自由英作文は書く前にメモを作るべきか——計画は量と構成を上げるが、試験の得点を保証しない

自由英作文、書く前にメモを作る時間は「得」なのか

大学入試の自由英作文は、限られた試験時間の中で、与えられたテーマについて意見を英語で書く形式が一般的です。そこで必ず出てくる迷いが、「いきなり書き始めるか、まず日本語や英語でメモを作るか」です。メモを作れば構成は整いそうですが、その分だけ書く時間が減ります。

第二言語習得研究には、この問いを直接扱う課題前の計画(pre-task planning)という研究領域があります。書く前に計画の時間を与えた群と与えなかった群で、流暢さ(決まった時間でどれだけ書けたか)・複雑さ(構文や語彙の多様さ)・正確さ(誤りの少なさ)を比べるのが典型的な設計です。

この記事では、計画の時間は英作文の質を上げるのか、何を上げて何を上げないのか、そして制限時間のある試験で本当に得なのかを、支持と反証の両方から検討します。

一言でいうと(この記事の結論)
書く前の計画は、流暢さと構文の多様さを高めやすく、10分の計画で内容・構成・全体の質が上がった実験もあります [1] [2]
一方で、正確さはほとんど上がらず、「書きながら時間をかけて考える」ほうが正確さでは有利だった研究があります [1] [3]
——計画の条件を変えても試験の得点が変わらなかった研究もあり [4]「メモを作れば必ず点が上がる」とは言えません [5]

  1. 第二言語の作文研究は、計画を「無条件には」支持していない——この分野の代表的な研究者自身の総括です [5]
  2. 課題前の計画は流暢さと構文の多様さを高め、書きながらの計画は正確さを高めました [1]
  3. 80人の実験で、10分の計画は構文の複雑さ・流暢さに加え、内容・構成・全体の質を高めました [2]
  4. 計画時間を0・5・10・15分で比べると、10分が最も改善し、15分は複雑さ、5分は正確さに傾きました [6]
  5. 【反証】計画の種類を変えても、流暢さへの小さな効果しかなく、複雑さには影響がなかった研究があります [7]
  6. 【反証】111人の試験形式の研究で、計画の条件は得点に影響しませんでした [4]
マインドマップ図解:自由英作文は書く前にメモを作るべきか——計画は量と構成を上げるが、試験の得点を保証しない
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 母語の作文研究から——アウトラインは質を上げるが、速くはしない

出発点は、母語の作文研究です。Kellogg は、大学生を対象に、書く前にアウトライン(骨組み)を作る方略と、荒い下書きを書く方略を比べ、アウトラインは文章の質を高めたが、書く効率は高めなかった荒い下書きは質にも効率にも影響しなかったと報告しました [8]

この「質は上がるが、速くはならない」という結果は、試験での使い方を考えるうえで重要です。アウトラインは書く作業を楽にするのではなく、考える作業を先に済ませて、書く段階の負荷を分けるものだと言えます。

高校1年生相当34人の研究では、電子的なアウトラインの道具を使うと論証文の質が上がり、主観的な精神的負荷が下がりました。そして同時に、計画についての具体的な指導がなければ、生徒は計画にほとんど時間を使わなかったことも示されています [9]

一言でいうと
「メモを作れと言われなければ、高校生はほとんど計画しない」 [9]
——計画の効果を検討する以前に、計画するという行動そのものが、教えないと起きないことが出発点です。

2. 第二言語の作文——計画は何を上げ、何を上げないか

第二言語での作文について、代表的な研究を並べます。

研究 対象・課題 計画で上がったもの 上がらなかったもの
Ellis & Yuan (2004) [1] 中国の学習者42人・絵の物語作文 流暢さ、構文の多様さ 正確さ(こちらは「書きながら時間をかけて考える」条件で向上)
Rahimi & Zhang (2018) [2] 中上級80人・論証文、10分の計画 構文の複雑さの一側面、流暢さ、内容・構成・全体の質 正確さ、語彙の複雑さ
Abdi Tabari (2024) [6] 80人・論証文、0/5/10/15分 10分で複雑さ・正確さ・流暢さが最も改善。15分は複雑さ、5分は正確さ
Seyyedi ら (2013) [10] 大学1年50人・物語作文、10分の計画 流暢さ、複雑さ 正確さ

Ellis と Yuan は、課題前の計画は「何を書くかを形にする」段階を助け、書きながらの計画は「誤りを監視する」機会を与えると解釈しています。計画のない条件では、考える・書く・点検するをすべて時間の圧力の下で同時に行わねばならず、流暢さ・複雑さ・正確さのいずれも計画した群より劣りました [1]

80人の研究で、多くの学習者が10分の計画時間を最も効果的だと感じていたことも報告されています [6]

「何を」計画させるか

中国の19歳の学習者108人を層化無作為に割り当てた研究では、課題だけを与えた条件より、課題と内容のアイデアを与えた条件、さらに構成まで与えた条件のほうが、有意に質の高い論証文を書きました [11]。興味深いことに、計画時間の長さの条件の中では「自由に書き出す(free writing)」条件が質を高め、著者らはこれが内容の想起を促したと解釈しています [11]

日本人の英語学習者3人の事例研究では、概念地図を使った計画は、正確さを除く全体的な作文の指標と正の関係にあり、学習者ごとに独自の使い方をしていたと報告されています [12]

一言でいうと
書く前の計画で上がりやすいのは「量」と「構文の多様さ」、そして研究によっては「内容と構成」です [1] [2]
上がりにくいのは「文法の正確さ」です [1] [10]
——計画の中身は、表現より「アイデアと構成」に使うほうが、証拠と整合します [11]

3. 課題の性質と書き手の力で、計画の効き方は変わる

同じ計画でも、どんな課題に使うかで結果が変わるという研究があります。中級の英語学習者120人を無作為に分けた研究では、個人的な体験や物語のように構造のはっきりした課題では、計画時間が正確さと語彙の複雑さを高め「どちらを選ぶか」を判断させる構造の緩い課題では、計画時間が構文の複雑さを高めていました [13]

前述の80人の研究でも、課題の推論の負荷を上げると、内容・構成・全体の質は上がった一方で、正確さと流暢さは下がりました [4]。入試の自由英作文のように賛否や理由づけを求める課題は、推論の負荷が高い側に属します。考えることが多いほど、文法の誤りに注意を向ける余裕は減りやすい、ということです。

書き手の力による違いもあります。読み書きに困難のある成人76人に計画と見直しの時間を与えた研究では、計画の技能が高い人は、計画と見直しを使って内容の詳しさを増やせたのに対し、計画の技能が低い人は語の選び方など低い水準の側面に注意が向き、計画と見直しをうまく使えませんでした [14]。対象は受験生とは異なりますが、時間を与えるだけでは計画の効果は生まれず、計画の仕方そのものに習熟が要ることを示す結果です。

一言でいうと
意見や理由を求める課題ほど、計画は内容と構成に効き、正確さは犠牲になりやすい [4] [13]
——だから、計画の時間とは別に、見直しの時間を確保する設計が必要になります。

4. 【反証】計画は得点を保証しない

反証1——計画の種類を変えても、効果は小さかった

スペイン語話者の英語学習者の大きな集団で、アイデアの生成・構成・目標設定という計画の下位過程を分けて5条件で比べた研究では、計画の条件は流暢さに小さな有意の効果を持っただけで、語彙の複雑さにも文法の複雑さにも影響しませんでした [7]。著者らは、これまでの研究で見られた計画の効果は参加者の教育歴やジャンルの知識に左右されていた可能性があり、計画が作文に影響するには一定以上の英語力が必要かもしれないと論じています [7]

反証2——書きながら考えるほうが、正確さでも流暢さでも有利だった

中国の初中級の学習者60人で、課題前の計画時間の圧力のない、書きながらの計画を比べた研究では、複雑さには差がなく、書きながらの計画のほうが正確さと流暢さで有意に有利でした [3]

反証3——試験形式では、得点が変わらなかった

カナダの学術英語の試験の統合型ライティング課題で、111人を「時間を自分で決める必須の計画」「固定時間の必須の計画」「任意の計画」の3条件に分けた研究では、計画の条件が影響したのは計画にかけた時間だけで、書く時間にも、試験の得点にも影響しませんでした [4]

反証4——計画しないほうが語彙は多様だった

中級の学習者78人を3群に分けた描写文の研究では、課題前の計画は流暢さを高めた一方、計画なしの条件のほうが語彙の多様な文章を書き、著者は流暢さと語彙の多様さの間の取引関係(トレードオフ)を提案しています [15]

そして、分野の総括

Ellis は、指導書の多くは計画を勧めているものの条件つきであり、計画を調べた研究は計画を無条件には支持していないとまとめています [5]

一言でいうと(反証のまとめ)
計画の効果は、英語力・課題の種類・何を測るかによって揺れます [7]
試験の得点で見ると、計画の条件が差を生まなかった研究があります [4]
——「メモは長く丁寧に作るほど良い」は支持されません。短く、中身をアイデアと構成に絞るのが、揺れる証拠の中で最も安全な選択です。

5. 実務——自由英作文の「計画」を練習する手順

週2回、過去問1題ずつ。1回目は計画あり、2回目は計画なし、を交互に行って比べます。

  1. まず自分の「計画しない場合」の基準を作る。過去問を1題、メモなしで制限時間どおりに書き、語数と、先生に採点してもらった点を記録します。計画は教えないと行われないので [9]、比較の基準が必要です。
  2. 計画ありの回では、メモを「立場・理由2つ・各理由の具体例」の骨組みに限る。英文を書き出すのではなく、アイデアと構成だけを書きます。内容と構成を与えた条件で質が上がりました [11]
  3. 計画に使う時間は、制限時間全体の2〜3割を上限にする。研究では10分前後の計画がよく使われ、長すぎる計画は複雑さに偏りました [6]
  4. アイデアが出ないときは、日本語で1分だけ思いつくことを書き出す。自由に書き出す条件が内容の想起を促しました [11]
  5. 書き終わりの2〜3分は、文法の見直しに残す。正確さは課題前の計画では上がりにくく、書きながらの点検で上がりました [1] [3]
  6. 4週間後、「計画あり」と「計画なし」の語数と点数を比べる。計画の効果には個人差と英語力による差があるため [7]自分にとって得かどうかは自分の記録で決めます

この記事で言えないこと

  • 日本の大学入試の自由英作文で、計画の有無と得点の関係を検証した研究は、今回取得した範囲にありません。
  • 多くの研究は、試験の得点ではなく流暢さ・複雑さ・正確さの指標で効果を測っています。採点者の得点に換算できるとは限りません。
  • 研究によって課題の制限時間や語数が異なり、「10分」がどの長さの課題にとっての10分なのかは研究ごとに違います。
  • 本記事の「制限時間の2〜3割」は研究で検証された値ではなく、手順の目安です。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • 計画ありと計画なしで交互に書き、語数と点数を記録して比べる
  • メモは英文ではなく「立場・理由・具体例」の骨組みだけにする
  • 最後の数分を文法の見直しに残す習慣をつける

それでも個別指導を使う理由

  1. 計画ありとなしの答案を、同じ基準で採点して比べられること。3節のとおり、計画が得点に効くかは人と課題で揺れます [7] [4]。自己採点では差が見えにくいため、同じ採点者が両方を見ます。
  2. メモの中身を点検できること。2節のとおり、アイデアと構成を与えた条件で質が上がりました [11]。英文を書き出すだけのメモになっていないかを確認します。
  3. 英語力の段階に合わせて、計画に割く時間を調整できること。計画が効くには一定の英語力が必要かもしれないという指摘があります [7]

塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 自由英作文で、書く前のメモをどう指導していますか。その根拠は何ですか
  • メモの有無で点がどう変わったかを、生徒ごとに確かめていますか
  • 文法の正確さと内容の充実を、それぞれどう伸ばしていますか

まとめ

  1. アウトラインは文章の質を高めたが、効率は高めなかった [8]。指導がないと生徒はほとんど計画しません [9]
  2. 課題前の計画は流暢さと構文の多様さを、書きながらの計画は正確さを高めました [1]
  3. 10分の計画で内容・構成・全体の質が上がった研究があります [2] [6]
  4. 【反証】計画の種類を変えても流暢さに小さな効果しかなかった研究、書きながらの計画が有利だった研究があります [7] [3]
  5. 【反証】試験形式の研究で、計画の条件は得点に影響しませんでした [4]
  6. そして——書く前の計画は「短く、アイデアと構成に絞り、最後に見直しの時間を残す」形で試し、自分の点数の記録で得かどうかを決めるのが、証拠に沿った使い方です。

出典

  1. 【計画の種類と流暢さ・正確さ】Ellis, R. & Yuan, F. (2004). The Effects of Planning on Fluency, Complexity, and Accuracy in Second Language Narrative Writing. Studies in Second Language Acquisition. DOI: 10.1017/s0272263104026130
  2. 【10分の計画と論証文の質・80人】Rahimi, M. & Zhang, L. J. (2018). Effects of Task Complexity and Planning Conditions on L2 Argumentative Writing Production. Discourse Processes. DOI: 10.1080/0163853x.2017.1336042
  3. 【反証・書きながらの計画が有利・60人】Fan, N. & Ma, Y. (2024). Effects of Planning Conditions on L2 Writing in Relation to Task Complexity. SAGE Open. DOI: 10.1177/21582440241297412
  4. 【反証・試験の得点に影響なし・111人】Uludag, P., McDonough, K. & Payant, C. (2021). Does Prewriting Planning Positively Impact English L2 Students’ Integrated Writing Performance? Canadian Journal of Applied Linguistics. DOI: 10.37213/cjal.2021.31313
  5. 【計画研究の総括】Ellis, R. (2021). Does planning before writing help? Options for pre-task planning in the teaching of writing. ELT Journal. DOI: 10.1093/elt/ccab051
  6. 【計画時間の長さ・0〜15分】Abdi Tabari, M. (2024). Unpacking the effects of different lengths of pre-task planning time: L2 writing outcomes and learners’ perceptions. The Language Learning Journal. DOI: 10.1080/09571736.2023.2213237
  7. 【反証・効果は小さい】Johnson, M. D., Mercado, L. & Acevedo, A. (2012). The effect of planning sub-processes on L2 writing fluency, grammatical complexity, and lexical complexity. Journal of Second Language Writing. DOI: 10.1016/j.jslw.2012.05.011
  8. 【母語・アウトラインの効果】Kellogg, R. T. (1987). Writing Performance: Effects of Cognitive Strategies. Written Communication. DOI: 10.1177/0741088387004003003
  9. 【高校生とアウトライン】de Smet, M. J. R. et al. (2011). Effects of electronic outlining on students’ argumentative writing performance. Journal of Computer Assisted Learning. DOI: 10.1111/j.1365-2729.2011.00418.x
  10. 【正確さは上がらず・50人】Seyyedi, K. et al. (2013). The Effect of Pre-Task Planning Time on L2 Learners’ Narrative Writing Performance. English Language Teaching. DOI: 10.5539/elt.v6n12p1
  11. 【計画の中身・108人】Ong, J. & Zhang, L. J. (2013). Effects of the Manipulation of Cognitive Processes on EFL Writers’ Text Quality. TESOL Quarterly. DOI: 10.1002/tesq.55
  12. 【日本人学習者の概念地図・事例】Ojima, M. (2006). Concept mapping as pre-task planning: A case study of three Japanese ESL writers. System. DOI: 10.1016/j.system.2006.08.003
  13. 【課題構造と計画・120人】Abdi Tabari, M. (2020). Differential Effects of Strategic Planning and Task Structure on L2 Writing Outcomes. Reading & Writing Quarterly. DOI: 10.1080/10573569.2019.1637310
  14. 【計画の技能の個人差・76人】Tremblay, K. A., Binder, K. S. & Chuy, A. (2022). Before, During, and After: An Examination of the Pre-Task Planning and Post-Task Revising Practices of Adults with Low Literacy and Their Effect on the Quality of Written Compositions. COABE Journal. ERIC: EJ1382048
  15. 【反証・語彙の多様さとの取引関係】Abdi Tabari, M. (2016). The effects of planning time on complexity, accuracy, fluency, and lexical variety in L2 descriptive writing. Asian-Pacific Journal of Second and Foreign Language Education. DOI: 10.1186/s40862-016-0015-6

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