私大や国公立前期試験で8割取るための世界史~大学受験・高校受験・中学受験にも役立つ(3)

第2章 アジア・アメリカの古代文明

1 インドの古典文明

  • 南アジアの風土と人々

南アジアとは,現在のインドを中心とする地域で,北部はヒマラヤなど世界最高峰の山々がそびえ,中央部は砂漠や大河流域の平原,南部はデカン高原とインド洋に面した東西の沿岸部からなる。大部分はモンスーン気候帯に属しており,稲や麦などの栽培がガンジス川やインダス川などの大河流域でおこなわれてきた。

人々は,大きくアーリヤ系ドラヴィダ系にわかれる。古くから異民族が進入し,それまでくらしてきた民族とまじわり,さまざまな民族・言語・宗教が共存する独自のインド文化圏が形成された。

  • インダス文明の成立とアーリヤ人の進入

インダス川流域では前2600年ころインダス文明がおこった。代表的な遺跡のモエンジョ=ダーロハラッパー、ドーラヴィーラーなどは整然とした瓦づくりの都市遺跡で,浴場や穀物倉,排水溝などをそなえていた。遺跡からは彩文土器や青銅器などが発見され,出土した印章には現在も未解読のインダス文字がしるされている。インダス文明はメソポタミアとの交易などで繁栄していたが,前1800年ころまでに衰退していった。

前1500年ころ,中央アジアからインド=ヨーロッパ語系のアーリヤ人が,カイバル峠を渡り、インダス川中流域のインド西北部のパンジャーブ地方に進入しはじめた。彼らは雷や火などの自然現象を神とみなして祈りをささげていたが,そうした神々への賛歌は『リグ=ヴェーダ』などにまとめられ(インド最古の文献とされる),現在に伝わっている。

アーリヤ人は前1000年ころからガンジス川上流域へ移動し,鉄器によって森林を切りひらき,農耕生活をはじめた。先住民を支配し定住化していくなかで,しだいにヴァルナ(「色」を意味する)とよばれる四つの身分と祭式を重視するバラモン教がうまれた。4身分とはバラモン(司祭),クシャトリヤ(武士),ヴァイシャ(農民・牧畜民・商人),シュードラ(隷属民)で,そして、ヴァルナの枠外におかれた不可触民で構成されており、その後,職業などによって細分された集団とも結びつけられ,長い時間をかけてインド独自の社会制度であるカースト制度が形成されていった。

前6世紀ころになると都市国家がいくつもうまれ,商工業も活発になった。それにともない武士階層のクシャトリヤや,商業に従事するヴァイシャが勢力をのばし,バラモンに対抗する新しい宗教がおこった。なかでもガウタマ=シッダールタ(釈,尊称はブッダ)のひらいた仏教やヴァルダマーナのひらいたジャイナ教は,厳しい不殺生主義や断食などの苦行を重視し、バラモンを頂点とする身分差別に反対し,人々の支持を集めた。一方バラモン教側でも改革運動がおこり,思索を重視したウパニシャッド哲学①が成立した。ウパニシャッド哲学は、祭式至上主義のバラモン教に対する批判から生まれ、絶対的な真理の把握を目指し、梵我一如(ブラフマンとアートマンが本来一つのものとされると悟る)や輪廻などの概念を生み出し、仏教などインド思想全般に多大な影響を与えた。

  • インドの古代統一国家

前4世紀に、チャンドラグプタにより、インド初の統一王朝であるマウリヤ朝がガンジス川流域におこった。前3世紀のアショーカ王は南端部をのぞくインドの大部分を統一し,ダルマ(法,倫理)による統治をめざした。また仏教を保護して,第3回仏典結集を行うなど、仏典の編集事業や、各地へ研磨した石柱にアショーカ王の詔勅を刻みその内容を布告した磨崖碑や石柱碑を建てるなど、各地への布教をおこなった。アショーカ王の王子マヒンダによりスリランカへ仏教(セイロン布教)も伝わった(以後、上座部仏教と呼ばれる部派の根拠地となった)。しかし王の死後,マウリヤ朝は急速に衰退した。

マウリヤ朝の衰退に乗じて,西北インドにはギリシア人やイラン人が進出してきた。紀元後1世紀になるとアフガニスタンから進入したクシャーナ朝が西北インドを支配した(都はプルシャプラ)。この王朝は2世紀のカニシカ王のときが最盛期で,第4回仏典結集を行うなど、仏教を保護し、さらにローマや中国との東西交易で繁栄した。

紀元前後には,仏教のなかから,すべての人の救済をめざす大乗仏教という新しい運動がナーガールジュナにより確立された。また、ナーガールジュナは『中論』を著し、「空」や「縁起」などの思想を大成し、大乗仏教を理論化した。また仏像もつくられるようになり,ガンダーラ美術として,大乗仏教とともに各地に広まっていった。

西北インドを支配したクシャーナ朝に対し,中部から南部にかけて成立したサータヴァーハナ朝は,ローマや東南アジアとの海上交易で栄えた。この王朝のもとで,バラモン教や仏教が南インドにも広まった。特に対ローマ貿易は重要で、一世紀中頃モンスーンを利用してアラビア海を横断する航海法が発見されて以来、活発に行われた。当時の貿易の様子はギリシア人の航海者によって書かれた『エリュトラー海案内記』に記されており、それによると、インドからは胡椒・綿布・真珠・象牙細工が輸出され、ローマからは陶器・ガラス器・酒・金貨などが輸入された。

  • インド古典文化の黄金期

4世紀にはいると、チャンドラグプタ1世によって、グプタ朝がおこり(都パータリプトラ),第3代の王チャンドラグプタ2世のときに北インドの統一に成功した。この王朝のもとで,純インド的なグプタ美術が成立するなど,インド古典文化が花ひらいた。現在もインドの主流の宗教であるヒンドゥー教②は,バラモン教に民間信仰が融合して成立した宗教で,シヴァ神やヴィシヌ神などを信仰し、マウリヤ朝崩壊後、4~5世紀にグプタ朝の時代に人々に広まった。また日常生活の規範や宗教的義務などを定めたヒンドゥー教の聖典である『マヌ法典』や,インド文学を代表する長編叙事詩である『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』もほぼ現在の形にまとめられた。

グプタ朝の宮廷ではサンスクリット文学が栄え,詩人カーリダーサはサンスクリット文学の最高傑作として知られる『シャクンタラー』や『メーガドゥータ』を著した。天文学や文法学も発達し,十進法やゼロの概念もうみだされて,のちにイスラーム世界をへてヨーロッパにも伝わった。また、美術の分野では、優雅なグプタ式仏像彫刻やアジャンター石窟寺院、エローラ石窟寺院、仏教教学の中心となったナーランダー僧院などが創建され、そこへ訪れた中国僧法顕の旅行記『仏国記』も残されている。

グプタ朝は地方勢力の台頭や西北からの遊牧民エフタルからの侵入などの理由で衰退し,6世紀に滅亡した。その後,ハルシャ・ヴァルダナ王がヴァルダナ朝をおこして北インドの大半を支配した(都はカニヤークブジャ)。ハルシャ・ヴァルダナ王は熱心な仏教やヒンドゥー教の保護者でもあり、治世下には、玄奘が訪れ、『大唐西域記』を記し、ハルシャ・ヴァルダナと唐の太宗の間では使節の交換が行われ唐朝からは王玄策が派遣されるなど交流した。しかし,王の死後国内は分裂し,ラージプートと総称されるヒンドゥー諸政権があい争う時代となった。ラージプートとは「王の子」、「古代クシャトリヤ階級の子孫」を意味しており、土着の有力種族が建設したものである。

  • 南インドとインド洋交易

南インドにはドラヴィダ系の人々が多く住み,タミル語を使用した文芸活動がおこなわれるなど,北インドとはことなる独自の世界が形成された。

南インドの海上交易は,ローマの拡大につれてギリシア系商人が活躍しはじめる1世紀ころからさかんになった。このころにはインド洋の季節風(モンスーン)を利用した航海法が知られており,インドからは香辛料,ローマからは金貨がはこばれた。同じころ,インドと中国を結ぶ航路もひらけており,しだいにマラッカ海峡やインドシナ半島南部が航海上の要衝となっていった。これらの地域では,物産の集積港や積出港が発展して港市国家が形成され,扶南・チャンパー・シュリーヴィジャヤ王国などが,香辛料・絹・茶・陶磁器などの交易によって栄えた。シュリーヴィジャヤ王国には、玄奘に憧れてナーランダー僧院で学ぶことになる義浄が訪れ、『南海寄帰内法伝』などでシュリーヴィジャヤ王国の反映を伝えている。

こうして,地中海からインド洋をへて東南アジアや中国にいたる「海の道」が成立し,船による交易が活発になった。その「海の道」の中心は南インドで,海上交易で繁栄した南インドの代表的な王朝が、ドラヴィダ系タミル人の王朝であるチョーラ朝であった。チョーラ朝は積極的に海上交易をおこない,最盛期である10世紀から11世紀には,東南アジアのシュリーヴィジャヤ王国にまで軍事遠征をおこない,北宋時代の中国にも使節を派遣した。チョーラ朝は、13世紀にバーンディヤ朝に亡ぼされ、14世紀にはハルジー朝の進出でバーンディヤ朝も衰退した。一方スリランカでは、前5世紀シンハラ人によるシンハラ王国が栄え、上座部仏教の中心地となった。シンハラ王国には、マルコ=ポーロ、イブン=バトゥータ、鄭和らが来訪した。

①ウパニシャッド哲学は人間と宇宙との一体化を説き,インド思想に大きな影響をあたえた。

②ヒンドゥー教はヴィシュヌ神やシヴァ神など多くの神々を信仰する多神教で,明確な教義や開祖などは存在しない。

【人物コラム】

▼アショーカ王 在位前268ころ~前232ころ

伝承では,父王にうとまれていたが,クーデタで兄弟を倒し即位したという。彼が領域内にたてさせた,みずからの命令・宣言を刻んだ石柱碑・磨崖碑の一つに,仏教の開祖生誕の地への参拝記念碑があったため,釈の生誕地ルンビニーの位置が確認できた。

▼カニシカ王 在位130ころ~170ころ

王が発行した金貨には,王の像やギリシア文字,仏像,インド古来の神像,太陽などがえがかれている。また王の使用した称号には,インド風の「マハラジャ」(大王の意味)やローマ風の「カエサル」などがふくまれており,各地の影響を受けたクシャーナ朝の特徴を示している。

▼南アジアの地勢とアーリヤ人の進入

▼カースト制度

▼マウリヤ朝の領域

▼クシャーナ朝とサータヴァーハナ朝の領域

▼グプタ朝とヴァルダナ朝の領域

▼「海の道」とおもな産物

▼モエンジョ=ダーロ遺跡

縦・横・厚さの比率が一定の瓦がもちいられ,整然とした街なみをつくっていた。インダス文明の都市遺跡は,1500km四方に点在し,メソポタミア文明や中国文明よりはるかに広範囲にわたって分布している。

▼モエンジョ=ダーロ出土の印章

印章には牛をモチーフにしたものが多い。上部にみられるのがインダス文字。こうした独特の印章がメソポタミアの遺跡からも出土するため,両文明の交流が明らかにされた。

▼苦行するガウタマ

彼は,はじめ苦行によって悟りをひらこうとした。しかし,複雑な祭式や苦行によらずとも悩みをとくことができると気づき,瞑想にはいりブッダ(悟った人)となった。彼は「この世に変化しないものはない」とする無常観と,苦しみからのがれる正しい実践法をとなえた。

▼アジャンターの壁画

インド西部のアジャンターには約30の石窟があり,インド最古となる仏教関係の壁画が数多くえがかれている。

▼ガンダーラ菩像とグプタ仏像

クシャーナ朝時代のガンダーラの像が,カールした髪,彫りの深い顔,ひだの多い衣服などギリシアの影響がうかがわれる特徴をもつのに対し,グプタ朝時代の像は,渦巻き状の髪,体の曲線がわかるうすい衣服などのインド的特徴をもつ。

▼踊るシヴァ神

シヴァ神はヒンドゥー教の破壊の神であり,踊りの神でもある。青銅製。高さ154cm。

▼『ラーマーヤナ』

ヴィシュヌ神の化身であるラーマ王子とその妻シーターが,魔王とたたかうというインドを代表する叙事詩。ラーマをたすけるのが猿族で,なかでも,空を飛び自在に変身する猿ハヌマーンが活躍する。

▼南インドで発見されたローマの貨幣

▼港市国家

港市国家とは,海上交易を基盤とする都市的な国家である。写真はベトナム南部のニャチャン。

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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