共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(2)

第1編 第1章 民主政治の基本原理と日本国憲法

④日本国憲法の基本原理

ポイント

  • 日本国憲法の国民主権の意義は,どのようなものだろうか。
  • 日本国憲法の平和主義とは,どのようなものだろうか。
  • 日本国憲法が保障する基本的人権とは,どのようなものだろうか。

日本国憲法の成立

1945(昭和20)年8月14日,日本は,ポツダム宣言を受諾して,翌日,終戦をむかえた。ポツダム宣言は,日本に対して,軍国主義の排除,民主主義的傾向の復活強化,言論・宗教・思想の自由の保障と基本的人権の尊重,国民の自由な意思に基づく平和的で責任ある政府の樹立などを求めていた。これらは,日本に根本的な改革を求めるものであった。そのためには,大日本帝国憲法(明治憲法)の改正が必要であった。

1889(明治22)年に制定された明治憲法は,天皇主権(第1条),元首としての天皇が立法・行政・司法すべての統治権を総攬(第4条)などが規定された。その統治権は,憲法の条規に基づくものであったが,議会の権限は弱く,陸海軍の統帥権をはじめ大幅な天皇大権が認められ,臣民の権利は法律の範囲内でのみ認められた(法律の留保)。このような絶対的権力者としての君主が国民に授けた憲法を欽定憲法という。

政府は,憲法問題調査委員会を設置して,憲法改正要綱を作成した(松本案)。その内容は,天皇が統治権を総攬するという明治憲法と大差のないものであったため,連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官マッカーサー(1880~1964)は,松本案を拒否した。そして政府は,GHQが提示した憲法草案(マッカーサー草案)をもとにして,新たな改正案を作成し,帝国議会に提出した。帝国議会は,この案に生存権の規定を追加したり,国民主権を明確化するなどの若干の修正を加えて可決した。こうして民定憲法として成立した日本国憲法は,1946年11月3日に公布され,翌年5月3日から施行された。

このように,日本国憲法は,形式的には明治憲法の改正手続きによって制定された。しかし,国民主権基本的人権の尊重恒久平和主義を三大基本原理として掲げ,実質的には,明治憲法とはまったく異なるものとなった。

国民主権と象徴天皇制

日本国憲法は,その前文で「ここに主権が国民に存すること」を宣言し,「国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する」と規定して,国民主権がその基本原理であることを明らかにしている。

その結果,明治憲法の天皇主権主義は否定され,「天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基く」(第1条)とされた。象徴としての天皇は,国政に関する権能をもたず,国事行為のみをおこなうことになった。しかもその行為は,儀礼的・形式的な行為に限られ,「内閣の助言と承認を必要とし,内閣が,その責任を負ふ」(第3条)ことになった。

憲法は,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」(前文)する議会制民主主義(代議制民主主義)を採用している。このことから,「国会は,国権の最高機関であつて,国の唯一の立法機関である」(第41条)とされ,国民はおもに選挙を通じて,政治への意思を表明する。また,日本国憲法では,議会制民主主義を補うものとして,直接民主制を一部採用している。

基本的人権の尊重

日本国憲法は,「すべて国民は,個人として尊重され」(第13条),「基本的人権の享有を妨げられない」(第11条)と定めている。この憲法が保障する人権は,自然権思想に基づいたもので,国家や憲法に先だって,すべての人間に認められている権利であるとして,国家権力からの不可侵性を保障している。そして,「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて,これらの権利は,過去幾多の試錬に堪へ,現在及び将来の国民に対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(第97条)と述べている。これは,人権の基本的性格を明らかにしたものである。また,国家権力からの不可侵性を保障し,「国民の不断の努力によつて,これを保持しなければならない」(第12条)と規定している。

恒久平和主義

日本は,日清戦争・日露戦争をはじめとして太平洋戦争まで戦争を繰り返し,アジアの国々を中心に多大な被害を与えた。そして,日本国民みずからも,戦争の悲惨さと残酷さを体験し,世界ではじめて原子爆弾の被爆をも体験した。

日本国憲法は,その前文で「恒久の平和を念願し」,「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」,「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した」と述べている。さらに,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有する」と平和的生存権をうたっている。そして,第9条では,戦争と武力による威嚇または武力の行使を放棄し,さらに戦力を保持しないこと,交戦権を認めないことを宣言している。

戦争放棄を定めた憲法は,諸外国にもみられる。フランス憲法(1946年),ブラジル憲法(1946年),イタリア憲法(1947年)などが,侵略と制裁を目的とする戦争の放棄を定めている。また,ドイツ基本法(1949年)には,侵略戦争を否定する規定がおかれた。しかし,これらの憲法は,戦力の保持と交戦権を認めている。日本国憲法のように交戦権と軍備までをも否認している憲法は,コスタリカなどに少数の例があるだけで,画期的な意味をもっている。

憲法と自衛隊

日本は,第二次世界大戦までの軍国主義への反省に立って,日本国憲法の前文と第9条(戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認)に規定する平和主義の理念を追求することを世界に向かって宣言した。しかし,東西両陣営の冷戦がアジアに及び,1950年に朝鮮戦争が勃発すると,連合国軍最高司令官マッカーサーは,同年,警察予備隊の創設を指令した。1952年,警察予備隊は保安隊と改称された。さらに,1954年,国防の任務を与えられて自衛隊が発足し,現在に至っている。

1951年,サンフランシスコ講和会議において平和条約が結ばれ,また同時に日米安全保障条約が調印された。この条約は,日本の安全と極東の平和を維持するために,アメリカの軍隊が日本に駐留し,そのために必要な基地(施設および役務)を日本が提供することを定めた。1960年,この条約は改定され,日米協力の相互性と平等性が強められた。

自衛隊をめぐる憲法論争は,警察予備隊の創設当時から現在まで続いており,憲法第9条に関する政府の解釈も,時の推移とともに変化している。

政府は,日本が独立国である以上,主権国家としての立場から,自衛のための必要最小限度の実力を保持することは憲法上何ら問題はない(1972年)と解釈している。これが解釈改憲といわれる。

このような解釈によって,政府は,日米安保体制を基調とした専守防衛を日本の防衛の基本的な方針として,自衛隊の整備を重ねてきた。

なお,自衛のための必要最小限度の実力の限界は,その時々の国際情勢,軍事技術の水準,その他の諸条件により変わるが,いわゆる攻撃的兵器を保有することは許されないとされている。したがって,たとえばICBM(大陸間弾道ミサイル)・長距離戦略爆撃機,あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されない。

また,自衛権の発動は,①わが国に対する急迫不正の侵害があること,②その場合に,これを排除するための適当な手段が他にないこと,③必要最小限度の実力行使にとどめることの三要件に該当する場合に限られるとしている。2003年に有事関連3法が成立,さらに,2004年に国民保護法など有事関連7法が成立したことで,有事の対応が具体化された。

さらに,自衛権を行使できる地理的範囲については,必ずしも日本の領土・領海・領空に限られない。しかし,武力行使の目的をもって武装した部隊を他国に派遣する,いわゆる海外派兵は,自衛のための必要最小限度をこえるものであると解釈されている。

国際法上,国家は集団的自衛権をもつ(国連憲章第51条)ものとされている。しかし,政府は,憲法第9条の下において,この集団的自衛権の行使は,自衛権の範囲をこえるものであって,憲法上許されないという立場をとっている。

シビリアン・コントロール

現在の自衛隊は,国会と政府の民主的統制の下におかれており,第二次世界大戦前のように軍部が独走して戦争を引き起こすことのないように制度的な歯止めが施されている。自衛隊の最高指揮権は,文民(職業軍人でない人)である内閣総理大臣がもち,自衛隊の隊務を統括する防衛大臣も文民である(防衛庁長官は2007年に防衛大臣に名称変更)。これをシビリアン・コントロール(文民統制)の原則という。

内閣には,国防に関する重要事項を審議する機関として安全保障会議が設けられているが,自衛官は必要とされる場合,この会議に加わることもある。国会では,自衛隊の定員・組織・予算などの重要な事項が議決されるほか,防衛出動については国会の承認が必要である。ただし,特に緊急の必要がある場合には,内閣総理大臣は国会の承認を得ないで出動を命じることができるが,後に国会の承認が必要である。

非核三原則

日本は,核兵器について,「つくらず,もたず,もちこませず」の非核三原則を国是としている。また,原子力基本法の規定で,原子力の研究・開発・利用は平和目的に限るとしている。さらに,1976年,核兵器拡散防止条約(NPT)を批准し,核兵器を製造しない,取得しないなどの義務を負っている。一方,「もちこませず」については,アメリカから日本政府に事前に通告があり,協議することになっていて(事前協議制),核兵器のもちこみをさせない体制がつくられている。しかし,米軍基地(施設および区域)や寄港する艦船に核兵器が隠されているのではないかという疑惑が,しばしば問題にされている。

自衛隊の海外派遣

1991年の湾岸戦争を契機に,国連の平和維持活動(PKO)への自衛隊の参加問題をめぐって激しい議論が交わされた。しかし,結局は1992年にPKO協力法が成立した。この法律に基づいて,はじめて自衛隊がPKOとしてカンボジアに派遣され,その後も自衛隊は,モザンビーク,ゴラン高原,東ティモールなどに派遣された。さらに2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件を受けてテロ対策特別措置法が成立し,アメリカの武力行使に対する支援が,集団的自衛権の行使にあたるのではないかということが問題になった。また,2003年のイラク戦争を受けてイラク復興支援特別措置法が成立した。これらにより,自衛隊の海外派遣の枠が広げられた。

憲法の最高法規性と憲法改正

憲法は,国家の最高法規であり,国家のすべての法規や組織は,憲法を頂点として定められている。日本国憲法は「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない」(第98条)と定めている。さらに,憲法尊重擁護の義務については,第99条で定めている。これらは,憲法の最高法規性の原則を確認したものである。

しかし,社会の変化や新しい時代の要求によって,改正の必要が生じる場合もある。そこで,憲法の改正については「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする」(第96条)という,特別の手続きを定めている(硬性憲法)。

その際,憲法の基本原理である国民主権,基本的人権の尊重,恒久平和主義を否定するような改正はできないとみるのが妥当である。憲法の基本精神を変えてしまうような改正は,日本国憲法そのものを否定してしまうことになるからである。

【注】

ポツダム宣言 1945年7月,ベルリン郊外のポツダムで,アメリカ,イギリス,中華民国の共同宣言として発表された。日本軍の無条件降伏を要求し,戦後処理の基本方針を示した。ソ連も,同年8月の対日参戦後これに加わった。

天皇大権 立法については,議会の協賛によるもの以外に,広範な独立命令の大権が認められていた。さらに,外交大権・戒厳大権などがあった。

臣民の権利 臣民の権利の保障は,自然権の思想に基づくものではなく,恩恵として与えられたものであった。また,治安立法や政府の取り締まりなどによって,多くの制限を受けていた。臣民の義務としては,憲法によって,兵役・納税の義務を定め,別に勅令によって教育の義務を定めて三大義務とした。

直接民主制 国民が直接に意思を表明できる制度である。日本国憲法では,一つの地方公共団体に適用する特別法の住民投票(第95条),憲法改正の国民投票(第96条),最高裁判所裁判官の国民審査(第79条)に採用されている。

自衛隊をめぐる憲法論争 自衛隊をめぐる違憲訴訟は,恵庭事件,長沼事件,百里基地事件などをめぐって展開されてきた。しかし,自衛隊の合憲・違憲に関する最高裁判決は,いずれも明確な判断が示されないまま現在に至っている。

専守防衛 相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し,その行使も自衛のための必要最小限度にとどめ,また,保持する自衛力も自衛のための必要最小限度のものに限られるなど,受動的な防衛戦略の姿勢をいう。

集団的自衛権 自国に対する直接攻撃ではなく,同盟関係にある国への武力攻撃を実力で阻止する権利をいう。

硬性憲法 改正の手続きを法律より厳しく定めている憲法のことを硬性憲法といい,通常の法律と同様の手続きで改正できる憲法を軟性憲法という。日本国憲法の下で,憲法改正のための国民投票がおこなわれたことは一度もない。なお,2000年,衆議院と参議院の両院に憲法調査会が設置され,憲法をめぐる問題が論議されている。

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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