進路を決める自己効力感は育てられるか——高い確信は「早すぎる決定」とも結びついた

「自分で進路を決められる」という感覚は、育てられるのか

総合型選抜は、出願の時点で「何を学びたいか」「なぜこの大学・学部か」を言葉にすることを求めます。一般選抜なら高校3年の冬まで先送りできる進路の決定を、高校2〜3年の早い時期に前倒しで迫る入試だと言えます。

そこで重要になるのが、キャリア意思決定自己効力感(career decision self-efficacy:進路を決めるために必要な作業を、自分はうまくやれるという確信)です。この確信が強い生徒ほど進路を決めやすいのか。そして、この確信は周囲の働きかけで高められるのか。

この記事では、社会的認知進路理論(social cognitive career theory)にもとづく研究、進路の迷いの分類、進路介入のメタ分析、そして自己効力感が「高すぎる」ことの弊害を示す研究を並べて検討します。自己効力感一般の研究は、当サイトの自己効力感——「できる気がする」は成績を動かすのかで扱っています。

一言でいうと(この記事の結論)
キャリア意思決定自己効力感は、進路の迷いの少なさ、職業的アイデンティティ、仲間の支えと関連し、進路介入によって高められることも示されています。ただし、自己効力感が高まっても迷いが減るとは限らず高い確信は検討を早く打ち切る「早すぎる決定」とも結びつきます。目指すべきは「決めた感覚」ではなく、検討を続けながら決める力です。

  1. メタ分析で、キャリア意思決定自己効力感は自尊感情・職業的アイデンティティ・仲間の支え・結果期待・進路の迷いと有意に関連しました [1]
  2. 工学系の学生209人の2学期の追跡で、自己効力感は結果期待・興味・目標に時間的に先行していました [2]
  3. 進路決定の困難は10のカテゴリーに分類でき、高校生1,843人の調査でもその構造が確認されました [6]
  4. 大学生を対象にした20研究のメタ分析では、進路介入はキャリア意思決定自己効力感を大きく高めていました [12]
  5. カウンセラーが関わらない介入は効果が小さく、ワークショップなどもカウンセリングを組み合わせると成果が良かった [8]
  6. 【反証】中学2年から高校1年まで166人を追うと、自己効力感の変化は進路の迷いの変化を生みませんでした [4]
  7. 【反証】大学院生785人の研究で、キャリア意思決定自己効力感は進路への関与の進展と同時に、早すぎる決定の傾向とも強く関連しました [14]
マインドマップ図解:進路を決める自己効力感は育てられるか——高い確信は「早すぎる決定」とも結びついた
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 理論の骨組み——自己効力感はどこに位置づくか

社会的認知進路理論は、進路の選択を、自己効力感(自分にできるという確信)結果期待(そうすれば何が得られるかという見込み)興味目標の関係で説明します。

この理論の中で、キャリア意思決定自己効力感がどんな変数と結びつくかを、メタ分析で整理した研究があります [1]。性別、年齢、人種、自尊感情、職業的アイデンティティ、進路の障壁、仲間の支え、結果期待、進路の迷いの9変数を検討しました。

キャリア意思決定自己効力感との関連 変数
有意な関連あり 自尊感情、職業的アイデンティティ、仲間の支え、結果期待、進路の迷い
有意な効果なし 性別、人種、進路の障壁

時間の順序も調べられています。工学の入門科目を受ける学生209人に、連続する2学期の終わりに回答してもらった研究では、自己効力感が結果期待・興味・目標に時間的に先行するモデルが支持され、逆向きの経路(興味や目標が自己効力感を高める)はあまり支持されませんでした [2]

350人を対象にした研究では、自己効力感は進路の迷いの最良の予測因子で、結果期待は探索の意図の最良の予測因子でした [3]

一言でいうと
「進路決定の作業をうまくやれる」という確信は、迷いの少なさや、興味・目標の形成と結びついています。一方、「調べてみよう」という行動を予測したのは、確信よりも「調べれば得るものがある」という見込みでした。

2. 迷いの中身を分ける——「決められない」は一種類ではない

進路が決められない状態は、一つの原因で起きるわけではありません。Gati らは、進路の意思決定の困難を理論的に10のカテゴリーに分ける分類を提案し、進路決定を始めたばかりの若い成人563人の質問紙調査で、尺度間の関係が理論モデルと整合することを示しました [5]

その後、イスラエルの高校生1,843人を対象に、3つの決定場面に合わせた質問紙で調べた研究でも、困難の構造は元の分類と似ていました [6]。男子は、外部との葛藤(周囲の期待との食い違いなど)と、進路についての非機能的な思い込みで、より高い困難を報告しました。

困難の種類が分けられるということは、困難によって必要な支援が違いうるということでもあります。

一言でいうと
「進路が決まらない」の中身は、情報が足りないのか、周囲の期待とぶつかっているのか、そもそも決める準備ができていないのかで違います。自己効力感を高める前に、迷いの種類を見分けることが先です。

3. 進路介入は効くのか

進路介入の効果研究は数十年分の蓄積があります。

1983〜1995年に発表された47研究・268の処置群と統制群の比較を統合したメタ分析は、進路介入の有効性と効率性を検討しました [7]。57研究を扱ったメタ分析では、カウンセラーが関わらない介入は効果が小さくワークショップ・構造化されたグループ・コンピューターによる進路支援システムも、カウンセリングで補うと成果が良かったと報告されています [8]

介入の「決定的な要素」を探った研究は、コンピューターによる支援、認知の再構成、職業の探索、読書、成功体験の5つの要素について、組み合わせごとの平均効果量を計算し、これらの要素の重要性を支持しました [9]

キャリア意思決定自己効力感そのものを成果とした研究もあります。

  • 大学生の20研究のメタ分析:進路介入は、キャリア意思決定自己効力感の大きな向上と関連していた [12]
  • 高校1・2年の女子88人:自己効力感の4つの源と進路の障壁を扱う9週間のグループ介入で、キャリア意思決定自己効力感とSTEM分野の自己効力感が統制群より向上し、3か月後も伸びが続いていた [11]
  • 高校生193人:目的の明確化・選択肢の特定・重みづけによる比較を訓練する介入で、主体的な意思決定の技能と進路選択の自己効力感が統制群より向上した [13]
  • スイスの7年生334人:重要な要素を組み込んだワークショップで、進路の決定度・計画・探索・職業的アイデンティティが向上し、3か月後も確認された [10]

医学部の修士課程の学生を対象にした無作為化待機統制試験では、8か月にわたる5回の個別コーチングで、進路決定のストレスへの総合的な効果が −0.17(95%信頼区間 −0.31〜−0.06)と、小〜中程度の低減が見られました [15]。その効果の一部は、キャリア意思決定自己効力感の向上を通じたものでした。

4. 【反証】自己効力感を上げれば解決する、とは言えない

自己効力感が上がっても、迷いは減らなかった

Creed らは、生徒166人を、中学2年相当(Grade 8)と高校1年相当(Grade 10)の2時点で追跡し、交差遅延パネル分析(ある時点の変数が次の時点の別の変数を予測するかを調べる方法)を行いました [4]。社会的認知理論の予想に反して、キャリア意思決定自己効力感の変化は、進路の迷いの変化を生みませんでした。両者は同じ時点では有意に関連していたにもかかわらず、です。

高い確信は、早すぎる決定と結びつく

中国の大学院生785人の研究では、キャリア意思決定自己効力感は職業への関与の進展と関連する一方で、「早すぎる決定(foreclosure)」への強い傾向とも関連していました [14]。早すぎる決定とは、十分に検討する前に選択肢を絞り、他の可能性を見なくなることです。

自己効力感は、課題によっては遂行を下げる

進路とは別の領域ですが、自己効力感と遂行の関係についての実験研究もあります。大学生が分析的なゲームに取り組む2つの研究で、自己効力感を操作して高めると次の試行の成績が下がり自己効力感が過信を生み、論理的な誤りを犯す可能性を高めていたと報告されています [16]

一言でいうと(反証のまとめ)
「自分は進路を決められる」という確信を高めても、迷いが減るとは限らず、検討を早く打ち切る方向に働くこともあります。確信の高さそのものを目標にするのは危ういのです。

5. 総合型選抜という「前倒しの決定」をどう考えるか

ここで紹介した研究は、イスラエル・スイス・中国など海外のもので、日本の総合型選抜を直接扱ったものではありません。進路決定の時期や、学部と職業の結びつきの強さも国によって違います。

そのうえで、総合型選抜の準備に関して研究が示す注意点は3つあります。

  1. 「志望が決まっている」ことと「よく検討した」ことは別。高い確信は早すぎる決定と結びつきうる [14]
  2. 迷いの種類によって、必要な準備が違う。困難のカテゴリーは複数あり、一律の対策では足りない可能性がある [5] [6]
  3. 一人で調べるより、人が関わる支援が効きやすい。カウンセラーが関わらない介入は効果が小さかった [8]

学部の選び方については、当サイトの学部選びの判断——「好きな学問」で選ぶとずれる理由学部名では中身が分からない——カリキュラムとシラバスの読み方もご覧ください。

6. 実務——進路を「検討しながら決める」手順

以下は研究の方向から導いた方針で、この手順自体の効果が検証されたものではありません。

  1. 迷いの種類を書き分ける(20分)。「情報が足りない」「周囲の期待とぶつかっている」「決める気持ちになれない」のどれが近いかを書きます [6]
  2. 候補の学部を最低3つ残したまま調べ始める。早すぎる決定を避けるためです [14]
  3. 各候補について「そこで学ぶと何が得られるか」を3行で書く(1候補15分)。探索の意図を予測したのは結果期待でした [3]
  4. 目的・選択肢・重みづけの表を作る(40分)。自分が大事にしたい条件を書き、各候補を点数化して比べます。この手順を訓練した介入で、意思決定の技能と自己効力感が向上しました [13]
  5. 小さな成功体験を積む。大学のシラバスを1つ読み切る、オープンキャンパスで教員に1つ質問するなど。成功体験は介入の重要な要素の一つでした [9]
  6. 月1回、話を聞いてくれる大人と30分話す。人が関わる支援のほうが効果的でした [8]
  7. 出願直前に、「選ばなかった候補」をもう一度見直す(30分)。決めた理由を、比較の中で説明できるかを確かめます。

この記事で言えないこと

  • 日本の高校生を対象に、キャリア意思決定自己効力感と総合型選抜の結果の関係を調べた研究は、今回確認できませんでした。
  • 介入研究の多くは効果を短期(数か月以内)で測っており、入学後の満足や適応まで追ったものではありません。
  • 早すぎる決定との関連は大学院生を対象にした研究によるもので、高校生に同じ関係があるかは分かりません [14]

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • 「早く決めなさい」ではなく「何で迷っている?」と聞く
  • 候補を1つに絞る前に、比べる表を一緒に作る
  • 保護者自身の期待と本人の希望が食い違っているなら、それを話題にする
  • シラバスやオープンキャンパスなど、小さな「調べる行動」を後押しする

それでも個別指導を使う理由

  1. 人が関わる進路支援になれるから。カウンセラーが関わらない介入は効果が小さいという結果がありました [8]。講師が定期的に話を聞き、調べた内容を一緒に整理します。
  2. 「決めた感覚」と「検討した事実」を分けて確認できるから。高い確信は早すぎる決定とも結びつきます [14]。選ばなかった候補との比較を説明してもらい、検討の抜けを見つけます。
  3. 学習の成功体験を、進路の自己効力感につなげられるから。成功体験は介入の要素の一つでした [9]。志望分野に関わる教科で小さな達成を積み、その経験を志望理由の材料にします。

塾を検討するときは、次のように聞いてみてください。

  • 志望が決まっていない生徒に、最初に何をしますか
  • 生徒が早く志望を決めすぎていると感じたら、どうしますか
  • 進路の相談と教科の指導を、どう結びつけていますか

まとめ

  1. キャリア意思決定自己効力感は、自尊感情・職業的アイデンティティ・仲間の支え・迷いの少なさと関連しました [1]
  2. 自己効力感は、結果期待・興味・目標に時間的に先行していました [2]
  3. 進路の迷いは種類に分けられ、高校生でもその構造が確認されました [5] [6]
  4. 進路介入は、キャリア意思決定自己効力感を高めていました [11] [12] [13]
  5. 人が関わらない介入は効果が小さいものでした [8]
  6. 【反証】自己効力感の変化は、迷いの変化を生みませんでした [4]
  7. 【反証】高い自己効力感は、早すぎる決定の傾向とも関連しました [14]
  8. 【反証】自己効力感は過信を通じて遂行を下げることがありました [16]

出典

  1. 【キャリア意思決定自己効力感のメタ分析】Choi, Park, Yang, & Lee (2012). Understanding career decision self-efficacy: A meta-analytic approach. Journal of Career Development. DOI: 10.1177/0894845311398042
  2. 【自己効力感の時間的先行】Lent, Sheu, Singley, et al. (2008). Longitudinal relations of self-efficacy to outcome expectations, interests, and major choice goals in engineering students. Journal of Vocational Behavior. DOI: 10.1016/j.jvb.2008.07.005
  3. 【自己効力感・結果期待と探索】Betz & Voyten (1997). Efficacy and outcome expectations influence career exploration and decidedness. The Career Development Quarterly. DOI: 10.1002/j.2161-0045.1997.tb01004.x
  4. 【反証・交差遅延分析】Creed, Patton, & Prideaux (2006). Causal relationship between career indecision and career decision-making self-efficacy: A longitudinal cross-lagged analysis. Journal of Career Development. DOI: 10.1177/0894845306289535
  5. 【進路決定の困難の分類】Gati, Krausz, & Osipow (1996). A taxonomy of difficulties in career decision making. Journal of Counseling Psychology. DOI: 10.1037/0022-0167.43.4.510
  6. 【高校生の進路決定の困難・1,843人】Gati & Saka (2001). High school students’ career-related decision-making difficulties. Journal of Counseling & Development. DOI: 10.1002/j.1556-6676.2001.tb01978.x
  7. 【進路介入47研究のメタ分析】Whiston, Sexton, & Lasoff (1998). Career-intervention outcome: A replication and extension of Oliver and Spokane (1988). Journal of Counseling Psychology. DOI: 10.1037/0022-0167.45.2.150
  8. 【介入形態と効果・57研究】Whiston, Brecheisen, & Stephens (2003). Does treatment modality affect career counseling effectiveness? Journal of Vocational Behavior. DOI: 10.1016/s0001-8791(02)00050-7
  9. 【進路介入の決定的要素】Brown, Ryan Krane, & Brecheisen (2003). Critical ingredients of career choice interventions: More analyses and new hypotheses. Journal of Vocational Behavior. DOI: 10.1016/s0001-8791(02)00052-0
  10. 【スイス7年生のワークショップ】Hirschi & Läge (2008). Increasing the career choice readiness of young adolescents: An evaluation study. International Journal for Educational and Vocational Guidance. DOI: 10.1007/s10775-008-9139-7
  11. 【高校女子へのグループ介入】Falco & Summers (2019). Improving career decision self-efficacy and STEM self-efficacy in high school girls: Evaluation of an intervention. Journal of Career Development. DOI: 10.1177/0894845317721651
  12. 【大学生への進路介入20研究のメタ分析】Ulas-Kilic (2019). The effects of career interventions on university students’ levels of career decision-making self-efficacy: A meta-analytic review. Australian Journal of Career Development. DOI: 10.1177/1038416219857567
  13. 【高校生への意思決定分析の訓練】Siebert, Becker, & Oeser (2023). Making a good career choice: A decision-analytical intervention to enhance proactive decision-making and career choice self-efficacy in high school students. Decision Sciences Journal of Innovative Education. ERIC: EJ1363500
  14. 【反証・自己効力感と早すぎる決定】Jin, Watkins, & Yuen (2009). Personality, career decision self-efficacy and commitment to the career choices process among Chinese graduate students. Journal of Vocational Behavior. DOI: 10.1016/j.jvb.2008.10.002
  15. 【医学生へのコーチングRCT】Fris, van Vianen, & van Hooft (2025). Career coaching to support medical student career decision-making: A randomized controlled trial. Advances in Health Sciences Education. DOI: 10.1007/s10459-025-10409-8
  16. 【反証・自己効力感の負の効果】Vancouver, Thompson, Tischner, & Putka (2002). Two studies examining the negative effect of self-efficacy on performance. Journal of Applied Psychology. DOI: 10.1037/0021-9010.87.3.506

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