5/3 「中庸」とは何か?

塾生に指導をしている身であるが、子供は生粋の哲学者であるので、教えているこちら側が学ばされることも少なくありません。そんな中の一つで、標題にある「中庸とは何か」という問いです。しかも、これを別に四書五経だとか論語という東洋思想を教えているときに出たのでは無く、アリストテレスの倫理学を教えているときに問われたので、問われた私も一瞬戸惑ってしまいました。生徒さんは帰国子女の生徒さんで、私が、「アリストテレスはメソテース(中間にあるもの)こそが、徳(アレテー;卓越性)である」といっているんだよ、と説明したところ、生徒さんが「それって普通ってこと?平均みたいなこと?」とツッコミ入りました。

もちろん、「メソテース」あるいは「中庸」というのは、「普通」や「平均」という意味ではないので、「いや、そういう意味ではないよ」と「程々が良いということ」と返したのですが、「ほどほどってどんな感じなの?テキトーってこと?」と更にツッコミを入れられました。「いや、極端に偏らないこと、過不足が無くちょうどよくバランスが取れていることだよ」と説明しますが、「それってどういう状態なの?」と更に疑問を深めてしまいました。

私の専門は西洋哲学なので、東洋思想における「中庸」について語るのは、難しい、と判断し、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』の説明をしました。曰く「ロゴスによって中間性と定まり、かつ思慮深い人ならば中間性と定めるような定め方において定まるもの」(渡辺邦夫訳『ニコマコス倫理学』岩波文庫)という箇所を示すと「なんだ!やっぱり真ん中っていう意味じゃないか」と反論を加えられます。奇しくもアリストテレスが「この(中間性である)点を、一般的に語るばかりでなく、個々の徳にかかわる事柄とうまく調和するようにしなければならない」と語っている通りで、抽象的にいきなり「中間性」だとか「中庸」と言われてもやはり「真ん中じゃないか」と誤解されるのも仕方が無いことかもしれません。

アリストテレス自身、勇気という徳を説明する際に、「自信の大きさで度を超すのは『向こう見ず』である。そして、恐れる点で度を超しつつ自信の点で不足なのは『臆病』である」として説明する際に「恐れのなさの点で並外れているものには、名前がない(多くのものごとには、名前がないのである)」と述べているように、中間性を示す際に目印となるべき度を超えた極端な言葉が見当たらないことについて語っているように、「極端」を避けるといっても、その極端な事例を指し示すことが難しい場合も少なくありません。

もちろん、アリストテレスは、ただ中間性と言っているのではなく、ロゴスによって、という区別と、思慮深い人(phronesis)という知性的な徳の縛りを与えているものの、両極端の中間性と説くアリストテレスの理解を説明するのに、私が生徒さんに最初説明した「ほどほど」というのはやはり不適切であったと言わざるを得ません。実際、アリストテレスも「中間を当てることは、困難であるかもしれない。ことに個別的な事柄では、もっとも困難であるかもしれない。というのも、いかにして、だれに、どのようなことにかんして、どの程度怒るべきであるかということは、規定するのが容易ではないからである」と述べている通り、どれくらいが「ほどほど」なのかはケースバイケースによって異なるものであり、なかなか言い当てられない難しさを持っているからです。

山本芳久が100分de名著の『ニコマコス倫理学』では、この難しさについて分かりやすく、こう書いています。「(食べ物の食べ方における)『節制』に関してはどうでしょうか。先程述べましたように、何も感じないのも悪徳です。この世界に満ちている様々なおいしいものに対してまったく心が動かないということは、ものを味わうとう自らが持って生まれた能力を発揮出来ていない状態です。他方、ちょっとでもおいしそうなものがあれば何も考えずに食べてしまうという在り方も悪徳です。では、まあまあ食いつけば良いのかと言えば、そういうことではない。いま自分にとって最も必要なものを、ほどよいバランスで食べる。それこそが節制ある人なのです。中庸とは、『まあまあ』とか『ほどほど』ではなく、ど真ん中を射抜くこと。そうであるからこそ、やはり私たちは、一つの選択においてよくよく考えて選び抜き、行為する必要があります」と。

アリストテレスの言う中庸とは、確かに極端を避けることであり、ちょうどいいテキトーではなく、適当なもので折り合いをつけることではありますが、正確にいえば、ただ間を取って真ん中をとるというようなものではなく、度を外れたものの間にある、まさに的確で適当など真ん中を射抜くことであるわけですね。そうであるからこそ、ど真ん中を的中させる思慮深さが必要であるというわけですね。

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ryomiyagawa
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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