運動を勉強に組み込む|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

「勉強の前に体を動かすと頭が働く」という話を聞いて試してみたものの、三日で終わった——という声をよく聞きます。運動と学習の関係は研究の数が多く、見出しだけを読むと「運動すれば成績が上がる」と言っているように見えます。ところが原典の抄録にあたると、効果量はおおむね小さく、3年かけた大規模な試験では学力に差が出ませんでした。

この記事は運動そのものを勧めるものではありません。研究が示した範囲で、1日のどこに、どのくらいの体の動かし方を置くと、直後の勉強がやりやすくなる見込みがあるのかを、手順に変えるためのものです。効果が出なかった研究も、出た研究と同じ分量で扱います。

はじめにお断りします。持病のある方、治療中の方、けがや故障を抱えている方は、運動の種類と量について必ず医療機関に相談してください。ここに書くのは公表された研究の要約であって、運動の処方ではありません。

この記事の結論

  • 1回の運動が直後の認知課題に与える効果は小さい。79本のメタ分析で g=0.097 でした(チャン(Chang)ら)。「頭がすっきりした」という実感の大半は、この程度の差の上に乗っています。
  • ただし子どもに限れば、もう少し動きます。中強度の有酸素運動の直後、思春期前の子どもの反応時間で g=0.54 でした(ルディガ(Ludyga)ら)。速さを問う課題ほど動き、正確さはあまり動きません。
  • 学力そのものへの効果は小さい。介入研究26本・10,205人のメタ分析で、算数 0.21、読解 0.13、言語系は 0.16 で信頼区間が0をまたぎます(アルバレス-ブエノ(Álvarez-Bueno)ら)。
  • いちばん大きく動くのは「席に着いて課題に向かっていられるか」です。在席行動の効果量は 0.77、別のメタ分析でも 0.60。成績より先に態度が変わります。
  • それでも、3年間の学校単位の無作為化試験では学力に差が出ませんでした(ドネリー(Donnelly)ら)。運動を足せば成績が上がる、とは言えません。運動は勉強の代わりではなく、勉強に向かう条件を少し整える道具です。

1回の運動で何が変わり、何は変わらないか

まず、1回だけ体を動かしたときの話から始めます。ここが実践に直結するからです。79本の研究を集めたメタ分析では、1回の運動が認知課題の成績に与える効果は全体で g=0.097 と報告されています。運動の最中が 0.101、運動直後が 0.108、しばらく置いてからが 0.103 で、いずれも小さい値です。

Chang YK, Labban JD, Gapin JI, Etnier JL. The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis. Brain Research. 2012;1453:87-101.

この数字を見て「意味がない」と切り捨てる必要はありません。同じ論文は、運動の長さ、強度、測った課題の種類、本人の体力が、効果の大きさを左右すると報告しています。つまり平均が小さいのは、効く条件と効かない条件が混ざっているからでもあります。

年齢で分けると、子どもでは値が上がります。40本の実験を集めたメタ分析では、中強度の有酸素運動の後、反応時間で g=0.35、正確さで g=0.22。思春期前の子どもだけを取り出すと反応時間で g=0.54、高齢者では g=0.67 でした。体力の高い低いは効果の大きさに影響していません。体力がないから効かない、ということはなさそうだ、という読み方ができます。

Ludyga S, Gerber M, Brand S, Holsboer-Trachsler E, Pühse U. Acute effects of moderate aerobic exercise on specific aspects of executive function in different age and fitness groups: A meta-analysis. Psychophysiology. 2016;53(11):1611-1626.

具体的な形が知りたい方のために、よく引かれる実験を1つ挙げます。9歳半前後の子ども20名に、推定最大心拍数の60%の速さでトレッドミルを20分間歩かせ、心拍が運動前の水準の10%以内に戻ってから課題をやらせたところ、注意課題の正答率と学力テストの成績が、安静のときより良くなりました。ヒルマン(Hillman)らの研究です。参加者が20名の小さな実験であり、これ1本で何かが決まるわけではありませんが、「中強度・20分・心拍が落ち着いてから」という形の目安にはなります。

続けたときに学力は上がるのか

次に、続けた場合です。ここから先は、期待していたほどの結果が出ていません。

4歳から13歳までの10,205人を含む介入研究26本のメタ分析では、算数系の技能で 0.21(95%信頼区間 0.09〜0.33)、読解で 0.13(0.02〜0.24)、総合点で 0.26(0.07〜0.45)。言語系の技能は 0.16 で、信頼区間が -0.06〜0.37 と0をまたいでいます。教育の介入としては小さい部類です。

Álvarez-Bueno C, Pesce C, Cavero-Redondo I, Sánchez-López M, Garrido-Miguel M, Martínez-Vizcaíno V. Academic Achievement and Physical Activity: A Meta-analysis. Pediatrics. 2017;140(6):e20171498.

算数に絞った系統的レビューでも似た水準です。29本の研究・11,264人のうち、全体として良い結果が出たのは13本(45%)、差が出なかったのが15本(52%)。メタ分析に足る11本をまとめた効果量は 0.23 でした。スネック(Sneck)らの報告です。

そして、最も規模の大きい検証の1つが、学力に差を出していません。米国カンザス州の小学校17校を学校単位で無作為に振り分け、教科の授業そのものを中強度から高強度の身体活動でやる方式を3年間続けた試験です。目標は週100分、実際に届いたのは週55分でした。学力(算数・読解・つづり)は両群とも伸びましたが、群と時間の交互作用は有意ではなく、介入の効果は認められませんでした。

Donnelly JE, Hillman CH, Greene JL, et al. Physical activity and academic achievement across the curriculum: Results from a 3-year cluster-randomized trial. Preventive Medicine. 2017;99:140-145.

研究の質で絞ると、話はさらに慎重になります。58本の介入研究のうち方法論の質が高いと判定されたのは11本(19%)だけで、そこでも認知面は21の指標のうち10(48%)、学業面は25の分析のうち15(60%)でしか有意差が出ていません。算数に限ると7つのうち6つ(86%)で良い結果が出ており、シン(Singh)らは「全体としては結論が出ていないが、算数については強い証拠がある」と結論しています。米国スポーツ医学会の見解も、対照つきの実験では結果がまちまちだ、という言い方をしています(ドネリー(Donnelly)らの2016年の見解書)。

1日のどこに挟むか——3つの置き場所

研究の形に合わせると、運動を置ける場所は3つに整理できます。それぞれ、期待できることが違います。

  1. 勉強を始める直前。中強度で体を動かし、心拍が落ち着いてから机に向かう形です。ヒルマン(Hillman)らやルディガ(Ludyga)らが調べたのがこの形で、期待できるのは注意の持ち直しであって、記憶の定着ではありません。効果は長く続きません。
  2. 勉強の合間の休憩。座ったままの休憩を、体を動かす休憩に替える形です。後で述べるとおり、これは成績よりも「席に戻れるか」に効きます。
  3. 覚えた数時間後。ここだけ性質が違います。絵と場所の組み合わせを覚えた後、運動を「すぐ」やった群、「4時間後」にやった群、やらなかった群を比べた実験では、48時間後の記憶が良かったのは4時間後の群だけでした。すぐやった群は、やらなかった群と変わりませんでした。

van Dongen EV, Kersten IHP, Wagner IC, Morris RGM, Fernández G. Physical Exercise Performed Four Hours after Learning Improves Memory Retention and Increases Hippocampal Pattern Similarity during Retrieval. Current Biology. 2016;26(13):1722-1727.

この3つ目は成人を対象にした1本の実験であり、子どもで同じことが起きるかは分かっていません。ただ「覚えたらすぐ動く」より「覚えて、しばらく置いてから動く」ほうが良かったという結果は、部活や習い事の時間割を考えるときの見方を変えます。夕方に部活がある日は、その4時間ほど前、つまり昼前後に暗記物を置く、という組み方が一応は理屈に合います。断定はできません。

強度と長さをどう決めるか

「どのくらい」を決める数字は、研究からは1つに定まりません。先ほどのメタ分析が「長さと強度は効果を左右する」と言っている以上、自分で確かめるしかない、というのが正直なところです。次の順で決めてください。

  1. やる内容を1つに決める。歩く、階段を上り下りする、縄跳びをする、自転車をこぐ。どれでも構いません。器具を買う必要はありません。
  2. 強度の目安を「会話ができるが歌えない」に置く。ヒルマン(Hillman)らが使ったのは推定最大心拍数の60%で、これはおおよそこの感覚に当たります。息が上がりきる強さは、この用途では狙いません。
  3. 長さは20分から始める。もっと短くても構いませんが、比べるために毎回そろえます。
  4. 運動が終わってすぐ机に向かわない。心拍が落ち着くまで待ちます。実験でも、心拍が運動前の水準の10%以内に戻ってから課題をやらせています。
  5. 直後の30分で何がどれだけ進んだかを記録する。問題数、進んだページ数、途中で立った回数のどれかで構いません。
  6. 運動を入れない日と比べる。数日ではなく、数週分ためてから見ます。1日ごとの差は、その日の体調や課題の難しさで簡単に吹き飛びます。

疲れが残る強度でやると、この使い方は成り立ちません。部活の後に机に向かえないのは、意志の問題ではなく単純に疲労です。その日は暗記物ではなく、手を動かすだけで進む課題に替えるほうが現実的です。

休憩を「座ったまま」から「動く」に替える

学校の研究で最もはっきり動いているのは、成績ではなく行動です。授業に身体活動を組み込んだ研究42本(うち無作為化試験27本、延べ12,663人)を集めたメタ分析では、授業中の身体活動量が d=2.33(95%信頼区間 1.42〜3.25)と大きく増え、授業内の教育的な成果も d=0.81(0.47〜1.14)と大きく改善しました。一方で、1日全体の活動量は d=0.32(0.18〜0.46)、全体の教育成果は d=0.36(0.09〜0.63)と小さく、認知機能と健康の指標には効果が見られませんでした。

Norris E, van Steen T, Direito A, Stamatakis E. Physically active lessons in schools and their impact on physical activity, educational, health and cognition outcomes: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2020;54(14):826-838.

ノリス(Norris)らは同時に、42本のうち25本が2つ以上の項目で偏りの危険が高いと評価しています。数字の大きさをそのまま受け取れる研究群ではありません。

教室内の身体活動をまとめた別のメタ分析でも、課題に向かっている時間は 0.60(0.20〜1.00)と改善した一方、認知機能は 0.33(-0.11〜0.77)で有意ではありませんでした。ワトソン(Watson)らの報告です。アルバレス-ブエノ(Álvarez-Bueno)らの在席行動 0.77(0.22〜1.32)も、同じ向きの結果です。

家庭で応用するなら、こうなります。休憩の長さを延ばすのではなく、休憩の中身を替える。座ったまま画面を見る休憩を、立って歩く・洗い物をする・階段を使う、に替えます。狙いは頭を良くすることではなく、次の勉強に戻りやすくすることです。デ・フレーフ(de Greeff)らのメタ分析でも、1回の身体活動が注意に与える効果は g=0.43(0.09〜0.77)で、続けた場合の実行機能への効果 g=0.24(0.09〜0.39)より大きく出ています。1回ごとの立て直しに使う、という位置づけが研究の形に合っています。

学年ごとの組み込み方

小学生

研究の多くはこの年齢層で行われており、在席行動への効果もここで測られています。家庭では、宿題を始める前に外で少し遊んでから、という順にするだけで足ります。時間を測る必要も、強度を管理する必要もありません。長く座らせることを目標にしないでください。

中学生

部活のある日とない日で、同じ時間割を組まないことが要点です。部活のある日は帰宅後の疲労を前提にして、暗記や作業中心の課題を置きます。部活のない日に、考える課題と、運動を挟んだ長めの勉強を置きます。テスト前に部活が止まる期間は、体を動かす時間がまるごと消えるので、休憩の中身を替える方法がとくに使えます。

高校生

通学と授業で座っている時間が長く、帰宅後にさらに座ります。ここでは運動を「増やす」より、座り続ける時間を切る、と考えるほうが実行できます。1時間ごとに立つ、通学の一部を歩きに替える、といった形です。受験期に運動をやめるべきかどうかを決める根拠は、研究にはありません。やめても成績が上がるとは示されていませんし、続ければ上がるとも示されていません。

効かない条件

次の場合、この記事の方法はうまくいきません。先に知っておいてください。

  • 勉強の中身が決まっていないとき。運動で整うのは注意であって、やることの中身ではありません。机に向かって何をするか決まっていなければ、整った注意は行き先を失います。
  • 強度が高すぎるとき。疲労が残る運動の後は、課題が進みません。効果を測った研究はいずれも中強度です。
  • 睡眠が足りていないとき。運動は睡眠不足の埋め合わせにはなりません。順序としては睡眠が先です。
  • 成績そのものを短期で動かそうとするとき。学力への効果量は小さく、大規模な試験では差が出ていません。1か月で結果を求めると、必ず失望します。

この記事で言えないこと

第一に、因果の向きが十分に確かめられていません。よく運動する子は、家庭の経済状況も、睡眠も、生活のリズムも、そうでない子とは違います。観察研究で見つかる「運動する子は成績が良い」という関係の多くは、この違いを拾っている可能性があります。シン(Singh)らの専門家パネルが最優先の研究課題に挙げたのも、まさにこの因果の問題でした。

第二に、効果量の小ささを軽く扱っていません。0.21 や 0.13 という値は、教育の介入としては小さい部類です。個々の子どもで見れば、差が分からない程度のことが普通に起こります。

第三に、再現の弱さがあります。3年間の無作為化試験で差が出なかった例があり、質の高い研究に絞ると有意差の割合が半分前後まで落ちます。教室内の身体活動の研究も、多くが偏りの危険が高いと評価されています。

第四に、年齢の偏りがあります。研究の多くは小学生で行われており、高校生で同じことが起きるかは分かっていません。覚えた4時間後に運動する話は成人の1本の実験です。

第五に、これは健康の助言ではありません。運動の種類・強度・量を個人に合わせて決めることは、この記事にはできません。体調に不安があるとき、痛みがあるとき、治療を受けているときは、必ず医療機関に相談してください。

当塾の立場

この記事に書いたことは、塾に通わなくてもできます。勉強の前に少し歩く、休憩の中身を替える、部活のある日とない日で時間割を変える——どれも家庭の中で完結します。器具も、アプリも、月謝も要りません。むしろ、この種の工夫を外注すると効果が薄れます。自分の体調と進み方を見ながら調整するところに、意味があるからです。

そのうえで、武蔵野個別指導塾を勧める理由を、この回の研究に即して書きます。研究がいちばんはっきり示したのは、成績ではなく「課題に向かっていられる時間」が動くということでした。在席行動の効果量 0.77 や 0.60 は、学力の 0.21 よりずっと大きい。裏を返せば、課題に向かえる状態を作れるかどうかが、この年齢の学習では大きな変数だということです。個別指導は、その状態を人が横で確認できる形式です。疲れて手が止まっている日に課題の種類を替える、部活のある日の分量を減らす、といった判断を、その場で一緒に決められます。家庭だけで運動と勉強の配置を調整しきれないとき、隣で一緒に測る相手がいることには意味があります。

出典

  1. Hillman CH, Pontifex MB, Raine LB, Castelli DM, Hall EE, Kramer AF. The effect of acute treadmill walking on cognitive control and academic achievement in preadolescent children. Neuroscience. 2009;159(3):1044-1054.
  2. Chang YK, Labban JD, Gapin JI, Etnier JL. The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis. Brain Research. 2012;1453:87-101.
  3. Ludyga S, Gerber M, Brand S, Holsboer-Trachsler E, Pühse U. Acute effects of moderate aerobic exercise on specific aspects of executive function in different age and fitness groups: A meta-analysis. Psychophysiology. 2016;53(11):1611-1626.
  4. Álvarez-Bueno C, Pesce C, Cavero-Redondo I, Sánchez-López M, Garrido-Miguel M, Martínez-Vizcaíno V. Academic Achievement and Physical Activity: A Meta-analysis. Pediatrics. 2017;140(6):e20171498.
  5. de Greeff JW, Bosker RJ, Oosterlaan J, Visscher C, Hartman E. Effects of physical activity on executive functions, attention and academic performance in preadolescent children: a meta-analysis. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018;21(5):501-507.
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  10. Norris E, van Steen T, Direito A, Stamatakis E. Physically active lessons in schools and their impact on physical activity, educational, health and cognition outcomes: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2020;54(14):826-838.
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