模試の直しは、どの問題から手をつけるべきか
模試が返ってくると、多くの受験生は「間違えた問題を全部解き直す」か、「解説を読んで納得したら終わり」のどちらかになりがちです。けれども、同じ誤答でも「自信満々で書いて間違えた問題」と「当てずっぽうで書いて間違えた問題」では、直り方がまったく違う——という研究の蓄積があります。
記憶研究では、高い確信を持って答えた誤りほど、正解を示されたあとに正しく直りやすいという現象が繰り返し報告されており、過修正効果(hypercorrection effect)と呼ばれています [1]。直感に反する結果です。「自信を持って覚え込んだ間違いほど、直しにくいはずだ」と考えるのが普通だからです。
この記事では、過修正効果と、間違えることそのものが学習を助けるか(errorful learning)という研究を、支持する証拠と反証の両方から検討し、模試の直し方の手順に落とします。解き直しの一般的な手順やフィードバック一般については既存の記事で扱っているので、ここでは「確信度」と「誤りの扱い」に絞ります。
一言でいうと(この記事の結論)
自信を持って間違えた問題は、正解を見た直後には直りやすい。しかし1週間たつと、同じ誤りがよみがえりやすいのも、自信を持って間違えた問題でした [2]。
間違えてから正解を知ることは、最初から正解を読むより記憶に残る、という実験結果が複数あります [3] [4]。
——ただし、根強い思い込み(誤概念)では、確信の高い誤りほど直りにくかった研究もあり [5]、「確信して間違えた問題は放っておいても直る」とは言えません。
- 確信の高い誤りほど、正解のフィードバック後に直りやすい——大学の授業内でも確認されました [6]。
- その効果は1週間後にも残りましたが、直る割合は下がり、確信の高い誤りほど元の誤答が再び現れました [2]。
- 答えられない問題に挑んでから正解を見ると、最初から問題と答えを一緒に読むより、よく覚えていました [3]。
- 学習者自身は、この「間違えてから知る」利点に気づいていませんでした [7]。
- 高利害の数学の試験対策で、誤りを中心に据えた授業は、明示的に教える授業より教師の時間あたりの学習が大きかった——ただし教師によって一定しませんでした [8]。
- 【反証】医学生161人の誤概念の研究では、確信の高い誤答ほど直りにくかった [5]。

1. 過修正効果とは何か
典型的な実験はこうです。一般知識の問題に答え、それぞれの答えにどれくらい自信があるかを評定し、正解を示され、しばらくしてからもう一度同じ問題に答えます。すると、最初に高い自信で間違えた問題のほうが、低い自信で間違えた問題より、2回目に正しく答えられるのです [1]。
この効果は、実験室の雑学問題だけの話ではありません。大学の園芸学入門の授業で、学生が授業内容の問題に答え、確信度を評定し、正解のフィードバックを受け、後で事後テストを受けた研究でも、有意な過修正効果が見られ、事前知識の多い学生ほど誤答に高い確信を示し、その結果より効果的に誤りを直していたと報告されています [6]。
なぜ、自信のある誤りほど直るのか
1つの説明は「実は知っていた」説です。Metcalfe と Finn は、確信の高い誤りについて、2回目の選択式で正解を選びやすく、2文字のヒントで正解を出しやすく、1文字ずつ示すヒントも少なくて済んだことを示し、「知っていた気がする」という主張は正しかったと結論しました [9]。つまり、自信を持って間違える人は、その周辺の知識を持っていることが多いのです。
もう1つは「驚きと好奇心」説です。外国語の単語の意味を推測してから正解を見る実験を6つ重ねた研究は、推測という行為が正解を知りたい好奇心を高め、その後の正解の処理を強めていることを支持しました。正解を見たあとに推測しても、記憶は良くなりませんでした [4]。
一言でいうと
自信を持った誤りが直りやすいのは、その問題の周辺知識がすでにあり、「え、違うの?」という驚きが正解への注意を強めるからだと考えられています [9] [4]。
——模試の直しでは、確信度の記録そのものが、どの問題が「直りやすい誤り」かを教えてくれます。
2. 間違えることは、学習の邪魔か、助けか
「間違いを覚えてしまうから、分からない問題は早めに答えを見たほうがよい」という考え方があります。これを検証したのが、答えられないように作った問題を使った Kornell らの実験です [3]。架空の一般知識問題や、弱い連想語を当てさせる課題で、答えようとしてから正解を見る条件と、問題と正解を一緒に読むだけの条件を比べると、失敗に終わった想起の試みでも、その後の学習を高めていました [3]。
ただし、条件があります。同じグループの続く研究では、失敗したテストの直後にフィードバックを与えると、提示のみの条件より保持が良かった一方、フィードバックを遅らせると、その利点は生じませんでした(テストの方向を逆にした場合を除く) [10]。
学校現場に近い研究もあります。米国の高利害の代数の試験に向けて、2年間・各年約88人の2つの集団で、「ミニテストを解かせ、その誤りを教師と一緒に検討する回」を4回入れた条件と、8回すべてで明示的に教えた条件を比べると、教師が関わった時間あたりの学習は、誤りから学ぶ条件のほうが高くなりました [8]。授業の秒単位の分析からは、正解に早くたどり着かせる指導より、生徒と対話しながら誤りとその理由を理解させる指導のほうが学習に結びついていたことが示されています [8]。
本人は、この利点に気づかない
Yang らは、間違えてから正解を知った語は、読んだだけの語より最終テストでよく思い出されたのに、学習直後の「覚えられた感」は低く評定され、さらに調査では、人々は「間違えてから直す」ほうが「読む」より劣ると信じていたことを示しました [7]。事前にこの利点を知らせると誤った判断は部分的に和らぎましたが、1問ごとの判断ではなお気づかない傾向が残りました [7]。
一言でいうと
「自分で答えを出そうとしてから、すぐに正解を確かめる」は、手応えが悪くても記憶に残りやすい学び方です [3] [10] [7]。
——模試は、この「間違える機会」を大量に作ってくれる場だと言えます。
3. 【反証】自信のある誤りは、戻ってくる。そして直らないこともある
反証1——1週間後、確信の高い誤りはよみがえる
Butler らは、科学の一般知識問題で、正解のフィードバック直後と1週間後に再テストしました [2]。
| 観察されたこと | 直後のテスト | 1週間後のテスト |
|---|---|---|
| 過修正効果 | あり | あり(ただし直る割合は低下) |
| 直らなかった誤りの中身 | — | 最初と同じ誤答を再び書くことがあった |
| 同じ誤答の再発しやすさ | — | 確信の高い誤りのほうが、低い誤りより再発しやすかった |
著者らは、確信の高い誤りは直りやすいが、正解を忘れた場合には再び現れやすいとまとめています [2]。「解説を読んで納得した」直後の手応えは、1週間後の結果を保証しないということです。
反証2——根強い誤概念では、確信の高い誤りほど直りにくい
医学部1年生161人に心臓血管の生理学の概念テストを行い、正解の説明文、または誤概念を明示的に否定する「反駁文」を読ませた研究では、どちらの群も成績は伸びた一方、誤答への高い確信は、正しく直る可能性を下げていました [5]。雑学の問題で見られる過修正効果が、理科の誤概念のような、体系的に信じ込まれた誤りではそのまま成り立たない可能性があります。
反証3——低い確信の誤りも直るし、確信は決め手でないことがある
引っかけ問題を含めた2つの実験では、引っかけ問題では、確信の低い誤りも高い誤りと同じくらい直り、しかも誤りが直るかを予測したのは、確信や驚きではなく、フィードバックと元の答えの記憶だったと報告されています [11]。
反証4——誤った「正解」も同じように覚えてしまう
5つの実験で、正しい答えのあとに誤ったフィードバックを与えても人は「過修正」しなかった一方、最初に間違えていた場合には、誤ったフィードバックに対しても過修正が起き、最初に間違えた人は、さらなる誤情報に影響されやすいことが示されました [12]。解答の誤植や、友人の不正確な説明を「正解」として覚え込む危険があるということです。
反証5——子どもの語彙学習では、間違えさせないほうが良かった
7〜9歳の子どもが新しい物の名前を覚える実験では、誤りを起こさせない学習法のほうが、誤りを許す学習法より有意に良い学習をもたらしました [13]。誤りの利点は、年齢・課題・フィードバックの条件に左右されます。
一言でいうと(反証のまとめ)
過修正効果は「直後に直りやすい」までは頑健ですが、「1週間後も直っている」「思い込みの強い誤概念でも直る」は保証されません [2] [5]。
——確信して間違えた問題こそ、時間をおいて再テストする必要があります。
4. 直るかどうかを分けるもの——説明と納得
よくある誤概念について、正誤だけを伝える反駁と、反駁に裏づけの説明を添えたものを比べ、1週間後に再テストした研究では、フィードバックを信じた項目ほど誤概念が直り、説明つきの反駁のほうが直りやすく、その効果はフィードバックへの信頼を通じて生じていました [14]。
前述の代数の研究でも、学習を高めたのは「正解を示すこと」ではなく「誤りの理由を対話的に理解させること」でした [8]。Metcalfe のレビューも、間違いに至った推論の分析を含む訂正のフィードバックが決定的に重要だとしています [1]。
5. 実務——模試を「確信度つき」で受けて直す手順
- 模試の問題冊子に、答えごとの確信度を記号で書く(受験中、1問2秒)。◎=自信あり、○=たぶん、△=勘。本番の時間を圧迫しない範囲で、少なくとも大問単位で残します。
- 返却日:◎で間違えた問題から、解答を見る前に「どこで思い込んだか」を1行書く。誤りの推論の分析が訂正の中心です [1]。
- その日のうちに正解と解説を確認する。フィードバックを遅らせると、失敗から学ぶ利点が生じにくくなります [10]。解説が納得できない場合は、先生に確認するまで「正解」として覚えないこと。誤った情報も覚え込みやすいためです [12]。
- △の誤答は、解説を読む前に1回だけ自力で再挑戦する。答えられなくても、挑んでから正解を見るほうが残ります [3]。
- 1週間後:◎の誤答だけを集めて、何も見ずに解き直す。確信の高い誤りは、正解を忘れると再発しやすいためです [2]。ここで同じ誤答を書いたら、誤概念として扱い、教科書の該当部分に戻ります [5]。
- 「直しの手応え」で進捗を判断しない。間違えてから学んだ内容は、手応えが悪くても残っていることがあります [7]。判断は1週間後の再テストの結果で行います。
この記事で言えないこと
- 過修正効果の研究の多くは、一般知識の短答問題や単語の対連合で行われています。数学や物理の複数ステップの問題で同じ効果が生じるかは、今回取得した範囲では十分に確かめられていません。
- 日本の大学受験生と模試を対象にした研究は、今回取得した範囲にはありません。
- 高利害の試験での誤りから学ぶ授業の効果は、教師によって一定しませんでした [8]。
- 本記事の「1週間後」「◎○△」は研究の設計を参考にした目安で、最適な間隔や記号を検証したものではありません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできること
- 模試や過去問で、答えごとに確信度の記号を残す
- ◎で間違えた問題を1週間後に何も見ずに解き直す
- 納得できない解説は、確認するまで覚えない
それでも個別指導を使う理由
塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。
- 模試の直しで、どの問題から優先して扱いますか
- 直した問題が本当に直ったかを、いつ、どう確かめますか
- 同じ間違いを繰り返す生徒には、何を変えますか
まとめ
- 確信の高い誤りほど、フィードバック後に直りやすい——授業内でも確認されました [6]。
- 自信のある誤りは、周辺知識があることが多く、驚きが正解への注意を強めると考えられています [9] [4]。
- 答えられない問題に挑んでから正解を見ると、よく残りました。フィードバックは直後が有効でした [3] [10]。
- 【反証】1週間後、確信の高い誤りほど同じ誤答が再発しました [2]。
- 【反証】誤概念では確信の高い誤りほど直りにくく、誤ったフィードバックも覚え込みやすい [5] [12]。
- そして——模試の直しは「確信して間違えた問題を、その日に理由まで直し、1週間後に確かめる」が、証拠に沿った順序です。
出典
- 【誤りから学ぶことのレビュー】Metcalfe, J. (2017). Learning from Errors. Annual Review of Psychology. DOI: 10.1146/annurev-psych-010416-044022
- 【反証・1週間後の再発】Butler, A. C., Fazio, L. K. & Marsh, E. J. (2011). The hypercorrection effect persists over a week, but high-confidence errors return. Psychonomic Bulletin & Review. DOI: 10.3758/s13423-011-0173-y
- 【失敗した想起も学習を高める】Kornell, N., Hays, M. J. & Bjork, R. A. (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/a0015729
- 【好奇心と誤りの生成】Potts, R., Davies, G. & Shanks, D. R. (2019). The benefit of generating errors during learning: What is the locus of the effect? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/xlm0000637
- 【反証・誤概念では直りにくい・161人】Versteeg, M. et al. (2020). Refuting misconceptions in medical physiology. BMC Medical Education. DOI: 10.1186/s12909-020-02166-6
- 【授業内での過修正効果】Carpenter, S. K. et al. (2018). Hypercorrection of high-confidence errors in the classroom. Memory. DOI: 10.1080/09658211.2018.1477164
- 【利点に気づかない】Yang, C., Potts, R. & Shanks, D. R. (2017). Metacognitive unawareness of the errorful generation benefit and its effects on self-regulated learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/xlm0000363
- 【高利害試験での誤りから学ぶ授業】Metcalfe, J. et al. (2025). Learning from errors versus explicit instruction in preparation for a test that counts. British Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1111/bjep.12651
- 【実は知っていた説】Metcalfe, J. & Finn, B. (2011). People’s hypercorrection of high-confidence errors: Did they know it all along? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/a0021962
- 【フィードバックの時期】Hays, M. J., Kornell, N. & Bjork, R. A. (2013). When and why a failed test potentiates the effectiveness of subsequent study. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/a0028468
- 【反証・低確信の誤りも直る】Griffiths, L. & Higham, P. A. (2018). Beyond hypercorrection: remembering corrective feedback for low-confidence errors. Memory. DOI: 10.1080/09658211.2017.1344249
- 【反証・誤ったフィードバックも覚える】Metcalfe, J. & Eich, T. S. (2019). Memory and truth: correcting errors with true feedback versus overwriting correct answers with errors. Cognitive Research: Principles and Implications. DOI: 10.1186/s41235-019-0153-8
- 【反証・子どもでは誤りなし学習が優位】Warmington, M., Hitch, G. J. & Gathercole, S. E. (2013). Improving word learning in children using an errorless technique. Journal of Experimental Child Psychology. DOI: 10.1016/j.jecp.2012.10.007
- 【説明と信頼が訂正を支える】Rich, P. R. et al. (2017). Belief in corrective feedback for common misconceptions: Implications for knowledge revision. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. DOI: 10.1037/xlm0000322
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