批判的思考は教えられるか——効果量g=0.30、ただし練習問題だけでは伸びなかった

批判的思考は、授業で教えて伸びる力なのか

総合型選抜では、小論文、課題レポート、グループディスカッション、面接での質疑など、さまざまな場面で「自分の頭で考える力」が問われます。大学の募集要項やアドミッション・ポリシーにも、「批判的思考力」「論理的思考力」という言葉がよく登場します。

では、批判的思考(critical thinking)は、教えれば伸びる力なのでしょうか。伸びるとして、どんな教え方が効き、どんな教え方は効かないのか。そして、ある場面で身につけた考え方は、別の話題や入試の場面でも使えるのか

この記事では、Abrami らによる2本の大規模なメタ分析を中心に、大学教育の効果研究、認知科学からの批判、実験研究を並べて検討します。推論の型そのものの解説は、当サイトの論理的思考の道具——入試で実際に使う型を名前で覚える帰納・演繹・アブダクション——推論の型を3つ持つをご覧ください。

一言でいうと(この記事の結論)
批判的思考の指導には平均して g = 0.30〜0.34 程度の効果がありました。効果が大きかったのは、批判的思考を明示的な目標にし、対話・真正な問題・メンタリングを取り入れた指導です。一方で、「考える練習をさせる」だけでは伸びず身につけた力は内容知識に強く縛られます。「批判的思考という万能の技能」を育てる、という発想には限界があります。

  1. 117研究・20,698人のメタ分析で、批判的思考の指導の平均効果量は g = 0.341でした [1]
  2. 指導の種類と教育的な裏づけが、効果量のばらつきの32%を説明しました [1]
  3. 341の効果量を統合した続編では g = 0.30対話の機会、真正な問題や事例、メンタリングが効果を持ちました [2]
  4. 大学生に対象を絞ったメタ分析では、効果は統計的に有意だが小さいものでした [3]
  5. 【反証】教科書の「批判的思考の練習問題」を4回こなした大学生は、学期を通じて得点がむしろ下がりました [6]
  6. 【反証】152人の実験で、推論を改善したのは明示的な指導だけで、練習や自己説明の促しは上乗せしませんでした [7]
  7. 【反証】批判的思考は技能ではなく文脈に依存し、考える力は領域の知識と練習に左右されると論じられています [5]
マインドマップ図解:批判的思考は教えられるか——効果量g=0.30、ただし練習問題だけでは伸びなかった
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 何を「批判的思考」と呼ぶのか

Abrami らは、批判的思考を「目的をもった自己調整的な判断であり、解釈・分析・評価・推論と、その判断の根拠となった考慮事項の説明をもたらすもの」と定義しています [2]

この定義には、2つの側面が含まれます。一つは技能(解釈する、分析する、推論する)、もう一つは態度・傾向(disposition)、つまり実際にそうした技能を使おうとするかどうかです。研究でもこの2つは区別して測られます。

定義と測り方は一つに定まっているわけではありません。高等教育と職業の枠組みを概観したレビューは、主要な枠組みによる定義、既存の検査とその心理測定上の質、評価の設計・実施・使用をめぐる課題を整理し、次世代の評価に向けた操作的定義を提案しています [10]

一言でいうと
批判的思考は「考える技能」と「考えようとする態度」の両方を含み、定義も測り方も研究によって違います。「批判的思考が伸びた」という主張を読むときは、何で測ったかを確かめる必要があります。

2. 第1のメタ分析——暗黙の期待では伸びない

Abrami らの最初のメタ分析は、批判的思考の技能と態度を伸ばす指導の効果を統合したものです [1]

項目 結果
研究数・参加者数 117研究・20,698人
効果の数 161
平均効果量 g = 0.341(標準偏差 0.610)
異質性 非常に大きい
ばらつきの説明 指導の種類と教育的な裏づけで32%

研究デザインによるばらつきは小さかったため、方法の質で研究を分けることはしていません。著者らの結論ははっきりしています。「批判的思考の技能と態度の向上は、暗黙の期待に任せられるものではない」。教員は、批判的思考の目標を授業の中で明示し、教員養成や研修にも含めるべきだとしています [1]

3. 第2のメタ分析——何が効くのか

続編のメタ分析は、標準化された批判的思考の検査を成果に使った準実験・真の実験研究から、341の効果量を集めました [2]

  • 重み付きランダム効果の平均効果量は g = 0.30
  • 技能にも態度にも、汎用的なものにも内容に特化したものにも、効果的な指導方略があった
  • それはすべての教育段階、すべての学問分野で見られた
  • 特に、対話の機会、真正な(現実の・状況に即した)問題や事例に触れること、メンタリングが批判的思考の技能に正の効果を持った

高校生にとって重要なのは、効果的な方略がすべての教育段階で見られたという点です [2]。批判的思考は大学に入ってから初めて学ぶものではなく、高校段階でも指導の効果が期待できる、というのがこのメタ分析の示す方向です。ただし、効果量は研究によって大きくばらついており、どの段階でも同じ大きさの効果が出るという意味ではありません。

大学での長期的な変化を見た Huber と Kuncel のメタ分析は、批判的思考の技能と態度は、通常の大学生活を通じて大幅に向上すると報告しています [4]。ただし同時に、カリキュラム全体で批判的思考を伸ばそうとする取り組みが、必ずしも長期的な上乗せの伸びを生むわけではないとも述べています。

一言でいうと
批判的思考の指導には平均して小〜中程度の効果があり、対話・現実の問題・指導者との継続的なやりとりが効きます。一方、大学での伸びの多くは、特別な取り組みより大学で学ぶこと自体から来ている可能性があります。

4. 【反証】「考えさせる」だけでは伸びない

大学生に絞ると、効果は小さい

大学生を対象に、測定可能な批判的思考の変化をめざした指導の実証研究を統合したメタ分析は、平均効果量は統計的に有意だが小さく、研究間の異質性があると報告しました [3]。効果のばらつきの一部は、学生の専攻分野と指導期間の長さで説明されました。

練習問題をこなしても、得点は下がった

教科書には「批判的思考の練習」と銘打った課題がよく載っています。大学生が、教科書で批判的思考の練習とされた4つの記述課題に取り組む前後で、形式的操作的思考の検査と、カリフォルニア批判的思考技能検査を受けた研究があります [6]。2つの検査の得点はどちらの時点でも有意に相関していましたが、学期を通じて両方とも下がり、批判的思考の課題は形式的操作的思考にも批判的思考の技能にも正の効果を持たなかったと結論しています。

練習より、明示的な指導

Heijltjes らは、経済学部の1年生152人を6条件に無作為に割り付け、偏りが生じやすい推論課題で、批判的思考の指導、練習、練習中の自己説明の促しがそれぞれどう効くかを調べました [7]

  • 推論の技能が改善したのは、批判的思考の指導を受けた参加者だけだった
  • 練習と自己説明の促しは、指導のみの条件と比べて推論を改善しなかった
  • 開かれた態度で考える傾向は推論の得点と正に相関したが、指導はその傾向の高低にかかわらず同じように効いた
  • 自信の評定は、投入した心的努力と負に相関した

そもそも「技能」ではないのかもしれない

Willingham は、批判的思考を教えようとしてきた人々が、それを自転車の乗り方のような、一度身につければどんな場面にも使える技能だと想定してきたと指摘しました [5]。認知科学の研究から、彼は3つの結論を引き出しています。

  1. 批判的思考(科学的思考や、その他の領域に根ざした思考も)は技能ではなく、文脈に依存する
  2. 批判的思考を起こりやすくするメタ認知的な方略は、学ぶことができる
  3. 批判的に考える力は、領域の知識と練習に依存する

どの指導法が効くのかは、まだ確定していない

高等教育での批判的思考の指導を扱った33の実証研究の系統的レビューは、効果が指導方略・指導アプローチと、学年や過去の成績といった学生側の要因に左右され、標準化された検査を使うかどうかでも効果の評価が変わると報告しました [8]。そして、特定の指導方略が批判的思考の技能の獲得と転移を促すことは支持されなかったと結論しています。主な限界は、実証的に妥当な授業設計の原則に沿った体系的な介入の設計が欠けていることでした。

一言でいうと(反証のまとめ)
練習問題をこなすだけでは伸びず、効いたのは明示的な指導でした。そして、考える力は領域の知識と切り離せず、どの指導法が転移を生むかは確定していません。

5. 批判的思考は、入試の外で意味を持つのか

批判的思考の検査の得点は、現実の生活と関係するのでしょうか。米国の地域住民50人、州立大学の学生48人、コミュニティ・カレッジの学生35人が、ハルパーン批判的思考評価と、人生で経験した出来事の行動目録に回答した研究があります [9]。教育・健康・法律・金銭・対人関係などの領域で、批判的思考の得点が高い人ほど、否定的な出来事の報告が少なかった(r = −.38)と報告されています。

ただし、これは相関研究であり、標本も133人と小さいものです。批判的思考を教えれば人生の否定的な出来事が減る、という因果の結論は導けません。

6. 総合型選抜での使い方

ここで紹介したメタ分析と実験の多くは、主に大学生を対象にしています。日本の高校生に同じ効果量が当てはまるとは限らず、また入試の小論文や面接で問われる力が、研究で使われた標準化検査と同じとは限りません。

そのうえで、研究が示す方向は3つです。

  1. 「批判的に考えなさい」と言うだけでは足りない。何をどう検討するかを明示的に教える必要がある [1] [7]
  2. 志望分野の知識を後回しにしない。考える力は領域の知識に依存する [5]
  3. 対話と現実の問題を使う。効果を持った方略だった [2]

もう一つ注意したいのは、「伸びた」かどうかの判断が測り方に左右されることです。系統的レビューは、標準化された検査を使うかどうかで指導の効果の評価が変わると報告しています [8]。模試の小論文の点数が上がっても、それが批判的思考の力の伸びなのか、その形式への慣れなのかは区別できません。練習の成果は、形式の違う課題でも確かめるのが安全です。

小論文の具体的な手順は、当サイトの課題文型小論文の手順——読み方・使い方・構成で扱っています。

7. 実務——志望分野で「考える練習」を組み立てる手順

以下は、研究の方向から導いた方針で、入試での効果が検証された手順ではありません。

  1. 検討の観点を紙に書いて持つ(初回30分)。「主張は何か」「根拠は何か」「根拠は主張を支えているか」「別の説明はないか」の4つなど。批判的思考は明示的な目標にしたときに伸びました [1]
  2. 志望分野の文章を週2本読み、4つの観点でメモを取る(1本20分)。考える力は領域の知識と練習に依存します [5]。練習の素材は、一般的なパズルより志望分野の文章にします。
  3. メモをもとに、誰かと10分話す(週1回)。対話の機会は効果を持った方略でした [2]。相手は家族でも友人でも構いません。「その根拠で本当に言える?」と聞いてもらいます。
  4. ニュースや地域の具体的な問題を1つ選び、月1回、賛否両方の立場で意見を書く(40分)。真正な問題に触れることが効果を持っていました [2]
  5. 練習問題の数を増やすより、指導者から考え方の説明を受ける時間を確保する。練習だけでは上乗せが見られず、得点が下がった研究もあります [6] [7]
  6. 「自信がある答え」ほど、もう一度観点で見直す。実験では、自信の評定と投入した心的努力が負に相関していました [7]

この記事で言えないこと

  • 日本の高校生を対象に、批判的思考の指導が総合型選抜の小論文や面接の評価を上げるかを調べた研究は、今回確認できませんでした。
  • メタ分析の平均効果量は、非常に異質な研究をまとめたもので、個別の指導法の効果を保証するものではありません [1]
  • 批判的思考の得点と人生の出来事の関係は相関であり、因果関係は示されていません [9]
  • 「批判的思考は技能ではなく文脈に依存する」という主張は、認知科学の研究を踏まえた論考によるもので、それ自体を新たに検証した実験ではありません [5]
  • 練習問題の効果がなかった研究は1つの研究にすぎず、練習一般が無意味だという結論にはなりません [6]

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • ニュースを見ながら「その根拠は何?」と1つだけ尋ねる
  • 本人の意見に、反対の立場から1つ質問してみる
  • 志望分野の本や記事を家庭に置き、話題にする
  • 「考える力をつけるドリル」を大量に解かせることを目標にしない

それでも個別指導を使う理由

  1. 考え方を明示的に教えられるから。推論を改善したのは明示的な指導で、練習だけでは上乗せがありませんでした [7]。生徒の答案を前に、どこで推論が飛んだかを具体的に説明します。
  2. 対話の相手になれるから。対話の機会は効果を持った方略でした [2]。生徒の主張に根拠を尋ね、反論を示し、再反論を考えてもらう往復を毎回の授業で行えます。
  3. 志望分野の知識と考える練習を一体で扱えるから。考える力は領域の知識に依存します [5]。知識の補強と、その知識を使って論じる練習を同じ時間の中で組み合わせます。

塾を検討するときは、次のように聞いてみてください。

  • 批判的思考の指導で、何を明示的に教えていますか
  • 生徒と講師の対話に、授業時間のどのくらいを使いますか
  • 小論文の練習で、志望分野の知識をどう補っていますか

まとめ

  1. 批判的思考の指導の平均効果量は g = 0.341(117研究)でした [1]
  2. 続編では g = 0.30。対話・真正な問題・メンタリングが効きました [2]
  3. 批判的思考は、明示的な目標にしなければ伸びにくいと結論されています [1]
  4. 大学生活を通じて批判的思考は大きく伸びますが、全学的な取り組みの上乗せは不確かです [4]
  5. 【反証】大学生に絞ると効果は小さいものでした [3]
  6. 【反証】練習問題だけでは伸びず、明示的な指導だけが推論を改善しました [6] [7]
  7. 【反証】考える力は領域の知識に依存し、転移を生む指導法は確定していません [5] [8]
  8. 批判的思考の得点は、人生の否定的な出来事の少なさと相関しました [9]

出典

  1. 【批判的思考指導のメタ分析・第1段階】Abrami et al. (2008). Instructional interventions affecting critical thinking skills and dispositions: A stage 1 meta-analysis. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654308326084
  2. 【批判的思考の指導方略のメタ分析】Abrami et al. (2015). Strategies for teaching students to think critically: A meta-analysis. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654314551063
  3. 【反証・大学生のメタ分析】Niu, Behar-Horenstein, & Garvan (2013). Do instructional interventions influence college students’ critical thinking skills? A meta-analysis. Educational Research Review. DOI: 10.1016/j.edurev.2012.12.002
  4. 【大学での批判的思考の伸び】Huber & Kuncel (2016). Does college teach critical thinking? A meta-analysis. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654315605917
  5. 【反証・批判的思考は文脈に依存する】Willingham (2008). Critical thinking: Why is it so hard to teach? Arts Education Policy Review. DOI: 10.3200/aepr.109.4.21-32
  6. 【反証・練習問題の効果なし】Cotter & Tally (2009). Do critical thinking exercises improve critical thinking skills? Educational Research Quarterly. ERIC: EJ877243
  7. 【反証・指導・練習・自己説明の実験】Heijltjes, van Gog, Leppink, & Paas (2015). Unraveling the effects of critical thinking instructions, practice, and self-explanation on students’ reasoning performance. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-015-9347-8
  8. 【反証・33研究の系統的レビュー】Tiruneh, Verburgh, & Elen (2014). Effectiveness of critical thinking instruction in higher education: A systematic review of intervention studies. Higher Education Studies. DOI: 10.5539/hes.v4n1p1
  9. 【批判的思考と人生の出来事】Butler (2012). Halpern Critical Thinking Assessment predicts real-world outcomes of critical thinking. Applied Cognitive Psychology. DOI: 10.1002/acp.2851
  10. 【批判的思考の定義と評価のレビュー】Liu, Frankel, & Roohr (2014). Assessing critical thinking in higher education: Current state and directions for next-generation assessment. ETS Research Report Series. DOI: 10.1002/ets2.12009

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