歴史の論述で点が来ない理由——「因果の型」を教えても答案全体は変わらなかった実験から考える

歴史の論述で「事実は書いたのに点が来ない」のはなぜか

国公立大学の二次試験などで出題される歴史の論述は、「〜の背景と影響を説明せよ」「〜が起きた理由を述べよ」という形をとることが多くあります。受験生の答案でよく見るのは、用語は正しく並んでいるのに、なぜそれが起きたのかがつながっていない答案です。

歴史教育研究には、この問題を扱う歴史的思考(historical thinking)歴史的推論(historical reasoning)という研究領域があります。オランダの van Drie と van Boxtel は、先行研究の広範なレビューから、歴史的推論を歴史的な問いを立てる・史料を使う・文脈に位置づける・論証する・具体的な歴史概念を使う・「原因」「変化」などのメタ概念を使う、の6要素に整理しました [1]

この記事では、その中でも論述答案の中心になる因果の説明に焦点を当て、因果的な説明は教えれば書けるようになるのか、そして知識の暗記とどちらが先かを、支持する研究と反証から検討します。

一言でいうと(この記事の結論)
熟達者の説明は、出来事を因果でつないだ「筋のある物語」になっており、初心者の説明とは構造が違います [2]
史料を読んで論証を書く指導は、書く力を中程度に伸ばした研究があります [3]
——ただし、因果の説明の「方略」を明示的に教えても、答案全体の質は変わらなかった無作為化実験があり [4]知識が足りない段階では論証より要約のほうが理解が深かった研究もあります [5]

  1. 熟達者は、因果推論に強く依存して一貫したシナリオを作り、説明のつながりがより密でした [2]
  2. 課題の出し方だけで、歴史的推論の質のばらつきの31%が説明されました [6]
  3. 18日間の指導で、読解が苦手な生徒の歴史的論述の効果量は 0.45 でした [3]
  4. 【反証】因果推論の方略を明示的に教えた95人の無作為化実験で、答案全体の質に差は出ませんでした [4]
  5. 【反証】中学から高校にかけて、文章の力は伸びても、歴史的思考の側面はあまり伸びていませんでした [7]
  6. 【反証】因果関係が書かれていない文章からの学習は、読解力ではなく事前知識で決まりました [8]
マインドマップ図解:歴史の論述で点が来ない理由——「因果の型」を教えても答案全体は変わらなかった実験から考える
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 熟達者の説明は、何が違うのか

政治的な対立について、熟達者(政治学の上級大学院生)8人、中間層19人、初心者9人に詳しくインタビューし、知識の構造を比べた研究があります [2]。熟達者は、

  • 出来事により多く依拠し、過去の状態・出来事・目標・行動からなる歴史的な分析を行った
  • 何より、因果推論に強く依存して、一貫した理解可能な因果のシナリオ(物語)を作っていた
  • 説明のネットワーク全体が、他の群より有意につながりが多く、一点に集中していなかった [2]

別の研究では、政治学者8人と高校生8人に、現代の政治問題について考えを声に出しながら推論してもらいました [9]。専門家は詳しい歴史の物語を使って問題の枠組みを作り、自分の立場を支え、主張を評価していたのに対し、高校生も物語を使ってはいたものの詳細を欠き、問題の枠組みづけ・史料の文脈づけ・立場の裏づけに歴史を使うことは一度もありませんでした [9]

一言でいうと
点が来る論述と来ない論述の差は、知っている用語の数だけではなく、用語どうしが「なぜ」「その結果」でつながっているかにあります [2]
——ただし、専門家は詳しい知識を使って物語を作っていた点も見落とせません [9]

2. 因果が書かれていない文章は、知識がなければ読めない

Voss と Silfies は、同じ歴史的内容を2通りの文章で読ませました [8]

文章の種類 学習を決めていたもの
因果関係を明示的に書き足した文章 読解力(事前知識ではなく)
原因を書き出していない文章 事前知識(読解力ではなく)

これは論述対策にとって重要な結果です。教科書や一問一答の問題集は、多くの場合、出来事を並べるだけで、因果のつながりを書き出していません。その場合、つながりを補えるのはすでに持っている知識だけです。

歴史の説明を、因果構造を図で明示した形式で学ばせた研究でも、ほぼすべての因果推論課題で成績は良かったものの有意差には至らず事前知識の少ない生徒を自己説明や因果モデルの見直しに向かわせるには、この種の教材だけでは足りなかったと報告されています [10]

3. 書かせ方で、推論の質は変わる

では、どんな課題や指導が因果的な説明を引き出すのか。

Monte-Sano と De La Paz は、冷戦の起源について史料をもとに書く4種類の課題を、高校1〜2年相当の101人に課しました [6]。背景の違いを考慮した後でも、課題の種類が歴史的推論の質のばらつきの31%を説明しました。史料の出どころの吟味(ソーシング)・史料どうしの突き合わせ(コロボレーション)・因果の分析を求める課題で、複数の視点を認識し調停する力が伸び、歴史上の人物になりきって一人称で書かせる課題は、平均点が最も低くなりました [6]

指導の効果を確かめた研究もあります。

研究 対象・設計 結果
De La Paz ら (2016) [3] 18日間の歴史的論述カリキュラムを1年かけて実施 すべての書く成果で有意な正の効果。読解が苦手な生徒で、歴史的論述 0.45、文章の質 0.32
Wissinger & De La Paz (2016) [11] 中学生151人を無作為に割り当て 論証の型と批判的な問いを使って議論した群が、歴史内容の学習と論証の歴史的推論の質で上回った。主張の裏づけと反論の展開に特に役立った
De La Paz ら (2021) [12] 高校生231人、教師を無作為に割り当て、1週間 個人の認知を重視した明示的指導群が、歴史的論述で ES = 0.33、文脈づけで 0.44、証拠の使用で 0.32 上回った。ソーシングは同程度
Reisman (2012) [13] 5校・6か月の史料読解カリキュラム 歴史的思考・事実の知識・一般的推論・読解の4つの量的指標で主効果

中学生20人の小規模な研究ですが、一部が空欄になった概念地図を2人で完成させる課題では、2人で要約を書く課題より、因果の説明と論証に有意に多く取り組み、歴史概念やメタ概念も多く使ったと報告されています [14]

一言でいうと
「なぜ」を問う課題、史料を突き合わせる課題、批判的な問いで反論を考えさせる課題は、因果的な論述を引き出します [6] [11]
——「なりきって書く」ような課題は、歴史的推論を引き出しにくいという結果もあります [6]

4. 【反証】方略を教えても、答案は変わらないことがある

反証1——因果推論を明示的に教えた無作為化実験

Stoel らは、高校2年相当の95人を無作為に分け、因果的な説明を作るための方略・「原因」「結果」などの二次的概念・歴史の知識の成り立ちについての考え方を明示的に教えました [4]。実験群は、方略と二次的概念の知識(sr² = 0.09)、知識は基準に基づいて吟味されるものだという認識(sr² = 0.04)、個人的な興味(sr² = 0.02)で上回りました。

しかし、書かれた説明の全体的な質には、条件間で差がありませんでした。差が出たのは「二次的概念の言葉と因果のつながりの使用」という1つの基準だけ(sr² = 0.06)で、歴史の内容知識にも差はありませんでした [4]。同じグループの先行する準実験でも、方略と概念の知識は増えたのに、書かれた説明には差が見られませんでした [15]

反証2——明示的に教えた群と教えなかった群が、同じだけ伸びた

大学生を対象に、歴史の文脈づけを明示的に指導した準実験では、両群とも測定したすべての側面で有意に伸び、文脈づけでは群間に有意差がありませんでした [16]

反証3——学年が上がっても歴史的思考は伸びていない

中学生と高校生の史料に基づく論述207本を比べた研究では、言葉の使い方・考えの提示・証拠の使用では差があった一方、歴史的思考に関わる技能はあまり差がなく、中等教育を通じた発達の乏しさが示されました [7]。放っておいて自然に身につく力ではない、ということです。

反証4——知識が足りないときは、論証より要約

高校2年相当の101人に、同じ史料で論証か要約かを書かせた研究では、十分な内容知識がある生徒は論証を書くときに専門的な読解の指標で上回り、知識が限られた生徒は要約を書くときに理解が深かった。さらに、要約を書いた生徒が歴史的思考の水準や全体の質で不利になることはありませんでした [5]

一言でいうと(反証のまとめ)
「因果の書き方」を型として教えても、答案全体の質が上がるとは限りません [4] [15]
知識が薄い段階で「論じなさい」を急ぐと、かえって理解が浅くなる可能性があります [5]
——論述の型の指導だけで点を約束する方法は、証拠に支えられていません。

5. 実務——論述答案を作る「3段階」の練習

知識→つながり→論証の順に、1テーマ60分・週2テーマを目安にします。

  1. 第1段階(20分):要約から始める。そのテーマの教科書の該当部分を、200字で要約します。知識が薄い段階では、論証より要約のほうが理解が深かったためです [5]
  2. 第2段階(15分):因果の空欄地図を埋める。中心に出来事を書き、周囲に「背景」「きっかけ」「結果」「その後の影響」の枠だけを作って、矢印に「なぜなら」「その結果」を書き込みます。空欄の概念地図は因果の説明を引き出しました [14]。原因が書かれていない教科書を読むほど、この作業が必要になります [8]
  3. 第3段階(20分):過去問の論述を書き、批判的な問いで点検する。書いた後に「その原因は本当に十分か」「別の原因の方が大きくないか」「反対の証拠はないか」の3つを自問し、答案に1文加えます。批判的な問いは主張の裏づけと反論を助けました [11]
  4. 最後の5分:用語ではなく「接続」を採点する。自分の答案の「〜ため」「〜により」「その結果」に下線を引き、下線が2本以下なら、事実の列挙になっている合図です。熟達者の説明を分けたのは因果のつながりでした [2]
  5. 「なりきり」型の書き方は練習に使わない。一人称で書く課題は推論を引き出しにくかったためです [6]

この記事で言えないこと

  • 引用した研究は主に米国・オランダの中高生と大学生で、日本の大学入試の論述答案を対象にした介入研究は、今回取得した範囲にありません。
  • 研究で使われた「論述」は史料を読んで論証を書く形式が中心で、知識をもとに字数内で説明する日本の論述とは形式が異なります。
  • 効果量のある研究の多くは指導者と教材を含むパッケージで、どの要素が効いたかは切り分けられていません。
  • 本記事の時間配分と「下線2本」は研究で検証された値ではなく、手順の目安です。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • 論述を書く前に、そのテーマを200字で要約する
  • 出来事の前後に「背景・きっかけ・結果・影響」の枠を作り、矢印に接続語を書く
  • 書いた答案の接続語に下線を引いて数える

それでも個別指導を使う理由

  1. 知識不足か、つながりの不足かを見分けられること。2節と4節のとおり、知識が薄いと因果は補えず [8]、論証を急ぐと理解が浅くなりえます [5]。答案を前に口頭で「なぜ」を3回問えば、どちらが足りないかが分かります。
  2. 批判的な問いを、生徒の答案に合わせて投げられること。3節のとおり、批判的な問いは反論と裏づけを助けました [11]。問いの質は、答案を読んだうえでしか調整できません。
  3. 「型を教えた」で終わらせず、答案全体で確かめられること。4節のとおり、方略の知識が増えても答案は変わらないことがあります [4]

塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 論述の指導で、知識の定着と書き方の練習をどの順序で進めますか
  • 答案の何を見て「因果がつながっている」と判断していますか
  • 書き方の型を教えても答案が変わらない生徒には、どうしますか

まとめ

  1. 熟達者の説明は、因果でつながった一貫した物語でした [2]
  2. 因果が書かれていない文章からの学習は、事前知識で決まりました [8]
  3. 課題の種類が推論の質のばらつきの31%を説明し、一人称の課題は最も低い点でした [6]
  4. 論述の指導は、読解が苦手な生徒で効果量 0.45、文脈づけで 0.44 などの効果を示しました [3] [12]
  5. 【反証】因果推論の方略を教えても、答案全体の質は変わりませんでした [4] [15]
  6. 【反証】知識が限られた生徒は、論証より要約で理解が深まりました [5]
  7. そして——論述の点は、知識の量と、それを因果でつなぐ練習の両方で決まります。型だけ、暗記だけ、のどちらでも足りません。

出典

  1. 【歴史的推論の6要素】van Drie, J. & van Boxtel, C. (2008). Historical Reasoning: Towards a Framework for Analyzing Students’ Reasoning about the Past. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-007-9056-1
  2. 【熟達者の因果説明】Jones, D. K. & Read, S. J. (2005). Expert-Novice Differences in the Understanding and Explanation of Complex Political Conflicts. Discourse Processes. DOI: 10.1207/s15326950dp3901_2
  3. 【歴史的論述の徒弟制指導】De La Paz, S. et al. (2016). A Historical Writing Apprenticeship for Adolescents: Integrating Disciplinary Learning With Cognitive Strategies. Reading Research Quarterly. DOI: 10.1002/rrq.147
  4. 【反証・無作為化95人】Stoel, G. L., van Drie, J. P. & van Boxtel, C. A. M. (2017). The effects of explicit teaching of strategies, second-order concepts, and epistemological underpinnings on students’ ability to reason causally in history. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000143
  5. 【反証・知識が少ないと要約が有利】De La Paz, S. & Wissinger, D. R. (2015). Effects of Genre and Content Knowledge on Historical Thinking With Academically Diverse High School Students. The Journal of Experimental Education. DOI: 10.1080/00220973.2013.876228
  6. 【課題の種類と推論・101人】Monte-Sano, C. & De La Paz, S. (2012). Using Writing Tasks to Elicit Adolescents’ Historical Reasoning. Journal of Literacy Research. DOI: 10.1177/1086296×12450445
  7. 【反証・歴史的思考は学年で伸びない】Steiss, J. et al. (2024). U.S. Secondary Students’ Source-Based Argument Writing in History. Written Communication. DOI: 10.1177/07410883241263549
  8. 【因果の明示と事前知識】Voss, J. F. & Silfies, L. N. (1996). Learning From History Text: The Interaction of Knowledge and Comprehension Skill with Text Structure. Cognition and Instruction. DOI: 10.1207/s1532690xci1401_2
  9. 【専門家と高校生の比較】Shreiner, T. L. (2014). Using Historical Knowledge to Reason About Contemporary Political Issues: An Expert-Novice Study. Cognition and Instruction. DOI: 10.1080/07370008.2014.948680
  10. 【因果構造の図示の限界】Mendez, J. M. & Montanero, M. (2008). Hypergraphics for History Teaching—Barriers for Causal Reasoning about History Accounts. Educational Technology & Society. ERIC: EJ825106
  11. 【批判的な問いと議論・151人】Wissinger, D. R. & De La Paz, S. (2016). Effects of critical discussions on middle school students’ written historical arguments. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000043
  12. 【文脈づけの明示的指導・231人】De La Paz, S. et al. (2021). Strategies that promote historical reasoning and contextualization: a pilot intervention with urban high school students. Reading and Writing. DOI: 10.1007/s11145-021-10183-0
  13. 【史料読解カリキュラム】Reisman, A. (2012). The ‘Document-Based Lesson’: Bringing disciplinary inquiry into high school history classrooms with adolescent struggling readers. Journal of Curriculum Studies. DOI: 10.1080/00220272.2011.591436
  14. 【空欄の概念地図】Lucero, M., Montanero, M. & van Boxtel, C. (2024). Semiempty collaborative concept mapping in history education: students’ engagement in historical reasoning and coconstruction. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-024-09659-7
  15. 【反証・準実験で答案に差なし】Stoel, G. L., van Drie, J. P. & van Boxtel, C. A. M. (2015). Teaching towards historical expertise. Developing a pedagogy for fostering causal reasoning in history. Journal of Curriculum Studies. DOI: 10.1080/00220272.2014.968212
  16. 【反証・明示的指導で差なし】Sendur, K. A., van Drie, J. & van Boxtel, C. (2021). Historical contextualization in students’ writing. Journal of the Learning Sciences. DOI: 10.1080/10508406.2021.1939029

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