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中学3年間で学習意欲はなぜ下がるのか——段階-環境適合と受験期

「小学生のころは楽しそうに勉強していたのに、中学に入ってから急にやる気がなくなった」。保護者の方から、とてもよく聞く言葉です。そして中学3年になると、今度は「受験生なのに危機感がない」という悩みに変わります。

思春期の学習意欲の低下は、発達心理学と教育心理学で長く研究されてきたテーマです。代表的な説明の一つが段階-環境適合(stage-environment fit)理論で、思春期の発達上の欲求と、新しい学校環境とのずれが、学校を好きでなくなる原因だと考えます [1]

この記事は、この理論を手がかりに、意欲の低下はどれくらいの大きさなのか、中学進学が原因なのか、何が低下を和らげるのかを研究から検討します。そして受験期に家庭や塾がよく使う「このままだと落ちるよ」という言葉が、意欲にどう働くのかも扱います。

一言でいうと(この記事の結論)
学習意欲は学年とともに下がりますが、平均の低下は思われているより小さいものです。107の縦断研究のメタ分析では、約1.65年で Glass の Δ = −0.108 でした。そして中学・高校への進学そのものは、低下の大きさと有意に関連していませんでした [2]
低下を和らげたのは、心理的欲求(自律性・有能さ・関係性)が満たされることと [3]教師の自律性支援でした [5]
——受験期の「落ちるよ」は、脅威と受け取られると成績の低下と結びつき [14]挑戦と受け取られると関与の向上と結びつきました [15]

  1. 107の縦断研究・912効果量のメタ分析で、動機づけの平均的な低下は Δ = −0.108。低下が最も大きかったのは内発的動機づけ、数学と言語の学業自己概念、熟達目標だった [2]
  2. 同じメタ分析で、自尊感情と学業的自己効力感には有意な平均の変化がなかった [2]
  3. 11〜16歳の600人で、内発的動機づけの顕著な低下は、心理的欲求の満たされ方の違いで予測された [3]
  4. ドイツの8,193人で、教師の自律性支援が高いほど、翌年以降の読書への内発的動機づけの低下が緩やかだった [5]
  5. 小学3年〜中学2年相当の1,051人で、学校全体が熟達目標を重視すると、年齢に伴う内発的動機づけの低下が抑えられる可能性が示された [10]
  6. 反証として、「低下」の一部は、学年によって「興味」という概念の中身そのものが変わることによる可能性がある [11]
  7. 受験を控えた14〜16歳1,530人で、失敗の結果を警告する言葉を「挑戦」と受け取った生徒は、その後の関与が高かった [15]
マインドマップ図解:中学で意欲はなぜ下がるのか——107研究の平均低下は小さく、「落ちるよ」は受け取り方で逆に働いた
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 段階-環境適合理論とは

段階-環境適合理論は、学年が上がって学校が変わると、青年は一般に学校を以前ほど好きでなくなるという現象を、発達上の欲求と新しい学校環境とのずれで説明します [1]

この理論に基づいて、1年間にわたり青年の語りを追った質的研究は、学校を好きかどうか(感情的関与)は、主に教師・友人・授業との日々の経験と感情の相互作用に基づき学校に価値を感じるかどうか(動機的関与)は、自己像と、友人関係や将来の職業への入口としての学校との、より長期的な関係に基づいていたと報告しています。生徒は同時に関与と離脱の両方を感じていたことも示されました [1]

一言でいうと
「やる気」は一つのものではありません。「授業が好きか」と「勉強に意味を感じるか」は、別の経験から生まれていました [1]
——中学生が「勉強はつまらない、でも高校には行きたい」と言うのは、矛盾ではありません。

2. 意欲は、どれくらい下がるのか

研究 対象 結果
Gnambs & Hanfstingl [3] 11〜16歳 600人 内発的動機づけの顕著な低下
Otis ら [6] 8〜10年生 646人 内発的・外発的動機づけがともに段階的に低下
Gottfried ら [4] 9〜17歳 114人 数学の内発的動機づけと数学の成績がともに低下。数学は他教科より低下が大きいとされる
Corpus ら [10] 3〜8年生 1,051人 同じ学年の秋から春にかけても内発的・外発的動機づけが低下。内発的動機づけの低下は青年期で特に大きい

ところが、低下の大きさを統合すると、印象は変わります。107の独立した縦断研究・912効果量のメタ分析は、平均約1.65年の間の全体的な低下を Glass の Δ = −0.108 と推定しました [2]

低下は構成概念によって異なり、最も大きく下がったのは内発的動機づけ、数学と言語の学業自己概念、熟達目標、遂行接近目標でした。一方で自尊感情、全般的な学業自己概念、学業的自己効力感には有意な平均の変化がありませんでした。また、低下はヨーロッパのほうが北米やアジアより大きいという結果でした [2]

3. なぜ下がるのか——欲求・成績・学校の目標

心理的欲求が満たされない

自己決定理論は、人には自律性(自分で決めている感覚)、有能さ(できるという感覚)、関係性(つながりの感覚)の3つの基本的な心理的欲求があると考えます。11〜16歳の600人の研究では、これらの欲求の満たされ方の違いが、内発的動機づけの低下を予測しました [3]

成績の低下が意欲を下げる

9〜17歳の114人を追った研究では、数学の成績が、数学の内発的動機づけの発達的低下に有意に寄与していました。また、数学の内発的動機づけは、その時点とその後の数学の成績と関連していました [4]。3〜8年生の研究でも、内発的動機づけと学級での成績は、互いに正の方向で影響し合っているように見えました [10]

学校が何を重視しているか

3〜8年生1,051人の研究では、動機づけの変化の一部は学校の目標の文脈(何を重視する学校だと感じているか)の変化で説明され学校全体で熟達(できるようになること)を重視すると、年齢に伴う内発的動機づけの低下が最小限に抑えられる可能性が示されました [10]

小学校から中学校への移行を追った415人の研究では、進学で学校が変わった生徒は、同じ学校に残った生徒より、熟達目標がより大きく下がり、遂行接近目標(他人より良い成績を取ろうとする目標)が上がりました [7]

和らげるもの:教師の自律性支援

ドイツの全国パネル調査で5年生から8年生まで毎年測定された8,193人のデータでは、読書への内発的動機づけは低下したものの、生徒が感じる教師の自律性支援が高いほど、その後の低下が緩やかでした [5]

一言でいうと
意欲の低下は「思春期だから仕方ない」ものではなく、欲求の満たされ方 [3]成績 [4]学校が何を重視するか [10] によって変わります。
——そして自分で選べる余地を大人が残すことが、低下を緩やかにしました [5]

4. 【反証】「中学進学で意欲が落ちる」は、どこまで正しいか

反証1:進学そのものは、低下の大きさと関係がなかった

段階-環境適合理論は、学校の移行を重要な転機とみなします。しかし107研究のメタ分析では、学校段階も、中学・高校への移行も、変化の大きさと有意に関連していませんでした [2]

移行期の自尊感情の研究も、単純な下降線を描いていません。中学進学の前後を調べた研究では、自尊感情は移行の時期に下がったが、中学1年の間に再び上がりました。一方で、数学・英語・社会的活動についての能力の自己概念は、移行後に低下しました [8]。低所得家庭の580人の研究では、移行は人種・民族・性別を問わず、自尊感情・授業の準備・成績の低下につながっていました [9]

反証2:「低下」は、測っているものの変化かもしれない

5年生から9年生まで毎年測った3,193人のデータで数学への興味を分析した研究は、興味を測る潜在変数の測定の性質そのものが学年によって有意に異なることを見出しました。面接からは、5年生では感情的な「好き」に近かった興味の概念が、9年生ではより認知的な概念へと移っていたことが示されました [11]

反証3:全員が下がるわけではない

1〜12年生の1,069人の軌跡を分けた研究では、数学と国語の内発的価値について「数学が強く低下」「国語が強く低下」の類型と並んで、「数学も国語も安定」という類型が見出されました。どの類型に属するかは、性別・家庭背景・適性で異なり、高校での数学の履修、職業の志望、成人後の職業にもつながっていました [12]

一言でいうと(反証のまとめ)
平均では下がりますが、その幅は小さく [2]進学が原因とも言い切れず [2]下がらない生徒の集団もあります [12]
——「中学生だから意欲が落ちて当然」と決めつけると、本人の具体的な原因を見逃します。

5. 受験期の「このままだと落ちるよ」は効くのか

高利害の試験を前に、教師は失敗の結果を強調する説得的なメッセージを使うことがあります。研究ではこれを恐怖喚起(fear appeals)と呼びます。

中等教育最終学年の273人の研究では、試験の時期を強調する恐怖喚起を頻繁に感じた生徒は、熟達接近目標を通じて数学の試験成績が高かった一方、恐怖喚起を脅威と受け取った生徒は、遂行回避目標とテスト不安の心配・緊張を通じて成績が低かったという、両方向の結果が示されました [13]

3時点の縦断研究では、恐怖喚起の頻度が高く、それを脅威と受け取るほど、自己決定的な動機づけが低く、試験成績も低く、その関係の一部は自己決定的な動機づけの低さで説明されました [14]

14〜16歳の1,530人を最後の2年間追った研究では、恐怖喚起に注意を向け、それを「挑戦」と評価した生徒は、その後の学業への関与が高く、関与の高い生徒は成績も高いという結果でした。著者らは、脅威と受け取りそうな生徒を見極め、方略に焦点を当てたフィードバックで自信を育て、努力の価値への信念を強めることを提案しています [15]

大学生487人の研究では、恐怖喚起は、効力喚起(「あなたならできる」という期待を伝えるメッセージ)と比べて、試験成績を有意に下げました [16]

一言でいうと
「落ちるよ」が効くかどうかは、言葉ではなく、本人がそれを脅威と受け取るか、挑戦と受け取るかで決まります [13] [15]
——自信のない生徒には、脅しより「どうすればできるか」を示すほうが研究とは整合します [15] [16]

6. 実務——家庭でできる3つのこと

  1. 「選ばせる」場面を週に1つ作る(5分)。勉強の中身は変えられなくても、「今日は数学と英語、どちらから始めるか」「問題集のどのページをやるか」を本人に選ばせます。教師の自律性支援が低下を緩やかにした結果 [5] と、自律性の欲求 [3] に沿った手当てです。
  2. 「できるようになったこと」を月に1回言葉にする(10分)。点数や順位ではなく、先月できなかった問題で、今月できるようになったものを1つ一緒に探します。熟達を重視する文脈が低下を抑え [10]、進学後に熟達目標が下がりやすかったからです [7]
  3. 警告より、次の一手を伝える。「このままだと落ちる」と言いたくなったら、「今週はこの単元をこの問題集で終わらせれば間に合う」という具体的な方略に言い換えます。脅威と受け取られた恐怖喚起は成績の低下と結びつきました [14]

成績の手当ても意欲の手当てです。数学の成績の低下が数学の意欲の低下に寄与していたように [4]、つまずいている単元を戻って直すことが、声かけより先に効く場合があります。

この記事で言えないこと

  • 日本の中学生を対象にした縦断研究は、ここでは引用できていません。メタ分析では、低下の大きさに地域差がありました [2]
  • 引用した研究の多くは相関・縦断の研究です。「選ばせると意欲が上がる」という因果を、家庭の場面で直接確かめた研究ではありません。
  • 恐怖喚起の研究 [13] [14] [15] は、海外の中等教育最終段階の試験を対象としています。日本の高校入試にそのまま当てはまるかは分かりません。
  • 意欲の低下が心の不調の徴候である場合は、専門機関への相談が必要です。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできることがあります。

  • 勉強の順番や範囲を、本人に選ばせる場面を作る
  • 点数ではなく「できるようになったこと」を月に1回確かめる
  • 「落ちるよ」を「今週これをやれば間に合う」に言い換える
  • 意欲より先に、つまずいた単元を直す

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 「できる」感覚を、成績の手前で作れること。成績の低下が意欲の低下に寄与していました [4]。1対1なら、つまずいた単元まで戻り、小さな「できた」を積み上げる順序を組めます。
  2. 選ぶ余地を残した指導ができること。自律性支援が意欲の低下を緩やかにしました [5]。進め方の一部を生徒に決めさせ、その結果を一緒に振り返ります。
  3. 警告を「挑戦」に変える支え方ができること。方略に焦点を当てたフィードバックで自信を育てることが提案されています [15]。受験期の不安を、具体的な次の課題に置き換えて伝えます。

塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。

  • やる気のない生徒に、最初に何をしますか
  • 受験期の生徒に「危機感」をどう伝えますか
  • 成績や順位以外に、生徒の成長をどう伝えますか

まとめ

  1. 段階-環境適合理論は、意欲の低下を発達上の欲求と学校環境のずれで説明します [1]
  2. 低下は多くの研究で確認されていますが、平均の大きさは Δ = −0.108 と小さいものです [2]
  3. 低下は、欲求の満たされ方 [3]成績 [4]学校の目標の文脈 [10] と結びついていました。
  4. 教師の自律性支援は、低下を緩やかにしました [5]
  5. 反証として、進学そのものは低下の大きさと関連せず [2]「興味」の中身が学年で変わり [11]下がらない類型もありました [12]
  6. 「落ちるよ」は、脅威と受け取られると成績の低下と、挑戦と受け取られると関与の向上と結びつきました [14] [15]
  7. 家庭では、選ばせる・できたことを確かめる・警告を次の一手に言い換える、の3つを行います。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【段階-環境適合の質的研究】Symonds, J. & Hargreaves, L. (2016). Emotional and Motivational Engagement at School Transition: A Qualitative Stage-Environment Fit Study. The Journal of Early Adolescence. DOI: 10.1177/0272431614556348
  2. 【反証を含む・107縦断研究のメタ分析】Scherrer, V. & Preckel, F. (2019). Development of Motivational Variables and Self-Esteem During the School Career: A Meta-Analysis of Longitudinal Studies. Review of Educational Research. DOI: 10.3102/0034654318819127
  3. 【心理的欲求と意欲低下・600人】Gnambs, T. & Hanfstingl, B. (2016). The decline of academic motivation during adolescence: an accelerated longitudinal cohort analysis on the effect of psychological need satisfaction. Educational Psychology. DOI: 10.1080/01443410.2015.1113236
  4. 【数学の成績と意欲の低下・9〜17歳】Gottfried, A. E., Marcoulides, G. A., Gottfried, A. W. & Oliver, P. H. (2007). Multivariate latent change modeling of developmental decline in academic intrinsic math motivation and achievement: Childhood through adolescence. International Journal of Behavioral Development. DOI: 10.1177/0165025407077752
  5. 【教師の自律性支援・8,193人】Engler, L. & Westphal, A. (2024). Teacher autonomy support counters declining trend in intrinsic reading motivation across secondary school. European Journal of Psychology of Education. DOI: 10.1007/s10212-024-00842-5
  6. 【8〜10年生の3年間・646人】Otis, N., Grouzet, F. M. E. & Pelletier, L. G. (2005). Latent Motivational Change in an Academic Setting: A 3-Year Longitudinal Study. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/0022-0663.97.2.170
  7. 【進学と熟達目標の低下・415人】Madjar, N., Cohen, V. & Shoval, G. (2018). Longitudinal analysis of the trajectories of academic and social motivation across the transition from elementary to middle school. Educational Psychology. DOI: 10.1080/01443410.2017.1341623
  8. 【移行期の自尊感情と自己概念】Wigfield, A., Eccles, J. S., Mac Iver, D. & Reuman, D. (1991). Transitions during early adolescence: Changes in children’s domain-specific self-perceptions and general self-esteem across the transition to junior high school. Developmental Psychology. DOI: 10.1037//0012-1649.27.4.552
  9. 【低所得家庭の移行・580人】Seidman, E., Allen, L., Aber, J. L. & Mitchell, C. (1994). The Impact of School Transitions in Early Adolescence on the Self-System and Perceived Social Context of Poor Urban Youth. Child Development. DOI: 10.2307/1131399
  10. 【年度内の変化と学校の目標・1,051人】Corpus, J. H., McClintic-Gilbert, M. S. & Hayenga, A. O. (2009). Within-year changes in children’s intrinsic and extrinsic motivational orientations: Contextual predictors and academic outcomes. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2009.01.001
  11. 【反証・興味の概念そのものの変化】Frenzel, A. C., Pekrun, R., Dicke, A.-L. & Goetz, T. (2012). Beyond quantitative decline: Conceptual shifts in adolescents’ development of interest in mathematics. Developmental Psychology. DOI: 10.1037/a0026895
  12. 【反証・下がらない類型】Gaspard, H., Lauermann, F., Rose, N. & Wigfield, A. (2020). Cross-Domain Trajectories of Students’ Ability Self-Concepts and Intrinsic Values in Math and Language Arts. Child Development. DOI: 10.1111/cdev.13343
  13. 【恐怖喚起の両方向の結果・273人】Putwain, D. & Symes, W. (2011). Perceived fear appeals and examination performance: Facilitating or debilitating outcomes? Learning and Individual Differences. DOI: 10.1016/j.lindif.2010.11.022
  14. 【恐怖喚起と自己決定的動機づけ】Putwain, D. & Remedios, R. (2014). The scare tactic: Do fear appeals predict motivation and exam scores? School Psychology Quarterly. DOI: 10.1037/spq0000048
  15. 【挑戦としての受け取り・1,530人】Putwain, D. W., Nicholson, L. J. & Kutuk, G. (2023). Warning students of the consequences of examination failure: An effective strategy for promoting student engagement? Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000741
  16. 【恐怖喚起と効力喚起・大学生487人】von der Embse, N. P., Schultz, B. K. & Draughn, J. D. (2015). Readying students to test: The influence of fear and efficacy appeals on anxiety and test performance. School Psychology International. DOI: 10.1177/0143034315609094

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