜 0.09)で、どちらも信頼区間がゼロをまたいでいます。追試側の4つの効果も -0.17、-0.08、-0.03、0.14 と、正負が混ざっていました。地域差も大きく、統合効果が有意だったのはアジアの研究群だけ(g = -0.39)で、北米(g = -0.03)と欧州(g = -0.20)では有意になっていません。なお、スコウロネク(Skowronek)らのように、20代から30代前半を対象に注意課題で低下を確認した報告もあり、「無い」と言い切れる状況でもありません。
ここから引き出せる運用は、ひとつだけです。「机の上に置かない」は、やっても失うものが無く、うまくいけば記憶課題で小さな得がある。だからやる。ただし、これで成績が変わると期待してはいけません。期待しすぎると、効果が出なかったときに「守っても意味がなかった」と本人が学習してしまい、次の取り決めが通らなくなります。
使用時間と成績——相関は小さく、因果は弱い
「1日何時間までにすべきか」という問いには、研究は明確に答えていません。大学生を対象にした統合解析では、スマホへの依存傾向と学業成績の相関は r = -0.12 でした。44件の研究・45の効果、16か国、合計 147,943 名という大きな規模ですが、相関そのものは小さいものです。
Sunday OJ, Adesope OO, Maarhuis PL. The effects of smartphone addiction on learning: A meta-analysis. Comput Human Behav Rep. 2021;4:100114.
さらに重要なのは、これが観察研究の集まりだということです。スマホの使用時間が長い生徒は、睡眠時間・家庭の状況・もともとの学力・学校への通いやすさなど、他の条件もまとめて違っていることが多い。つまり「スマホを減らせば成績が上がる」という向きの因果は、この数字からは出てきません。逆向き——成績が落ちて勉強がつまらなくなった結果、スマホの時間が伸びる——も同じデータで説明がつきます。
ただし、同じ統合解析には「勉強しながら使う頻度が高いほど悪影響が大きい」という傾向も報告されています。総量の管理より、勉強している最中に手が届くかどうかを設計するほうが、根拠との相性がよいということです。
手順1: まず7日分の実測値を見る
取り決めを作る前に、現状の数字を取ります。ここを飛ばすと、話し合いが「使いすぎだ」「使ってない」の水掛け論になります。
自己申告が当てにならないことは、はっきりしています。パリー(Parry)らは、端末のログと自己申告を同時に測った研究を106の効果量にまとめ、両者の相関は中程度にとどまり、自己申告が実際の使用を正確に表していることはまれだったと報告しました。つまり、本人が嘘をついているのではなく、人間は自分の使用時間を正しく見積もれないということです。
- 端末の使用時間記録の画面を開き、直近7日間の1日あたりの平均を書き出す。
- 内訳の上位3つのアプリと、それぞれの時間を書き出す。
- 「持ち上げた回数」「通知の数」が表示されるなら、それも書き出す。
- その数字を、本人と保護者が同じ画面で一緒に見る。この段階では評価も注意もしない。
- 紙に「平日の勉強時間」と並べて書く。減らす相談は、この2つの数字が並んでからにする。
学年による違いはここに出ます。小学生は保護者が一緒に画面を開けば済みます。中学生は「見せる」こと自体が争点になりやすいので、数字を見る目的(責めるためではなく、取り決めを作るため)を先に言葉にしておく。高校生は本人だけで記録し、結果の要約だけを共有する形でも構いません。記録を取る作業そのものを他人にやらせると、取り決めが自分のものになりません。
手順2: 置き場所を決める——意志ではなく状況を変える
自己制御の研究で繰り返し指摘されてきたのは、誘惑が強くなってから我慢するより、誘惑が立ち上がる前に状況を変えるほうが楽で、続くということです。ダックワース(Duckworth)らは、この「状況的自己制御」を、衝動が育つ時間軸のどこで手を打つかという枠組みで整理しました。論文の中で挙げられている例のひとつが、「携帯電話を持たずに図書館へ行く学生」です。
Duckworth AL, Gendler TS, Gross JJ. Situational Strategies for Self-Control. Perspect Psychol Sci. 2016;11(1):35-55.
「気が散らないように気をつける」は、衝動が立ち上がったあとに戦う方法です。「別の部屋に置く」は、立ち上がる前に手を打つ方法です。どちらが続くかは、やってみればすぐ分かります。
- 勉強する場所から手が届かない置き場所を1か所だけ決める(玄関の棚、台所、保護者の部屋など)。家の中で1か所に統一する。
- そこに置く時刻を決める。「勉強を始めるとき」ではなく「夕食が終わったら」のように、既に毎日起きている出来事に紐づける。始める意志に依存させない。
- 取りに行ってよい時刻を決める。「終わったら」ではなく時刻で決める。終わりの判定は本人と保護者で食い違うため。
- 例外を先に決める(部活の連絡、塾の送迎、調べもの)。例外が無い取り決めは、最初の例外で全部崩れる。
- 調べものに使うなら、調べる項目を紙に書き出してから手に取り、書いた項目が終わったら戻す。
学年の目安としては、小学生は置き場所を保護者が管理して構いません。中学生は置き場所を本人に選ばせ、場所だけ固定する。高校生は連絡手段としての必要度が上がるので、取り上げるより「勉強中は別室」の一点に絞るほうが現実的です。
手順3: 通知を減らす——ここは根拠が薄いと知ったうえで
正直に書きます。「通知を切ると成績が上がる」ことを直接示した質の高い研究は、私たちが確認できた範囲にはありませんでした。ここで頼れるのは、前の節までの一般的な知見——手元にあると記憶課題で小さな損があること、勉強中の使用頻度が高いほど成績との負の関連が強いこと——だけです。したがって以下は、費用がほぼゼロで、害が考えにくいから勧めるという性質の手順です。
- アプリごとの通知を、1つずつ「切る/残す」に分ける。全部切るのではなく、残す理由を言えるものだけ残す。
- 残すのは、届かないと困る相手(家族・学校・塾)からの連絡だけにする。
- 画面に出る点や数字(未読の印)も消せるなら消す。内容が見えなくても、印があるだけで気になるという訴えは非常に多い。
- 就寝前の一定時間は、通知そのものを止める設定にする。翌朝まとめて見る。
- 取り決めを紙に書いて、端末の置き場所に貼る。設定は簡単に戻せるので、戻したときに気づける形にしておく。
特定のアプリや制限ツールの商品名は、この記事では挙げません。どれが効くかを比べた信頼できる研究が無いからです。端末に最初から入っている機能で足ります。
学校の持込禁止から、家庭が学べること
学校単位の禁止は、家庭の取り決めを考えるうえで参考になる自然実験です。ベランド(Beland)とマーフィー(Murphy)は、イングランドの4都市の学校に携帯電話の方針を尋ね、行政データと組み合わせて、禁止の前後で試験成績が上がったこと、しかもその上昇が成績下位層で大きかったことを報告しました。低費用で教育格差を縮められる政策だ、という結論です。
ところが、同じ手法をスウェーデンに当てはめたケッセル(Kessel)らは、成績への影響を見つけられませんでした。学校の回答率を約75%まで上げたうえで、「小さな効果すら棄却できる」と書いています。同じ設計で国を変えると、結論が反転したことになります。
より新しい大規模調査も、禁止に慎重な材料を出しています。イングランドの中等学校30校(禁止20校・許可10校)の生徒1,227名を比べた研究では、心の健康度の指標に差の証拠はありませんでした(調整済み平均差 -0.48、95%信頼区間 -2.05 〜 1.06、p = 0.62)。一方で、在校中のスマホ使用時間(-0.67 時間、95%信頼区間 -0.92 〜 -0.43)とSNS使用時間(-0.54 時間、95%信頼区間 -0.74 〜 -0.36)は禁止校のほうが短く、しかし平日・週末の総使用時間には差の証拠がありませんでした。
Goodyear VA, Randhawa A, Adab P, et al. School phone policies and their association with mental wellbeing, phone use, and social media use (SMART Schools): a cross-sectional observational study. Lancet Reg Health Eur. 2025;51:101211.
研究の全体像を見渡した総説も、慎重です。キャンベル(Campbell)らは、この論点に関する22件の研究を精査し、無作為化比較試験が1件も無いこと、設計も対象も「禁止」の定義も測る指標もばらばらで、結果をつき合わせること自体が難しいことを指摘しました。
家庭への含意は明快です。制限は「どこで使うか」を変えるが、「どれだけ使うか」は変えない。だとすれば、家庭で管理すべきは1日の合計時間ではなく、勉強している時間帯に手が届くかどうかです。総量を削る取り決めは守られにくく、守られても効果が確認されていません。
手順4: 家族で決める、そして破ったときをあらかじめ決める
取り決めが崩れる原因のほとんどは、内容ではなく決め方です。一方的に決めた規則は、守らせる側が見ていない時間に無効化されます。
- 数字を見てから話す。手順1の記録を机に置いて始める。印象で話し始めない。
- 決めるのは3つだけにする——置き場所、置く時刻、取りに行ってよい時刻。最初から多くを決めない。
- 本人に文言を書かせる。保護者が書いた紙は他人の規則になる。
- 見直す日を同時に決める。二週間後を推奨します。「とりあえずやってみて、その日に直す」と分かっていると、本人が反対しにくくなります。
- 破ったときの扱いを、破る前に書いておく。没収の期間を決めておくのか、翌日の置き時刻を早めるのか。その場の怒りで決めると、罰の重さが日によって変わり、取り決めそのものへの信用が落ちます。
- 守れた日の記録も残す。守れなかった日だけを数えると、本人の側に「どうせ守れない」という結論だけが残ります。
破ったときに取り上げる期間を長くすることの効果を検証した研究は、確認できませんでした。したがって罰の設計は、根拠ではなく「家庭が実際に運用できるか」で決めてください。運用できない罰は、宣言された瞬間から効きません。
この記事で言えないこと
第一に、スマホを減らせば成績が上がる、とは言えません。使用時間と成績の関連は小さく(r = -0.12 程度)、そのほとんどが観察研究です。使用時間の長い生徒は他の条件も違うため、この数字から因果の向きは決まりません。
第二に、「そこにあるだけ」の効果は、大きくも安定してもいません。統合効果は g = -0.14 で、記憶以外の領域では統計的に有意ですらなく、地域によって結論が変わり、事前登録つきの直接追試では再現されませんでした。この記事が「机の上に置かない」を勧めるのは、効果が確かだからではなく、費用がゼロだからです。
第三に、学校の持込禁止の効果は、国によって正反対の結果が出ています。無作為化比較試験は存在せず、「禁止」の定義も研究ごとに違います。家庭の取り決めを、これらの研究が支持していると言うことはできません。
第四に、通知の切り方・置き場所・破ったときの扱いといった具体的な手順を、直接検証した研究は見つかりませんでした。この記事の手順は、費用と害の小ささで選んだものであり、効果が測られたものではありません。
最後に、睡眠が極端に短い、気分の落ち込みが続く、使用を止められず生活が回らないといった状態は、取り決めの問題ではありません。その場合は学校や、必要に応じて医療機関などの専門の窓口に相談してください。この記事は健康上の助言ではありません。
当塾の立場
ここまでの手順は、塾に通わなくても家庭だけで実行できます。必要なのは端末の使用時間記録の画面と、紙1枚と、二週間後にもう一度話す時間だけです。費用もかかりません。まずご家庭で試してください。この記事の内容を実行するために、どこかへ通う必要はありません。
そのうえで、武蔵野個別指導塾が役に立つ場面も申し上げます。今回見てきた研究から言えるのは、効きそうなのは「勉強している時間帯に端末が手の届くところに無い」という状態であって、1日の総使用時間ではないということでした。そして学校単位の禁止の研究が示したのは、制限は使う場所を動かすだけで総量を変えない、ということです。つまり必要なのは、禁止の強さではなく、端末が手元に無い時間帯が実際に存在することです。決まった時刻に家を出て、机に向かい、講師と向かい合っている時間は、それ自体が「手の届かない置き場所」として機能します。取り決めを守らせる役を保護者が一人で背負わずに済む、という副次的な効果もあります。ご家庭での運用が続かなかったときの選択肢のひとつとして、お考えいただければと思います。
関連する研究の解説
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出典
- Ward AF, Duke K, Gneezy A, Bos MW. Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. J Assoc Consum Res. 2017;2(2):140-154.
- Skowronek J, Seifert A, Lindberg S. The mere presence of a smartphone reduces basal attentional performance. Sci Rep. 2023;13(1):9363.
- Hartmann M, Martarelli CS, Reber TP, Rothen N. Does a smartphone on the desk drain our brain? No evidence of cognitive costs due to smartphone presence in a short-term and prospective memory task. Conscious Cogn. 2020;86:103033.
- Ruiz Pardo AC, Minda JP. Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychol. 2022;230:103717.
- Böttger T, Poschik M, Zierer K. Does the Brain Drain Effect Really Exist? A Meta-Analysis. Behav Sci. 2023;13(9):751.
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- Parry DA, Davidson BI, Sewall CJR, Fisher JT, Mieczkowski H, Quintana DS. A systematic review and meta-analysis of discrepancies between logged and self-reported digital media use. Nat Hum Behav. 2021;5(11):1535-1547.
- Beland LP, Murphy R. Ill Communication: Technology, distraction and student performance. Labour Econ. 2016;41:61-76.
- Kessel D, Hardardottir HL, Tyrefors B. The impact of banning mobile phones in Swedish secondary schools. Econ Educ Rev. 2020;77:102009.
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- Campbell M, Edwards EJ, Pennell D, et al. Evidence for and against banning mobile phones in schools: A scoping review. J Psychol Couns Sch. 2024;34(3):242-265.
- Duckworth AL, Gendler TS, Gross JJ. Situational Strategies for Self-Control. Perspect Psychol Sci. 2016;11(1):35-55.
