英語の音読——繰り返し読みと流暢性
中学英語の家庭学習で、最もよく勧められる方法の一つが教科書本文の音読です。「10回読みなさい」「スラスラ読めるまで読みなさい」という指示は、多くの中学生が一度は受けたことがあるでしょう。
読解研究では、同じ文章を何度も読む練習を繰り返し読み(repeated reading)と呼びます。もともとは英語を母語とする子どもの読みの流暢さ(fluency:正確に、速く、自然な区切りで読める力)を育てる方法として考案され、その後、外国語として英語を学ぶ人にも広がりました。
この記事は、「音読すれば読めるようになる」という通説を、研究の側から点検します。音読で何が伸び、何が伸びないのか。そして同じ時間を、繰り返しではなく「別の文章を読む」ことに使ったらどうなるのか。
一言でいうと(この記事の結論)
繰り返し読みは、読む速さ(流暢さ)を確実に伸ばします。日本の大学生を対象にした研究でも、繰り返し読みを含む練習で黙読の速さが伸び、理解を保ったままでした [12] [13]。
ただし、読解力(内容の理解)への効果は一貫せず [6]、同じ量を「別の文章」で読んだ場合と差がなかったという報告もあります [5] [7]。
——効果が出やすいのは、先に手本の音声を聞く [2] [5]、日を空けて繰り返す [16]、練習していない文章で速さを確かめる、の3条件です。
- 繰り返し読みは、練習した文章だけでなく、全体的な流暢さと理解を高める介入として使えるとメタ分析は結論した [1]。
- 読みに困難のある生徒の34研究では、特に小学生で効果が大きく、手本の音声を先に聞く方法との組み合わせが最も効果的だった [2]。
- 韓国の高校生255人で、音読の流暢さは黙読での読解の分散の20.9%を説明した [8]。
- 反証として、6〜12年生の17研究では、繰り返し読みは流暢さを伸ばしたが、読解への正の効果はわずかだった [6]。
- 反証として、繰り返さない流暢さの介入は、繰り返し読みと同程度の効果だった [7]。
- 反証として、厳密な質の基準で評価すると、繰り返し読みは「科学的根拠のある実践」の要件を満たさなかった [3]。
- 16歳の学習者71人で、毎日5日連続の繰り返しは直後の語彙を、週1回5週の繰り返しは長期の保持を伸ばした [16]。

1. なぜ「速く読める」ことが重要なのか
繰り返し読みの理論的な背景は自動化理論です。同じ語を何度も読むことで単語の認識が自動化され、その分の認知資源を、より高次の理解の処理に回せるようになる——という考え方です [11]。
外国語でもこの関係は確認されています。韓国の高校生255人に、3種類の音読の流暢さと6つの読みの予測因子を測った研究では、3つの音読の流暢さの変数は合わせて黙読での読解の分散の21.2%を説明し、文章を音読する流暢さだけで20.9%を説明しました。無意味語の読みと単語を読む流暢さを統制しても、文章を音読する流暢さはさらに12.4%を説明しました [8]。
単語を速く読めることより、文章として滑らかに読めることが理解と結びついている点が重要です。英語を学ぶ成人185人の研究でも、文章を音読する流暢さと読解の関係は、単語を読む効率と読解の関係より強いものでした [9]。
2. 繰り返し読みの効果——メタ分析と外国語学習者
母語の研究
繰り返し読みのメタ分析は、読みに障害のない生徒にも学習障害のある生徒にも有効で、特定の文章の流暢さと理解を高めるだけでなく、全体的な流暢さと理解の力を高める介入として使えると結論しました。ただし、重要な指導の要素は、同じ文章で評価したか別の文章で評価したかによって異なっていました [1]。
読みに困難のある小中高の生徒の34研究・39効果量のメタ分析では、1分あたりの正しく読めた語数で正の効果が確認され、とりわけ小学生で効果が見られ、先に手本の読みを聞く「聞き取りによる予習」と組み合わせる方法が最も効果的でした [2]。
外国語としての英語
日本の大学生を対象にした研究は、音声の手本を使った繰り返し読みは、多読(やさしい本を大量に読む方法)と同じくらい黙読の速さを伸ばし、学習者の読みの活動への受け止め方にも好ましい影響を与えたと報告しています [10]。
ベトナムの大学生を対象にした11週間の準実験では、繰り返し読みの群(24人)は流暢さが伸び、統制群(26人)より有意に多くを理解しました [11]。
日本の大学生55人を1学期追った研究では、時間を計って読む練習と、区切りや抑揚に注意した繰り返しの音読を組み合わせた群、時間を計って読む練習だけの群のいずれも、1分あたり13〜27語の速さの伸びを示し、速さの伸びには理解の向上が伴っていました。両群とも、口頭のコミュニケーション訓練をした比較群を上回りました [12]。
同じ研究者による日本の大学生101人の1年間の研究では、多読・時間を計った読み・区切りと抑揚の訓練つきの繰り返し音読をすべて行った群が、他の群を上回りました。3つの練習群はいずれも、理解を保ったまま読む速さを有意に伸ばしました [13]。
大学生50人の実験では、音声の手本を使った繰り返し読みのほうが、手本なしの繰り返し読みより有意に大きな効果がありました [15]。
3. 【反証】流暢さは伸びても、読解が伸びるとは限らない
反証1:中高生では、読解への効果が乏しい
6〜12年生(中学1年〜高校3年相当)の読みに困難のある生徒を対象とした2006〜2019年の17研究の系統的レビューは、研究の多くが繰り返し読みを扱い、流暢さは改善したが、読解への正の効果はわずかだったと報告しました。これは以前の系統的レビューで見られた傾向と同じでした [6]。
反証2:「繰り返す」ことに特別な効果はないかもしれない
1980〜2005年の中高生向け流暢さ介入19研究の統合では、先に手本の読みを聞く方法を含む介入で流暢さが一貫して改善した一方、年長の生徒では、繰り返し読みと同じ量の繰り返さない読みとの間に、読む速さ・単語認識・理解の差がない可能性が予備的に示されました [5]。
読みに困難のある小中高の生徒への繰り返さない流暢さ介入のメタ分析でも、全体の効果は d = 0.176 と小さいながら有意で、繰り返し読みと繰り返さない介入を直接比べた研究では、効果の大きさに有意な差はありませんでした [7]。
ただし、証拠は一方向ではありません。先の6〜12年生のレビューでは、繰り返し読みと同じ語数の文章を読んでも、流暢さは伸びなかったと報告されています [6]。
反証3:1回で読むか、2回・3回読むかで差がなかった
中級の英語学習者46人を14週間、26の文章を1回ずつ読む群・1回に2回ずつ読む群・3回ずつ読む群に分けた研究では、群の間に有意な差はありませんでした。読む速さは最初の7週間で全群とも有意に伸びたものの、後半の7週間では伸びが鈍りました [14]。
反証4:厳密な基準では「根拠のある実践」と言えない
学習障害のある、またはその恐れのある生徒への繰り返し読みの研究を、研究の質の指標に照らして評価したレビューは、繰り返し読みはその基準では厳密な研究に支持されておらず、根拠に基づく実践とは言えないと結論しました [3]。
反証5:流暢さと理解の関係は、学習者によって変わる
スペイン語を母語とし英語で学ぶ小学5年生76人の研究では、文章を読む流暢さは単語を読む流暢さや口頭の言語能力を超えて読解を説明したものの、その効果は頑健ではなく、流暢に読めて、かつ口頭の言語能力が十分に発達した生徒だけが高い読解を示しました [4]。
一言でいうと(反証のまとめ)
音読で伸びるのは主に「速さ」です。読解が伸びるかは、語彙や文法などの言語の力に左右されます [4] [6]。
——そして「同じ文章を何回も」より「手本を先に聞く」「量を読む」ことのほうが効いている可能性が残っています [5] [7] [14]。
4. いつ繰り返すか——連続か、間隔を空けるか
台湾の16歳の英語学習者71人を対象にした研究は、音声つきの繰り返し読みの時間の配分を比べました [16]。
| 集中配分 | 分散配分 | |
|---|---|---|
| 読み方 | 同じ文章を毎日1回、5日連続 | 同じ文章を週1回、5週連続 |
| 語彙の結果 | 直後の語彙の伸びが大きい | 長期の保持が大きい |
定期テスト前に教科書本文を毎日読み込むのは直後の成績には合理的ですが、高校入試まで語彙を残すという目的では、間隔を空けて同じ本文に戻るほうが有利である可能性があります [16]。
5. 実務——「聞く→読む→確かめる」の週間手順
教科書や入試問題の本文(150〜300語程度)を使う、1日15分・週5日の手順です。
- 手本を聞く(3分)。本文の音声を、文字を目で追いながら1回聞きます。先に手本を聞く方法は、中高生の流暢さ介入で一貫して効果がありました [5]。手本ありの繰り返し読みは、手本なしより効果が大きい結果もあります [15]。
- 区切りを入れて音読する(5分)。意味のまとまりごとにスラッシュを入れ、3回音読します。区切りと抑揚に注意した練習を含む群の伸びが大きかったためです [13]。回数を増やしても差が出なかった報告があるので [14]、10回読むより、3回で次の手順に進みます。
- 内容を一言で言う(2分)。本文を閉じ、日本語で「何の話だったか」を2文で言います。流暢さが伸びても理解が伴うとは限らないからです [6]。
- 別の文章を読む(5分)。残りの時間は、練習していない、やさしめの英文を1回読みます。繰り返さない読みも同程度の効果を持ちうるうえ [7]、多読との組み合わせで伸びが大きかったためです [13]。
週に1回、効果を確かめます。練習していない初見の英文を1分間黙読し、読めた語数を記録します。練習した文章が速く読めるのは当然なので、初見の文章で速さが伸びているかを見ます。そして1週間前に音読した本文にもう一度戻り、間隔を空けた繰り返しにします [16]。
この記事で言えないこと
- 日本の学習者の研究は、大学生が中心です [10] [12] [13]。日本の中学生の高校入試の読解得点への効果を直接測った研究は、ここでは引用できていません。
- 母語の研究の多くは、読みに困難のある生徒が対象です [2] [3] [6] [7]。英語を外国語として学ぶ中学生にそのまま当てはまるとは限りません。
- 「3回」「1日15分」という分量そのものを検証した研究はありません。
- 音読が発音やスピーキングに与える効果は、この記事の範囲外です。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできることがあります。
- 音読の前に、必ず手本の音声を聞く
- 同じ本文を何十回も読むより、3回読んだら内容を言い、別の英文に進む
- 週1回、初見の英文で1分間に読める語数を記録する
- 1週間前の本文に戻って読み直す
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 音読の宿題の効果を、何で確かめていますか
- 音読と、初見の英文を読む練習の配分をどう決めていますか
- 音読がスラスラできるのに長文が読めない生徒に、何をしますか
まとめ
- 繰り返し読みは読む速さ(流暢さ)を伸ばし、メタ分析でも有効とされています [1] [2]。
- 音読の流暢さは、外国語の黙読の読解と結びついています [8] [9]。
- 日本の大学生でも、繰り返し音読を含む練習で理解を保ったまま読む速さが伸びました [12] [13]。
- 反証として、中高生では読解への効果が乏しく [6]、繰り返さない読みとの差もはっきりしません [5] [7]。
- 読む回数を増やしても差がなかった研究 [14] や、厳密な基準では根拠不十分とするレビュー [3] もあります。
- 手本を先に聞くこと [2] [15] と、間隔を空けて繰り返すこと [16] が効果を高める条件です。
- 家庭では「聞く→区切って3回読む→内容を言う→初見の英文を読む」を回し、初見の英文の速さで効果を確かめます。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【繰り返し読みのメタ分析】Therrien, W. J. (2004). Fluency and Comprehension Gains as a Result of Repeated Reading. Remedial and Special Education. DOI: 10.1177/07419325040250040801
- 【読みに困難のある生徒・34研究】Lee, J. & Yoon, S. Y. (2017). The Effects of Repeated Reading on Reading Fluency for Students With Reading Disabilities: A Meta-Analysis. Journal of Learning Disabilities. DOI: 10.1177/0022219415605194
- 【反証・厳密な基準では根拠不十分】Chard, D. J., Ketterlin-Geller, L. R., Baker, S. K. & Doabler, C. (2009). Repeated Reading Interventions for Students with Learning Disabilities: Status of the Evidence. Exceptional Children. DOI: 10.1177/001440290907500301
- 【反証・流暢さと理解の関係は頑健でない】Crosson, A. C. & Lesaux, N. K. (2010). Revisiting assumptions about the relationship of fluent reading to comprehension: Spanish-speakers’ text-reading fluency in English. Reading and Writing. DOI: 10.1007/s11145-009-9168-8
- 【反証・中高生の流暢さ介入19研究】Wexler, J., Vaughn, S., Edmonds, M. & Reutebuch, C. K. (2008). A synthesis of fluency interventions for secondary struggling readers. Reading and Writing. DOI: 10.1007/s11145-007-9085-7
- 【反証・6〜12年生の17研究】Steinle, P. K., Stevens, E. & Vaughn, S. (2022). Fluency Interventions for Struggling Readers in Grades 6 to 12: A Research Synthesis. Journal of Learning Disabilities. DOI: 10.1177/0022219421991249
- 【反証・繰り返さない介入のメタ分析】Zimmermann, L. M., Reed, D. K. & Aloe, A. M. (2021). A Meta-Analysis of Non-Repetitive Reading Fluency Interventions for Students With Reading Difficulties. Remedial and Special Education. DOI: 10.1177/0741932519855058
- 【音読の流暢さと読解・韓国の高校生255人】Jeon, E. H. (2012). Oral reading fluency in second language reading. Reading in a Foreign Language. DOI: 10.64152/10125/66860
- 【文章の流暢さと読解・成人185人】Jiang, X., Sawaki, Y. & Sabatini, J. (2012). Word Reading Efficiency, Text Reading Fluency, and Reading Comprehension Among Chinese Learners of English. Reading Psychology. DOI: 10.1080/02702711.2010.526051
- 【音声つき繰り返し読みと多読・日本の大学生】Taguchi, E., Takayasu-Maass, M. & Gorsuch, G. J. (2004). Developing reading fluency in EFL: How assisted repeated reading and extensive reading affect fluency development. Reading in a Foreign Language. DOI: 10.64152/10125/66783
- 【11週間の準実験・ベトナム】Gorsuch, G. & Taguchi, E. (2008). Repeated reading for developing reading fluency and reading comprehension: The case of EFL learners in Vietnam. System. DOI: 10.1016/j.system.2007.09.009
- 【時間を計った読みと繰り返し音読・55人】Shimono, T. (2018). L2 reading fluency progression using timed reading and repeated oral reading. Reading in a Foreign Language. DOI: 10.64152/10125/66743
- 【1年間の組み合わせ練習・101人】Shimono, T. (2023). The Effects of Extensive Reading, Timed Reading, and Repeated Oral Reading on Japanese University L2 English Learners’ Reading Rates and Comprehension over One Academic Year. Reading in a Foreign Language. DOI: 10.64152/10125/67447
- 【反証・読む回数で差なし・46人】Rich, K., Eckstein, G. & Lynn, E. (2022). Reading Rate Gain in a Second Language: The Effect of Unassisted Repeated Reading and Intensity on Word-Level Reading Measures. Reading Matrix. ERIC: EJ1339946
- 【音声つきと音声なしの比較】Pham, N. X. V. et al. (2024). Comparing the effects of two repeated reading methods on EFL learners’ reading rates. Humanities and Social Sciences Communications. DOI: 10.1057/s41599-024-02793-0
- 【連続か間隔か・16歳71人】Serrano, R. & Huang, H.-Y. (2018). Learning Vocabulary Through Assisted Repeated Reading: How Much Time Should There Be between Repetitions of the Same Text? TESOL Quarterly. DOI: 10.1002/tesq.445
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