東大合格は別に難しくない

まるで、マンガ『ドラゴン桜』の台詞のようですが、私も長年の指導経験から、「東京大学に合格することは難しくない」と思っています。根拠は、三つ。

(1)東大は国立大学で最大のマンモス大学、一学年で一橋大学全学年の人数くらいいます。おおよその人数で言うと一学年で3200人。全学年で約13,000人です。これは日本の受験生から単純計算すると、受験生のうち100人に一人は東大に受かっていることになっています。

(2)東大の試験内容です。東大は早慶上などの難関私大の入試問題と異なり、「教科書の範囲内」しか試験で問われません。下記東京大学のアドミッションポリシーに書いてあるように、東大では、高等学校で習う範囲しか試験問題に出題されません。東大対策というと一見難しく聞こえますが、ようや教科書を徹底的にマスターするだけでいいのです。アドミッションポリシーにもはっきりと東大は、「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視」していると明記していますね。

東京大学のアドミッションポリシー

逆に言うと、東大以外の大学、とりわけ、難関私大として、有名な早稲田大学などは、教科書の範囲外の問題を平気で出題します。たとえば、早稲田大学文化構想学部の2020年の世界史の問題を紹介します。

設問2 下線部Bに関連し(編注:原人が現れ、アフリカ大陸の外へと拡散した)、19世紀にジャワ島トリニールで化石人骨を発見した人物は誰か。次のア~エの中から一つを選び、マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。

ア デュボワ イ シーボルト ウ ヘッケル エ シュレーゲル

この問題、当然一般的な高校の教科書で採用されている山川出版の『詳説世界史B(現・世界史探求)』に記載されていないのはもちろん、本格的でかなりマニアックな事柄も載せている『詳説世界史研究』にもどこにも記載されていません。調べると、私も愛用している「世界史の窓」というかなり全網羅的にマニアックな記載を収集しているサイトに「ドイツの生物学者ヘッケルは、ダーウィンの進化論を基に、人類の進化の過程でサルとヒトの間の「失われた鎖の輪」(ミッシング・リング)をつなぐ中間的存在にたいして「ピテカントロプス」(ピテクはラテン語でサル、アントロープはヒトのこと)と名付けた。そしてそれは東南アジアのスンダ列島のどこかで発見されるはずだと大胆に予言した。その予言を信じて発掘を行ったオランダの若い解剖学者デュボアが、1891年にジャワ島のソロ川流域にあるトリニールで、めざす化石を発見した。」と記載されています。まず、この記事を見たことがある人、いや今一読された皆さんでも「ヘッケルだっけ?それともデュボアだっけか?」と悩まれると思います。もっとも、かろうじて『世界史用語集』のジャワ原人の項目のところにデュボワは記載されてはいますが、そこを覚えている受験生は相当少ないかと思います。

よく早稲田や慶應など、難関私大では、『用語集』の用語だけではなく、その用語に使われている説明まで隅から隅まで覚えておけ、と言われますが、まさにそんな重箱の隅を突っつくような問題です。しかし、これは何も早慶といった難関私大に限るわけではないのです。国立大学の問題にもこうした悪問は登場します。たとえば、2020年の名古屋大学の前期試験の世界史の問題を見てみましょう。

問2 下線部②について(編注:②いわゆる「ヘラクレスの柱」を超えた大西洋にも植民市を建設)、「ヘラクレスの柱」に挟まれた海峡の現代名(a)、及びこの人々がイベリア半島沿岸部に多くの植民市を建設した理由(b)について述べなさい(編注:70時程度)

本問題に至っては、『詳説世界史B(現・世界史探求)』は当然として、用語集にすらなんのヒントも見つけ出せません。さらに、筆者愛用の「世界史の窓」でも普通に検索しても出てきません。しかし、(a)の回答が「ジブラルタル海峡」であるとわかったうえで、検索をかけると、「世界史の窓」のジブラルタルの解説の個所に、「この地は地中海世界の出入り口を扼し、ギリシア人には『ヘラクレスの柱』として知られていた。最初に進出した東方の民族はフェニキア人で、ここから大西洋に抜け、ブリテン島の錫やアフリカ西岸の金などを得ていた。ついでカルタゴが進出しその勢力圏に入った。」と記載されています。

本問は、2016年にも一度出題されたことがあり、「過去問を解いていて当然だ」という前提のもと作成されているようですが、そもそも、この問題、『通商国家カルタゴ(興亡の世界史3)』(佐藤育子・栗田伸子著、講談社、2019年)という専門書からそのまま引用されている地図、問題になります。これは、本問などの紹介の出典の参考とさせていただいている『絶対に解けない受験世界史』シリーズの二巻ではこう痛烈に批判されています。

なんですか、前任者が自分の論文から出題したら批判されたので、今度は自分が最近読んだ本にしてみたんですか。余計に質が悪いわ。(中略)地図の出典が書かれていないのは引用の条件を満たしていないと思うんだけど、大丈夫なんですかね(中略)問題文のどこにも『通商国家カルタゴ』と書かれていない(中略)。出典がない場合は、単なる白地図に問題に必要な要素だけを入れた創作性の薄い地図であるか、入試のために作成されたオリジナル地図とみなされるが、本地図はそのいずれでもない。これは剽窃を指摘されても仕方がない。ついで言うと、この地図は『通商国家カルタゴ』の完全なオリジナルではなく、ある研究者の著作に掲載された地図を元に作成されたもの」(『絶対に解けない受験世界史』稲田義智著、パブリブ、2017年)だということです。

まさに、悪問としか言いようがありません。しかし、東大ではこのような悪問出題されません。

(3)東大の問題は極めて良問であるということです。これは東大の教授等がかなり頑張っているようで、日本の教育界をリードする最高学府としての矜恃を持って、考え尽くされた良問を毎年出題しています。そして、先ほどのアドミッションポリシーに書いてあったように、「知識の詰め込み」ではなく、「自分の頭で考えられるチカラ」「情報編集力」を求めています。先ほど、東大は悪問を出さないという話をしましたが、その証拠としても次の有名な東大の地理の過去問(2005年出題)を一緒に考えてみましょう。

問3 (1) 表1のa〜dは、①成田空港の上海行きの航空便、②東京郊外の住宅団地のバス停(最寄の駅の駅前行き)③人口約10万人の地方都市の駅前のバス停、④人口約5000人の山間部の村のバス停の時刻表のいずれかである。a〜dに該ものの番号(①〜④)を、それぞれaー○のように答えよ。

東大地理過去問

この問題、武蔵野個別指導塾では、小学生の生徒さんにも解いてもらったりしていますが、ある程度考え方さえ導いてあげれば、小学校低学年でも少なくともこの問題を答えることができます。正直地理の知識は必要ないといって過言はありません。単純に、その本数の少なさから(a)を④の山間部と結びつけるのは誰でも思いつくでしょうし、反対のその本数の多さから(d)を②の東京郊外と結びつけることができるでしょう。ここまでは、ある意味簡単すぎる問題というだけで話が終わってしまいます。問題はここら先です。残る選択肢は、(b)と(c)です。そのどちらかが、①の成田空港の上海行の航空便であり、どちらかが③の地方都市の駅前のバス停になります。

ここからはある種頭の体操というか、ちょっとした想像力あるいは推論する力が必要です。ぱっと見、(b)と(c)の時刻表には違いがないように見えます。しかし、本当に違いがないのかもう一度よく二つの時刻表を見比べてみましょう。すると、(b)の時刻表と(c)の時刻表の違いが見えてくるはずです。まず、(b)には早朝(や深夜)の時刻がありません。そして、時刻表の刻み方がある程度規則的(前後15分以上の間隔があいている)であるのが(b)であるのに対して、(c)は分刻みで(d)と同じように「42分発や32分発、52分発」などがあります。

ここから二つの推理・仮説を立てることが可能です。一つ目は、早朝(や深夜)に動いていない交通手段が(b)ではないかということと、二つ目は、(c)は、分刻みで管理できるほど厳密な時刻表管理が可能で、(c)は(d)に似ているということです。すると、一つ目の推理に対しては、飛行機が早朝(や深夜)に離着陸したら相当近所迷惑になることは想像できるでしょうし、二つ目は、すでに(d)が、②の「東京郊外の住宅団地のバス停(最寄の駅の駅前行き)」とわかっているように、(c)と(d)の時刻表の作成の仕方は似通っていることから、同じくバス停の時刻表ではないかと推察可能でしょう。つまり、(c)は(d)と同じくバス停であり、早朝(や深夜)に動かざるを得ない駅前のバス停であることが想定されます。そして、早朝(や深夜)に発着せず、分刻みの時刻管理も向いていないのが、(b)の航空便の時刻表であるということが推察できるのではないでしょうか。一般に、飛行機の出発・到着時刻は、鉄道などに比べるとおおまかなタイミングで、「目安」程度といえます。 ちなみに、航空業界では15分以内の遅延は「定時」の範囲にあるとみなされて、遅延にはなりません。

解答は、(a)-④、(b)-①、(c)-③、(d)-②です。いかがでしたでしょうか。ちょっとした頭脳クイズのような問題で、特に専門知識を必要とする問題ではないことはご理解頂けたかと思います。逆に言えば、知識の多寡で答えを求めるのではなく、アドミッションポリシーにある通り、「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視」ということが如実にわかる問題となっているのではないでしょうか。

このような理由から東大受験、そして東大合格へ至る道というのは決して茨の道ではなく、王道を行く、極めてオーソドックスで標準的な方法になるのです。「教科書の範囲」の必要最小限の知識をベースに、論理的に組み合わせて(仮説検証して)解答を求める良問には、それこそ「教科書」を広く浅く、確実に理解し、知識は最小限に抑えつつ、むしろ論理的思考力を鍛えていく方が解けるわけです。

また、よく東大と比較される京大とも一線を画しており、京大が、アカデミックで比較的格調高い問題を出す傾向があるのに対して、東大は問題自体の専門性や難易度は決してそこまで高くわけなく、むしろ、問題数が多く、瞬間的に判断し、テンポ良く解いていくチカラを重視していることもわかると思います。

このように、東大合格という道は決して矢鱈滅法勉強をしなければならないという道ではありません。人並外れた記憶力を求められているわけでもなく、膨大な詰込み学習が必要なわけではありません。効率的、効果的に学習を進め、自分の考える力を鍛え上げていくことが必要であることがご理解頂けたかと思います。もちろん、東大合格が簡単というわけでは決してありません。しかし、東大合格のために、およそ常人には再現困難な学習量が必要であるとか、何らかの特殊な才能を必要とするような問題は出題されないということは間違えありません。

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

 

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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