高校生の「研究体験」は、科学的に考える力を本当に伸ばすのか
総合型選抜の準備では、「探究活動」や「研究実績」を持っているかどうかが話題になります。大学の研究室で夏休みに実験をさせてもらった、学校の課題研究で学会発表をした、科学コンテストに出た——こうした経験は、出願書類に書ける材料として価値があるように見えます。
しかし、ここで確かめたいのは書類映えの話ではありません。研究のまねごとをすることで、仮説を立て、証拠を集め、結論の限界を見きわめる力(科学的推論)は、実際に伸びるのか。そして、伸びるとすればどんな条件のときなのか。この記事では、研究アプレンティスシップ(研究者のもとで本物の研究に加わる学習形態)と探究型の授業をめぐる研究を並べ、支持する証拠と反対する証拠を同じ重さで検討します。
なお、この分野の研究の多くは大学生が対象です。高校生に当てはめるときは、そのつど注意書きを付けます。
一言でいうと(この記事の結論)
研究体験は「科学者になりたい気持ち」や「自分にもできるという感覚」を高めるという報告は多い一方で、科学的推論そのものが伸びたことを示す厳密な証拠は、思われているより薄いです。効果が出やすいのは、指導者が段取りと振り返りを明示的に組み込んだときでした。
- 研究体験の効果を検討した60研究のうち、半数以上は自己報告の質問紙や面接に頼っていました [1]。
- 中高生・大学生・教員を含む53研究のレビューでは、進路意識や自信との正の関連はおおむね支持されたものの、科学の本質(NOS)の理解については結論が割れていました [2]。
- 探究型授業の37研究のメタ分析では平均効果量 .50。教師主導の探究は、生徒主導より効果量が約 .40 大きかった [3]。
- 支援のない発見学習は直接指導に劣り(d = −0.38)、支援つきの発見学習は他の指導法を上回りました(d = 0.30) [4]。
- 【反証】探究活動の頻度と学力の関係は直線ではなく、頻度が高すぎると学力と負の関係になりました [8]。
- 【反証】科学コンテストへの参加を義務づけられた生徒の一部で、剽窃や結果のねつ造が報告されました [10]。
- 研究に加わるだけでは科学観は深まらず、振り返りの日誌とセミナーが最も大きく効いたという研究があります [13]。

1. 何を「研究体験」と呼ぶのかを分ける
議論が混乱しやすいのは、似た言葉が別のものを指しているからです。この記事では次の3つを区別します。
書類に書かれる「探究」には3つが混ざりがちで、形態によって研究が示す効果の中身が違います。
「探究学習と直接指導のどちらが効くか」という一般論は、当サイトの直接指導と探究学習——認知負荷理論と「指導の最小化」論争の現在地で扱いました。この記事はその論争を繰り返さず、高校生が研究に加わる経験に焦点を絞ります。
一言でいうと
「探究をやった」という一言には、研究室での本格的な研究から、授業内の短い調べ学習までが含まれます。効果を語るときは、まず形態を特定することが出発点です。
2. 研究アプレンティスシップの証拠——期待と中身のずれ
Sadler らは、研究者のもとで本物の研究に加わる経験について、中高生・大学生・現職および養成段階の教員を対象にした53の実証研究を批判的に検討しました [2]。検討された成果は、進路の志望、科学の本質(Nature of Science: 科学知識がどう作られ、どう改訂されるかについての理解)の理解、科学の内容理解、科学をする自信、知的発達でした。
結論は、多くの成果について、期待されていた正の関連がおおむね支持されたというものです。ただし、科学の本質の理解については、研究によって結論が食い違っていました。そしてレビューは実践上の含意として、期間の長さ、目標とする成果に明示的に注意を向けること、参加者の関与の3点を挙げています [2]。
もう一つの重要なレビューが、Science誌に掲載された Linn らの論文です [1]。対象は大学生の研究体験ですが、指摘は高校生にもそのまま当てはまります。
- ほとんどの学生は研究体験を高く評価し、研究は「参加と継続を改善する」と報告している
- しかし、その主張の証拠は弱い。検討した60研究の半数以上が、自己報告の質問紙か面接に頼っていた
- 研究体験は、新しい科学像を与えるどころか、研究実践や概念理解についての誤ったイメージを強めてしまう可能性がある
- 最も説得力のある研究が示した利点は、メンタリング(指導者による継続的な支援)と科学の本質を伝えることだった
- 学んだ考えは断片的でばらばらなことが多い
質的な研究からは、研究体験で何が起きているかの手がかりが得られます。4つのリベラルアーツ・カレッジで夏の学部生研究を観察したエスノグラフィー研究では、教員と学生の見方はおおむね一致していましたが、教員は成果を「専門職への社会化」として捉え、学生は「個人的・知的な成長」として語り、自分が専門職の実践に社会化されていることにはあまり気づいていなかったと報告されています [7]。
一言でいうと
研究体験は本人の満足度や自信を高めやすい一方で、「科学的に考える力が伸びた」と言える厳密な証拠は少数です。本人の「成長した実感」と、実際に伸びた力は、別々に確かめる必要があります。
3. 授業としての探究——効くのは「導かれた探究」
Furtak らは、理科教育改革で探究が中心的な主題だった1996〜2006年に発表された37の実験・準実験研究を、活動の認知的特徴と、生徒に与えられる指導の程度の2軸で分類しました [3]。全体の平均効果量は .50でした。認識論的活動(証拠からどう結論を導くかを扱う活動)を含む研究や、手続き・認識論・社会的活動を組み合わせた研究で効果量が最も高く、さらに教師主導の活動を含む研究は、生徒主導の条件より平均効果量が約 .40 大きかったのです。
Lazonder と Harmsen は72研究を統合し、探究学習における指導(ガイダンス)の効果を検討しました [6]。
| 成果の種類 | ガイダンスの効果量 d | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 学習活動(探究のプロセス) | 0.66 | 0.44〜0.88 |
| 課題の遂行の成功 | 0.71 | 0.52〜0.90 |
| 学習成果 | 0.50 | 0.37〜0.62 |
発見学習の164研究を扱った Alfieri らの2つのメタ分析も、同じ方向を指しています [4]。580の比較で、支援のない発見学習は直接指導に劣り(d = −0.38)、360の比較で、フィードバック・解いた例・足場かけ・説明を引き出す工夫を加えた発見学習は、他の指導法を上回りました(d = 0.30)。
一言でいうと
「自由にテーマを決めて、自分で調べてごらん」という放任型の探究は、研究上もっとも分が悪い形です。効くのは、指導者が問いの立て方・データの見方・結論の書き方を段階的に示す探究でした。
4. 研究をしただけでは、科学観は深まらない
「本物の研究に触れれば、科学とは何かが自然に分かる」という前提も、研究によって疑問視されています。
Schwartz らは、中等学校の理科教員を目指す学生が研究インターンシップに参加する授業で、科学の本質についての理解がどう変わるかを調べました [13]。論文はまず、学習者が生徒であれ教員であれ科学者であれ、科学的探究に取り組むだけで科学の本質の理解が深まるという主張を、実証研究は一般に支持していないと整理しています。
その上で、この授業では研究に加えてセミナーと日誌課題を組み込みました。質問紙と面接で事前・事後を比べると、多くのインターンで科学の本質の理解が大きく深まり、その要因として振り返り、文脈、立場の3つが特定されました。
- 振り返りの日誌とセミナーが、科学観に最も大きな影響を与えた
- 研究の部分は、振り返りのための「文脈」を提供する役割だった
- 振り返る姿勢をとったインターンほど理解が深まり、「科学者」としての自己像にとどまったインターンは深まりにくかった
これは Sadler らのレビューが挙げた「目標とする成果に明示的に注意を向ける」という条件 [2] と一致します。研究の経験は材料であって、学びそのものではないということです。
5. 【反証】研究体験・探究を過大評価しないための証拠
探究は多ければよいわけではない
ノルウェーのTIMSS 2015データを多層構造方程式モデルで分析した研究は、探究型授業と理科の学力の関係が曲線的だったと報告しています [8]。探究型授業は学力と正の相関を示したものの、探究活動の頻度が高い場合には学力と負の関係になりました。一方で、学級の社会経済的地位はこの関係の強さに影響していませんでした。
最小限の指導は、初学者には効率が悪い
Kirschner、Sweller、Clark は、人間の認知構造、熟達者と初心者の違い、認知負荷の知見から、指導を最小限にした方法は、学習過程への指導を重視する方法より効果も効率も劣ると論じました [5]。指導の優位が薄れ始めるのは、学習者が十分な予備知識を持ち、自分の中に「内なる指導」を持つようになってからだとしています。初めて研究する高校生は予備知識が少ない段階です。
参加を義務づけると、不正が起きうる
米国の高校生を対象にした科学フェアの全国調査(2017年・2018年に回答した300人超)では、約60%が科学・工学の職業に興味があると答え、約60%が科学フェアへの参加で興味が高まったと答えました [10]。しかし同時に、次の結果も報告されています。
- 生徒の約3分の2は参加を義務づけられており、義務づけは「興味が高まった」と答える生徒の割合を下げていた
- 最悪のケースとして、科学・工学に興味がなく参加を義務づけられた生徒の約10%が、剽窃や結果のでっち上げといった研究不正に関与した
総合型選抜で「探究の実績」が評価されると知れば、実績をつくること自体が目的になりかねません。この結果は、外から課された研究が、研究倫理を学ぶ機会ではなく不正の温床になりうることを示しています。
事前・事後の比較では効果が見えないことがある
才能ある高校生330人を対象にした2つの科学強化プログラムの評価では、事前・事後の比較では科学への態度に正の効果が見られませんでした [12]。他の測定方法では効果の証拠が得られ、効果は女子、家族や教師の支えがある生徒、もともと自分の能力に自信がある生徒で大きかったと報告されています。効果の有無は測り方に左右され、恩恵は条件に恵まれた生徒に偏っていた可能性があります。
一言でいうと(反証のまとめ)
探究はやりすぎると学力と負の関係になり、初学者への放任は非効率で、義務化は不正を招きうる。さらに、効果は測定法と生徒の背景に左右されます。「研究体験があれば伸びる」とは言えません。
6. 長期的な成果——卒業率は上がったが、成績は上がらなかった
Freshman Research Initiative は、1年生が授業の中で研究に取り組むプログラムで、これまでに数千人が参加しています。傾向スコアマッチング(参加者と条件の似た非参加者を組み合わせて比較する方法)で学生の違いを統制した研究では、3学期すべてを修了した学生は、非参加の学生よりSTEM分野の学位を取得する確率と6年以内に卒業する確率が有意に高かったと報告されています [9]。効果は多様な学生で同様でした。
ただし、卒業時の成績平均(GPA)には有意な効果がありませんでした [9]。研究体験が「科学を続ける」ことには効いても、「成績を上げる」ことには効かなかったのです。
高校段階の長期追跡としては、1958〜1972年に行われた高校生向け夏季研究プログラムの参加者を、大学に入ってから初めて研究を経験した理系学生と比べた回顧研究があります [11]。科学に興味があり高校で研究に参加した学生は、科学の職業に就き、それを続ける可能性が有意に高かった(p < 0.005)と報告されています。
ただし、これは回顧研究であり、無作為に割り付けたものではありません。もともと科学への意欲が強い生徒ほど高校で研究に参加したという選抜の影響を、この設計では取り除けません。
7. 総合型選抜での「探究実績」をどう考えるか
ここまでの研究を総合型選抜の準備に当てはめるとき、制度の違いをまず確認しておきます。上で見た研究の多くは米国・欧州の大学や高校のプログラムで、日本の高校の「総合的な探究の時間」や課題研究とは、期間・指導体制・評価のされ方が異なります。数字をそのまま日本の生徒に移すことはできません。
そのうえで、研究が一貫して示す方向は3つあります。
質疑で手順と結論の限界を自分の言葉で説明できるかは、理解が断片的か統合されているかを映します [1]。評価のされ方は当サイトの総合型選抜のプレゼンテーション——評価は質疑で決まるもあわせてご覧ください。
8. 実務——高校生の研究体験を「伸びる経験」にする手順
研究の知見を、家庭と本人がすぐ使える手順に落とします。数字は目安であり、研究で検証された最適値ではありません。
- 始める前に、目標とする力を1つ書く(15分)。「対照実験を組めるようになる」「先行研究と自分の結果を比べて書ける」など。目標を明示することは、レビューが挙げた条件でした [2]。
- 週1回、指導者に「次の一手」を確認する(10〜20分)。放任より導かれた探究のほうが効果が大きい、という知見に沿った設計です [3] [6]。学校の先生、研究室の大学院生、塾の講師など、相手は誰でも構いません。
- 作業のたびに研究日誌を3行書く。「今日やったこと」「予想と違ったこと」「それが結論にどう影響するか」。振り返りの日誌が科学観に最も効いた、という研究に基づきます [13]。
- 月に1回、日誌を読み返して「分かったこと」を1枚にまとめる(30分)。断片的な理解を統合するための時間です [1]。
- データの記録は、生のまま残す。都合の悪い結果も消さない。不正は「結果を出さなければならない」圧力の中で起きます [10]。
- 探究の時間を増やしすぎない。探究の頻度が高すぎると学力と負の関係になるという報告があります [8]。教科の基礎学習の時間を削ってまで活動を増やさないようにします。
- 出願前に、第三者に研究を5分で説明し、質問を3つ受ける。手順と限界を説明できるかを確かめます。
この記事で言えないこと
- 高校生の研究体験が科学的推論を伸ばすかを無作為化比較で検証した研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。
- 日本の「総合的な探究の時間」や課題研究そのものの効果について、この記事の研究から直接何かを言うことはできません。
- 探究の「適切な頻度」を具体的な時間数で示す研究は確認できませんでした [8]。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできること
- 研究のテーマ選びより先に、「どんな力を伸ばしたいか」を本人と一緒に1行で書く
- 研究日誌を3行で続ける習慣をつける
- 探究活動のために教科の学習時間を削りすぎていないか、週単位で見る
- 実績づくりを目的に参加を強制しない
それでも個別指導を使う理由
塾を検討するときは、次のように聞いてみてください。
- 研究体験で、生徒のどんな力が伸びたかを、どうやって確かめていますか
- 研究の段取りを、生徒に任せる部分と指導する部分にどう分けていますか
- 研究不正を防ぐために、データの扱いをどう指導していますか
まとめ
- 研究体験の効果研究の半数以上は自己報告に頼っており、証拠は弱いと指摘されています [1]。
- 53研究のレビューでは進路意識・自信との正の関連は支持され、科学の本質の理解は結論が割れました [2]。
- 探究型授業の平均効果量は .50、教師主導の要素で約 .40 大きくなりました [3]。
- 支援のない発見学習は劣り(d = −0.38)、支援つきは上回りました(d = 0.30) [4]。
- 研究に加わるだけでは科学観は深まらず、振り返りが決め手でした [13]。
- 【反証】探究の頻度が高すぎると学力と負の関係になりました [8]。
- 【反証】参加の義務づけは興味を下げ、一部で研究不正を招きました [10]。
- 授業内研究は卒業率を高めた一方、成績は上げませんでした [9]。
出典
- 【研究体験60研究のレビュー】Linn et al. (2015). Undergraduate research experiences: Impacts and opportunities. Science. DOI: 10.1126/science.1261757
- 【研究アプレンティスシップ53研究のレビュー】Sadler et al. (2010). Learning science through research apprenticeships: A critical review of the literature. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.20326
- 【探究型理科授業のメタ分析】Furtak et al. (2012). Experimental and quasi-experimental studies of inquiry-based science teaching: A meta-analysis. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654312457206
- 【発見学習のメタ分析】Alfieri et al. (2011). Does discovery-based instruction enhance learning? Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/a0021017
- 【反証・最小限の指導への批判】Kirschner, Sweller, & Clark (2006). Why minimal guidance during instruction does not work. Educational Psychologist. DOI: 10.1207/s15326985ep4102_1
- 【探究のガイダンス72研究】Lazonder & Harmsen (2016). Meta-analysis of inquiry-based learning. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654315627366
- 【研究体験の質的研究】Hunter, Laursen, & Seymour (2007). Becoming a scientist: The role of undergraduate research in students’ cognitive, personal, and professional development. Science Education. DOI: 10.1002/sce.20173
- 【反証・探究頻度の曲線関係】Teig, Scherer, & Nilsen (2018). More isn’t always better: The curvilinear relationship between inquiry-based teaching and student achievement in science. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2018.02.006
- 【授業内研究と卒業率】Rodenbusch et al. (2016). Early engagement in course-based research increases graduation rates and completion of science, engineering, and mathematics degrees. CBE—Life Sciences Education. DOI: 10.1187/cbe.16-03-0117
- 【反証・科学フェアの負の結果】Grinnell, Dalley, & Reisch (2020). High school science fair: Positive and negative outcomes. PLOS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0229237
- 【高校での研究と科学職の回顧研究】Roberts & Wassersug (2009). Does doing scientific research in high school correlate with students staying in science? A half-century retrospective study. Research in Science Education. DOI: 10.1007/s11165-008-9083-z
- 【反証・事前事後で効果なし】Stake & Mares (2001). Science enrichment programs for gifted high school girls and boys: Predictors of program impact on science confidence and motivation. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.10001
- 【研究インターンと振り返り】Schwartz, Lederman, & Crawford (2004). Developing views of nature of science in an authentic context. Science Education. DOI: 10.1002/sce.10128
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