志望校の決め方——中学生の進路意思決定と情報
高校受験の志望校選びは、多くの中学生にとって人生で初めての大きな意思決定です。偏差値、通学時間、部活動、校風、友人の進路——考える材料は多いのに、決める期間は限られています。
保護者の方がよく心配するのは、「本人が根拠のない自信で高い学校ばかり受けようとしている」、あるいは逆に「友達と同じ学校でいいと言って、ろくに調べていない」ということです。
学校選択の研究は、主に教育経済学と意思決定の心理学で進められてきました。この記事は、情報を与えると選択は変わるのか、受験生は自分の合格可能性を正しく見積もれるのか、友人は判断をどう動かすのかを、無作為化実験を中心に検討します。
一言でいうと(この記事の結論)
出願者は自分が「どこにも入れない」危険を体系的に過小評価していました。チリの学校選択で合格可能性を即時に知らせる仕組みを入れると、危険の高い出願者の22%が出願先を追加し、どこにも入れない危険が58%減りました [1]。
ただし、情報が変えるのは「どこに出願するか」までで、その先の進学までは変えなかった実験もあります [3]。
——志望校選びで家庭が補うべきは、「合格可能性の現実的な見積もり」と「安全な選択肢の確保」です。
- 学校の試験成績の情報を低所得家庭に渡すと、成績の高い学校を選ぶ保護者の割合が有意に増え、成績の高い学校に通うと生徒の得点が上がった [4]。
- チリの大学出願で、合格可能性の個別情報を与えると、どこにも割り当てられなかった生徒が割り当てを受ける確率が44%上がった [2]。
- 反証として、ガーナの900の中学校での情報提供は出願先を変え、付加価値の高い学校への合格を増やしたが、期限どおりの進学は増えなかった [3]。
- 低所得の保護者3,500人の実験で、学校の表示順を変えるだけで、選ばれる学校の種類が意味のある形で変わった [7]。
- 高校生209人は、試験2か月前の段階で自分の得点を中程度の正確さで予測できた(重みづけκ = 0.62) [11]。
- 反証として、「楽観バイアス」とされる結果の一部は、統計的な人工物で説明できるという指摘がある [14]。
- 青年は、損失の確率が明示されていても、友人に見られていると思うだけで危険な選択を増やした [15]。

1. 情報を渡すと、選ぶ学校は変わるのか
公立学校選択制度で行われた2つの実験は、低所得家庭に学校の試験成績の情報を直接渡すと、成績の高い学校を選ぶ保護者の割合が有意に増えることを示しました。近くに成績の高い選択肢がある保護者ほど、そうした学校を選んでいました。さらに成績の高い学校に通うことで、生徒の得点が上がる証拠も得られています [4]。
米国の学区の学校選択の抽選を使った研究では、近隣の学校の質が低い志願者のうち、抽選に当たった生徒は外れた生徒より、高校を卒業し、4年制大学に進み、学士号を取る可能性が高く、難関大学で学位を取る可能性は2倍でした [5]。どの学校に入るかは、長期の結果を左右しうるということです。
ロサンゼルスの実験では、保護者は学校の質を過小評価し、在籍する生徒の質を過大評価していました。学校の質と生徒の質の情報を別々に無作為に与えると、情報を受けた保護者とその近隣の保護者の好みが、付加価値(その学校が生徒をどれだけ伸ばすか)の高い学校へ移り、効果的な学校への入学が増えることで社会情動的な成果が改善しました [6]。
一言でいうと
「周りの生徒の水準」と「学校が生徒を伸ばす力」は別物で、保護者は前者を過大評価し、後者を過小評価していました [6]。
——そして保護者の選択は近所の保護者の選択にも波及していました [6]。
2. 情報の「見せ方」が選択を変える
低所得の保護者3,500人に架空の学区で学校を選ばせた無作為化要因実験では、学校を並べる初期の順序を変えるといった小さな設計の違いが、選ばれる学校の種類を意味のある形で変えました。数字やグラフの代わりにアイコンを使う、詳細な表示の代わりに簡潔な要約を示すといった設計でも、保護者は学業成績の高い学校を選ぶようになりました [7]。
ただし交換関係もありました。数字だけで示すと理解は最も高まりましたが、グラフを加えると満足度は最も高まる一方で理解は下がりました [7]。
保護者の好みを統制された環境で調べた調査実験では、学業成績は保護者にとって重要だが、学校の「質」を評価するときには評判や地位のほうがより重要で、学校を選ぶときには生徒の伸びがより重要でした。在籍する生徒の人口構成も、学校の質の認識と選択の両方に影響していました [8]。
全国の保護者を対象にした別の調査実験では、成績の水準の情報を与えると水準の高い学校が選ばれ、成績の伸びの情報を与えると伸びの高い学校が選ばれました [9]。
一言でいうと
何を見せられたかで、選ぶ学校が変わります [7] [9]。
——偏差値の一覧表だけを見て決めると、偏差値だけで決めることになります。「その学校で何が伸びるか」は、別に調べないと見えません [8]。
3. 受験生は、自分の合格可能性を正しく見積もれるか
「どこにも入れない」危険の過小評価
チリの学校選択の大規模調査は、学校について知ることは難しく、合格可能性についての信念が「もう探すのをやめる」判断を導き、出願者はどこにも割り当てられない危険を体系的に過小評価していることを示しました [1]。
そこで、出願の時点で合格可能性を即時にフィードバックする仕組みをチリと米国ニューヘイブンの制度に導入し、無作為化比較試験と回帰不連続デザインで評価しました。どこにも入れない危険が高い出願をしていた出願者の22%が、警告を受けて出願先を追加し、その危険を58%減らし、入学先の学校の付加価値(試験得点)を0.10標準偏差高めました [1]。
チリの大学出願でも、全国調査で情報の摩擦と出願の誤り——入れるはずの志望先を書かない、安全な選択肢を入れない——が広く見られました。合格可能性と学部の特徴の個別情報を与える大規模な実験では、以前は割り当てられなかった生徒が割り当てを受ける確率が44%上がり、上位の志望先への配置が20%改善し、全国に拡大した後も効果が確認されました [2]。
自分の成績の予測
米国の高校で統計の上級科目を履修する生徒209人の研究では、高利害の試験の2か月前でも、生徒は自分の実際の得点を中程度の正確さで予測できました(重みづけκ = 0.62)。過信の程度は学校によって異なっていました [11]。
一方で、大学の授業で13回の試験を通して予測を調べた研究では、学生は過信しており、その過信は試験を重ねても減らず、前回の試験の得点が次の予測にほとんど使われていませんでした。前回の得点は将来の成績を偏りなく予測できるにもかかわらず、です [12]。
中等学校の1〜3年生が1年間、フランス語の試験のたびに自分の得点を予想した準実験では、予想を書かせるだけで、1年を通じて見積もりの正確さが改善しました。予想と実際の差を計算させたり、ずれの理由を考えさせたりする追加の支援は、上乗せの効果を生みませんでした [13]。
一言でいうと
受験生は自分の得点をある程度は予測できますが、「どこにも入れない危険」は過小評価しがちです [1] [11]。
——毎回の試験前に得点を予想して書くだけで、見積もりは正確になっていきました [13]。
4. 友人と「知っている選択肢」の力
15〜18歳の高校生21人の面接と調査からは、進路の意思決定に自分の考えに合う情報だけを探す「確証バイアス」、身近でなじみのある職業を選ぶ「利用可能性バイアス」、それまでに費やしたものを惜しんで方針を変えない「サンクコストの誤り」などのパターンが見られました [10]。
友人の影響は、情報があっても消えません。確率を明示した賭けの課題で、隣室の同年代に見られていると信じた青年は、一人で課題をした青年より多く賭けを選び、その傾向は損失の確率が高い場面で最も強く現れました [15]。
保護者の選択が近所の保護者に波及したロサンゼルスの結果 [6] と合わせると、志望校選びは個人の計算だけでなく、周囲の人の選択に強く引っ張られる判断だと言えます。
5. 【反証】情報を与えれば良い選択になる、とは限らない
反証1:出願は変わっても、進学は変わらなかった
全員が中等学校を選んで出願する制度を持つガーナで、900の中学校の生徒(一部は保護者も)に無作為に情報を届けた実験があります。出願の戦略についての助言と、各学校の選抜度や卒業試験の成績を伝えました [3]。
- 情報によって、出願した学校の特徴は変わった
- 付加価値の高い学校に合格する生徒も増えた
- しかし、期限どおりに、あるいはそもそも進学する可能性は高まらなかった
- 著者らの結論は「情報だけが制約ではなかった」
反証2:見せ方次第で、情報は別の方向に選択を動かす
成績の水準の情報を与えると、水準の高い学校が選ばれると同時に、黒人・ヒスパニック・経済的に不利な生徒の少ない学校が選ばれました。伸びの情報だけを与えた場合にのみ、分離を和らげる方向の選択が見られました [9]。「情報を増やす」ことは中立ではありません。
反証3:「楽観バイアス」自体が疑われている
人は悪い出来事が自分に起こる確率を平均的な人より低く見積もる——この「非現実的な楽観」は社会心理学の頑健な知見とされてきました。しかし、偏りのない回答からでも、標本の制約・回答尺度・本当に悪い出来事の稀さによって、楽観を示すように見えるデータの型が統計的に生じうるという指摘があります。著者らは、楽観バイアスの存在そのものに疑問が生じ、存在するとしてもその大きさや仕組みについて、これまで考えられていたよりずっと分かっていないと結論しています [14]。
実際、高校生の得点予測は中程度に正確でした [11]。「中学生は根拠なく楽観的だ」と決めつけるのは、研究とは合いません。
一言でいうと(反証のまとめ)
情報は出願を変えますが、その先の進学や満足までは保証しません [3]。
——そして「本人が楽観的すぎる」と見えるときも、まず本人の見積もりを数字で確かめることが先です [11] [14]。
6. 実務——志望校を決める4つの手順
- 模試や定期テストの前に、得点を予想して書く(毎回1分)。予想を書かせるだけで見積もりの正確さが改善しました [13]。結果が返ったら予想と並べて保存します。学生は前回の得点を次の予想にほとんど使っていなかったので [12]、予想の前に前回の結果を見返します。
- 候補校の情報を、同じ形式の表にそろえる(30分)。合格の目安のほかに、「その学校で伸ばしたいもの(部活・授業・進学先)」「通学」「校風」を同じ列で並べます。見せ方で選択が変わるため [7]、候補校を同じ形式で比べることが大切です。
- 「安全な選択肢」を必ず1つ入れる。出願者はどこにも入れない危険を過小評価し [1]、安全な選択肢を入れない誤りが広く見られました [2]。本人の予想得点と過去の結果から、高い確率で入れる学校を1つ、出願計画に入れておきます。
- 「友達が行くから」を一度切り離して考える(15分)。「友達が別の学校に行くとしても、ここを選ぶか」を本人に書かせます。友人の存在は判断を危険な方向へ動かしえます [15]。友人と同じ学校を選ぶこと自体は悪くありませんが、それを自覚して選ぶことが目的です。
決めた後にも、進学までの準備を確認してください。情報で出願が変わっても進学が変わらなかった実験 [3] が示すように、出願先を決めることと、そこへ実際に進むための条件(費用・通学・手続き)を整えることは別の課題です。
この記事で言えないこと
- 引用した学校選択の実験は、チリ・米国・ガーナの制度でのものです [1] [3] [4]。日本の公立高校入試の出願の仕組みは制度が異なり、同じ効果が出るとは限りません。
- 学校選択の研究の多くは、保護者の選択を対象としています。中学生本人の選択を扱った研究は、ここでは限られます [10]。
- NBERなどのワーキングペーパー [1] [2] [3] [4] [5] [6] は、査読前の報告を含みます。
- 個別の高校の合格可能性の目安や、各都道府県の出願制度の細部は扱っていません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできることがあります。
- テストのたびに得点を予想して書き、結果と並べて残す
- 候補校を同じ形式の表で比べる
- 高い確率で入れる学校を、必ず出願計画に入れる
- 「友達が行くから」を切り離して一度考える
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 志望校の合格可能性を、何を根拠にどう伝えますか
- 「安全な選択肢」について、どう相談に乗りますか
- 本人と保護者の希望が違うとき、どう進めますか
まとめ
- 学校の成績の情報を渡すと、成績の高い学校が選ばれるようになりました [4]。
- 保護者は学校が生徒を伸ばす力を過小評価し、在籍する生徒の質を過大評価していました [6]。
- 情報の見せ方だけで、選ばれる学校が変わりました [7]。
- 出願者は「どこにも入れない」危険を過小評価し、合格可能性の個別情報で出願の誤りが減りました [1] [2]。
- 高校生は自分の得点を中程度に正確に予測でき [11]、予想を書き続けると正確さが増しました [13]。
- 反証として、情報は出願を変えても進学を変えなかった実験があり [3]、楽観バイアスの存在自体も疑問視されています [14]。
- 家庭では、得点予想の記録・候補校の同形式の比較・安全な選択肢の確保・友人の影響の自覚、の4つを行います。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【合格可能性の即時フィードバック・チリとニューヘイブン】Arteaga, F., Kapor, A. J., Neilson, C. A. & Zimmerman, S. D. (2021). Smart Matching Platforms and Heterogeneous Beliefs in Centralized School Choice. NBER Working Paper 28946. ERIC: ED615338
- 【出願の誤りと個別情報・チリ】Larroucau, T., Rios, I. A., Fabre, A. & Neilson, C. (2025). College Application Mistakes and the Design of Information Policies at Scale. NBER Working Paper 34164. ERIC: ED676491
- 【反証・出願は変わるが進学は変わらない・ガーナ】Ajayi, K. F., Friedman, W. H. & Lucas, A. M. (2020). When Information Is Not Enough: Evidence from a Centralized School Choice System. NBER Working Paper 27887. ERIC: ED608526
- 【学校成績の情報提供・2つの実験】Hastings, J. S. & Weinstein, J. M. (2007). Information, School Choice, and Academic Achievement: Evidence from Two Experiments. NBER Working Paper 13623. ERIC: ED501991
- 【学校選択の抽選と長期の成果】Deming, D. J., Hastings, J. S., Kane, T. J. & Staiger, D. O. (2011). School Choice, School Quality and Postsecondary Attainment. NBER Working Paper 17438. ERIC: ED524199
- 【保護者の信念と社会的相互作用・ロサンゼルス】Campos, C. (2024). Social Interactions, Information, and Preferences for Schools: Experimental Evidence from Los Angeles. NBER Working Paper 33010. ERIC: ED661447
- 【情報の見せ方の実験・3,500人】Glazerman, S., Nichols-Barrer, I., Valant, J. & Chandler, J. (2020). The Choice Architecture of School Choice Websites. Journal of Research on Educational Effectiveness. DOI: 10.1080/19345747.2020.1716905
- 【保護者は何で学校を評価するか】Haderlein, S. A. K. (2022). How Do Parents Evaluate and Select Schools? Evidence From a Survey Experiment. American Educational Research Journal. DOI: 10.3102/00028312211046360
- 【反証・水準と伸びの情報と分離】Houston, D. M. & Henig, J. R. (2023). The “Good” Schools: Academic Performance Data, School Choice, and Segregation. AERA Open. DOI: 10.1177/23328584231177666
- 【青年の進路探索と認知バイアス】Swaryandini, G., Basarkod, G., Ng, C. & Parker, P. (2026). Bounded Rationality in Career Choices: How Cognitive Biases Appear in Adolescent Career Exploration. Journal of Career Development. DOI: 10.1177/08948453261444268
- 【高校生の得点予測・209人】Ober, T. M., Hong, M. R., Carter, M. F. & Brodersen, A. S. (2022). Are High School Students Accurate in Predicting Their AP Exam Scores?: Examining Inaccuracy and Overconfidence of Students’ Predictions. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice. ERIC: EJ1347992
- 【13回の試験でも過信は減らない】Foster, N. L., Was, C. A., Dunlosky, J. & Isaacson, R. M. (2017). Even after thirteen class exams, students are still overconfident: the role of memory for past exam performance in student predictions. Metacognition and Learning. DOI: 10.1007/s11409-016-9158-6
- 【得点予想で見積もりが改善・中等学校】Nederhand, M. L., Tabbers, H. K., Jongerling, J. & Rikers, R. M. J. P. (2020). Reflection on exam grades to improve calibration of secondary school students: a longitudinal study. Metacognition and Learning. DOI: 10.1007/s11409-020-09233-9
- 【反証・楽観バイアスは統計的人工物か】Harris, A. J. L. & Hahn, U. (2011). Unrealistic optimism about future life events: A cautionary note. Psychological Review. DOI: 10.1037/a0020997
- 【友人の存在と青年の危険な選択】Smith, A. R., Chein, J. & Steinberg, L. (2014). Peers increase adolescent risk taking even when the probabilities of negative outcomes are known. Developmental Psychology. DOI: 10.1037/a0035696
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