英語長文は「何%の単語」を知っていれば読めるのか——98%説は追試で再現されていない

英文の何%の語を知っていれば、読めるのか

「単語帳は何冊やればいいですか」「何語覚えれば長文が読めますか」——大学受験の英語で、最も多い質問の一つです。この問いには、応用言語学の側に語彙カバー率(lexical coverage)という研究領域があります。文章に出てくる語(延べ語数)のうち、読み手が知っている語の割合のことです。

この分野では「98%の語を知っていれば十分に読める」「最低でも95%」という数字が広く引用され、そこから「8,000語族が必要」といった目標語彙数が導かれてきました。語族(word family)とは、use / used / useful のように、基本形と活用形・派生形をひとまとまりに数える単位です。

ところが近年、この「98%」の出どころそのものを検証し直す研究が相次いでいます。この記事では、数字がどこから来て、どこまで信用できて、受験生の勉強に何を意味するのかを整理します。英単語の覚え方長文が読めない原因の切り分けは既存の記事で扱っているので、ここでは「語彙の量と読解の関係」だけを掘ります。

一言でいうと(この記事の結論)
「知らない語が増えるほど読めなくなる」は確かですが、「98%を超えると急に読める」という境目があるとは言い切れません [1] [2]
98%という数字は、少人数の研究から広まり、追試で完全には再現されていません [3]
——語彙数の目標は「合格ライン」ではなく、「知らない語が1ページに何個あるか」を減らしていく方向を示す目安として使うのが、証拠に沿った読み方です。

  1. 最適な読解には98%(約8,000語族)、最低限には95%(4,000〜5,000語族)という二段の目安が提案されています [4]
  2. 書かれた文章を補助なしで読むには8,000〜9,000語族が必要という推計があります [5]
  3. 8か国661人の研究では、知っている語の割合と理解度の関係はほぼ直線的で、急に伸びる「境目」は見られませんでした [1]
  4. 【反証】98%の根拠となった研究は66人の回帰分析で、別の文脈での追試では完全には再現されませんでした [3]
  5. 【反証】94人の追試では90%・95%・98%の間に有意差がなく、カバー率が説明した理解度の分散は11%でした [2]
  6. 第二言語の読解との相関は、語彙 r = 0.79 に対して文法 r = 0.85 でした。語彙だけでは読解は決まりません [6]
マインドマップ図解:英語長文は「何%の単語」を知っていれば読めるのか——98%説は追試で再現されていない
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 「98%」と「95%」はどこから来たのか

出発点は、1980年代末の Laufer の問題意識です。当時、教師の間では「文章の語の80%が分かれば読める」と考えられていたことに対し、実際に理解に必要な最低限のカバー率を計算しようとしたのが始まりでした [7]

その後、最も広く引用されることになったのが Hu と Nation(2000)の研究です。辞書を引かずに楽しみとして読むには、どれだけのカバー率が必要かを、知らない語の密度を3段階に変えた文章と、多肢選択式・手がかり付き再生の2種類の理解テストで調べました [8]。ここから「98%」という数字が定着します。

Laufer と Ravenhorst-Kalovski(2010)は、学習者の語彙サイズ・その語彙が文章に対して持つカバー率・標準化された読解テストの成績の3つを同時に測り、2つの閾値を提案しました [4]

水準 カバー率(固有名詞を含む) 必要な語彙
最適な読解 98% 8,000語族
最低限の読解 95% 4,000〜5,000語族

同じ研究は、語彙知識の小さな増加は、カバー率をほとんど上げないのに、読解の成績には寄与していたとも報告しています [4]。Nation(2006)は、英国の大規模コーパスから作った語彙リストを使い、98%のカバー率が必要だとすれば、書かれた文章には8,000〜9,000語族、話し言葉には6,000〜7,000語族が必要と推計しました [5]

ここで押さえておきたいのは、98%とは「50語に1語が分からない」状態だということです。95%なら「20語に1語」。仮に一文が20語なら、95%は毎文1語ずつ知らない語がある計算です。

一言でいうと
「8,000語」という目標は、「98%あれば十分に読める」という前提から逆算された数字です [4] [5]
——だから、前提の98%が揺らげば、目標語彙数も揺らぎます。

2. 境目はあるのか——661人の研究

「98%を超えると急に読めるようになる」のか、「知っている語が増えるほど少しずつ読めるようになる」のか。これは勉強の設計に直結する違いです。

Schmitt らは、8か国の661人に、2つの文章から抜き出した語の知識テスト、文章の読解、理解テストを課しました [1]

  • 知っている語の割合と理解度の間には、比較的直線的な関係があった
  • ある割合で理解が劇的に上がる「閾値」の兆候は見られなかった
  • それでも著者らは、学術的な文章の読み手には98%が妥当な目標だと結論した [1]

一方、母語で読むドイツの小学4年生924人を分析した研究では、カバー率と理解の関係は指数関数的で、カバー率が56%を超えると理解がより速く伸びたと報告されています [9]。対象も言語も違うので直接比べられませんが、「関係の形」自体が研究によって違うことは覚えておく価値があります。

カバー率が「どの種類の理解」に効くかを調べた研究もあります。初級のスペイン語学習者50人の研究では、カバー率は推論を要する理解より、書いてあることをそのまま捉える理解とより強く関連していました [10]

一言でいうと
「あと少しで98%に届くから一気に読めるようになる」とは期待しないほうが安全です [1]
——裏返せば、90%台前半の段階でも、語彙を増やした分だけ理解は少しずつ上がるということでもあります。

3. 【反証】98%は再現されていない

ここからは、この分野の「定説」に向けられた反証です。

反証1——根拠の研究は66人だった

Kremmel らは、98%という数字が、ニュージーランドの大学生わずか66人の回帰分析に基づいていることを指摘し、欧米の大学以外の文脈、スリランカの成人学習者104人で追試しました。結果は、元の研究の結果を完全には再現できなかったというものです [3]

反証2——90%・95%・98%で差が出なかった

2025年には、Webb らが上級の学習者94人に、同じ物語をカバー率90%・95%・98%・100%の4版で読ませました [2]

比較 理解テストの結果
90% と 95% と 98% の間 統計的に有意な差なし
100% と 90%・95% 100% のほうが有意に高い
理解度の分散のうち説明できた割合 カバー率 11%、主観的な難しさ 8%

同じグループの視線計測の研究でも、全体の読みやすさを示す3つの指標のうち、98%条件の優位が見られたのは1つだけで、知らない語に向けられる注意の量はカバー率によって変わりませんでした [11]

反証3——測り方そのものに問題がある

McLean は、カバー率と理解の関係を実際の研究や教材選びに当てはめる際の4つの前提——語彙レベルテストで30問中26問正解を「その1,000語帯を習得した」とみなすこと、語を数える単位が学習者に合っているか、テストの問題形式が読解に必要な知識を捉えているか、問題数が語帯の難しさを代表しているか——を検討し、その運用の妥当性は限られていると結論しました [12]

Webb 自身も、カバー率が読解に与える影響を厳密に調べた研究はわずか3本しかなく、結果の一般化は誇張されている可能性が高いと書いています [13]

反論への再反論も記しておく

Laufer は、これらの批判に対して、最適98%・最低95%という提案は複数の証拠を合わせたものだと応じ、さらに文章の90%の語を知っていて残り5%を推測できれば95%に届くという自身の研究結果を示しています [7]

一言でいうと(反証のまとめ)
「知っている語が多いほど読める」は崩れていません。崩れつつあるのは「98%」という特定の数字の精度です [3] [2] [13]
——「8,000語覚えれば読める」「5,000語では足りない」と断定する指導は、証拠より強いことを言っています。

4. 語彙だけでは読解は決まらない

第二言語の読解と関連する要因を統合したメタ分析は、文法知識 r = 0.85、語彙知識 r = 0.79、単語の読み取り(デコーディング)r = 0.56を、特に強い相関として報告しました [6]。語彙と並んで、あるいはそれ以上に、文法の知識が読解と強く結びついています。

辞書の役割を調べた研究では、カバー率90〜95%付近の学習者で、辞書を使うと、カバー率を上げたのと同程度に理解が上がった一方、辞書を使ってもほとんどの参加者は十分な理解に達せず、辞書でカバー率を96%以上に上げた学習者にだけ有意な伸びが見られました [14]

入試問題の側を分析した研究もあります。トルコの大学入試の英語読解50題を分析したところ、最低限の理解に必要な語彙は文章ごとに2,000〜18,000語族と大きくばらつき、年ごとにまとめると最低限は4,000語帯、最適は8,000語帯に収まっていました [15]。日本の入試にそのまま当てはまる数字ではありませんが、「入試の長文」とひとくくりにできないほど、文章ごとの語彙負荷の差が大きいことを示しています。

5. 実務——自分のカバー率を測って、教材を選ぶ手順

  1. 志望校の過去問から長文を1題選び、最初の200語に知らない語の印をつける(10分)。意味を正確に言えない語はすべて「知らない」に数えます。固有名詞は除きます。
  2. カバー率を計算する。知らない語が4語なら98%、10語なら95%、20語なら90%です。3題以上で平均を取ります。文章ごとの差が大きいためです [15]
  3. 95%未満なら、精読用の教材を一段易しくする。ただし境目で急に読めるわけではないので [1]、「95%を超えるまで長文をやらない」必要はありません。週の読解量の半分を、95%以上になる易しい文章に回すのが目安です。
  4. 印をつけた語は、文脈から意味を推測してから確かめる。知っている語から残りを推測して理解に必要な水準に届く、という研究があります [7]。推測が当たったかどうかも記録します。
  5. 1か月ごとに、同じ手順で新しい過去問のカバー率を測り直す。カバー率は理解の一部しか説明しないため [2]理解問題の正答率も並べて記録します。カバー率が上がっても正答率が動かないなら、文法や構文の側を疑います [6]

この記事で言えないこと

  • 日本の大学入試の英文でカバー率と得点の関係を検証した研究は、今回取得した範囲にはありません。
  • 引用した研究の多くは、辞書を使わず時間をかけて読む条件です。制限時間と設問形式のある入試で同じ数字が当てはまるとは限りません。
  • 「知らない語」の判定は自己申告で、測り方によってカバー率は変わります [12]
  • 本記事の「週の半分」「200語」は研究で検証された値ではなく、手順を実行するための目安です。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • 過去問の最初の200語で知らない語を数え、カバー率を月1回記録する
  • カバー率と理解問題の正答率を並べて、どちらが足を引っ張っているかを見る
  • 「何語覚えれば合格」という断定を、目標ではなく目安として扱う

それでも個別指導を使う理由

  1. 「知らない語」の判定を厳しくできること。3節のとおり、語彙知識の測り方は結果を大きく左右します [12]。本人が「なんとなく分かる」語を、口頭で意味を言わせて確かめられます。
  2. 語彙の問題か文法の問題かを切り分けられること。4節のとおり、読解は語彙だけでは決まりません [6]。語が全部分かっても訳せない文があれば、そこは構文の問題です。
  3. 文章ごとの語彙負荷の差に合わせて教材を選べること。同じ試験でも文章の語彙負荷は大きくばらつきます [15]

塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 生徒の語彙力を、何で、どのくらいの頻度で測っていますか
  • 長文が読めない原因が語彙か文法かを、どう見分けていますか
  • 「何語覚えれば読める」という数字を、どこまで信用していますか

まとめ

  1. 最適98%(8,000語族)、最低95%(4,000〜5,000語族)という目安が提案されてきました [4]
  2. 661人の研究では、関係はほぼ直線的で、急に読める境目は見られませんでした [1]
  3. 【反証】98%の根拠は66人の研究で、追試で完全には再現されませんでした [3]
  4. 【反証】90%・95%・98%の間に有意差が出ない追試があり、カバー率の説明力は11%でした [2]
  5. 読解との相関は、語彙 r = 0.79、文法 r = 0.85。語彙だけでは決まりません [6]
  6. そして——語彙数の目標は「合格ライン」ではなく、知らない語を減らしていく方向の目安です。自分のカバー率と正答率を並べて記録するのが、最も確かな使い方です。

出典

  1. 【境目なし・8か国661人】Schmitt, N., Jiang, X. & Grabe, W. (2011). The Percentage of Words Known in a Text and Reading Comprehension. The Modern Language Journal. DOI: 10.1111/j.1540-4781.2011.01146.x
  2. 【反証・90〜98%で差なし・94人】Webb, S., Pellicer-Sánchez, A. & Wang, A. (2025). Lexical Coverage and Reading Comprehension Revisited. Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ1486674
  3. 【反証・追試で再現せず】Kremmel, B. et al. (2023). Unknown Vocabulary Density and Reading Comprehension: Replicating Hu and Nation (2000). Language Learning. DOI: 10.1111/lang.12622
  4. 【2つの閾値】Laufer, B. & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical Threshold Revisited: Lexical Text Coverage, Learners’ Vocabulary Size and Reading Comprehension. Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ887873
  5. 【必要語彙数の推計】Nation, I. S. P. (2006). How Large a Vocabulary Is Needed for Reading and Listening? The Canadian Modern Language Review. DOI: 10.3138/cmlr.63.1.59
  6. 【読解の相関要因のメタ分析】Jeon, E. H. & Yamashita, J. (2014). L2 Reading Comprehension and Its Correlates: A Meta-Analysis. Language Learning. DOI: 10.1111/lang.12034
  7. 【閾値説の再反論】Laufer, B. (2021). Lexical Thresholds and Alleged Threats to Validity: A Storm in a Teacup? Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ1317203
  8. 【98%の出発点】Hu, M. H.-C. & Nation, P. (2000). Unknown Vocabulary Density and Reading Comprehension. Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ626518
  9. 【母語・924人・指数関数的関係】Ludewig, U., Hübner, N. & Schroeder, S. (2022). Vocabulary, text coverage, word frequency and the lexical threshold in elementary school reading comprehension. Reading and Writing. DOI: 10.1007/s11145-022-10385-0
  10. 【カバー率と理解の種類】Herman, E. & Leeser, M. J. (2022). The Relationship between Lexical Coverage and Type of Reading Comprehension in Beginning L2 Spanish Learners. Modern Language Journal. ERIC: EJ1333405
  11. 【視線計測でのカバー率】Pellicer-Sánchez, A., Webb, S. & Wang, A. (2024). How does lexical coverage affect the processing of L2 texts? Applied Linguistics. DOI: 10.1093/applin/amae062
  12. 【反証・測定の妥当性】McLean, S. (2021). The Coverage Comprehension Model, Its Importance to Pedagogy and Research, and Threats to the Validity with Which It Is Operationalized. Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ1296462
  13. 【反証・研究は3本しかない】Webb, S. (2021). Research Investigating Lexical Coverage and Lexical Profiling: What We Know, What We Don’t Know, and What Needs to Be Examined. Reading in a Foreign Language. ERIC: EJ1316858
  14. 【辞書使用とカバー率】Prichard, C. & Matsumoto, Y. (2011). The Effect of Lexical Coverage and Dictionary Use on L2 Reading Comprehension. Reading Matrix. ERIC: EJ967311
  15. 【入試長文の語彙負荷・50題】Yildiz, M. (2023). Lexical Coverage Required for Minimal and Optimal Levels of Reading Comprehension in the English Tests of the Higher Education Institutions Examination. rEFLections. DOI: 10.61508/refl.v30i3.268077

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