文章題の「型」を見抜く訓練——効果量1.57のスキーマ指導は、8週後に消えることもある

文章題の「型」を見抜く力は、教えて育つのか

中学受験の算数では、「和差算」「つるかめ算」「割合と比」のように、問題をで呼ぶ習慣があります。塾のテキストも型ごとに章が分かれています。ところが、型ごとに解き方を覚えた子ほど、模試で見慣れない話の筋に変わった途端に手が止まる——保護者の方から、よく伺う相談です。

この現象は、教育心理学では「表面の特徴(登場人物・物・場面)」と「深層の構造(量と量の関係)」の区別として研究されてきました。そして、問題の構造そのものを教える方法はスキーマ指導(schema-based instruction, SBI)と呼ばれ、数十年分の実験が蓄積されています。スキーマとは、「増える・減る」「比べる」「部分と全体」のような、問題の骨組みの型のことです。

この記事では、スキーマ指導のメタ分析(多数の研究を統計的に統合する方法)と無作為化比較試験を読み、何が確かに言えて、何が言えないのかを整理します。先に言っておくと、効果は大きく出ています。しかし、効果が大きく出る条件には偏りがあり、中学受験生にそのまま当てはめてよいかには留保が要ります

一言でいうと(この記事の結論)
「型を覚える」と「型を見抜く」は別物です。問題の構造を図や式で表させるスキーマ指導は、小学生の文章題の成績を大きく伸ばしました [1]
ただし——効果の多くは学習に困難のある子を対象にした研究から得られ、研究者自作のテストで大きく出て、時間が経つと消える例もあります [2][7]
——型を「名前で暗記」させるのではなく、「構造で分類」させる練習に切り替えることが、研究から引き出せる実務です。

結論を6点にまとめます。

  1. 小学生を対象にした21研究・3,408名のメタ分析で、スキーマ指導の効果量は g = 1.57(即時)、転移問題でも g = 1.09 [1]
  2. 学習障害・算数困難のある児童生徒への文章題指導全体を統合すると g = 0.56。研究者自作テストで大きく、標準化テストで小さかった [2]
  3. 中学1年相当の1,163名の無作為化実験で、比と割合の問題に g = 1.24、6週後も g = 1.27。ただし転移テストでは差がなかった [6]
  4. 反証。小3の個別指導で得た伸びは、8週後には維持されていなかった [7]
  5. 反証。一般的な解法手順の指導と比べると、スキーマ指導の優位は初期だけで持続しなかった [8]
  6. 52研究・6,900名超のネットワーク・メタ分析では、単独で最強の方法はなく、組み合わせが効いた [3]
マインドマップ図解:文章題の「型」を見抜く訓練——効果量1.57のスキーマ指導は、8週後に消えることもある
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. つまずきの正体——子どもは「話の筋」で問題を分類する

問題を解く前に、人は「前にやったあの問題と同じだ」と分類しています。その分類が表面で行われるか構造で行われるかで、成否が分かれます。

物理の問題を使った研究では、熟達した解き手は「同じ原理で解ける問題」をまとめるのに対し、苦手な解き手は物・場面・与えられた量といった表面の特徴を手がかりに式を探すことが確かめられてきました。そのうえで、問題の組を見せて「同じ解き方か」を判断させ、その判断を原理に結びつけて説明するフィードバックを与える短い介入を行ったところ、推論に原理を使う割合が増えたと報告されています [14]

中学受験の算数に置き換えると、「池の周りを2人が歩く」から旅人算、「カメとツルの足」からつるかめ算と判断するのが表面の分類です。同じ構造が「売上と個数」の話で出た途端、分類に失敗します。

では、文章を易しく書き換えれば解けるのか。代数の文章題で、文の数・代名詞・語の具体性・話題など6つの言語的特徴を一つずつ操作した実験では、一般の生徒について、個々の言語特徴が正答に大きく影響するという証拠はほとんど得られませんでした [13]

一言でいうと
「問題文が読めていない」だけが原因なら、文章を易しくすれば解けるはずです。しかし実験ではそうなりませんでした [13]
——多くの場合、足りないのは語彙ではなく、量の関係を取り出して型に当てはめる手続きです。

2. スキーマ指導とは何をする指導か

スキーマ指導の研究は、特別支援教育の分野で発展しました。幼稚園から小2を対象にした13研究(約2,100名)の系統的レビューは、指導を構成する要素を次の7つに整理しています [10]

構成要素 家庭・塾での具体例
明示的なスキーマの指導 「合わせる型」「比べる型」「変化する型」と名前をつけて教える
図・メタ式・ジェスチャー 線分図、「全体=部分+部分」のような型ごとの式
解決手順 読む→型を決める→図に数を入れる→式→確かめる
数字のない問題 数値を伏せて「どの型か」だけを答えさせる
語彙の指導 「〜より多い」「残りの」など関係を表す言葉
具体物 おはじき・テープなどで量を置く
自己モニタリング 手順表に自分でチェックを入れる

要点は、型の名前を覚えさせることではなく、構造を図や式として表させることです。小2の担任18名を無作為に割り付けた16週間の研究では、問題の構造を包括的な式で表す「スキーマ拡張指導」を受けた270名が、従来型の指導より文章題でよく伸び、文章題の構造を代数的な式で表せるようになったと報告されています [5]

この「拡張」がもう一つの要点です。小3の担任24名・366名を対象にした16週間の研究では、スキーマ指導を受けた群が対照群を上回り、子どもの中にスキーマがどれだけ発達したかが、成績の伸びを独自に説明しました [4]。つまり、効いていたのは解き方の暗記ではなく、型の引き出しそのものが育ったことでした。

3. 効果の大きさ——メタ分析と大規模試験

まず、支持する側の証拠を並べます。

研究 対象・デザイン 結果
Peltier ら 2017 [1] 小学生の21研究・3,408名(うち障害のある児童324名)のメタ分析 即時 g = 1.57、転移問題 g = 1.09
Jitendra ら 2013 [6] 中1相当(7年生)1,163名・42学級の無作為化実験、6週間 比・割合の問題で g = 1.24、6週後 g = 1.27
Fuchs ら 2021 [9] 小1の391名、4条件の無作為化試験、1回30分×45回 スキーマ+言語理解指導が最も高い

効果量 g は、2群の差を標準偏差の単位で表したものです。1.57は教育研究では異例に大きい値です。

中学受験にとって特に重要なのは、Jitendra らの研究が比と割合を扱っている点です。この研究のスキーマ指導は、問題の数学的構造を強調し、自分の解き方を点検するための手順(ヒューリスティック)を併せて与えるものでした [6]。割合の問題を「くらべる量・もとにする量・割合」の関係として図に落とす、という受験算数の定番の教え方と、骨格はほぼ同じです。

一言でいうと
支持する側の数字は、どれも大きい。しかも、中学受験で最も差がつく「割合と比」で、大人数の無作為化実験があります [6]
——ただし、次の節を読むまで、この数字をそのまま信じないでください。

4. 反証——効果が大きく見える理由と、消える条件

ここからは、塾にとって都合の悪い結果です。支持する研究と同じ分量で書きます。

(1)測り方で効果が変わる。学習障害・算数困難のある幼稚園〜高校生を対象にした31研究のメタ分析は、文章題指導の平均効果を g = 0.56 と推定しました。これは Peltier らの値の3分の1強です。そして効果は、研究者が自作したテストで大きく、標準化された学力テストで小さく研究者自身が指導した場合に大きく、学校の教師が指導した場合に小さかったと報告されています。小学生のほうが中高生より効果が大きかったことも示されています [2]

(2)転移しないことがある。1,163名の実験で比と割合の問題に大きな効果が出た一方、転移テストでは群間に有意差がありませんでした [6]。訓練した種類の問題は解けるようになったが、少し違う問題への広がりは確認できなかった、ということです。

(3)時間が経つと消えることがある。算数に困難のある小3を対象に、訓練を受けたチューターが30時間の少人数指導を行った無作為化実験では、スキーマ指導群は直後に対照群を上回ったものの、8週後にはその文章題の成績は維持されていませんでした。一方で、標準化された算数学力テストでは優位が見られています [7]

(4)比較相手を変えると差が縮む。通常学級の小3・60名を無作為に分けた研究では、スキーマ指導も一般的な解法手順の指導も、どちらも伸びました。スキーマ指導の優位は初期にのみ見られ、持続しませんでした [8]。対照群が「何もしない」ではなく「別のきちんとした指導」だと、差は小さくなります。

(5)小規模だと伸びは小さい。小2の7名に行った実践研究では、正答率は 22%から34%への小さな伸びにとどまり、算数への態度の変化も小さいものでした [11]

(6)証拠の格付けは「潜在的」。特別支援教育の研究基準(CEC基準)で文献を審査したレビューは、学習障害のある児童生徒に対するスキーマ指導を「潜在的なエビデンスに基づく実践」にとどめています [12]

一言でいうと(反証のまとめ)
「g = 1.57」は、研究者が作ったテストで、研究者が教え、直後に測った場合の値に近いと考えるべきです。
学校の教師が教え、標準化テストで、時間を置いて測ると、効果は小さくなるか、消えることがあります [2][7][8]
——そして、研究の多くは算数に困難のある子を対象にしています。中学受験の上位層で同じ大きさの効果が出る保証はありません。

5. 単独の方法より、組み合わせ

では、何を組み合わせればよいのか。算数に困難のある小学生を対象にした52研究・6,900名超のネットワーク・メタ分析(複数の方法を同時に比較する統合法)は、次の結果を報告しました [3]

  • 最も効果的だったのは、「具体物→半具体(図)→抽象(式)」の段階的指導・図解の枠組み・メタ認知方略・スキーマ指導の組み合わせ
  • 最も効果が小さかったのは、メタ認知方略だけを単独で教えた場合など
  • 単独で最強の方法は見つからなかった

もう一つ、言語の役割です。小1の391名を4条件に分けた試験では、スキーマ指導に言語理解の指導を埋め込んだ群が最も高い成績を示しました。一方、数の知識を鍛える介入は、計算は伸ばしたものの文章題では優位がありませんでした [9]

一言でいうと
「計算をもっと速くすれば文章題もできるようになる」は、支持されていません [9]
——図・言葉・型の3つを同時に扱うことが、現時点の証拠で最も分のよい選択です [3]

6. 実務——家庭で明日からできる「型の分類練習」

反証を踏まえ、「効果が消えやすい」「転移しにくい」ことを前提に組み立てます。

  1. 数字を伏せた分類問題を、1日5問・5分。テキストの文章題から数値を消し(付箋で隠す)、「どの型か」「図はどう描くか」だけを答えさせます。数字のない問題はスキーマ指導の構成要素の一つです [10]計算させないので、短時間で数をこなせます。
  2. 表面の違う同じ型を2問並べる。「旅人算」と「水の出入り」のように、話の筋は違うが構造が同じ問題を並べ、「どこが同じか」を言わせます。判断のあとに、構造に結びつけて理由を説明するのが要点です [14]
  3. 型ごとの図の型を1枚にまとめる。「合わせる」「比べる」「変化」「割合(くらべる量・もとにする量)」の4種について、線分図のひな形を子ども自身に描かせ、机に貼ります [5]
  4. 関係を表す言葉に下線を引く。「〜より3多い」「残りの」「全体の」に線を引き、図のどこに当たるかを矢印で結びます。言語理解を型の指導に埋め込む形です [9]
  5. 6週後と8週後に、同じ型の初見問題でテストする。8週後に効果が消えた研究があるため [7]「その週にできた」ではなく「2か月後にもできるか」で判断します。

この記事で言えないこと

  • 中学受験の上位層での効果量。引用した研究の多くは、算数に困難のある子や通常学級の子を対象にしており [1][2]、難関校レベルの問題で同じ効果が出るかは検証されていません。
  • 日本の受験算数の「特殊算」との対応。研究のスキーマ(合わせる・比べる・変化・割合)と、和差算やつるかめ算の分類は一対一には対応しません。対応づけは本記事の解釈です。
  • 長期の転移。転移テストで差が出なかった研究 [6] と、転移問題で効果が出たメタ分析 [1] があり、どちらが中学受験の状況に近いかは決められません。

当塾の立場

まず、塾に来なくても家庭でできることです。

6節の手順——数字を伏せた分類練習、表面の違う同じ型の比較、図のひな形づくり、関係語への下線、2か月後の確認——は、どれも家庭だけで実行できます。

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 誤分類の診断は、答えより途中を見ないとできないこと。子どもがどの型と判断したかは、解答欄には残りません。スキーマの発達そのものが伸びを説明した研究があるように [4]見るべきは「どう分類したか」です。1対1なら、描いた図と口頭の説明から分類の誤りを特定できます。
  2. 組み合わせの配分を、子どもごとに変えられること。単独で最強の方法はなく、組み合わせが効きました [3]。図が描けない子、言葉の関係が取れない子、手順の点検が抜ける子で、足すべき要素は違います。
  3. 効果が消える前提で、時期をずらして測り直せること。8週後に消えた研究がある以上 [7]数週間おいて同じ型を初見問題で確かめる記録を、指導側が持っておく必要があります。

塾を選ぶ際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 子どもがどの型だと判断したかを、どうやって確かめていますか
  • 話の筋が違う同じ型の問題を、どのくらいの頻度で混ぜていますか
  • できるようになった型を、何週間後に確かめ直していますか

まとめ

  1. 小学生のメタ分析で g = 1.57、転移でも g = 1.09 [1]
  2. 比と割合で g = 1.24、6週後も g = 1.27。ただし転移は確認されなかった [6]
  3. 反証。困難のある子への文章題指導全体では g = 0.56、標準化テストや教師実施で小さい [2]
  4. 反証。8週後に維持されなかった例 [7]優位が初期だけだった例 [8]伸びが小さかった例 [11]
  5. 単独で最強の方法はなく、図・型・メタ認知の組み合わせが効いた [3]。言語理解の指導を組み込むと伸びが大きかった [9]
  6. 家庭では「数字を伏せて型だけを答える」練習から始め、2か月後に効果を測り直す。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【スキーマ指導メタ分析・21研究】Peltier, C. J. & Vannest, K. J. (2017). A Meta-Analysis of Schema Instruction on the Problem-Solving Performance of Elementary School Students. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654317720163
  2. 【反証・測定と実施者で効果が変わる】Lein, A. E., Jitendra, A. K. & Harwell, M. R. (2020). Effectiveness of mathematical word problem solving interventions for students with learning disabilities and/or mathematics difficulties: A meta-analysis. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000453
  3. 【ネットワーク・メタ分析・52研究】Peng, P., Liu, Y. & Li, S. (2025). Exploring the Effectiveness of Word-Problem Strategy and Strategy Combinations: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-025-10057-9
  4. 【小3・366名・16週】Fuchs, L. S. et al. (2004). Enhancing mathematical problem solving among third-grade students with schema-based instruction. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/0022-0663.96.4.635
  5. 【スキーマ拡張指導と代数的表現・小2】Fuchs, L. S., Zumeta, R. O., Schumacher, R. F. et al. (2010). The Effects of Schema-Broadening Instruction on Second Graders’ Word-Problem Performance and Their Ability to Represent Word Problems with Algebraic Equations. The Elementary School Journal. DOI: 10.1086/651191
  6. 【比と割合・1,163名の無作為化実験】Jitendra, A. K., Star, J. R., Dupuis, D. N. et al. (2013). Effectiveness of Schema-Based Instruction for Improving Seventh-Grade Students’ Proportional Reasoning: A Randomized Experiment. Journal of Research on Educational Effectiveness. DOI: 10.1080/19345747.2012.725804
  7. 【反証・8週後に維持されず】Jitendra, A. K., Dupuis, D. N., Rodriguez, M. C. et al. (2012). Effectiveness of Small-Group Tutoring Interventions for Improving the Mathematical Problem-Solving Performance of Third-Grade Students with Mathematics Difficulties: A Randomized Experiment. Society for Research on Educational Effectiveness. ERIC: ED536317
  8. 【反証・優位は初期のみ】Griffin, C. C. & Jitendra, A. K. (2009). Word Problem-Solving Instruction in Inclusive Third-Grade Mathematics Classrooms. The Journal of Educational Research. DOI: 10.3200/joer.102.3.187-202
  9. 【言語理解を組み込んだスキーマ指導・小1・391名】Fuchs, L. S., Seethaler, P. M., Sterba et al. (2021). Closing the word-problem achievement gap in first grade: Schema-based word-problem intervention with embedded language comprehension instruction. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000467
  10. 【構成要素7つの系統的レビュー】Hardy, Powell, S. R. & Saglam-Ak (2026). Implementing schema instruction to support young children with word problems: A systematic review. Journal of Numerical Cognition. DOI: 10.5964/jnc.17649
  11. 【反証・小規模で伸びは小さい】Hughes, S. & Cuevas, J. (2020). The Effects of Schema-Based Instruction on Solving Mathematics Word Problems. Georgia Educational Researcher. DOI: 10.20429/ger.2020.170202
  12. 【反証・証拠は「潜在的」】Cook, Collins, Morin & Riccomini (2019). Schema-Based Instruction for Mathematical Word Problem Solving: An Evidence-Based Review for Students With Learning Disabilities. Learning Disability Quarterly. DOI: 10.1177/0731948718823080
  13. 【文章の言語的特徴の操作】Walkington, C., Clinton, V. & Sparks, A. (2019). The effect of language modification of mathematics story problems on problem-solving in online homework. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-019-09481-6
  14. 【表面の特徴による分類と短い介入】Docktor, J. L., Mestre, J. P. & Ross, B. H. (2012). Impact of a short intervention on novices’ categorization criteria. Physical Review Special Topics – Physics Education Research. DOI: 10.1103/physrevstper.8.020102

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