共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(3)

第1編 第1章 民主政治の基本原理と日本国憲法

⑤基本的人権の保障と新しい人権

ポイント

  • 日本国憲法は,基本的人権をどのように規定しているのだろうか。
  • 新しい人権とは,どのようなものだろうか。
  • 公共の福祉とは,どのような考え方だろうか。

法の下の平等

市民革命を経て成立した近代民主政治では,個人の自由と権利を保障する考え方が各国の憲法にとり入れられた。それにより,おもに政治的・法律的観点から,市民社会における個人の平等が重視されるようになった。

日本国憲法は,「すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」(第14条)と定めている。さらに,貴族制度の禁止(第14条2項),個人の尊厳と男女の平等(第24条),選挙権の平等(第15条3項・第44条),教育の機会均等(第26条)などを規定している。

しかし,現実の社会には,今なお,数多くの偏見や差別や不平等が存在している。たとえば,在日韓国・朝鮮人,アイヌ民族,女性,外国人,障害者などへの差別や不平等があり,大きな問題になっている。

特に,被差別部落の人々の,職業選択の自由,教育の機会均等が保障される権利,居住及び移転の自由,結婚の自由などの市民的権利が侵害されている。この問題の早急な解決は国の責務であり,国民一人ひとりの課題である。私たちは,「差別をしない,させない,許さない社会」を実現するために不断の努力を怠ってはならない。在日韓国・朝鮮人の多くは,日本の植民地政策により母国を離れた人々とその子孫である。戦後,一方的に日本国籍を喪失させられて外国人とされた。現在でも,参政権など多くの問題を残している。

女性の地位については,1979年に国連総会で女子差別撤廃条約が採択された。日本は,この条約の批准に先だって,1985年に男女雇用機会均等法を成立させ,その後も男女共同参画社会の実現をめざし,1999年に男女共同参画社会基本法が施行された。しかし,現実には,就職の際の差別や賃金・昇進などについてのさまざまな問題がみられる。

また,外国人の就労問題などに対しても,国や国民の問題解決に向けた積極的な取り組みが求められる。

自由権

自由権(自由権的基本権)とは,人間が生まれながらもつ自由に対して,国家権力などからの干渉・制限を排除する権利である。憲法では,自由権を具体的に規定し,しかも侵すことのできない永久の権利として,国民に保障している。

精神の自由については,思想・良心の自由(第19条),信教の自由(第20条),学問の自由(第23条)を保障している。また,精神的活動を外部に表現する自由として,集会・結社および言論・出版などの表現の自由(第21条)を保障している。明治憲法の下では,これらの自由は多くの治安立法によって著しく抑圧されていたが,日本国憲法では,それまでの苦い経験から,精神の自由を広範に保障している。また,政治と宗教との分離(政教分離)の原則を定め,国家の宗教活動を禁じている。

人身の自由については,奴隷的拘束及び苦役からの自由(第18条)を保障している。また,正当な法の手続きをふまなければ,刑罰を科せられることはなく(法定手続きの保障,第31条),逮捕・住居侵入・捜索・押収には,裁判官の令状が必要である(第33条・第35条)。被疑者・被告人に対しては,拷問を禁止し(第36条),弁護人依頼権(第37条)や黙秘権(第38条)を保障している。これらの規定は,兀罪の防止に役立っているが,兀罪は現実にはなくなっていない。また,死刑制度についても,その存続について議論されている。

経済の自由については,居住・移転及び職業選択の自由(第22条),財産権の保障(第29条)を規定している。ただし,「公共の福祉に反しない限り」とか,「財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める」としており,経済の自由は一定の制限を受ける場合があることを明らかにしている。これらにより,良好な生活環境を守る都市計画のための土地・建物の規制,私的独占の禁止などがおこなわれている。

社会権

社会権(社会権的基本権)は,資本主義の発達の中で生み出されてきた社会的弱者に対して,国家が人間たるに値する生活を保障するものである。自由権が,国家権力からの制限を排除する権利であるのに対して,社会権は,国家に対して積極的な施策を要求する権利である。これは,20世紀における福祉国家の理念に立ったものである。

憲法は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第25条)として生存権を規定している。そして,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(第25条2項)と述べ,福祉国家を実現するための努力を約束している。生活保護法・健康保険法・老人福祉法などは,これを受けて定められている。しかし,最高裁判所は,この第25条について,国政の方針を示したものにすぎず,国民の具体的な権利を保障したものではなく,具体的な内容は国の裁量に委ねられるという考え方(プログラム規定説)をとっている。

また,憲法は,すべての国民に「その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利」(第26条)を保障し,義務教育の無償(第26条2項)を定めている。教育基本法は,この憲法の精神を生かして制定されたものである。

さらに,勤労の権利(第27条),勤労者の団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)のいわゆる労働三権(第28条)を保障している。

基本的人権を確保するための権利

基本的人権が現実のものとして確保されるためには,人権が侵害されたときに救済を求める権利や,国民が政治に参加することができる権利などが必要である。

憲法は,だれでも裁判所に訴えて裁判による救済を求めることができる権利(第32条)を保障している。また,国民が,公務員の不法行為などによって損害を受けた場合は,国または地方公共団体に対して,その損害賠償を求める権利(損害賠償請求権,第17条)も保障している。さらに,刑事裁判で抑留または拘禁されたものが,裁判の結果無罪となれば,国に対して刑事補償を請求する権利(刑事補償請求権,第40条)を定めている。そのほかに,社会資本の整備などの目的で土地が収用された場合など,国や地方公共団体の活動によって財産上の被害をこうむった国民がその補償を請求する権利(損失補償請求権,第29条3項)も保障している。

憲法は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である」(第15条)として,国民が選挙を通して政治に参加する権利を保障している。また,最高裁判所裁判官の国民審査(第79条),一つの地方公共団体に適用する特別法の住民投票(第95条),憲法改正の国民投票(第96条)などの権利も定めている。さらに,損害の救済や法律・条例などの制定・改廃などに関して,国会・地方議会や行政機関などに請願する権利(請願権,第16条)も保障している。これらの規定に基づいて実際の政治がおこなわれているが,一票の価値の不平等,最高裁判所裁判官の国民審査の形骸化,定住外国人の参政権などの問題がある。

国民の義務と責任

憲法は,国民の義務として,保護する子女に普通教育を受けさせる義務(第26条),勤労の義務(第27条),納税の義務(第30条)を定めている。さらに,憲法が国民に保障する自由および権利について,「国民の不断の努力によつて,これを保持しなければならない」こと,また「国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」(第12条)と定めている。

私たちは,憲法の精神をよく理解し,国民としての義務と責任を果たすよう努めなければならない。

新しい人権

社会の急激な変化は,さまざまな新しい問題を発生させている。そのような問題には,これまでに確立されてきた人権では,十分な対応ができなくなり,新しい人権の確立が必要となってきた。自然環境の破壊や生活環境の悪化が進む中で環境権が主張され,高度情報社会の進展の中で,知る権利やプライバシーの権利などが主張されている。また,戦争の惨禍,戦争の恐怖から解放され,平和のうちに生存していく権利などの主張もみられるようになった。

しかし,これらの新しい人権は,憲法には明文の規定がないため,裁判や制度化を求める市民の要求などを通して形成されつつあるものである。

環境権

日本は,1950年代後半から高度経済成長をとげたが,それにともなって,公害が全国的に広がった。そして,1960年代後半の四大公害訴訟は,すべて原告である住民側が勝訴した。しかし,損害賠償という事後の救済では,失われた生命や健康を取り返すことができない。そこで,よい環境を守るための環境権が主張されるようになった。環境権は,憲法上の生存権(第25条)と幸福追求の権利(第13条)を根拠としている。そのほかに,日照や静穏,入浜などに関する権利の主張もある。こうした環境権の主張により,環境の汚染や破壊の防止を求める差し止め請求が住民から出されるようになった。また,環境の汚染や破壊を防止するために,環境アセスメント法(1997年)が制定されている。

知る権利

今日,大量の情報が政府や企業に収集され管理されている。政治や行政の不正・腐敗,企業の活動による被害などを防ぐには,国民が政府や企業のもつ情報を正しく知る必要がある。そのために,国民の知る権利を確立すべきだという考え方が主張された。知る権利は,憲法上の表現の自由(第21条)に含まれると考えられている。

しかし,情報公開には一定の制約がある。たとえば,外交・防衛上の情報は国家機密として,また,個人的な情報はプライバシー保護のため公開されない場合もある。これらの情報が,国家機密・企業秘密の名目でおおい隠されたり,国民の手のとどかないところで操作されるとしたら,正しい世論の形成が不可能になるばかりではなく,国民は著しい不利益をこうむることになる。

知る権利を保障するために,国の行政文書を請求者に原則として公開する情報公開法(1999年)が制定されている。

プライバシーの権利

憲法は,通信の秘密(第21条),住居の不可侵(第35条)などの規定により,プライバシー(私生活の自由)を保護してきた。しかし,高度情報社会の現代では,政府や企業は個人に関するさまざまな情報を入手しており,収集された個人に関する情報は,本人の知らないところで,さまざまな形で悪用される危険性が増大している。こうした危険を防止するため,プライバシーの権利が主張されるようになった。プライバシーの権利は,憲法が保障する個人の尊重(第13条)をその根拠としている。

日本最初のプライバシー訴訟は,三島由紀夫(1925~70)の小説『宴のあと』(1960年)をめぐる訴訟であった。この訴訟は,モデルとされた人物が,私生活を描かれてプライバシーを侵害されたと訴えた裁判である。この訴えに対して,東京地方裁判所は日本ではじめてプライバシーの権利を認めた。

プライバシーの権利は,マスコミなどに対して個人の情報を「知られたくない権利」として主張されてきた。しかし,現在では,プライバシーの権利を「自分に関する情報をみずから管理する権利」として,より積極的にとらえる考え方が一般的である。1988年に個人情報保護法が制定され,2002年には,個人情報(住所・氏名・性別・生年月日)をコンピュータで管理する住民基本台帳ネットワークが実施された。その後2003年,個人情報の有用性に配慮しながら個人の権利を保護する個人情報保護関連法が成立した。情報通信ネットワーク上でのプライバシーの保護が重要な課題となっている。

基本的人権と公共の福祉

私たちは,基本的人権を平等にもっている。このことは,自分だけでなく,他人の人権も保障されていることを意味する。したがって,自分の人権を主張するあまり,他人の人権を侵害してはならない。これを調整するための原理が公共の福祉である。そこで憲法は,人権の濫用を禁止し,「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」(第12条)と定めている。

このように,憲法が保障する基本的人権は,公共の福祉という個人の利益をこえた社会全体の利益によって,何らかの制限や限界が存在するということを忘れてはならない。同時に,公共の福祉が適用される場合,基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」として保障されていることを考え,慎重におこなわれなければならない。

公共の福祉とは,すべての人々に,平等に人権を保障するための原理なのである。

【注】

アイヌ民族 アイヌの人々は,北海道旧土人保護法(1899年)の制約を強く受けていたが,1997年,この法律が撤廃され,文化の振興を図るためのアイヌ文化振興法が制定された。

国の責務 同和対策審議会答申(1965年)に基づいて,1969年に同和対策事業特別措置法が10年間の時限立法として制定された。その後も時限立法が繰り返され,1997年からは,人権擁護施策推進法が5年間の時限立法として施行された。

治安立法 治安警察法(1900年),治安維持法(1925年)などがある。

抑留・拘禁 抑留とは比較的短い身体の拘束,拘禁とは比較的長期にわたる身体の拘束をいう。

差し止め請求 大阪空港公害訴訟,伊達火力発電所建設差し止め訴訟,伊方原子力発電所訴訟など多くの訴訟があるが,裁判所は環境権に消極的である。

環境アセスメント法 環境アセスメント(環境影響評価)とは,環境に大きな影響を及ぼす開発や施設などについて,その影響を事前に調査・予測し,公害や環境破壊を未然に防止しようとするものである。

知る権利 国民の知る権利が問題となったのは,沖縄返還協定に関する外務省公電漏えい事件(1972年),ロッキード事件(1976年)などの汚職事件などがある。

個人情報保護関連法 個人情報の保護に関して,行政機関,独立行政法人,民間などを対象とした5法が成立した。この法律で,1988年の個人情報保護法は全面改正された。

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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