英作文への添削——赤ペンは効くのか
高校入試の英語では、与えられた条件に沿って数文の英語を書く問題が多くの地域で出題されます。家庭や塾で英作文を練習すると、ほぼ必ず行われるのが赤ペンによる添削です。冠詞が抜けていれば a を書き足し、過去形になっていなければ直す。
ところが第二言語習得の研究では、この赤ペンが本当に書く力を伸ばしているのかをめぐって、四半世紀以上にわたる論争が続いてきました。1996年、ある研究者が「文法の添削は効果がなく、有害であり、やめるべきだ」と主張したのが発端です [1]。
その後、この主張に答えるために多数の実験とメタ分析(複数の研究結果を統計的に統合する方法)が行われました。この記事は、英語を書いた答案への訂正——研究では書面訂正フィードバック(written corrective feedback)と呼ばれます——について、何が分かっていて、何が分かっていないのかを整理します。
一言でいうと(この記事の結論)
赤ペンは効きます。ただし「直した答案がきれいになる」ことと「次に書く英文が正確になる」ことは別です。
52研究を統合したベイズ型メタ分析は、訂正の効果は中程度で、時間がたっても持続すると報告しました [6]。一方で、訂正を見て書き直すと誤りは大きく減るのに、1週間後に新しく書いた文章では訂正なしの群とほぼ同じだったという実験もあります [3]。
——添削の効果は、書き直しではなく「新しく書いた文章」で確かめる必要があります。
- 批判側のメタ分析は、訂正の最良の推定値は「わずかな負の効果」で、効果があるとしても非常に小さいと結論した [2]。
- その後の21研究・35研究・52研究のメタ分析は、いずれも正の効果を報告した [4] [5] [6]。
- 効果を最も左右したのは学習者の習熟度だった [4] [5]。
- 直接訂正(正解を書く)・間接訂正(下線だけ)・文法説明つきの訂正は、似た大きさの効果だった [6]。
- 268人の研究で、誤りをすべて直す包括的な訂正も、1週間後・4週間後の新しい文章の正確さを改善し、文章を単純にさせることもなかった [9]。
- 反証として、書き直しでの誤りの減少は、学習の予測因子にならなかった [3]。
- 小〜中学生の作文研究では、大人からのフィードバックが作文の質を上げた(効果量 0.87) [15]。

1. 論争の出発点——「添削をやめるべきだ」
1996年の論文は、第二言語の作文授業での文法の訂正は効果がなく、有害で、理論的にも実践的にも意味のある助けにならないと主張し、訂正を擁護する従来の議論を一つずつ退けました [1]。
同じ著者は2007年に、訂正が正確に書く力にどう影響するかを、質的な検討とメタ分析を組み合わせて評価しました。その結論は次のとおりです [2]。
- 既存の研究に基づく最良の推定では、訂正は正確に書く力にわずかな負の効果を持つ
- 何らかの実際の利点があるとしても、それは非常に小さいと95%の確信で言える
- さらに、訂正群に有利な方向のバイアスが研究に入っていた可能性が高く、メタ分析の結論はむしろ訂正の失敗を過小評価している
この主張は、教師の日常的な実践に正面から挑むものでした。訂正を支持する研究者は、「新しく書いた文章で正確さが上がるか」を長期間追う実験で応えていきます。
2. 支持する実験——冠詞と時制で効果が出た
ニュージーランドで行われた10か月の研究では、初中級の英語学習者52人を4群に分け、英語の冠詞の2つの用法について訂正を与えました。学習者は事前テスト・直後テスト・3回の遅延テストで計5本の文章を書きました。訂正を受けた3つの群は、すべての事後テストで統制群を上回り、訂正の種類(文法説明の有無など)による差はありませんでした [7]。
日本の大学生を対象にした研究では、冠詞の誤りだけを直す焦点化した訂正と、冠詞以外の誤りも一緒に直す焦点化しない訂正を比べました。両群とも事前から事後にかけて、誤り訂正テストと新しい物語文の両方で伸び、2回目の事後テストでは訂正を受けなかった統制群を上回りました。焦点化の有無で効果に差はありませんでした [8]。
英語学習者151人の研究では、単純過去形と現在完了形の誤りに対し、正解を書く直接訂正と、文法の説明を与えるメタ言語的訂正を比べました。どちらの群も、直後の新しい文章で比較群を上回りました。ただし単純過去形では、直接訂正のほうが効果が長持ちしました。また、言語を分析する能力の高い学習者は直接訂正で伸びやすく、低い学習者は文法説明つきの訂正からより多くを得ていました [13]。
一言でいうと
冠詞や過去形のように対象を絞った研究では、訂正の効果は新しい文章でも確認され、10か月の研究では遅延テストまで残りました [7] [8]。
——そしてどの訂正の仕方が合うかは、生徒の分析的な力によって違う可能性があります [13]。
3. メタ分析は何を示したか
最新のベイズ型メタ分析は、メタ分析の水準で初めて短期・中期・長期の効果を区別し、中程度の効果が時間を越えて持続するという頑健な証拠を示しました [6]。
ここまでの対象は外国語学習者ですが、学年別の作文指導の研究でも、フィードバックの効果は確認されています。小学1年〜中学2年相当の実験・準実験のメタ分析では、大人・仲間・自分・コンピューターからの作文へのフィードバックが作文の質を高め、平均効果量はそれぞれ 0.87、0.58、0.62、0.38でした。一方、教師が進捗を見守るだけでは、作文は意味のある形では伸びませんでした [15]。
6〜12年生(中学1年〜高校3年相当)を対象に方法論的に厳しい基準で再分析したメタ分析では、作文指導全体の効果量は 0.38、そのうちフィードバックは 0.30でした。書く過程を重視する指導(0.75)や方略の指導(0.59)、仲間との支え合い(0.59)のほうが大きい効果でした [16]。
4. 【反証】書き直しがきれいになっても、学んだとは限らない
反証1:書き直しの成功は、学習を予測しない
最も鋭い反証は、2008年の実験です [3]。
- 学習者は授業で物語文を書き、次の授業で書き直した
- 半数は誤りに下線を引いてもらい、それを使って書き直した。残り半数は下線なしで書き直した
- 書き直しでは、下線群が統制群より有意に誤りを減らした
- しかし1週間後に全員が新しい物語文を書くと、1本目から2本目への誤り率の変化は、両群でほぼ同一だった
著者らの結論は、書き直しでの誤りの減少は学習の予測因子ではなく、書き直しでの改善は訂正の効果の証拠にならないというものです [3]。
中級の学習者53人の研究でも、直接訂正と2種類の間接訂正の3群すべてが書き直しでは統制群を有意に上回ったものの、新しい文章への効果は、一部に短期の改善が見られたものの、おおむね有意ではありませんでした [11]。
反証2:誤りをまとめて扱うと、効果が見えない
成人の移民の学習者53人に12週間、前置詞・単純過去・定冠詞の3種類の誤りへの訂正を与えた研究では、書面の訂正と5分間の個別面談を組み合わせた場合に、過去形と定冠詞で新しい文章の正確さに有意な効果がありました。しかし3種類の誤りをまとめて一つとして扱うと、訂正の種類による全体的な効果はありませんでした。また、同じ学習者でも、ある回では正確に使え、似た別の回では使えないという大きな揺れが見られました [10]。
反証3:「少ないほど良い」か「全部直す」か、決着していない
ある論者は、焦点を絞らずすべてを直す訂正は教師にも生徒にも問題が多く、「少ないほど良い」と主張しています [14]。
しかし実験の結果は一方向ではありません。先の日本の大学生の研究では焦点化の有無に差がなく [8]、268人の研究では包括的な訂正が新しい文章の正確さを改善し、生徒が難しい構文を避けるようになることもありませんでした。この研究では、文法的な誤りの改善は直接訂正でのみ見られ、文法以外の誤りは間接訂正で最も改善しました [9]。
中級の学習者78人を15週間追った研究では、焦点化した訂正の群は語の誤りを早い段階で減らし、焦点化+書き直しの群は文の誤りの減少と作文の質で他の群を上回った一方、包括的な訂正+書き直しの群は全体の正確さで最も伸びました [12]。
一言でいうと(反証のまとめ)
「書き直しがきれいになった」は、添削が効いた証拠になりません [3] [11]。
——そして何をどこまで直すべきかは、誤りの種類と目的によって答えが変わり、まだ決着していません [9] [12] [14]。
5. 実務——家庭でできる「効果を確かめる添削」
高校入試の英作文を想定した、1週間1サイクルの手順です。
- 月曜:1本書く(15分)。過去問や問題集の条件英作文を1題。辞書は使わず、制限時間内に書きます。
- 火曜:直す誤りを2種類に決めて訂正する(10分)。その週に直す対象を「過去形」「三単現の s」「冠詞」などから2種類選び、その2種類は正解を書き込み(直接訂正)、それ以外の誤りは下線だけにします。文法の誤りは直接訂正でのみ新しい文章に効いたという結果 [9] と、焦点化の議論 [14] を組み合わせた折衷です。
- 火曜:本人が書き直す(10分)。ただし、この書き直しの出来は記録しません。書き直しでの改善は学習の証拠にならないからです [3]。
- 日曜:同じ種類の新しい題で、もう1本書く(15分)。訂正を見ずに書き、月曜の文章と比べて、選んだ2種類の誤りの数だけを数えます。効果を確かめる場所は、ここです。
- 記録を1行つける(2分)。「過去形:月曜3→日曜1」のように、誤りの種類と数だけを残します。同じ学習者でも回によって正確さが揺れるため [10]、1回で判断せず3週続けて見ます。
赤ペンだけに頼らないことも大切です。作文指導のメタ分析では、フィードバックより書く過程を重視する指導や方略の指導の効果が大きく [16]、書く前の準備活動(0.32)にも効果がありました [16]。
この記事で言えないこと
- 引用した訂正研究の対象は、多くが大学生や成人の英語学習者です。中学生の高校入試の英作文にそのまま当てはまるかは分かりません。例外は、生徒を対象にした268人の研究 [9] と、学年別の作文指導のメタ分析 [15] [16] です。
- 研究の多くは冠詞や時制など限られた文法項目を扱っています [7] [8] [13]。内容や構成への添削の効果は、この記事の範囲外です。
- メタ分析の「中程度」の効果 [5] [6] の具体的な数値は、抄録に示されていません。
- 「2種類に絞って直接訂正」という家庭での手順そのものを検証した研究はありません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできることがあります。
- 直す誤りの種類を週に2つに絞る
- 書き直しの出来ではなく、数日後に新しく書いた文章で誤りを数える
- 誤りの種類と数を1行だけ記録し、3週続けて見る
- 訂正だけでなく、書く前に内容を整理する時間を取る
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 英作文の添削で、どの誤りを直し、どの誤りを残しますか
- 添削の効果を、書き直しと新しい答案のどちらで判断していますか
- 添削のほかに、書く前の準備をどう指導していますか
まとめ
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【反証・添削廃止論】Truscott, J. (1996). The Case Against Grammar Correction in L2 Writing Classes. Language Learning. DOI: 10.1111/j.1467-1770.1996.tb01238.x
- 【反証・批判側のメタ分析】Truscott, J. (2007). The effect of error correction on learners’ ability to write accurately. Journal of Second Language Writing. DOI: 10.1016/j.jslw.2007.06.003
- 【反証・書き直しは学習を予測しない】Truscott, J. & Hsu, A. Y. (2008). Error correction, revision, and learning. Journal of Second Language Writing. DOI: 10.1016/j.jslw.2008.05.003
- 【メタ分析・21研究】Kang, E. & Han, Z. (2015). The Efficacy of Written Corrective Feedback in Improving L2 Written Accuracy: A Meta-Analysis. The Modern Language Journal. DOI: 10.1111/modl.12189
- 【メタ分析・35研究】Lim, S. C. & Renandya, W. A. (2020). Efficacy of Written Corrective Feedback in Writing Instruction: A Meta-Analysis. TESL-EJ. ERIC: EJ1275821
- 【ベイズ型メタ分析・52研究】Brown, D., Liu, Q. & Norouzian, R. (2026). Effectiveness of written corrective feedback in developing L2 accuracy: A Bayesian meta-analysis. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/13621688221147374
- 【10か月の追跡・52人】Bitchener, J. & Knoch, U. (2010). The Contribution of Written Corrective Feedback to Language Development: A Ten Month Investigation. Applied Linguistics. DOI: 10.1093/applin/amp016
- 【焦点化と非焦点化・日本の大学生】Ellis, R., Sheen, Y., Murakami, M. & Takashima, H. (2008). The effects of focused and unfocused written corrective feedback in an English as a foreign language context. System. DOI: 10.1016/j.system.2008.02.001
- 【包括的訂正・生徒268人】Van Beuningen, C. G., De Jong, N. H. & Kuiken, F. (2012). Evidence on the Effectiveness of Comprehensive Error Correction in Second Language Writing. Language Learning. DOI: 10.1111/j.1467-9922.2011.00674.x
- 【訂正と個別面談・誤りの揺れ】Bitchener, J., Young, S. & Cameron, D. (2005). The effect of different types of corrective feedback on ESL student writing. Journal of Second Language Writing. DOI: 10.1016/j.jslw.2005.08.001
- 【反証・新しい文章への転移は限定的】Karim, K. & Nassaji, H. (2020). The revision and transfer effects of direct and indirect comprehensive corrective feedback on ESL students’ writing. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168818802469
- 【焦点化と包括的訂正・15週間】Rahimi, M. (2021). A comparative study of the impact of focused vs. comprehensive corrective feedback and revision on ESL learners’ writing accuracy and quality. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168819879182
- 【直接訂正と文法説明・言語適性・151人】Benson, S. & DeKeyser, R. (2019). Effects of written corrective feedback and language aptitude on verb tense accuracy. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168818770921
- 【「少ないほど良い」論】Lee, I. (2019). Teacher written corrective feedback: Less is more. Language Teaching. DOI: 10.1017/s0261444819000247
- 【作文の形成的評価メタ分析・1〜8年生】Graham, S., Hebert, M. & Harris, K. R. (2015). Formative Assessment and Writing: A Meta-Analysis. The Elementary School Journal. DOI: 10.1086/681947
- 【6〜12年生の作文指導・148比較】Graham, S., Cao, Y., Kim, Y.-S. G. & Lee, J. (2025). Effective writing instruction for students in grades 6 to 12: a best evidence meta-analysis. Reading and Writing. DOI: 10.1007/s11145-024-10539-2
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