ごほうびで行動は変わるのか——教室での実証
「片づけたらシールを貼る」「静かにできたらポイント」。家庭でも教室でも、ごく普通に行われていることです。
この背後にあるのが応用行動分析(applied behavior analysis, ABA)という分野です。行動を、その直前にあったことと直後に起きたことの関係から理解し、環境を変えることで行動を変える——という考え方をとります。
一言でいうと
行動分析は「A → B → C」で考えます。
A(先行事象):何があったか(指示、教材、席の配置)
B(行動):何をしたか
C(結果事象):直後に何が起きたか(褒められた、無視された、課題から逃げられた)
「やる気がない」ではなく「AとCがどうなっているか」を見るのが、この分野の特徴です。
この記事が扱うのは、この分野の代表的な教室介入であるGood Behavior Game(GBG、よい行動ゲーム)とトークンエコノミーです。
そして——この2つは、研究デザインによって結論が真逆になるという、教育研究でもっとも明快な事例になっています。
結論を先に6点書きます。
- 単一事例研究では大きな効果。21研究・1,580名のメタ分析で TauU = .82 [6]。
- 無作為化比較試験では小さい。7研究・4,700名で hedges’ g = 0.09〜0.32 [1]。
- 英国の大規模クラスターRCT(77校・3,084名・2年実施+2年追跡)では、どの成果にも改善の証拠がありませんでした。著者らは「本研究の知見に基づくと GBG は推奨できない」と結論しています [3]。
- トークンエコノミーも同じ構図。WWC基準では「ベストプラクティスと認めるに足る証拠がない」 [14]。
- ただし長期的には、後期思春期のタバコ使用リスク低減に強い証拠があります [9]。
- 学業成果への波及は弱い。読解への効果は男子にのみ、作文出力の改善はわずかでした [1][12]。
なお、報酬が内発的動機づけを壊すかという論点は別の記事で扱っています。この記事は教室での行動介入が実際に何を変えたかに絞ります。
1. Good Behavior Game とは何か
1969年に考案され、50年以上研究されてきた教室管理の手法です。構成要素は4つです [3]。
- 教室のルールを明示する
- チームに分ける
- 行動をモニターする
- 正の強化——ルールを守れたチームが、あらかじめ決めた報酬を得る
通常の授業活動と並行して、決められた時間だけ「ゲーム」として実施されます。相互依存型の集団随伴性——つまり、チーム全体の行動によって結果が決まる仕組みです [6]。
近年は、破壊的行動を数えるのではなく望ましい行動にポイントを与える「ポジティブ版」 [5]、ClassDojo などのアプリを使う版 [11]、オンライン授業版 [2] といった派生形も検証されています。
2. 単一事例研究では、大きな効果が出る
まず肯定側の証拠です。
幼稚園年長から高校3年までの1,580名を対象とした21の単一事例研究を統合したメタ分析では、137の局面対比にわたる TauU 効果量が .82(95%CI 0.78〜0.87) でした。問題行動の実質的な減少と向社会的行動の増加を示す値です [6]。
調整分析では、GBGは破壊的行動と課題外行動の減少に最も効果的で、情緒・行動障害(EBD)またはそのリスクがある生徒が最も恩恵を受けることが示されました [6]。
集団の関与を高める行動介入全般を扱った2026年のメタ分析(50研究)でも、単一事例デザインで SMD = 2.28、群デザインで g = 1.69 という大きな効果が報告されています [7]。
一言でいうと(単一事例研究とは)
少人数(1〜数人)について、介入を入れる → 抜く → また入れるを繰り返し、そのたびに行動が変わるかを見る方法です。個々の子どもに効いたかを確かめるには適していますが、クラス全体・学校全体でやったときにどうなるかは別の問題です。
3. 反証①——RCTでは効果が小さい
2019年、無作為化比較試験(RCT)だけを対象にしたメタ分析が発表されました。7研究・4,700名の子どもが対象です。
結果は hedges’ g = 0.09〜0.32。著者らは冒頭で「単一事例研究に焦点を当てた最近のレビューが中〜大の処遇効果を報告しているのに対し、我々の結果はかなり控えめであった」と明記しています [1]。
成果別・性別の内訳も示されています。
| 成果 | 結果 |
|---|---|
| 仲間評定による行為問題 | GBGが有意に上回った |
| 仲間評定による内気・引きこもり行動 | GBGが有意に上回った |
| 教師評定による行為問題 | GBGが有意に上回った(女子で効果が大きい) |
| 読解 | 男子にのみ効果あり、女子にはなし |
| 不注意 | 有意差なし |
| 教師評定による内気・引きこもり | 有意差なし |
著者らの結論は慎重です——「これらの結果は、GBGが当初報告されたほど影響力がないかもしれないこと、そして実施の前に対象となる集団と処遇の標的を考慮すべきであることを示唆する」 [1]。
4. 反証②——英国の大規模試験は「推奨できない」と結論した
この記事でもっとも重い反証です。
イングランドの23自治体にまたがる77の小学校を無作為に2群に割り付け、7〜8歳の児童3,084名を対象に、2年間 GBG を実施し、その後2年間追跡したクラスター無作為化比較試験です [3]。
測定されたのは、行為問題(主要成果)、情緒症状、心理的ウェルビーイング、仲間・社会的支援、いじめ、学校環境、欠席、停学、そして追跡期間中の学力(読解の標準化テスト)、破壊的行動、集中の問題、向社会的行動——という広い範囲です。
結果は次のとおりでした [3]。
- GBGがいずれの成果をも改善したという証拠はなかった。
- 同定された唯一の有意な下位群調整効果は期待と逆——GBG校のリスクのある男子は、いじめ被害の報告率がより高かった。
- 実施時間の調整効果は不明瞭。中程度以上の遵守の文脈で、子どもの心理的ウェルビーイングの有意な低下と、欠席の有意な減少が同時に見られた。
- 中期の唯一の介入効果は24か月時点の仲間・社会的支援だったが、負の方向だった。
- 子どもの精神的健康と学力のあいだに、個人内の時間的関連は見られなかった。
- 費用便益分析の結果、GBGは費用に見合う価値を提供しない。
著者らの結論は一行です——「本研究で報告された知見に基づくと、Good Behavior Game は推奨できない。」
一言でいうと
小さな研究で大きく効いた手法が、大規模に実施すると効かないどころか一部で悪化した——という結果です。
これは GBG に限った話ではありません。「エビデンスに基づく」と紹介される教育手法の多くが、この段階を通過していません。
5. なぜ結論が割れるのか
同じ手法で、なぜこれほど違う結論が出るのか。考えられる要因を整理します。
| 要因 | 単一事例研究 | 大規模RCT |
|---|---|---|
| 対象 | 少人数、しばしば困難のある生徒 | クラス全体、多くは定型発達 |
| 実施者 | 研究者または訓練を受けた教師 | 通常の教師 |
| 実施の質 | 高く保たれる | ばらつく |
| 比較対象 | ベースライン(介入なし) | 通常の実践(すでに何かしている) |
| 測定 | 直接観察(その場の行動) | 質問紙・学力テスト・行政データ |
| 期間 | 数週間 | 2年+追跡2年 |
英国の試験の著者ら自身が、残る問いとして「プログラムの差別化——GBGは既存の行動管理実践とどれだけ異なるのか。その違いは効果の差を生むのか」を挙げています [3]。
つまり、比較対象の教室でも教師は何らかの行動管理をしている。「何もしない」と比べれば効くが、「ふつうにやっている」と比べると差が出にくい——という構図です。
この構図は、検索練習の記事で見た「比較対象の問題」とまったく同じです。
6. トークンエコノミーも同じ構図
シールやポイントを貯めて後で交換するトークンエコノミーについても、同じ対立が見られます。
肯定側
K-5(幼稚園年長〜小5)の教育場面における24のトークンエコノミー研究(2000〜2019年)を分析した研究は、通常学級・特別支援学級のどちらでも大きな効果量を報告しています。ただし、バックアップ強化子の種類・トークンの産出率・交換率といった構成要素の使われ方が、学級タイプによって異なっていました [8]。
就学前に絞った2023年のメタ分析(10研究)でも、全体効果量は大でした [4]。
否定側
しかし同じ2023年の研究は、先行するメタ分析と同様に、いくつかの方法論的懸念が同定されたこと、そして調整分析はいずれも有意でなかったことを明記しています [4]。
より根本的な評価があります。2011年、What Works Clearinghouse(WWC)の単一事例研究評価基準を用いてトークンエコノミーを審査した2部構成の系統的レビューの結論です——「トークンエコノミーに関する現存の研究は、WWC基準に照らしてベストプラクティスと見なすに足る十分な証拠を提供していない」 [14]。
一言でいうと
「効果がある」と「エビデンスに基づく実践と認定できる」は別です。前者は個々の研究の話、後者は研究全体の質と量の話。シール制度は効くように見えますが、厳密な基準では認定に届いていません。
7. 長期には何が残ったのか
短期の効果が疑わしくても、長期に何か残る可能性はあります。5つの原研究から22の論文を統合し、生涯にわたる遠位成果を精査した2025年の系統的レビューの結果です [9]。
| 長期成果 | 証拠の確信度 |
|---|---|
| 後期思春期のタバコ使用リスク低減 | 強い証拠 |
| 持続的に攻撃的な子どもにおける、破壊的・攻撃的行動が反社会的・犯罪的行動へ進行するのを防ぐ | 中程度 |
| カリキュラム強化と組み合わせた場合の数学・読解の向上、およびそれによる大学進学の可能性(とくに女性) | 中程度 |
| 違法薬物使用、向社会的行動、自殺関連行動 | 中程度 |
| 社会的受容、飲酒 | 混合〜証拠なし |
3行目が実務的に重要です。学力への効果は「カリキュラム強化と組み合わせた場合」に限られていました [9]。行動介入だけでは学力は動かない、ということです。
著者らは、これらの成果のうち独立した研究者によって発達段階を超えて検証されたものはごく一部であり、さらなる追試が必要だと明記しています。
8. 学業成果への波及は弱い
行動が改善すれば学力も上がるのか。この点は直接検証されています。
小学1年・2年の教室で、作文の練習時間に GBG を導入し、カリキュラム基盤測定(WE-CBM)で書字の出力を測った研究があります。
結果は分かれました [12]。
- GBGを実施したとき、全生徒の学業的関与に大きな増加、破壊的行動に減少が見られた。
- しかし書字の出力については、書いた語数と正確さに「わずかな」改善にとどまった(とくに書字技能が芽生えつつある生徒で)。
3節で見たRCTのメタ分析でも、読解への効果は男子にのみでした [1]。
一言でいうと
「席に着いて課題に向かっている時間」は増えます。しかし「書けた量」はあまり変わりませんでした。
行動が整うことと、学力が上がることのあいだには、まだ距離があります。
9. 誰が実施するか、生徒はどう感じるか
見落とされやすい論点です。
小学校低学年の2教室で、研究者実施版・教師実施版・生徒実施版の3つを比較した研究があります。結果は次のとおりでした [20]。
- どの版もベースラインと比べて破壊的行動を減らした。
- ただし1クラスでは、教師実施のときに破壊的行動の率がやや高かった。
- ゲーム中の仲間どうしのやりとりは少なく、両クラスで否定的なやりとりがわずかに増加した。
- 生徒は圧倒的に「生徒実施版」を好んだ。
社会的妥当性(関係者がこの介入をどう受け止めるか)を扱った系統的レビュー(51論文)も、慎重な所見を報告しています——調査結果は実施者にとっては高い社会的妥当性を示す一方、生徒については混合した結果でした [19]。
情緒・行動障害のある児童を対象にした研究でも、当初は教師・生徒とも概して肯定的だったが、研究終了から10週後の生徒の受け止めはより否定的になっていました。教師が10週間で実施したのは5回だけです [5]。
一言でいうと
大人は「うまくいっている」と感じ、子どもは時間が経つと冷めていく——という非対称があります。そして教師も続けません(10週で5回)。
導入時の評判と、定着するかどうかは別の話です。
10. どこで、誰に効くのか
反証を踏まえたうえで、比較的一貫して効果が観察されている条件を整理します。
リスクのある生徒
ドイツの包摂的な小学校で、1〜3年生のリスクのある児童35名(7教室)を対象に、直接行動評定で進捗をモニターした研究では、参加者の82.86%に一方または両方の成果で有意な即時処遇効果が見られました。多水準分析でも、学業的関与(B = 0.74)と破壊的行動(B = −1.29)の両方で有意な即時効果が確認されています [13]。
2節で見たとおり、EBDまたはそのリスクがある生徒が最も恩恵を受けるという調整分析の結果とも整合します [6]。
さまざまな場面への適用
ただし、証拠の質は一様でない
教室の破壊的・注意を逸らす行動を減らす介入を対象に、2008年から2022年の65研究(73論文)を評価した系統的レビューによれば、27の介入のうち高いまたは中程度の証拠評価を受けたのは6つのみでした。GBGは最も頻繁に研究された介入です [10]。
そして重要な限界が記されています——論文の86%が小学生を対象としており、経済分析の基準を満たす研究は一つもなかった [10]。
11. 介入の中身を分解する——先行事象か、結果事象か
「行動介入」とひとくくりにされますが、中身は2種類の操作に分けられます。冒頭の ABC でいえば、A(先行事象)に手を入れるか、C(結果事象)に手を入れるかです。
集団の関与を高める行動介入50研究を精査した2026年のレビューは、実際に何が使われているかを数えています [7]。
| 操作の種類 | 具体的な手立て | 使われた研究数 |
|---|---|---|
| A:先行事象への手当て | 目標設定 | 29 |
| 事前修正(始める前に確認する) | 24 | |
| チーム編成 | 15 | |
| C:結果事象への手当て | 具体物の報酬 | 35 |
| 集団随伴性 | 34 | |
| 教師による称賛 | 24 | |
| ポイント | 21 |
そして注目すべき所見があります。全体の効果は大きかった(単一事例 SMD = 2.28、群デザイン g = 1.69)ものの、この効果は学年、障害のある生徒の有無、先行事象・結果事象の構成要素の数、集団随伴性の有無のいずれによっても調整されませんでした [7]。
一言でいうと
「要素を足せば足すほど効く」わけではありませんでした。集団随伴性を入れても入れなくても、効果の大きさは変わらなかった。
これは実務上ありがたい所見です。複雑な仕組みを作らなくても、単純な手立てで同等の結果が得られる可能性があるということだからです。
「事前修正」という地味な手立て
上の表で、結果事象側の手立て(報酬・ポイント)に注目が集まりがちですが、先行事象側で24研究に使われていたのが事前修正(precorrection)です。
これは、問題が起きそうな場面の直前に、期待される行動を確認しておくという手立てです。「これから20分、質問は手を挙げてからね」と始める前に言う——それだけのことです。
罰も報酬も伴いません。起きてから対応するのではなく、起きる前に条件を整えるという発想です。
同じ表で目標設定が29研究と最多である点も同じ方向を向いています。結果をどう扱うかより、始める前に何を決めておくかのほうが、実際には広く使われています。
一言でいうと(家庭でできる形)
宿題を始める前に、「今日はここまで」「分からなかったら印をつけて飛ばす」と決めておく。これが事前修正と目標設定にあたります。
やり終えたあとに叱る・褒めるより、始める前の30秒のほうが扱いやすく、副作用もありません。
12. 塾と家庭の運用にどう落とすか
ここからは、上の知見を当塾の実務に翻訳した部分です。研究が直接そう言っているわけではない箇所は、そう明示します。
(1) 行動が整っても学力は動かないと考えておく
7節・8節のとおり、学力への効果はカリキュラム強化と組み合わせた場合に限られ [9]、作文出力の改善はわずかでした [12]。行動の手当てと学習内容の手当ては、別々に設計する必要があります。
(2) 困っている生徒に絞る
2節・10節のとおり、効果が一貫しているのはリスクのある生徒です [6][13]。全員に一律導入する根拠は弱い。
(3) ポイント制を「主要な仕組み」にしない
6節のとおり、トークンエコノミーはWWC基準でベストプラクティスと認めるに足る証拠がありません [14]。当塾ではシールやポイントを補助的にしか使いません。
(4) 集団随伴性の副作用を見る
4節・9節のとおり、リスクのある男子でいじめ被害の報告が増えた [3]、ゲーム中に否定的なやりとりがわずかに増えた [20] という報告があります。「チームの足を引っ張る子」という構図が生まれうる仕組みです。当塾は集団随伴性を使いません。
(5) 本人に運用させる
9節のとおり、生徒は圧倒的に生徒実施版を好みました [20]。当塾では、記録をつけるのは生徒本人です。これは研究からの演繹であり、当塾で比較実験をした結果ではありません。
(6) 導入時の評判を信じない
9節のとおり、生徒の受け止めは10週後に否定的になり、教師も続けませんでした [5]。仕組みを入れたら、数週間後にもう一度評価します。
(7) 「A と C」を見る習慣だけは持つ
冒頭のとおり、行動分析の中核は先行事象と結果事象を見ることです。特定のプログラムの効果は疑わしくても、「なぜこの場面で手が止まるのか」を環境から考える枠組み自体は、日常の指導で使えます。
13. この記事で言えないこと
- 「Good Behavior Game は効く」とは言えません。英国の大規模RCTは推奨できないと結論しています [3]。
- 「トークンエコノミーはエビデンスに基づく実践だ」とは言えません [14]。
- 単一事例研究の効果量(TauU = .82)をそのまま期待できません。RCTでは 0.09〜0.32 でした [6][1]。
- 学力への波及は確認されていません(カリキュラム強化との併用時を除く)[9]。
- 費用対効果を評価できる研究がほとんどありません [10]。英国の試験は費用に見合わないと結論しました [3]。
- 日本の学齢児を対象にした研究は、ここに含まれていません。
- 12節の運用は当塾の実務判断です。
当塾の立場
当塾は個別指導の塾であり、この記事の内容は当塾の指導方針と無関係ではありません。利害関係を明示しておきます。
この記事の内容は、塾に来なくても実行できます
はっきり書きます。ここまでの内容の大半は、今日から家庭で実行できます。費用はかかりません。
- 「やる気がない」ではなく「直前に何があって、直後に何が起きたか」を見る
- ポイント制やシールは補助的にとどめる
- 兄弟やクラスで連帯責任の仕組みを作らない
- 記録は本人につけさせる
- 仕組みを入れたら数週間後にもう一度評価する
- 行動が整っても学力は別に手当てする
これを読んで、塾に通わずに実行する方がいるなら、それでいいと考えています。自分で回せる家庭が月謝を払う必要はありません。
それでも塾に通いたい方へ
そのうえで、塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この記事の内容に即して、理由を3つ書きます。
- 「A と C」を特定するには、その場面を見るしかない。冒頭のとおり、行動分析は先行事象と結果事象を見ます。「宿題をやらない」の直前に何があり、やらないことで何が起きているか——逃げられているのか、注目されているのか、そもそも解けないのか。家庭では原因が絞りにくく、学校では一人ひとりを追えません。個別指導はその中間にあります。
- 集団随伴性を使わない選択ができる。4節・9節のとおり、集団での連帯的な仕組みにはいじめ被害の増加 [3] や否定的なやりとりの増加 [20] という報告があります。教室では、人数の都合から集団単位の仕組みが選ばれがちです。個別指導には、その必要がありません。
- 「行動は整ったが学力は動いていない」を分けて報告できる。8節のとおり、学業的関与は大きく増えても、書けた量はわずかしか変わりませんでした [12]。座っている時間が増えたことは、保護者にとって嬉しい変化です。だからこそ、そこで止まっていないかを併せて伝える必要があります。
逆に言えば、この3つをやっていない個別指導に、この点での優位性はありません。塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。
- うちの子が手を止めるのは、どの場面で、直前に何がありますか
- ポイント制や賞罰は、どの程度使っていますか
- 「取り組む時間は増えたが成果は出ていない」と報告することはありますか
当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。
まとめ
- 行動分析は「A(直前)→ B(行動)→ C(直後)」で考える枠組み。
- 単一事例研究では大きな効果(21研究・1,580名、TauU = .82)[6]。
- RCTでは小さい(7研究・4,700名、g = 0.09〜0.32)[1]。
- 英国の77校・3,084名・4年間の試験は「推奨できない」と結論。費用にも見合わない [3]。
- リスクのある男子でいじめ被害の報告が増加(期待と逆の調整効果)[3]。
- トークンエコノミーはWWC基準を満たしていない [14]。
- 長期ではタバコ使用リスクの低減に強い証拠。学力はカリキュラム強化との併用時のみ [9]。
- 学業的関与は大きく増えるが、書字出力の改善はわずか [12]。読解は男子のみ [1]。
- 生徒は生徒実施版を好む。大人の評価と生徒の評価は乖離する [20][19]。
- 10週後には生徒の受け止めが否定的になり、教師も続けなかった [5]。
- 効果が一貫しているのはリスクのある生徒 [6][13]。
- 27介入のうち高〜中程度の証拠は6つのみ。経済分析の基準を満たす研究はゼロ [10]。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【反証・RCTでは小さい】Smith, S. D. et al. (2019). A Meta-Analytic Review of Randomized Controlled Trials of the Good Behavior Game. Behavior Modification. DOI: 10.1177/0145445519878670
- Hier, B. O. et al. (2023). Effects of the Good Behavior Game on Students’ Academic Engagement in Remote Classrooms During the COVID-19 Pandemic. Journal of Positive Behavior Interventions. DOI: 10.1177/10983007231168400
- 【最大の反証・推奨できないと結論】Humphrey, N. et al. (2022). The Good Behaviour Game intervention to improve behavioural and other outcomes for children aged 7–8 years: a cluster RCT. Public Health Research. DOI: 10.3310/vkof7695
- Hayes, L. B. et al. (2023). The Effect of Token Economies on Student Behavior in the Preschool Classroom: A Meta-Analysis. Perspectives on Early Childhood Psychology and Education. DOI: 10.58948/2834-8257.1034
- Moore, T. C. et al. (2021). A Positive Version of the Good Behavior Game in a Self-Contained Classroom for EBD. Behavioral Disorders. DOI: 10.1177/01987429211061125
- Bowman-Perrott, L. et al. (2016). Promoting Positive Behavior Using the Good Behavior Game(単一事例21研究のメタ分析). Journal of Positive Behavior Interventions. DOI: 10.1177/1098300715592355
- LeJeune, L. M. et al. (2026). Behavioral Interventions for Increasing Group Engagement in K-12 Classrooms: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Positive Behavior Interventions. DOI: 10.1177/10983007261435207
- Kim, J. Y. et al. (2021). Systematic Review and Meta-Analysis of Token Economy Practices in K-5 Educational Settings, 2000 to 2019. Behavior Modification. DOI: 10.1177/01454455211058077
- Smith, S. D. et al. (2025). The Good Behavior Game as a Universal Preventive Intervention: a Systematic Review of its Long-Term Effects. Prevention Science. DOI: 10.1007/s11121-025-01833-8
- Marshall, T. et al. (2024). Reducing Disruptive and Distracting Behaviors in the Classroom: Assessing the Evidence Base. Psychiatric Services. DOI: 10.1176/appi.ps.20230543
- Ford, W. B. et al. (2022). Evaluation of the Good Behavior Game Using ClassDojo in Secondary Classrooms. School Psychology Review. DOI: 10.1080/2372966x.2022.2067736
- 【学業成果への波及は弱い】Fallon, L. M. et al. (2020). Measuring Academic Output During the Good Behavior Game: A Single Case Design Study. Journal of Positive Behavior Interventions. DOI: 10.1177/1098300719872778
- Leidig, T. et al. (2022). Individual, generalized, and moderated effects of the good behavior game on at-risk primary school students. Frontiers in Education. DOI: 10.3389/feduc.2022.917138
- 【反証・WWC基準を満たさず】Maggin, D. M. et al. (2011). A systematic evaluation of token economies as a classroom management tool for students with challenging behavior. Journal of School Psychology. DOI: 10.1016/j.jsp.2011.05.001
- Al-Hammouri, M. et al. (2025). The Effectiveness of the Good Behavior Game on Students’ Academic Engagement in Online-Based Learning. Online Learning. DOI: 10.24059/olj.v29i1.4208
- Mathieu, S. et al. (2019). The Good Behavior Game: Evaluation of a Classroom Behavior Intervention with English Language Learners. Educational Psychology. DOI: 10.5604/01.3001.0013.6373
- Groves, E. A. et al. (2021). Adapting the good behavior game for special education classrooms. Psychology in the Schools. DOI: 10.1002/pits.22496
- Zimmerman, D. M. et al. (2024). Social and Ecological Validity of the Good Behavior Game: A Systematic Review. Journal of Behavioral Education. DOI: 10.1007/s10864-024-09562-8
- Peltier, W. et al. (2022). Effects of and preference for student- and teacher-implemented good behavior game in early elementary classes. Journal of Applied Behavior Analysis. DOI: 10.1002/jaba.957
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