理科の実験問題と「条件をそろえる」力——正しい実験より「ダメな実験」で教えると遠くまで効く

「条件をそろえる」は、教えて身につくのか

中学受験の理科では、実験の問題が毎年のように出ます。種子の発芽に水・空気・温度のどれが必要か、ふりこの周期はおもりの重さで変わるか——こうした問いに答えるには、調べたい条件を1つだけ変え、ほかの条件をすべてそろえた実験の組を選ぶ必要があります。いわゆる対照実験です。

ところが、この「条件をそろえる」考え方は、覚えた知識のように見えて、実は多くの子どもが自然には身につけない思考の型です。発達心理学・理科教育学ではこれを変数制御方略(control of variables strategy, CVS)と呼び、「どう教えれば身につき、新しい問題に使えるようになるか」が、25年以上にわたって実験的に研究されてきました。

この研究領域は、「直接教えるべきか、子どもに発見させるべきか」という教育学の大論争の主戦場でもあります。この記事では、CVS指導の研究を読み、中学受験の理科の実験問題にどう備えるかを考えます。

一言でいうと(この記事の結論)
変数制御の考え方は、教えれば身につきます。72の介入研究のメタ分析で、平均効果量は g = 0.61 でした [1]
最も効いたのは「正しい実験の手本」より「ダメな実験の理由」を説明する指導で、遠い転移で差がつきました [5]
ただし——一度の説明で身につくとは限りません。10週間の追跡では、直接指導は定着の必要条件でも十分条件でもなかった [4]
——「説明を1回聞く」ではなく、「欠陥のある実験を見抜く練習を、間を空けて繰り返す」ことが実務の核心です。

結論を6点にまとめます。

  1. CVS指導の72研究のメタ分析で g = 0.61。効果と関連した指導の特徴は「認知的葛藤」と「実演」の2つだけだった [1]
  2. 小3・小4の112名で、直接指導のほうが発見学習より多くの子が方略を習得した [3]
  3. 小4の1,069名・60学級で、「欠陥のある実験」を例に理由を説明する指導が、遠い転移で最も優れていた [5]
  4. 課題を「1回に1つの条件」に分割するだけでも、直接指導と同等の効果があった [8][9]
  5. 反証。10週間の追跡では、直接指導は習得・維持の必要条件でも十分条件でもなく、習得はゆっくり進む過程だった [4]「先に考えさせてから教える」方法と差がなかった研究もある [7]
  6. 反証。CVSを身につけても、複数の原因を同時に扱う推論は思春期初期までに十分育っていなかった [11]
マインドマップ図解:理科の実験問題と「条件をそろえる」力——正しい実験より「ダメな実験」で教えると遠くまで効く
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 変数制御方略とは何か——なぜ自然には育たないのか

変数制御方略とは、ある要因の効果を調べるとき、その要因だけを変え、他の要因を一定に保つという実験計画の原理と、条件がそろっていない実験からは結論を出せないという解釈の原理を合わせたものです。

72の介入研究を統合したメタ分析は、冒頭で次のように述べています。CVSは学校理科と科学的リテラシーの基礎だが、練習や指導なしには通常は発達しない [1]

子どもが自然に取る行動も確かめられています。小学校高学年61名にシミュレーションで探究課題をさせた研究では、子どもはもともと「1つの変数について問う」問いを立てる傾向がありました。そして、多変数の課題を1変数ずつの小課題に分けて与えると、実験がより体系的になり、より妥当な推論と理解につながったのです [10]

測り方にも注意が要ります。CVSを測る既存のテストを検討した研究は、多くのテストがCVSに不可欠な4つの下位技能のうち一部しか使っていないことを指摘しました。新たに作ったテストでは、問題の難しさは使う下位技能で決まり、題材(理科のどの分野か)ではほとんど決まらなかったため、一部の下位技能だけのテストは生徒の力を過大または過小に評価しやすいと結論しています [12]

一言でいうと
「条件をそろえる」は、知識ではなく、教えなければ育ちにくい思考の手続きです [1]
——そして、問題の難しさは「ふりこか発芽か」ではなく、CVSのどの下位技能を問うかで決まります [12]。単元ごとに暗記しても、この力は測れていない可能性があります。

2. 教えれば伸びる——72研究のメタ分析

CVS指導の効果を統合した2016年のメタ分析は、外れ値を除いて平均効果量 g = 0.61(95%信頼区間 0.53〜0.69)と推定しました [1]

検討した調整要因 結果
指導の特徴 「認知的葛藤」と「実演(デモンストレーション)」の2つだけが成績と有意に関連
評価テストの形式 研究間のばらつきの主要な原因
その他の設計・生徒・指導の特徴 有意な関連なし

認知的葛藤とは、子どもの予想や思い込みと食い違う結果・事例を突きつけ、「なぜだろう」と考えざるをえない状況を作ることです。「この実験で、重いおもりのほうが速く揺れたから重さが原因だと言える?」と問われ、糸の長さも違っていたことに気づく——これが認知的葛藤の典型です。

探究型の理科指導全体では、37の実験・準実験研究のメタ分析が平均効果量 .50 を報告し、教師主導の活動は生徒主導の活動より効果量が約 .40 大きかったとしています [13]

3. 直接教えるか、発見させるか

CVS研究を有名にしたのが、この論争です。

出発点は、7〜10歳を対象にした1999年の研究でした。領域内での明示的な訓練と確認の問いかけを受けた子どもはCVSを習得し転移させた一方、直接指導なしに問いかけだけを受けた子どもは、CVSも推論も改善しませんでした。遠い場面への転移は年齢とともに向上しました [2]

続く2004年の研究(小3・小4の112名)は、直接指導のほうが発見学習より、はるかに多くの子どもが実験計画の手続きを習得したことを示しました。さらに、科学展のポスターを評価させるという、より幅広い判断の課題では、直接指導で学んだ多くの子どもが、自力で方法を発見した少数の子どもと同程度の成績でした [3]

小4の76名と小6の43名を無作為に分けた研究でも、習得・転移ともに直接指導群の伸びが発見学習群より大きく、発見学習群では事前の力・言語的推論・読解力が伸びの差を説明した一方、直接指導群では個人差の役割は小さいものでした [6]

一言でいうと
発見学習では、もともと言葉の力がある子だけが伸びやすい [6]
——直接指導は、子どもの間の差を縮める方向に働きました。中学受験の理科で「実験問題は国語力のある子が強い」と言われる現象の、一つの説明になりえます。

4. 「正しい実験」より「ダメな実験」で教える

中学受験の実務にとって最も示唆に富むのが、小4の1,069名・60学級を対象にした研究です [5]。3つの条件が比べられました。

条件 内容
欠陥例条件 条件がそろっていない実験の例を使い、CVSの論理を説明
正例条件 条件がそろった正しい実験の例を使い、CVSを説明
対照条件 直後テストまで明示的な指導なし

結果は、学校の学力水準とテストの種類によって異なりました。

  • 学力が低めの学校——近い転移では2つの指導が同等に対照を上回った。しかし中間・遠い転移では、直後も遅延後も、欠陥例条件だけが対照を上回った
  • 学力が高めの学校——近い・中間の転移では2つの指導が同等。しかし遠い転移では、欠陥例条件>正例条件>対照の順だった [5]

著者らは、欠陥例条件の優位を「関係のない変数をなぜ一定にするのか」という理由を強調したためだと解釈しています [5]。メタ分析で認知的葛藤が効果と関連していたこととも符合します [1]

もう一つ、課題の構造化という方法もあります。小学生を、直接指導・課題の分割・支援なしの3条件に分けた研究では、課題を変数ごとに順に取り組ませる分割は、直接指導と同等に効果的で、どちらも支援なしの探究より優れていました [8]。小5の55名の研究では、その効果がCVSにとどまらず、より明確な予測と妥当な推論にも及びました [9]

5. 反証——教えても定着しない、教え方で差が出ない

ここからは、「直接教えれば解決」という結論に反する証拠です。

(1)一度の直接指導は、定着を保証しない。2004年の研究と同年齢の小4を、多様な社会経済的背景から15名ずつ3群に分け、10週間で12回追跡した研究があります。①CVSが必要な問題に取り組み続ける群、②同じ活動の前に直接指導を1回受ける群、③最初の直接指導だけを受けて練習しない群。結論は、長期の枠組みで見ると、直接指導は確かな習得や時間を経た維持の必要条件でも十分条件でもなかったというものでした。著者らは、習得は段階的で長い習得と定着の過程だと述べています [4]

(2)先に考えさせても、差が出ない。小4・小5の101名で、「先に自分で考案させてから説明する」方法と「先に説明してから練習させる」方法を比べた研究では、両群とも直後の評価で同じように大きく伸び、遠い転移でも同程度でした。学力水準や社会経済的背景の異なる学校でも、おおむね一貫していました [7]。直接指導の優位は、比べる相手によっては消えます。

(3)知識の伸びには練習量が足りない。課題の分割と直接指導を比べた研究では、実験の手続きは伸びた一方、CVSについての知識の伸びは条件間で同程度で、著者らは「さらに練習が必要と思われる」と述べています [8]

(4)CVSの先に、育っていない思考がある。CVSを超えて科学的思考に必要なものとして、複数の原因が同時に結果に影響するのを調整して考える力と、科学的知識が人によって構築されるものだという認識論的理解を挙げた研究は、新たなデータにより、これらが思春期初期までに十分発達していないことを示しました [11]。「1つだけ変える」ができても、「2つの条件が同時に効いている」グラフの読み取りはできない、ということが起こりえます。

(5)指導は組み合わせないと知識に届かない。小4の301名で、科学的推論の直接指導と、教師の言葉による支援の訓練を比べた研究では、2つを組み合わせた場合が最も効果的で、理科の内容知識の獲得は、両方の指導があるときにだけ強まりました [14]

一言でいうと(反証のまとめ)
「条件をそろえる、と1回教えた」は、「できるようになった」ではありません [4]
——直接指導か発見かの二択より、「理由を突きつける」「課題を分ける」「繰り返す」の設計のほうが結果を左右しています [5][7][8]

6. 実務——家庭でできる実験問題の練習

研究から、「欠陥例で理由を問う」「課題を分ける」「間を空けて繰り返す」「実演で葛藤を起こす」の4つを軸に組み立てます。

  1. 「ダメな実験」探しを週1回・3題。過去問や問題集の実験の組から、あえて条件がそろっていない組を保護者が作り、「この2つを比べて〇〇が原因と言えるか。言えないなら、何がそろっていないか」と問います。理由を言葉で答えさせるのが要点です [5]
  2. 表を作ってから答えさせる。実験問題を解く前に、「変えた条件」「そろえた条件」「結果」の3列の表に書き出させます。多変数の問題を1変数ずつに分ける手順です [8][10]
  3. 家で実演して、予想を裏切る。糸の長さとおもりの重さを同時に変えたふりこを見せ、「重いほうが遅い、と言っていい?」と聞きます。予想と結果の食い違いが、メタ分析で効果と関連した「認知的葛藤」と「実演」にあたります [1]
  4. 1回で終わらせず、2週間おきに形を変えて出す。発芽→ふりこ→電流→ものの溶け方と、題材を変えて同じ論理を問います。習得は段階的な過程でした [4]
  5. 「計画する」問題も混ぜる。選ぶ・解釈するだけでなく、「〇〇を調べるには、どんな実験の組を作ればよいか」と計画させる問題を入れます。下位技能が偏ったテストでは力を見誤ります [12]
  6. 小6の後半は「条件が2つ効いている」問題へ。結果の表から2つの条件の組み合わせを読む問題に進みます。この力はCVSとは別に育てる必要があります [11]

この記事で言えないこと

  • 中学受験の入試問題での得点への効果。引用した研究の成果指標は研究用のCVSテストで、日本の入試の実験問題ではありません。
  • 最適な練習回数と間隔。繰り返しが必要なことは示されていますが [4][8]、「何回・何週おき」を示した研究は見つけられませんでした。6節の回数は本記事の提案です。
  • 直接指導と発見学習の最終的な優劣。直接指導が優れた研究 [3][6] と、差がなかった研究 [7]、長期では条件にならなかった研究 [4] があり、決着していません。

当塾の立場

まず、塾に来なくても家庭でできることです。ダメな実験を作って理由を問う、3列の表に書き出す、ふりこを家で揺らして予想を裏切る、題材を変えて2週間おきに出す——6節の手順は、問題集と身の回りの道具で実行できます。

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 「理由を言えるか」は、選択肢の正誤では判定できないこと。遠い転移で差がついたのは、変数をそろえる理由を強調した指導でした [5]。1対1なら、正解した子にも「なぜ」を言わせ、偶然の正解を見分けられます。
  2. 言葉の力の差を、指導で埋める必要があること。発見に任せると、言語的推論や読解力のある子だけが伸びやすかった [6]。つまずいている子には、課題の分割や明示的な説明を個別に足せます。
  3. 定着を、時間を置いて確かめ直せること。一度の指導では定着が保証されませんでした [4]。題材を変えた再出題の記録を、講師側が管理できます。

塾を選ぶ際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 実験問題で、正解した子にも理由を説明させていますか
  • 条件がそろっていない実験の例を、指導に使っていますか
  • 一度できた実験問題の考え方を、どう間を空けて確かめていますか

まとめ

  1. 変数制御方略は、指導なしには通常発達しない [1]
  2. 72研究のメタ分析で g = 0.61。認知的葛藤と実演が効果と関連した [1]
  3. 直接指導は発見学習より多くの子に習得させ [3]、個人差の影響を小さくした [6]
  4. 欠陥のある実験で理由を説明する指導が、遠い転移で最も優れていた [5]
  5. 課題を1変数ずつに分けることも、直接指導と同等に効いた [8][9]
  6. 反証。10週間の追跡では直接指導は定着の条件にならず [4]、「先に考えさせる」方法と差がない研究もある [7]
  7. 反証。複数の原因を同時に扱う推論は、CVSとは別に育てる必要がある [11]

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【CVS指導メタ分析・72研究】Schwichow, M., Croker & Zimmerman (2016). Teaching the control-of-variables strategy: A meta-analysis. Developmental Review. DOI: 10.1016/j.dr.2015.12.001
  2. 【7〜10歳の習得と転移】Chen, Z. & Klahr, D. (1999). All Other Things Being Equal: Acquisition and Transfer of the Control of Variables Strategy. Child Development. DOI: 10.1111/1467-8624.00081
  3. 【直接指導と発見学習・112名】Klahr, D. & Nigam, M. (2004). The Equivalence of Learning Paths in Early Science Instruction: Effects of Direct Instruction and Discovery Learning. Psychological Science. DOI: 10.1111/j.0956-7976.2004.00737.x
  4. 【反証・10週間の追跡】Dean, D., Jr. & Kuhn, D. (2007). Direct instruction vs. discovery: The long view. Science Education. DOI: 10.1002/sce.20194
  5. 【欠陥例による指導・1,069名】Lorch, R. F., Jr., Lorch, E. P., Freer, B. D. et al. (2013). Using valid and invalid experimental designs to teach the control of variables strategy in higher and lower achieving classrooms. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/a0034375
  6. 【指導か発見か・個人差の予測因子】Wagensveld, B., Segers, E., Kleemans, T. et al. (2014). Child predictors of learning to control variables via instruction or self-discovery. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-014-9334-5
  7. 【反証・考案先行と説明先行は同等】Chase, C. C. & Klahr, D. (2017). Invention Versus Direct Instruction: For Some Content, It’s a Tie. Journal of Science Education and Technology. DOI: 10.1007/s10956-017-9700-6
  8. 【課題の分割と直接指導】Lazonder, A. W. & Egberink, A. (2013). Children’s acquisition and use of the control-of-variables strategy: effects of explicit and implicit instructional guidance. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-013-9284-3
  9. 【推論技能への波及・小5】Lazonder, A. W. & Wiskerke-Drost, S. (2014). Advancing Scientific Reasoning in Upper Elementary Classrooms: Direct Instruction Versus Task Structuring. Journal of Science Education and Technology. DOI: 10.1007/s10956-014-9522-8
  10. 【探究課題の分割】Lazonder, A. W. & Kamp, E. (2012). Bit by bit or all at once? Splitting up the inquiry task to promote children’s scientific reasoning. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2012.05.005
  11. 【反証・CVSの先の科学的思考】Kuhn, D., Iordanou, K., Pease, M. et al. (2008). Beyond control of variables: What needs to develop to achieve skilled scientific thinking? Cognitive Development. DOI: 10.1016/j.cogdev.2008.09.006
  12. 【CVSの下位技能と測定】Schwichow, M., Christoph, S., Boone, W. J. et al. (2016). The impact of sub-skills and item content on students’ skills with regard to the control-of-variables strategy. International Journal of Science Education. DOI: 10.1080/09500693.2015.1137651
  13. 【探究型理科指導メタ分析・37研究】Furtak, E. M., Seidel, T., Iverson, H. et al. (2012). Experimental and Quasi-Experimental Studies of Inquiry-Based Science Teaching: A Meta-Analysis. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654312457206
  14. 【直接指導と言語的支援の組み合わせ・301名】van der Graaf, J., van de Sande, E., Gijsel, M. et al. (2019). A combined approach to strengthen children’s scientific thinking: direct instruction on scientific reasoning and training of teacher’s verbal support. International Journal of Science Education. DOI: 10.1080/09500693.2019.1594442

関連する既存記事

中学受験の研究(全10本)

ほかの入試区分の研究記事


Warning: Attempt to read property "show_author" on false in /home/c1531448/public_html/musasinokobetu.com/wp-content/themes/heal_tcd077/single.php on line 165

関連記事

PAGE TOP
お電話