評定には何が混ざるか——教師の成績評価と学力テストのずれ
高校受験では、当日の学力検査の点数と並んで、中学校の先生がつけた評定(いわゆる内申)が合否資料になります。多くのご家庭が一度は経験するのが、「定期テストはそれなりに取れているのに、評定が思ったより低い」、あるいは逆に「評定は良いのに、模試になると点が出ない」というずれです。
このずれは、先生の気まぐれでも、お子さんの運でもありません。教師がつける成績と標準化された学力テストが完全には一致しないことは、教育測定の研究で100年以上前から調べられてきた現象です [1]。そして近年の大規模データは、ずれの中身をかなり具体的に分解できるようになりました。
この記事は、内申点の計算方法や上げ方の実務(当サイトの既存記事で扱っています)ではなく、その一段手前の問いを扱います。評定という数字には、学力のほかに何が混ざっていて、それは悪いことなのか。混ざっているものが分かれば、家庭が見るべき数字と、手を入れるべき場所が変わります。
一言でいうと(この記事の結論)
評定は「学力+学校での振る舞い方」の合成指標です。米国の高校3年生8,454人の分析では、評定とテストのずれの大きな源は、教師ごとの採点のばらつきと「学校への取り組み(engagement)」でした [3]。
ただし、混ざり物は雑音ではありません。その部分は卒業や長期の成果を予測します [4] [11]。そして評定とテストの測る範囲を揃えた国では、両者の相関は r = .64〜.86 まで上がりました [9]。
——家庭がすべきことは、評定とテストの「差」を定期的に測り、その差がどの成分から来ているかを切り分けることです。
- 教師の成績評価は、認知的要素と非認知的要素の両方を含む多次元の構成概念である——100年分の研究のレビューの結論です [1]。
- ドイツの中学3年生14,710人では、テスト得点が評定の分散の8〜11%、性格特性がさらに8〜10%を説明しました。ずれを最も説明したのは誠実性です [5]。
- ずれの補正を重ねると、評定の予測は0.62から0.90まで上がりました。採点のばらつきが大きな源でした [3]。
- ブラジルでは、教師は行儀の良い生徒の点を上げ、悪い生徒の点を下げていたと、盲検採点との比較で示されました [10]。
- 反証として、評定とテストの測る範囲を法で揃えたノルウェーの51万人では、相関は r = .64〜.86でした [9]。
- 甘い採点は長期的に不利に働きうる——採点基準の厳しい教師のもとでは後続の数学の学習が伸び [13]、評定を水増しする教師に当たると将来のテスト得点・進学・所得が下がりました [14]。

1. 「評定は当てにならない」という100年来の疑い
Brookhart らは、成績評価に関する100年以上の研究を5種類に分けて整理しました——初期の信頼性研究、成績の構成を量的に調べた研究、教師への質問紙・面接研究、到達基準型の評価(standards-based grading)の研究、高等教育の成績研究です [1]。
レビューによれば、20世紀初頭の研究は、教師の成績を「信頼できない」と一般に断じていました。ところが、成績とテストの関係を調べた近年の研究と教師の信念を調べた研究を合わせると、見え方が変わります。成績は、認知的要素と非認知的要素の両方を含み、教師が生徒の仕事の中で何を大切にしているかを反映した「多次元の構成概念」(目に見えない能力や性質のまとまり)を測っている——というのがレビューの結論です [1]。
2. 「ごった煮評価」は先生だけの問題ではない
測定の専門家が推奨するのは、成績は到達度(achievement)だけで決めるべきだという原則です。しかし実態は違います。
Cross と Frary は、中学・高校の教師307人と生徒8,664人に質問紙調査を行いました [2]。教師の大多数が、態度・努力・到達度を混ぜる「ごった煮(hodgepodge)」型の採点をしていると回答し、しかも生徒の多くもその採点を支持していました。
ただし、教師が何でも混ぜているわけではありません。米国の公立学校教師516人に、能力・到達度・行動・努力を組み合わせた架空の生徒の成績をつけてもらった研究では、教師はほとんどの場面で学区の方針どおり到達度を中心に成績をつけていました。非到達度要因を考慮すると答えたのは、主に合否の境界にいる生徒の場合でした [8]。
一言でいうと
混ぜ物が効くのは、主に「境目」です。評定が一段上がるか下がるかの境界で、提出物や授業態度が決め手になりやすい——これが教師への調査から読み取れる像です [8]。
——日本の中学校でも観点別評価に「主体的に学習に取り組む態度」という観点が置かれており、学力以外の成分が評定に入る仕組みは制度として明示されています。
3. ずれを分解する——何が評定とテストを分けるのか
採点のばらつきと「学校への取り組み」
Willingham らは、米国の全国縦断調査(NELS)の高校3年生8,454人のデータで、評定とテストが食い違う理由の枠組みを検証しました [3]。
- 評定とテストの教科の範囲を揃え、
- 教師・学校ごとの採点のばらつきと、測定の信頼性の低さを補正し、
- 教師による評価と、生徒についての他の情報を加えると、
- 高校の平均評定の同時予測は0.62から0.90まで上がり、8つの下位集団での予測のずれは0.02レターグレードまで縮みました [3]。
著者らは、採点のばらつきがずれの大きな源であり、もう一つの大きな源が「学業への取り組み(Scholastic Engagement)」だったと報告しています。この取り組みは、学校で必要な技能を使うこと、自分から動くこと、勉強と競合する活動を避けることという、観察できる3種類の行動で定義されました [3]。
性格——とりわけ誠実性
性格特性の「ビッグファイブ」(外向性・協調性・誠実性・神経症傾向・開放性)で分解した研究もあります。ドイツの中学3年生14,710人の代表標本では、数学とドイツ語で、テスト得点は評定の分散の8〜11%を説明し、ビッグファイブはそれに加えて8〜10%を説明しました。性格と評定の関係は、テスト得点を経由する間接的な経路(|β| 0.01〜0.07)より、直接の経路(|β| 0.02〜0.27)のほうが大きく、評定とテストのずれを最もよく説明したのは誠実性でした [5]。著者らは、誠実な生徒は教室の目標のために多くの努力を投じるが、それが教科の熟達にまでは届いていない可能性を指摘しています。
中学1年生5,919人の研究では、数学の評定と標準化テストの相関は r = .40でした。そして誠実性の高い生徒ほど、評定がテスト得点とよく揃っていました(β = .05)。外向性や自己効力感には、この調整効果は見られませんでした [6]。
3つの大規模研究(合計14,953人)をまとめた研究は、誠実性は平均評定と最も強く関連し、標準化の程度が高くカリキュラムとの対応が弱い測定ほど、関連が弱くなると報告し、これを「性格‐達成飽和仮説」と名づけました [7]。
4. 行動で点が動く——因果に近い証拠
相関だけでは「行儀の良い生徒はそもそも学力も高い」可能性を排除できません。これに答えたのが、ブラジルのデータを使った研究です [10]。同じ範囲・同じ高利害の学力テストについて、担任教師がつけた点と、生徒を知らない採点者が盲検でつけた点を比べられるという、珍しいデータでした。
結果は、教師は行儀の良い生徒の点を水増しし、行儀の悪い生徒の点を差し引いていたというものです。進級の判断も授業中の振る舞いに影響されていました。著者らは、この効果が男子に対する採点上の不利の大きな部分を説明すると述べています [10]。
5. 【反証】混ざり物は雑音ではない
ここまで読むと、「評定は不公平な数字だ」と結論したくなります。しかし、同じくらい強い証拠が反対側にあります。
反証1:非認知の成分は、将来を予測する
Bowers は、米国の縦断調査(ELS:2002)の高校成績記録を多次元尺度法で分析し、標準化テストが測る学力の成分を差し引いてもなお、教師の成績は学校生活の非認知的な側面をこなす力の有用な評価でありうると結論しました [4]。
経済学からの証拠はさらに強力です。Jackson は、欠席・停学・成績・原級留置という「テスト以外の行動」を非認知能力の代理指標として使いました。教師がテスト得点に与える効果と、行動に与える効果の相関は弱く、行動への効果のほうが、高校卒業などの長期の成果への影響をより大きく予測しました。テスト得点だけで見る場合に比べ、両方を使うと予測できる教師の長期的影響の分散は2倍以上になりました [11]。
反証2:測る範囲を揃えれば、評定は十分に正確である
ノルウェーの国家登録データ(511,858人)は、評定と外部試験の測る構成概念を揃えることが制度で求められている国のデータです。そこでは中学卒業時の評定と外部試験の相関は r = .64〜.86で、同じ教科の外部試験の結果が評定の最良の予測因子でした [9]。著者らは、評定はこれまで認められてきたより良い学力の測定だと述べています。ただし同時に、制度や質保証の仕組みでもずれの源を完全には消せなかったとも書いています。
反証3:教師の多くは到達度で成績をつけている
先に見たとおり、架空事例で調べると教師は大半の場面で到達度を中心に成績をつけていました [8]。「内申は先生の好き嫌いで決まる」という見方は、この研究とは合いません。
一言でいうと(反証のまとめ)
評定の中の非認知成分は、将来の成果を予測する有用な情報です [4] [11]。そして評定は、測る範囲が揃っていれば学力をかなり正確に反映します [9]。
——「評定は不公平だから気にしない」も、「評定は学力そのものだ」も、どちらも研究とは合いません。
6. 甘い評定は、本人に得か
保護者として一番気になるのは、評定が甘くつくことが本人にとって得かどうかでしょう。
ノースカロライナ州で代数Iを履修した全公立学校生徒のデータ(2004〜05年度から2015〜16年度)を分析した報告は、多くの生徒が良い成績を得ていても州の修了試験で最上位を取る生徒は少なく、修了試験の得点は授業の成績よりも大学入試(ACT)の数学得点をはるかによく予測したと報告しています。この10年の成績インフレは、裕福な生徒が通う学校のほうが深刻でした [12]。報告は、両者が食い違うとき、保護者はテスト得点、特に低い得点を軽く見る傾向があるとも指摘しています。
中学2〜3年の代数Iの学級を2006〜2016年にわたって追った研究では、採点基準の厳しい教師のもとで、生徒の代数Iの学習とその後の数学の学習が伸び、欠席もわずかに減りました。効果は生徒の特性・能力・学級内順位・学校の文脈を問わず、似た大きさでした [13]。
ロサンゼルスとメリーランドの高校データを進学・所得記録とつないだ研究は、平均的に成績を水増しする教師に当たると、将来のテスト得点、高校卒業の可能性、大学進学、そして所得が下がると報告しました。一方、「落第させない」方向の水増しは原級留置を減らし高校卒業を増やしましたが、長期の効果は限られていました [14]。
一言でいうと
甘い評定は、短期の数字を良くしても、学習の信号を弱めます [12] [14]。
——評定が良いのに外部の模試で点が出ないときは、評定ではなくテストの側を「現在地」として扱うほうが、研究とは整合します。
7. 実務——家庭でできる「ずれの点検」
研究を、家庭で回せる手順にします。所要時間は学期ごとに1回、30分です。
- 表を1枚作る(10分)。教科ごとに「定期テストの平均点(学期内)」「評定」「直近の外部模試の偏差値や得点」の3列を並べます。数字を並べるだけで、ずれのある教科が見えます。
- ずれの向きを分類する(5分)。
- 「取り組み」の成分を行動で点検する(10分)。ずれの源とされた3つの行動——学校の技能を使っているか(ノート・提出物の完成度)、自分から動いているか(質問・やり直し)、競合する活動を避けているか [3]——を、本人と一緒に「はい・いいえ」で確認します。
- 手を入れる場所を1つだけ決める(5分)。ずれの向きごとに、次の学期にやることを1つに絞ります。複数を同時に変えると、どれが効いたか分からなくなります。
「内申は先生次第だから」と本人の前で言うのは避けてください。教師の大半は到達度を中心に成績をつけており [8]、評定の非認知成分は本人の行動で変えられる部分です [3]。
評定の計算の仕組みや、観点別評価への具体的な対応は、当サイトの内申点の実務と評定平均の仕組みと上げ方にまとめています。
この記事で言えないこと
- 日本の中学校の評定を直接調べた研究は、ここでは扱えていません。引用した研究は米国・ドイツ・ノルウェー・ブラジルなど海外のものです。評定の制度や教師文化が違えば、ずれの大きさも成分も変わります [9]。
- 成績インフレの長期効果の研究 [14] [12] は査読前の報告書・ワーキングペーパーです。結論は今後修正されうるものとして読んでください。
当塾の立場
まず、塾に来なくても家庭でできることです。
- 学期ごとに、定期テスト・評定・外部模試の3つを1枚の表に並べる
- ずれの向き(テスト高・評定低/評定高・テスト低)を分類する
- 提出物・質問・やり直しという「取り組み」の行動を、本人と一緒に点検する
そのうえで、個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次の3つを聞いてみてください。
- 評定と模試の結果が食い違うとき、どちらを基準に指導計画を立てますか
- 点数以外の「取り組み」を、どう記録し、家庭にどう伝えますか
- 学校の定期テストで取れていても、何を理由に「まだ足りない」と判断しますか
まとめ
- 教師の多くは「ごった煮」型の採点をし、生徒もそれを支持していました [2]。ただし非到達度要因が効くのは主に境界の生徒です [8]。
- ずれの大きな源は採点のばらつきと、学校への取り組みの行動でした [3]。
- 評定はテストより誠実性を多く含みます [5] [7]。
- 反証として、非認知成分は長期の成果を予測し [4] [11]、測る範囲を揃えれば評定とテストの相関は r = .64〜.86 に達しました [9]。
- 甘い評定は学習の信号を弱め、長期の成果を下げうるという報告があります [13] [14]。
- 家庭では、評定・定期テスト・外部模試の差を学期ごとに測り、ずれの向きで手を入れる場所を決めます。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【成績研究100年のレビュー】Brookhart, S. M., Guskey, T. R., Bowers, A. J., McMillan, J. H. et al. (2016). A Century of Grading Research: Meaning and Value in the Most Common Educational Measure. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654316672069
- 【ごった煮評価・教師307人と生徒8,664人】Cross, L. H. & Frary, R. B. (1999). Hodgepodge Grading: Endorsed by Students and Teachers Alike. Applied Measurement in Education. DOI: 10.1207/s15324818ame1201_4
- 【ずれの分解・8,454人】Willingham, W. W., Pollack, J. M. & Lewis, C. (2002). Grades and Test Scores: Accounting for Observed Differences. Journal of Educational Measurement. DOI: 10.1111/j.1745-3984.2002.tb01133.x
- 【評定の多次元性・反証】Bowers, A. J. (2011). What’s in a grade? The multidimensional nature of what teacher-assigned grades assess in high school. Educational Research and Evaluation. DOI: 10.1080/13803611.2011.597112
- 【性格と評定・14,710人】Westphal, A., Vock, M. & Kretschmann, J. (2021). Unraveling the Relationship Between Teacher-Assigned Grades, Student Personality, and Standardized Test Scores. Frontiers in Psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2021.627440
- 【誠実性による調整・5,919人】Westphal, A., Lazarides, R. & Vock, M. (2020). Are some students graded more appropriately than others? Student characteristics as moderators of the relationships between teacher-assigned grades and test scores in mathematics. British Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1111/bjep.12397
- 【性格‐達成飽和仮説・14,953人】Hübner, N., Spengler, M., Nagengast, B., Borghans, L. et al. (2022). When academic achievement (also) reflects personality: Using the personality-achievement saturation hypothesis (PASH) to explain differential associations between achievement measures and personality traits. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000571
- 【反証・教師516人は主に到達度で採点】Randall, J. & Engelhard, G. (2010). Examining the grading practices of teachers. Teaching and Teacher Education. DOI: 10.1016/j.tate.2010.03.008
- 【反証・ノルウェー51万人】Arencibia Alemán, A. M., Sandsør, A. M. J., Zachrisson, H. D., Blömeke, S. (2024). Teacher-assigned grades and external exams: sources of discrepancy. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice. DOI: 10.1080/0969594x.2024.2338764
- 【行動による採点の偏り・盲検比較】Ferman, B. & Fontes, L. F. (2022). Assessing knowledge or classroom behavior? Evidence of teachers’ grading bias. Journal of Public Economics. DOI: 10.1016/j.jpubeco.2022.104773
- 【反証・テスト以外の成果への教師効果】Jackson, C. K. (2018). What Do Test Scores Miss? The Importance of Teacher Effects on Non–Test Score Outcomes. Journal of Political Economy. DOI: 10.1086/699018
- 【成績インフレ・ノースカロライナ州】Gershenson, S. (2018). Grade Inflation in High Schools (2005-2016). Thomas B. Fordham Institute. ERIC: ED598893
- 【厳しい採点基準の効果・代数I】Gershenson, S., Holt, S. B. & Tyner, A. (2022). Making the Grade: The Effect of Teacher Grading Standards on Student Outcomes. EdWorkingPaper No. 22-644, Annenberg Institute at Brown University. ERIC: ED672111
- 【成績インフレの長期効果】Denning, J. T., Nesbit, R. L., Pope, N. G. & Warnick, M. (2026). Easy A’s, Less Pay: The Long Term Effects of Grade Inflation. NBER Working Paper 34952. ERIC: ED679684
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