出願校の組み方と「アンダーマッチ」——実力より低い大学を選ぶ41%と、情報提供78万人実験の空振り

「念のため」の出願が、実力より低い進学先を選ばせているとしたら

出願校を決める時期になると、「落ちるのが怖いから、確実に受かる大学を中心に出す」「挑戦校は1校だけにしておく」という判断がよく聞かれます。不合格の痛みを避ける判断としては自然ですが、米国の高等教育研究には、この判断の結果として起きる現象に名前があります。アンダーマッチ(academic undermatch)——学業成績から見て、より選抜性の高い大学に入れたはずの生徒が、それより選抜性の低い進学先を選ぶことです [1]

この研究領域が注目されたのは、アンダーマッチが家庭の経済状況や地域によって偏って起きており、しかも低い費用の情報提供で変えられる可能性があると考えられたからです。

この記事では、アンダーマッチはどれくらい起きていて、何が原因で、本人にとって本当に損なのか、そして「もっと高い大学に出させる」介入は効くのかを、支持する研究と反証の両方から検討します。大学の選抜度そのものがその後の人生をどれだけ変えるかは既存の連載で扱っているので、ここでは出願の組み方に絞ります。

一言でいうと(この記事の結論)
米国の全国データでは、41%の生徒がアンダーマッチしていたという推計があり、低所得・地方・親が大卒でない家庭で多く見られました [1]
アンダーマッチした学生は、学力を統制しても学位を取得しにくい傾向が、複数の世代で一貫していました [2]
——ただし、アンダーマッチの割合は定義しだいで大きく変わり [3]78万5千人への情報提供の大規模実験では進学パターンは変わりませんでした [4]「高い大学に出せば得」と単純には言えません。

  1. 全国代表サンプルで41%がアンダーマッチ。1992年から2004年の世代で約20%減少しました [1]
  2. 家庭の社会的・文化的資源と、それに結びつく出願行動(情報源の多さ・出願数)が、社会経済的格差の約40%を説明しました [5]
  3. 情報提供・出願料免除などの介入で、選抜的な大学への出願は55%から67%に、進学は29%から34%に増えた無作為化実験があります [6]
  4. 【反証】同様の情報提供を78万5千人に行った全国規模の実験では、進学パターンに変化がありませんでした [4]
  5. 【反証】アンダーマッチの割合は、大学の選抜性と生徒の資格の定義の仕方で大きく変わりました [3]
  6. 【反証】実力より上の大学に進むと不利になるという「ミスマッチ仮説」は、米国の全国データでは支持されませんでしたが、インドの工学系の研究では支持する証拠もありました [7] [8]
マインドマップ図解:出願校の組み方と「アンダーマッチ」——実力より低い大学を選ぶ41%と、情報提供78万人実験の空振り
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. アンダーマッチは、どれくらい、誰に起きているか

Smith らは、米国の全国代表データを用いて、41%の生徒が、自分の学業成績で入れる大学より選抜性の低い進学先を選んでいたと推計しました [1]。アンダーマッチは幅広い学力層で起きていたものの、社会経済的地位の低い家庭、地方在住、親が大卒でない生徒でより多く見られました。また1992年と2004年の高校3年生の世代を比べると、アンダーマッチは約20%減っており、その一部は自分に見合った大学に出願する生徒が増えたことによるものでした [1]

同じ種類の全国データを用いた別の研究は、アンダーマッチは確かに広く見られるが、先行研究が主張したほど広範ではないとし、家庭背景・環境・大学進学に関する態度が起こりやすさに影響していたと報告しています [9]

何が出願を低くさせるのか

Roksa と Deutschlander は、5,370人の分析から、出願の段階でのアンダーマッチには家庭の社会的・文化的資源が大きく関わっていることを示しました [5]。家庭の資源は、大学選びで何を重視するか(費用、自宅から通えるか)という態度と、参照した情報源の多様さ・出願した大学の数という行動に影響し、これらの変数が合わせて社会経済的格差の約40%を説明しました [5]

Ovink らの研究でも、費用が安く自宅に近い大学を好むことは、特に低所得の生徒で、非常に選抜的な大学に入れる資格があってもアンダーマッチの多さと結びついていました。ただしこの関係は、50マイル以内に見合った大学がある場合には弱まり距離が重要であることが示されました [10]

一言でいうと
アンダーマッチの多くは、学力ではなく、情報・出願数・費用や距離の条件で起きていました [1] [5] [10]
——「どこを受けるか」は、本人の実力だけでなく、家庭が持っている情報の量に左右されているということです。

2. アンダーマッチは、本人にとって損なのか

Cook は、1995年・2003年・2011年に大学に入学した3つの世代の全国代表データを比べ、どの世代でも、学業上の資格と人口学的特徴を統制したうえで、アンダーマッチした学生はマッチ・オーバーマッチした学生より学士を取得しにくかったと報告しました。さらに、オーバーマッチ(実力より上の大学に進んだ)学生の卒業の見込みは時代とともに高まった一方、マッチ・アンダーマッチの学生では高まっていませんでした [2]

Ovink らは、選抜的な大学に通うことは卒業後の就業と収入に影響し、アンダーマッチした学生はそうでない学生より良くない結果だったと報告しています [10]

イスラエルの全出願者・全学生の行政データを用いた研究は、ミスマッチを出願・合格・入学の各段階で分けて追跡し、すべての段階で完全にマッチしていたのは学生の3分の1だけで、各段階のミスマッチが卒業の見込みに影響し、その影響は経路に依存していたと報告しました [11]出願の段階の判断が、その後の段階にも連鎖するということです。

3. 出願を「広げる」介入は効くのか

支持——情報と出願料免除で出願・進学が増えた

Hoxby と Turner は、成績の高い低所得の高校生約18,000人(うち約3,000人が対照群)を無作為に割り当て、出願の手引き・大学ごとの実質費用の情報・書類不要の出願料免除を組み合わせた介入を行いました [12]。手引きは、専門のカウンセラーが成績の高い生徒に与えるような助言——「安全校」「実力相応校」「挑戦校」を組み合わせて8校以上に出願する——を内容としていました [12]

米国教育省の What Works Clearinghouse の簡易レビューによれば、この介入は次の割合を増やしました [6]

成果 対照群 介入群
選抜的な大学への出願 55% 67%
選抜的な大学への合格 30% 39%
選抜的な大学への進学 29% 34%

ただしレビューは、元の標本からの脱落が多いため、証拠基準を「留保つき」で満たすと評価しています [6]

出願数そのものについては、出願する大学の数を増やすことが、4年制大学への進学確率を因果的に高め、特に1〜2校にしか出願していない低所得の生徒で大きかったとする分析があります [13]

4. 【反証】定義は揺れ、全国規模では効かず、「上に出す」ことにも危険がある

反証1——全国規模の情報提供では、何も変わらなかった

College Board は、大学探しを始めるきっかけを与え、情報を集める手間を減らし、幅広い出願を勧める冊子とメールを、高校2年の終わりから3年の半ばにかけて2〜3回送りました。一部の生徒には携帯メッセージの督促や出願料免除も加えました。PSAT・SAT で上位50%の低・中所得の生徒785,000人を対象にした無作為化比較試験の結果は、大学進学のパターンに変化なしでした [4]

小規模な実験で効いた介入が、規模を広げると効かなくなる——前節の実験 [12] との対比は、「情報を渡せば出願が広がる」という単純な図式の限界を示しています。

反証2——アンダーマッチの割合は、測り方で決まる

Rodriguez は、同じ全国代表データを用いて、大学の選抜性の2通りの定義と、生徒の資格の3通りの計算方法を比べ、方法によって資格の分布、アンダーマッチの割合、その後の分析のオッズ比が大きく変わることを示しました。少数派の生徒については、方法の違いでアンダーマッチの格差や結果の有意性まで変わりました [3]

Bastedo と Flaster は、この研究領域の3つの問題のある前提を指摘しています [14]

  1. 研究者は、学生の成果にとって「意味のある境目」で大学を区別できる、という前提
  2. 総合的な選考を行う大学で、誰が合格するかを正確に予測できる、という前提
  3. SAT のような学力指標で生徒と大学を合わせれば、高等教育の不平等が減る、という前提

反証3——実力より上の大学は、いつも得とは限らない

逆向きの懸念が「ミスマッチ仮説」——学力が大学の平均より低い学生は、選抜的な大学に進むとかえって卒業しにくくなる、という主張です。Alon と Tienda は、米国の2つの全国縦断調査などを用いてこれを検証し、1980年代から1990年代初めに進学した学生について、仮説は支持されなかったと報告しました [7]

しかし、インドの難関工学系大学の卒業生を分析した研究では、優遇枠で入学した学生は、特に選抜性の高い専攻で、同じ専攻の学生に成績で遅れをとり専攻選択の影響を統制すると、選抜性の低い専攻を選んでいれば得られたより収入が低かったという、ミスマッチ仮説を支持する証拠が見つかっています [8]

一言でいうと(反証のまとめ)
アンダーマッチの割合や影響は、定義と文脈に強く依存します [3] [14]
情報を配るだけの大規模な介入は効きませんでした [4]
——「上に出せば得」でも「確実に受かる所が安全」でもなく、出願の幅と、進学後にやっていけるかの見通しの両方を見る必要があります [2] [8]

5. 実務——出願校を組む前に確かめる4つの手順

  1. 「挑戦・実力相応・安全」の3層に分けて候補を書き出す(30分)。米国の実験で使われた助言も、この3層の組み合わせでした [12]。まず実力相応校が1校以上あるかを確認します。安全校だけに偏った組み方は、出願段階のアンダーマッチにあたります [11]
  2. 候補から外した理由を1行ずつ書く。「費用」「自宅から遠い」「よく知らない」のどれかが理由なら、それが学力以外の要因によるアンダーマッチの典型です [5] [10]費用と通学条件は家族と数字で確認し、「よく知らない」は調べてから判断します。
  3. 情報源を3つ以上にする。学校の先生、大学の公式情報、塾や予備校の面談など。参照した情報源の多さは、出願段階のアンダーマッチの格差を説明する要因の一つでした [5]
  4. 挑戦校については、「入学後の見通し」も確かめる。その大学の授業の進度や必修科目の内容を調べ、今の学力との差が大きすぎないかを考えます。実力より上の進学先が不利になる場合もあるためです [8]

日本の大学入試は、米国と出願の仕組みや併願の条件が異なります。上の手順は、米国の研究から「学力以外の理由で選択肢を狭めていないか」を点検する枠組みとして使うものです。

この記事で言えないこと

  • 引用した研究のほとんどは米国(一部イスラエル・インド)のもので、日本の大学受験生のアンダーマッチを推計した研究は、今回取得した範囲にありません。
  • アンダーマッチと卒業・収入の関係は観察研究で、選抜的な大学に進むこと自体の因果効果を示したものではありません。
  • アンダーマッチの割合は定義で大きく変わるため [3]、「41%」を日本に当てはめることはできません。
  • 本記事の手順は研究で検証されたものではなく、研究の知見を点検項目にしたものです。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • 候補校を3層に分け、実力相応校が入っているかを確認する
  • 候補から外した理由を書き出し、費用・距離・情報不足のどれかを家族で数字と情報で確かめる
  • 学校の先生を含め、情報源を3つ以上にする

それでも個別指導を使う理由

  1. 情報源の一つとして、学力の見立てを提供できること。1節のとおり、参照する情報源の多さはアンダーマッチの格差に関わっていました [5]。本人の答案を継続して見ている立場から、実力相応の範囲を具体的に示せます。
  2. 情報を渡すだけで終わらせないこと。4節のとおり、情報を配るだけの大規模な介入では進学パターンは変わりませんでした [4]。候補から外した理由を一緒に点検する対話の場を持ちます。
  3. 挑戦校に進んだ後の見通しも一緒に考えること。実力より上の進学先が不利になりうるという証拠もあるため [8]、入学後に必要な学力と現在地の差を具体的に確認します。

塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 出願校を決めるとき、生徒の学力の見立てをどう示していますか
  • 安全校に偏った出願をどう考えますか。その理由は何ですか
  • 挑戦校に進学した場合の入学後の見通しを、どう一緒に考えますか

まとめ

  1. 米国では41%の生徒がアンダーマッチし、低所得・地方・親が大卒でない家庭で多かった [1]
  2. 家庭の資源と出願行動(情報源・出願数)が社会経済的格差の約40%を説明しました [5]
  3. アンダーマッチした学生は、3つの世代で一貫して学位を取得しにくかった [2]
  4. 出願の手引きと出願料免除の実験で、選抜的な大学への進学は29%から34%に増えました [6]
  5. 【反証】78万5千人への情報提供では、進学パターンは変わりませんでした [4]
  6. 【反証】アンダーマッチの割合は定義で大きく変わり、研究の前提にも問題が指摘されています [3] [14]
  7. そして——出願校の組み方で点検すべきは「学力以外の理由で選択肢を狭めていないか」と「入学後にやっていけるか」の両方です。

出典

  1. 【アンダーマッチの規模・全国代表】Smith, J., Pender, M. & Howell, J. (2013). The full extent of student-college academic undermatch. Economics of Education Review. DOI: 10.1016/j.econedurev.2012.11.001
  2. 【アンダーマッチと学位取得・3世代】Cook, A. M. (2022). Margins that Matter: Exploring the Association Between Academic Match and Bachelor’s Degree Completion over Time. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-021-09664-6
  3. 【反証・定義で割合が変わる】Rodriguez, A. (2015). Tradeoffs and Limitations: Understanding the Estimation of College Undermatch. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-015-9363-1
  4. 【反証・78万5千人で効果なし】Gurantz, O. et al. (2021). A National-Level Informational Experiment to Promote Enrollment in Selective Colleges. Journal of Policy Analysis and Management. DOI: 10.1002/pam.22262
  5. 【家庭の資源と出願行動・5,370人】Roksa, J. & Deutschlander, D. (2018). Applying to College: The Role of Family Resources in Academic Undermatch. Teachers College Record. DOI: 10.1177/016146811812000601
  6. 【同実験の第三者レビュー】What Works Clearinghouse (2013). What Works Clearinghouse Quick Review: “Expanding College Opportunities for High-Achieving, Low Income Students”. ERIC: ED541522
  7. 【ミスマッチ仮説は支持されず】Alon, S. & Tienda, M. (2005). Assessing the “Mismatch” Hypothesis: Differences in College Graduation Rates by Institutional Selectivity. Sociology of Education. DOI: 10.1177/003804070507800402
  8. 【反証・ミスマッチを支持する証拠・インド】Frisancho, V. & Krishna, K. (2016). Affirmative action in higher education in India: targeting, catch up, and mismatch. Higher Education. DOI: 10.1007/s10734-015-9927-1
  9. 【先行研究ほど広範ではない】Belasco, A. S. & Trivette, M. J. (2015). Aiming Low: Estimating the Scope and Predictors of Postsecondary Undermatch. The Journal of Higher Education. DOI: 10.1080/00221546.2015.11777363
  10. 【費用・距離の好みと卒業後の結果】Ovink, S. et al. (2018). College Match and Undermatch: Assessing Student Preferences, College Proximity, and Inequality in Post-College Outcomes. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-017-9482-y
  11. 【出願・合格・入学の経路・イスラエル】Gelbgiser, D. & Alon, S. (2024). Match Pathways and College Graduation: A Longitudinal and Multidimensional Framework for Academic Mismatch. Sociology of Education. DOI: 10.1177/00380407241238726
  12. 【出願の手引きの無作為化実験】Hoxby, C. & Turner, S. (2013). Expanding College Opportunities. Education Next. ERIC: EJ1027211
  13. 【出願数と進学】Smith, J. (2011). Can Applying to More Colleges Increase Enrollment Rates? Research Brief. College Board. ERIC: ED562599
  14. 【反証・研究の前提の問題】Bastedo, M. N. & Flaster, A. (2014). Conceptual and Methodological Problems in Research on College Undermatch. Educational Researcher. DOI: 10.3102/0013189×14523039

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