「好きになれば伸びる」は、どこまで本当か
「理科が好きだから理科ができる」「数学が嫌いだから数学ができない」。この説明は、直感的でよく使われます。そしてこの直感を前提に、多くの教材が「まず楽しませる」という設計をとっています。
興味(interest)は、教育心理学で50年以上研究されてきた主題です。そして研究が示していることは、直感とかなり違います。
一言でいうと
研究では興味を2種類に分けます。状況的興味=その場で引き起こされる一時的な「おもしろい」。個人的興味=その人がもともと持っている安定した「好き」。
そして——学習を予測するのは前者であって、後者ではないという報告があります。
結論を先に6点書きます。
- 興味は4段階で発達する。誘発された状況的興味 → 維持された状況的興味 → 芽生えつつある個人的興味 → よく発達した個人的興味 [1]。
- 個人的興味が学習の有意な予測因にならなかった研究があります。知識獲得を予測したのは状況的興味だけでした [15]。
- 体育の研究レビューは、状況的興味は参加を動機づけるが、学習達成にはほとんど影響しないかもしれないと結論しています [10]。
- 因果の向きが逆かもしれません。892名の経路分析では、学業成績が個人的興味の「前」に来ていました [6]。
- それでも介入で興味は動かせます。問題を提示するだけで個人的興味の成長軌跡が変わりました [4]。
- 状況的興味は授業のなかで上下します。まとめて平均すると、予測力が落ちます [3]。
なお、報酬が意欲を壊すかという問題は別の記事で、短時間の心理学的介入が長期に効く条件はこちらで扱っています。
1. 興味には2種類ある
| 状況的興味(situational interest) | 個人的興味(individual interest) | |
|---|---|---|
| 由来 | 環境——教材・提示・問い | その人——蓄積された好み |
| 持続 | 短い。その場限りのことも多い | 長い。年単位で持続する |
| 性質 | 感情が先に動く | 知識と価値づけを伴う |
| 教師が動かせるか | 動かせる | 直接は動かしにくい |
この区別は理論上の便宜ではなく、データで確認されています。高校生327名の問題基盤学習中に状況的興味を繰り返し測定し、潜在状態特性(LST)理論で分析した研究では、状況特異的な効果が自己報告された状況的興味に強い影響を与えており、しかもその分散のかなりの部分が、あらかじめ存在する個人的興味と交絡していませんでした [12]。
つまり、「その場でおもしろい」は、「もともと好き」とは別のものとして測れているということです。
2. 4段階モデル
2006年に提案され、いまもこの分野の中心にあるのが興味発達の4段階モデルです [1]。
| 段階 | 状態 | 支えるもの |
|---|---|---|
| 1. 誘発された状況的興味 | 「お、なんだこれ」 | 外からの働きかけ(新奇性・問い・驚き) |
| 2. 維持された状況的興味 | 「もう少し見ていたい」 | 意味・有用性の実感、課題の構造 |
| 3. 芽生えつつある個人的興味 | 「自分から戻ってくる」 | 蓄積された知識、自分で立てる問い |
| 4. よく発達した個人的興味 | 「これは自分の領域だ」 | 価値づけ、困難への耐性 |
重要なのは、1と2は外から作れるが、3と4は直接は作れないという構造です。3・4は、1・2を繰り返した結果として育ちます。
一言でいうと
「好きにさせる」ことはできません。できるのは「おもしろい状況を作る」ことだけです。それを繰り返した先に、好きが育つかもしれない——というのがこのモデルの主張です。順序を飛ばして「まず好きにさせよう」とするのは、モデルの読み違えです。
このモデルには実証的な裏づけが限られているという批判もありました。それに応えた研究を、次節以降で見ます。
3. 反証①——個人的興味は学習を予測しなかった
ここから反証に入ります。この分野でもっとも直感に反する所見です。
小学校の理科(N = 186)と中学校の歴史(N = 71)の2つのデータセットで、1回の課題のあいだに状況的興味を7回測定し、個人的興味と知識獲得との関係をパス解析で調べた研究があります。
結果は次のとおりでした [15]。
- 個人的興味は、課題の最初の時点でのみ状況的興味に有意な影響を与え、その後は影響が消えた。
- 個人的興味は、学習の有意な予測因ではなかった。
- 知識獲得を予測したのは、状況的興味だけだった。
この結果を素直に読むと、こうなります。「もともと好きかどうか」は、始まりのきっかけとしては効くが、実際にどれだけ学べるかを決めるのは「いまその場でおもしろいと感じているか」である。
数学で同じ構造を調べた研究も、似た結論に至っています。潜在的個人的興味(PII)は数学の学業達成に直接影響せず、顕在化した個人的興味(RII)が媒介効果として達成に影響しました [8]。「好き」が実際の行動として表に出てはじめて、成績に届くということです。
4. 反証②——参加は増えるが、学習は増えないことがある
体育における興味研究のレビューは、もっと踏み込んだ指摘をしています。
相当量の証拠が、状況的興味が児童生徒を身体活動への従事に動機づけることを示している。しかし同じレビューは続けてこう書きます——「証拠はまた、状況的興味が学習達成にはほとんど影響を与えないかもしれないことを示している」 [10]。
著者らの整理では、状況的興味は教師が統制・操作して、状況的に興味深い学習環境を作り、従事(engagement)を高めるために使える。しかし、従事が高まることと学習が成立することは別である、と。
一言でいうと
「楽しそうにやっている」と「身についている」は別です。授業見学で子どもが生き生きしていることは、良い授業の必要条件ではあっても十分条件ではありません。体験授業の印象だけで塾を選ぶと、この区別を見落とします。
同じレビューは、個人的興味とその発達についての研究が不足していることを、この研究領域の空白として指摘しています [10]。
「おもしろくする」がかえって学習を妨げる——誘惑的細部
さらに踏み込んだ反証があります。この分野の基礎をまとめた1994年の論集に、「誘惑的細部(seductive details)とテキストからの学習」という章が収められています [20]。
誘惑的細部とは、おもしろいが、学ぶべき中心的内容とは関係の薄い情報のことです。教科書のコラム、雑学、印象的なエピソード、目を引く挿絵——いずれもこれに当たりえます。
この研究群が示したのは、直感に反する結果でした。そうした細部を加えると、読み手はその細部をよく覚える一方で、中心的な内容の記憶が落ちることがあるのです。
同じ論集には、重要性・興味・選択的注意の関係を扱った章もあり [20]、なぜこれが起きるかの説明が試みられています。注意には限りがあり、おもしろいものに注意が向けば、その分だけ中心的内容から注意が逸れるという整理です。
一言でいうと
「興味を持たせるために、おもしろい話を足す」は逆効果になりうるということです。足すべきは中心的内容そのものをおもしろくする仕掛け(6節の「認知的活性化」や「有用性」)であって、周辺の飾りではありません。
教材を選ぶとき、カラフルで雑学が多い教材が良い教材とは限らない——この点は覚えておく価値があります。
なお、同じ論集には興味を学業達成の予測因として扱ったメタ分析も収録されており [20]、この主題の量的統合は30年前から試みられています。
5. 反証③——因果の向きが逆かもしれない
もっとも実務的な含意を持つ反証です。
小学生892名を対象に、学業的興味の発達過程全体を構造方程式モデリングで検討した2025年の研究があります。得られた発達経路は次のとおりでした [6]。
状況的興味の源 → 肯定的感情 → 認知的・行動的関与 → 学業成績 → 個人的興味
学業成績が、個人的興味の「前」に置かれています。好きだから成績が上がるのではなく、成績が上がったから好きになる——という向きです。
この向きは、他の研究とも整合します。ドイツの中学生を対象にした2つの縦断研究(N = 745、N = 1,420、5〜8年生を4時点)では、達成目標と興味・達成の関係が一方向ではなく相互的(reciprocal)であることが交差遅延モデルで示されました [17]。
同じ研究には、保護者にとって重要な所見がもう一つあります。すべての目標が学年とともに低下していきました(低下の幅は時間とともに小さくなる)[17]。
一言でいうと
「好きになれば伸びる」と「伸びたから好きになる」は、どちらも部分的に正しく、たぶん循環しています。だとすれば、入口はどちらからでもよい。「まず好きにさせないと始まらない」という思い込みは、根拠が弱いということです。できるようになった経験から入る道もあります。
6. 何が状況的興味を引き起こすのか
状況的興味は外から作れる——では、何が作るのか。2006年から2022年までの35の実証研究を精査したスコーピングレビューは、6つの源を抽出しました [13]。
| 源 | 中身 | 授業での形 |
|---|---|---|
| 有用性・関連性・有意味性 | 自分に関係があると分かる | 「これは何に使うか」を先に示す |
| 新奇性 | 見たことがない | 意外な事実、予想外の結果 |
| 認知的活性化・複雑さ | 考えないと分からない | 答えがすぐ出ない問い |
| 社会的相互作用 | 人とやりとりする | 説明し合う、議論する |
| 実践活動 | 手を動かす | 実験、作図、操作 |
| 選択 | 自分で選べる | 題材や順序を選ばせる |
このレビューは、それぞれの源が条件によって、また学習者の種類によって効果が違うことも示しています [13]。「全員に新奇性を」といった一律の処方はありません。
7. 介入で本当に動くのか
4段階モデルの弱点は、実証的裏づけが限られていたことでした。それに正面から答えた研究があります。
問題を出すだけで、成長軌跡が変わった
小学校の理科で行われた2つの研究です [4]。
研究1(N = 187)では、状況的興味の反復的な喚起が個人的興味の成長に影響するかを、潜在成長曲線モデルで検証しました。結果は、状況的興味の喚起が個人的興味の発達に正の効果を持ち、その成長軌跡に有意に影響するというものでした。
研究2(N = 129)では、4クラスを2条件に無作為割付し、処遇群だけがコースの一部として「興味を引き起こす4つの理科の問題」を受け取りました。他の条件はすべて同じです。
結果は明快でした。問題を受け取った群だけが、状況的興味の反復的な喚起と、それに関連する個人的興味の成長を経験しました [4]。
問題を出す。それだけで、興味の発達曲線が変わったということです。
教材を生徒の関心に合わせる
高校生150名を対象に、知能チュータリングシステム上の代数の問題4単元を、生徒の学校外の関心(スポーツ、音楽など)に合わせて文脈化した実験があります。
結果は次のとおりです [18]。
- 個人化条件の生徒は、誘発された状況的興味がより高かった。
- 誘発された興味は、チュータ内の成果(正答率・学習効率)を予測した。
- 教室の試験成績と数学への個人的興味にも、個人化の総効果が観察された。
この研究が重要なのは、興味と学力の両方に効果を示した数少ない例だからです。著者ら自身が「興味と学力の両方に効果を示した研究は少なく、文脈個人化の介入が両方を達成できるのかが疑問視されてきた」と書いています。
4つの推奨
この分野の第一人者らによる政策向けの総説は、有用と思われる4つの興味喚起介入を挙げています [9]。
- 注意を引く設定をつくる
- 既存の個人的興味を呼び起こす文脈を使う
- 問題基盤学習
- 有用性価値を高める
8. 興味は授業のなかで上下する
測定の話ですが、実務に直結します。
1日の問題基盤学習セッション中、重要な時点で5回、状況的興味を測定した研究(69名)があります。観察された動きは次のとおりです [3]。
- 問題刺激が提示された直後、状況的興味は有意に上昇した。
- その後、徐々に低下した。
- しかし1日の終わりに再び上昇した。
さらに、状況的興味は観察された達成関連の教室行動を強く予測し、その行動が学業達成の有意な予測因でした。
そして測定上の重要な所見です。1日を通して状況的興味を集約すると、達成関連行動と学業達成の予測が不正確になりました [3]。
一言でいうと
「この授業はおもしろかったですか」と終わりに一度だけ聞くのは、測り方として粗すぎます。興味は授業のなかで上がったり下がったりしており、平均してしまうと情報が消えます。どの瞬間に上がり、どこで落ちたかが、設計を直すための情報です。
9. 長期には何を予測するのか
成績への効果が限定的だとしても、興味には別の重要な役割があります。進路です。
大学の心理学入門コースで、858名を対象に初期興味・達成目標・講義への状況的興味を測定し、7学期後まで追跡した研究があります。
結果は次のとおりです——入門コース中の状況的興味は、初期興味とは独立に、その後の履修選択を予測しました [2]。
短期的には、初期興味・達成目標・状況的興味・成績のあいだに関係が現れました。しかし長期的に効いたのは、もともとの好みではなく、その授業のなかで生まれた興味だったということです。
一言でいうと
1つの授業で生まれた「おもしろい」が、数年後の進路選択に残る。塾や学校の1コマが持ちうる影響は、その場のテストの点だけではありません。保護者が「この科目は向いていない」と早く決めてしまうと、この経路を閉じることになります。
関連して、苦手な読み手を対象にした研究では、外発的動機づけを使って読むことへの状況的興味を作り出し、音読の流暢性・読解・学業達成へとつなげるモデルが提案されています [16]。「好きになるまで待つ」のではなく、外から入り口を作るという発想です。
10. その生徒は4段階のどこにいるか
4段階モデルが実務で使えるのは、いま目の前の生徒がどの段階にいるかを見分けられる場合です。これを人数のまとまり(プロファイル)として調べた研究があります。
水泳の授業での4類型
中学生382名(平均14.8歳、女子52.4%、13〜17歳)が体育の水泳授業で回答した、個人的興味・達成目標・知覚された有能さ・状況的興味のデータをクラスター分析した研究です。
抽出された4つのプロファイルは、「個人的興味が非常に低く、状況的興味が誘発されている段階」から「よく発達した個人的興味と、現実化した状況的興味」までの連続体を形づくっていました。そして著者らは、この4つが4段階モデルの4つの段階と一致していたと報告しています [7]。
重要なのは、プロファイルごとに、個人的興味・達成目標・有能さ・状況的興味の関係の形が違っていたことです [7]。同じ働きかけが、段階の違う生徒に同じように効くとは限りません。
技術を使った環境での4類型
中国の中学生634名を潜在プロファイル分析で分類した研究では、状況的興味と個人的興味の共存する4類型が見つかりました——「中程度の状況的興味・低い個人的興味」「中・中」「高・中」「高・高」です [19]。
そして深い学習(学習の楽しさ・認知的関与・考えの関連づけ・理解)との関係では、興味の「深まり・安定」の段階にある類型ほど、深い学習の4要素との関連が強くなっていました。「高い状況的興味・高い個人的興味」が、深い学習が生じるための重要な要因と結論されています [19]。
一言でいうと
「その場だけおもしろい」で止まっている生徒と、「もともと好き」が加わっている生徒では、同じ授業からの持ち帰りが違います。前者には仕掛けを繰り返す必要があり、後者には自分で掘らせる余地を残すほうがよい。一律の「楽しい授業」は、後者には物足りず、前者には足りません。
11. 研究の現在地
この分野がいまどこを見ているかも、押さえておきます。
状況的興味を扱った573本の論文を計量書誌学的に分析した2023年の研究によれば、この20年で研究は着実に増加しており、4段階モデルが状況的興味研究のなかで最も参照される文献になっています [5]。
そして近年の研究が集中している主題は、認知負荷・動機づけ・達成、および拡張現実(AR)などの新興技術です [5]。技術で「おもしろさ」を作れるかという方向に、関心が移っています。
一方、モデルの提唱者自身は別の方向へ進んでいます。2026年の論文で、4段階モデルにおける個人差——同じ働きかけでも、なぜ人によって反応が違うのか——を正面から扱おうとしています [14]。10節のプロファイル研究と同じ問題意識です。
「誰に、どの段階で、何が効くか」が、この分野の次の主戦場だということです。現時点でその地図は完成していません。
12. 塾と家庭の運用にどう落とすか
ここからは、上の知見を当塾の実務に翻訳した部分です。研究が直接そう言っているわけではない箇所は、そう明示します。
(1) 「好きにさせる」を目標にしない
2節のとおり、直接作れるのは状況的興味だけです [1]。当塾が目標に置くのは「今日の90分のなかで、おもしろいと思う瞬間が1回あったか」です。好きになるかどうかは、その結果として起きます。
(2) 問いから入る
7節のとおり、問題を提示するだけで個人的興味の成長軌跡が変わりました [4]。解法の説明から入るのではなく、すぐには答えが出ない問いを先に置きます。6節の「認知的活性化」に当たります。
(3) 「何に使うか」を先に言う
6節の6つの源のうち、最初に挙げられているのが有用性・関連性です [13]。単元に入る前に、それが何の役に立つのかを1分で示します。
(4) 教材をその生徒の関心に寄せる
7節のとおり、文脈の個人化は興味と学力の両方に効果を示しました [18]。当塾では、文章題の題材をその生徒の部活や趣味に置き換えることがあります。個別指導だから低コストでできる操作です。
(5) 「楽しそう」を成果と混同しない
4節のとおり、従事が高まることと学習が成立することは別です [10]。当塾は授業の最後に理解の確認を必ず入れます。楽しかったかどうかは、そこでは測りません。
(6) 上がった瞬間と落ちた瞬間を記録する
8節のとおり、まとめて聞くと情報が消えます [3]。当塾では、授業記録に「どの場面で前のめりになったか」を1行残します。これは研究が推奨した手順ではなく、上記の測定上の所見を実務用に翻訳したものです。
(7) 「向いていない」と早く決めない
9節のとおり、授業中に生まれた興味は数年後の履修選択を予測しました [2]。5節のとおり、できるようになったから好きになる経路もあります [6]。現時点の好き嫌いで進路を絞るのは早すぎます。
13. この記事で言えないこと
- 「好きにさせれば成績が上がる」とは言えません。個人的興味が学習の有意な予測因にならなかった報告があります [15]。
- 状況的興味が学力に届くかは、領域によります。体育のレビューは「学習達成にはほとんど影響しないかもしれない」と結論しています [10]。
- 因果の向きが確定していません。成績が個人的興味の前に来る経路が報告されています [6]。関係は相互的である可能性が高い [17]。
- 4段階モデルの実証的裏づけは、まだ限定的です(研究者自身がそう述べています)[4]。
- 6つの源は、条件と学習者によって効果が変わります。一律の処方はありません [13]。
- 日本の学齢児を対象にした研究は、ここに含まれていません。
- 12節の運用は当塾の実務判断です。研究からの演繹であり、当塾の生徒を対象にした対照実験の結果ではありません。
当塾の立場
当塾は個別指導の塾であり、この記事の内容は当塾の指導方針と無関係ではありません。利害関係を明示しておきます。
この記事の内容は、塾に来なくても実行できます
はっきり書きます。ここまでの内容の大半は、今日から家庭で実行できます。費用はかかりません。
- 「好きにさせよう」ではなく、「今日おもしろい瞬間が1回あったか」を目標にする
- 説明から入らず、すぐ答えの出ない問いから入る
- 単元の前に「これは何に使うか」を1分で示す
- 「楽しそうだった」を成果と混同せず、理解の確認を別に入れる
- 現時点の好き嫌いで進路を絞らない
これを読んで、塾に通わずに実行する方がいるなら、それでいいと考えています。自分で回せる家庭が月謝を払う必要はありません。
それでも塾に通いたい方へ
そのうえで、塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この記事の内容に即して、理由を3つ書きます。
- 教材をその生徒に寄せる操作は、個別でないと採算が合わない。7節のとおり、文脈の個人化は興味と学力の両方に効果を示した数少ない介入です [18]。文章題の題材をその子の部活に置き換える、興味のある分野から例を引く——こうした操作は、40人の教室では設計コストが見合いません。個別指導は構造的にこれができます。
- 「どこで前のめりになったか」は、その場にいないと分からない。8節のとおり、興味は授業のなかで上下し、まとめて聞くと情報が消えます [3]。アンケートでは取れません。解いている最中の表情と手の動きを見て記録に残すことが、次回の設計を変えます。
- 「好きにさせる」を売らない姿勢が要る。4節のとおり、従事が高まっても学習が成立するとは限りません [10]。楽しい授業は評判を作りやすく、事業としては有利です。だからこそ楽しさと定着を分けて測り、定着していなければ「楽しかったが身についていない」と伝える必要があります。これは短期的には不利な報告です。当塾はそれを言う立場を取ります。
逆に言えば、この3つをやっていない個別指導に、この点での優位性はありません。塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。
- 教材の題材を、その子に合わせて変えることはありますか
- 授業中に「乗ってきた場面」を記録していますか
- 「楽しかったが身についていない」と保護者に伝えたことはありますか
3つ目に正直に答えられる塾は多くないはずです。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。
まとめ
- 興味には状況的興味(環境が作る・短い)と個人的興味(その人のもの・長い)がある。
- 発達は4段階。直接作れるのは最初の2段階だけ [1]。
- 2つは別物として測定できている(LST分析)[12]。
- 個人的興味は学習の有意な予測因にならなかった。知識獲得を予測したのは状況的興味だけ [15]。
- 体育では、参加は動機づけるが学習達成にはほとんど影響しないかもしれない [10]。
- 因果の向きが逆かもしれない。892名の経路分析では学業成績 → 個人的興味 [6]。関係は相互的 [17]。
- 問題を提示するだけで、個人的興味の成長軌跡が変わった [4]。
- 状況的興味の源は6つ——有用性・新奇性・認知的活性化・社会的相互作用・実践活動・選択 [13]。
- 教材の文脈個人化は、興味と学力の両方に効果を示した [18]。
- 興味は授業中に上がって下がってまた上がる。平均すると予測力が落ちる [3]。
- 授業中に生まれた興味は、7学期後の履修選択を予測した [2]。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- Hidi, S. & Renninger, K. A. (2006). The Four-Phase Model of Interest Development. Educational Psychologist. DOI: 10.1207/s15326985ep4102_4
- Harackiewicz, J. M. et al. (2008). The Role of Achievement Goals in the Development of Interest: Reciprocal Relations Between Achievement Goals, Interest, and Performance. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/0022-0663.100.1.105
- Rotgans, J. I. & Schmidt, H. G. (2011). Situational Interest and Academic Achievement in the Active-Learning Classroom. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2009.11.001
- Rotgans, J. I. & Schmidt, H. G. (2017). Interest development: Arousing situational interest affects the growth trajectory of individual interest. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2017.02.003
- Meşe, C. (2023). A bibliometric analysis of situational interest research. Review of Education. DOI: 10.1002/rev3.3419
- 【因果の向き】Chang, Y.-F. (2025). An in-depth exploration of the development process of academic interest. Educational Psychology. DOI: 10.1080/01443410.2025.2558187
- Roure, C. et al. (2021). Relationships between students’ individual interest, achievement goals, perceived competence and situational interest: A cluster analysis in swimming. European Physical Education Review. DOI: 10.1177/1356336×211045992
- Park, J. et al. (2023). Investigation of a developmental path model for interest in the study of mathematics. Eurasia Journal of Mathematics, Science and Technology Education. DOI: 10.29333/ejmste/13274
- Harackiewicz, J. M. et al. (2016). Interest Matters: The Importance of Promoting Interest in Education. Policy Insights from the Behavioral and Brain Sciences. DOI: 10.1177/2372732216655542
- 【反証・学習達成には効きにくい】Chen, A. & Wang, Y. (2017). The Role of Interest in Physical Education: A Review of Research Evidence. Journal of Teaching in Physical Education. DOI: 10.1123/jtpe.2017-0033
- Knogler, M. et al. (2015). How situational is situational interest? Investigating the longitudinal structure of situational interest. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2015.08.004
- Guo, Z. et al. (2024). What really elicits learners’ situational interest in learning activities: a scoping review of six most commonly researched types of situational interest sources in educational settings. Current Psychology. DOI: 10.1007/s12144-024-07176-x
- Hidi, S. & Renninger, K. A. (2026). The four-phase model of interest development: Addressing individual differences. Learning and Individual Differences. DOI: 10.1016/j.lindif.2025.102865
- 【反証・個人的興味は学習を予測せず】Rotgans, J. I. & Schmidt, H. G. (2018). How individual interest influences situational interest and how both are related to knowledge acquisition: A microanalytical investigation. The Journal of Educational Research. DOI: 10.1080/00220671.2017.1310710
- Paige, D. D. (2011). Engaging Struggling Adolescent Readers Through Situational Interest. Reading Psychology. DOI: 10.1080/02702711.2010.495633
- Scherrer, V. et al. (2020). Development of achievement goals and their relation to academic interest and achievement in adolescence. Developmental Psychology. DOI: 10.1037/dev0000898
- Bernacki, M. L. & Walkington, C. (2018). The Role of Situational Interest in Personalized Learning. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000250
- Guo, J. et al. (2025). Exploring the categories of students’ interest and their relationships with deep learning in technology supported environments. Scientific Reports. DOI: 10.1038/s41598-025-95294-2
- Renninger, K. A., Hidi, S. & Krapp, A. (eds.) (1994). The Role of Interest in Learning and Development. Lawrence Erlbaum.(Schiefele, Krapp & Winteler「学業達成の予測因としての興味——研究のメタ分析」、Garner, Brown, Sanders & Menke「『誘惑的細部』とテキストからの学習」、Shirey「重要性・興味・選択的注意」を所収)DOI: 10.4324/9781315807430
この連載の他の記事
教育学・認知心理学・社会心理学・行動経済学・教育経済学の研究をもとにした連載です。
- 反転授業は何を変えるのか——「動画を家で見る」が本体ではない
- 「わかった気がする」と実際の学習量はなぜずれるのか
- 分散学習と交互学習——同じ時間の配り方で結果が変わる
- 認知負荷理論と「指導の最小化」論争
- 学習スタイル説はなぜ検証に耐えないのか
- マインドセット研究の現在——再現性の検証を経て何が残ったか
- 社会心理学的介入——短時間の介入が長期に効く条件
- 教育経済学——同じ費用で何が一番効くのか
- 行動経済学と教育——ナッジは何を変え、何を変えないか
- フィードバックはなぜ逆効果になりうるのか
- 読解は技能か知識か——背景知識が理解を決める
- リーディング・ウォーズ——初期の読み指導をめぐる論争
- 数学の概念理解と手続き習熟——どちらが先かという問いの誤り
- 作業記憶は訓練で増やせるか——「脳トレ」研究が示した転移の限界
- 能力別編成は誰の利益になるか——ピア効果と習熟度別指導の実証
- 睡眠は学習の一部である——記憶の定着、思春期の体内時計、始業時刻の実証
- 報酬は意欲を壊すのか——過剰正当化効果から大規模実験まで
- 「1万時間の法則」は何を言っていないか——意図的練習研究の実際
- 学歴は何の対価か——人的資本とシグナリングをめぐる実証
- 学んだことはなぜ別の場所で使えないのか——学習の転移をめぐる100年
- 「分かったつもり」はなぜ生じるか——メタ認知的モニタリングの研究
- 試験で実力が出ないという現象——テスト不安とステレオタイプ脅威
- 就学前教育の効果はなぜ「消えて、残る」のか
- 宿題は効くのか——学年・内容・家庭環境で符号が変わる
- ノートは何をしているのか——手書き優位説の再検証
- 教育に技術を入れると何が起きるか——60年分の評価
- 外国語は早いほどよいのか——臨界期をめぐる実証
- グループにすれば学ぶ、わけではない——協同学習の条件
- 教育研究をどう読むか——因果推論と効果量の作法
- 教師の「質」は測れるか——付加価値モデルの実証と限界
- 少人数学級は効くのか——テネシーSTAR実験から40年
- 1対1で教えると何が起きるか——チュータリング研究の効果量と、効かない条件
- 「非認知能力」は何を指しているか——自制心・やり抜く力・マシュマロ実験の再検証
- 夏休みに学力は下がるのか——測定が結論を左右した研究史
- 試験で学校を評価すると何が起きるか——説明責任政策の実証とキャンベルの法則
- 保護者の関与はどこまで効くか——宿題の手伝いより、一行の連絡が効く理由
- スマートフォンと注意——学校の持込禁止、「そこにあるだけ」の害、マルチタスクの実証
- 数学不安は成績を下げるのか——相関の大きさ、因果の向き、介入の再現性
- 教師の期待は生徒を変えるか——ピグマリオン効果の60年が残した結論
