連載「武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方」全50回の第17回です。全50回の目次を見る
予習というと、教科書を先に読んでおくことだと思われています。しかし読むだけの予習は、退屈なわりに身につきません。読む前に、まず解いてみる——ほとんど答えられなくても構いません。この順序に変えるだけで、そのあとの授業や読解の残り方が変わることが、複数の実験で示されています。
まだ習っていない内容について問われ、答えられずに間違える。感覚としては無意味に思えます。ところが、そのあとに正解を確認する機会がある限り、間違えた経験そのものが後の学習を助けます。これは事前テスト効果(プレテスト効果)と呼ばれています。
この記事では、これを予習の手順に落とします。何問、どのくらいの時間で、どこまでやるか。答え合わせをいつ入れるか。どこまで効いてどこから効かないか。そして、この方法が向かない場面までを扱います。
この記事の結論
- 読む前に3問だけ解く。答えられなくてかまいません。そのあと本文を読み、答えを確認します。
- 答えの確認は必須です。正解を学ぶ機会がないと、この方法は成り立ちません。間違えっぱなしにしないでください。
- 効く範囲は限定的です。事前に問われた内容には効きますが、問われなかった内容には及びにくいという報告があります。
- 選択式の事前テストは、関連する内容にも効くことがあります。記述式より広く効いたという実験があります。
- 手応えは悪くなります。間違えた項目は「身についていない」と感じられますが、実際の記憶は逆に良くなっていることが示されています。
「先に読む予習」と「先に解く予習」の違い
まず、事前テストが何であるかをはっきりさせます。まだ習っていない内容について、学ぶ前に問われることです。答えられるかどうかは問いません。むしろ、答えられないことが前提です。
大学生に視覚についての文章を読ませた5つの実験があります。一方の群は、文章を読む前に、文章の中にある概念について質問されました。もう一方の群は、同じ時間だけ長く文章を読みました。どちらの群でも、対象となる概念は太字や斜体で強調されており、注意の向き方が同じになるよう揃えてあります。
Richland LE, Kornell N, Kao LS. The pretesting effect: do unsuccessful retrieval attempts enhance learning? Journal of Experimental Psychology: Applied. 2009;15(3):243-257.
結果は、5つの実験すべてで、事前に質問された群の成績が上回りました。しかも分析対象は、事前テストで答えられなかった項目だけです。つまり、正解できたから伸びたのではなく、答えようとして失敗した経験のほうが効いていたことになります。
同じ年に発表された別の実験でも、同じ向きの結果が得られています。架空の一般知識の問題(実在しない条約の名前を問うなど、確実に答えられない問題)を使い、先に挑戦してから答えを見る条件と、最初から問いと答えを一緒に見る条件を比べたところ、挑戦に失敗した場合でも、先に挑戦したほうが後の学習が良くなりました。コーネル(Kornell)らはこの結果から、誤りを避けることより、難しいテストに挑むことのほうが学習の鍵かもしれないと述べています。
この現象を広く整理したレビューでは、事前質問・事前テストが記憶と転移の双方で効果を示すこと、そしてそのあとに正解を学ぶ機会があることが条件であることが繰り返し確認されています。文章、動画、講義のいずれでも示されており、効果の大きさは手続きや測り方によって変わるとされています。
Pan SC, Carpenter SK. Prequestioning and pretesting effects: a review of empirical research, theoretical perspectives, and implications for educational practice. Educational Psychology Review. 2023;35(4).
手順——3つの場面
場面1:教科書の新しい単元を読む前
- これから読む見開きの見出しと図だけを見ます。本文は読みません。
- 見出しから問いを3つ作り、紙に書きます。例:「イオンとは何か」「なぜ電流が流れるのか」「電解質と非電解質の違いは」。
- その3問に、いまの知識で答えを書きます。分からなければ「分からない」と書かず、思いつくことを1行書きます。
- 本文を読みます。読みながら、3問の答えを探します。
- 読み終えたら、最初に書いた答えと照らし合わせ、違っていた部分に印を付けます。
所要時間は、事前の3問に3分、読解に通常どおり、確認に2分です。合計で5分増えるだけです。
場面2:学校の授業を受ける前
- 前日か当日の朝に、教科書の該当ページを開き、章末問題か練習問題を1問だけ解きます。
- 解けなくても3分でやめます。途中まで書いた式や考えたことは残しておきます。
- 授業中、その問題に対応する説明が出てきたところで、自分の答えとの違いを確認します。
- 授業後、同じ問題をもう一度解き直します。ここが答え合わせにあたります。
場面3:映像授業や解説動画を見る前
- 動画のタイトルと目次から、問いを2つ作ります。
- 再生前に、その2問に答えを書きます。
- 動画を見ます。答えが出てきた時点で一時停止し、自分の答えと比べます。
- 見終わったら、2問に改めて答えます。
どの場面でも、共通する型は同じです。(1) 問いを立てる、(2) 答えられないまま答えてみる、(3) 学ぶ、(4) 照らし合わせる。4つ目を省略すると、この方法は成立しません。
実際に作った3問——中学理科の例
抽象的な手順だけでは動かないので、実物を示します。中学3年の「イオンと電池」の単元で、見出しだけを見て作った3問と、読む前に書いた答え、読んだあとの照合です。
| 問い(見出しから作る) | 読む前に書いた答え | 読んだあとの照合 |
|---|---|---|
| イオンとは何か | 電気を帯びた粒? | 方向は合っている。「原子が電子を失う/受け取る」が抜けていた |
| なぜ水溶液に電流が流れるのか | 水が電気を通すから | 誤り。流れているのはイオンで、水そのものではない |
| 電解質と非電解質の違いは | 分からない。溶けやすさ? | 誤り。溶けるかどうかではなく、水に溶けてイオンになるかどうか |
ここで重要なのは、2問目と3問目で「誤った答えを書いてしまった」ことです。読む前は「水が電気を通す」と思っていた。この誤解は、読むだけの予習では表に出ません。書いてしまったからこそ、本文の該当箇所で目が止まります。事前テストは、自分がどこを誤解しているかを、学ぶ前に表に出す装置です。
答え合わせがなければ、この方法は成り立たない
事前テストで大事なのは、間違えることそのものではなく、間違えたあとに正解を知ることです。レビューでも、効果が成立する条件として「そのあとに正解を学ぶ機会があること」が明示されています。
答え合わせの重要性は、事前テストに限りません。選択式のテストを扱った実験では、答え合わせをしない条件で、テストに含まれていた誤りの選択肢が後のテストに混入する現象が確認されています。即時でも遅延でも、答え合わせを入れた条件では正答が増え、誤りの混入が減りました。
Butler AC, Roediger HL. Feedback enhances the positive effects and reduces the negative effects of multiple-choice testing. Memory & Cognition. 2008;36(3):604-616.
実務では、事前テストの答え合わせを「読んだ直後」に固定します。翌日に回すと、多くの場合そのまま忘れられます。3問の紙は、本文のページに挟んでおき、読み終えた瞬間に照合するのが確実です。
どこまで効くのか——出題した部分だけか
ここは実務上いちばん効く分かれ目です。事前に問うた内容以外にも効果が及ぶのかどうか。
4つの実験で、30分の映像講義を使ってこれを調べた研究があります。結論は、事前質問の利点は、質問された内容にはっきり現れる一方、質問されなかった内容には及びにくいというものでした。メモを取らせた条件、事前質問の答えを書かせた条件、視聴中に答えさせた条件でも、この傾向は変わりませんでした。
St Hilaire KJ, Carpenter SK. Prequestions enhance learning, but only when they are remembered. Journal of Experimental Psychology: Applied. 2020;26(4):705-716.
一方で、形式によっては範囲が広がるという報告もあります。選択式で事前テストを行った実験では、事前に問われなかったが関連する内容の学習が、記述式の事前テストや事前学習のみの条件より良くなりました。この差は、その内容に費やした学習時間の違いでは説明できず、48時間後にも残っていました。
Little JL, Bjork EL. Multiple-choice pretesting potentiates learning of related information. Memory & Cognition. 2016;44(7):1085-1101.
この2つを合わせると、実務上の指針が出ます。事前の問いは、単元の中心に当てます。枝葉を問うても、そこだけしか効きません。そして、選択肢の形にできるなら、そのほうが波及が期待できます。教科書の見出しから問いを作るよう勧めたのは、見出しが単元の中心を指しているからです。
選択式か、記述式か
| 選択式で事前テスト | 記述式(自分で答えを書く) | |
|---|---|---|
| 作る手間 | 選択肢を用意する必要がある | 問いだけでよい。手軽 |
| 関連内容への波及 | 確認されている | 選択式より弱かった |
| 答え合わせの必要性 | 必須(誤りの選択肢が残る危険がある) | 必須 |
| 向く場面 | 問題集に選択問題がある単元 | 自分で予習する日常の場面 |
家庭での実行しやすさを考えると、日常は記述式(問いだけ作る)、問題集に選択問題がある単元では選択式という使い分けが現実的です。選択式を使う場合は、答え合わせを省略しないでください。誤った選択肢を読んだまま放置すると、それ自体が記憶に残ります。
事前テストと、あとの復習をつなぐ
事前テストは単独で使うものではなく、そのあとの復習と組で機能します。つなぎ方は次のとおりです。
- 事前テストの3問の紙を捨てないでください。誤った答えを書いた問いに印を付けて、ノートに貼ります。
- 授業や読解の直後に照合します(ここまでが事前テストの手続き)。
- 2日後と1週間後に、同じ3問をもう一度、何も見ずに答えます。ここからが復習です。
- テストの直前に、印の付いた問い(=最初に誤解していた問い)だけをもう一度通します。
この形にすると、事前テストで作った問いが、そのまま復習用の問題集になります。新しく問題を作る手間が増えません。最初に誤解した項目は、放っておくと元の誤解に戻りやすいので、テスト前にもう一度当てる価値があります。
学年別
小学生
- 問いは保護者が1つだけ出します。「今日の算数、何をやると思う?」で十分です。
- 答えは口頭で構いません。書かせると負担になります。
- 授業や読解のあとに「さっきの予想、合ってた?」と一度だけ聞きます。これが答え合わせです。
中学生
- 理科と社会で始めます。見出しから問いを3つ作る形が、そのまま使えます。
- 数学は、章末問題を1問だけ先に解く形にします。解けないのが普通です。
- 答え合わせは、授業を受けたその日のうちに行います。翌日に回さないことが条件です。
高校生
- 映像授業を使っているなら、再生前の2問を習慣にします。効果が出やすい場面です。
- 問題集の新しい章は、解説を読む前に1問解きます。3分で撤退します。
- 模試の前に、出題範囲の単元名だけを見て「何が問われそうか」を3つ書き出します。これも事前テストの一種です。
効かない条件
第一に、答え合わせがない場合です。これは条件というより前提です。間違えたまま終われば、間違いが残るだけです。
第二に、事前の問いを覚えていない場合です。上に挙げた研究の題名がそのまま示すとおり、事前質問が効くのは、それが記憶されている限りにおいてです。問いを紙に書いて手元に置くよう勧めているのは、この理由によります。頭の中だけで問いを立てると、読んでいるうちに消えます。
第三に、手応えが悪くなることです。誤りを生成してから正解を与えられる学習は、単に読む場合より記憶が良くなる一方、学習者自身はその利点に気づきません。間違えた項目に対する「覚えられた感」の評定は低くなり、その結果として、本来は覚えている項目に余計な時間を配分してしまうことが報告されています。
Yang C, Potts R, Shanks DR. Metacognitive unawareness of the errorful generation benefit and its effects on self-regulated learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. 2017.
第四に、時間をかけすぎる場合です。事前テストに15分も20分もかけると、本来の学習時間を圧迫します。3問3分という上限を守ってください。答えられない問題に粘る必要はありません。
第五に、基礎がまったくない単元です。問いの意味自体が分からない状態では、問いを立てることもできません。その場合は、まず用語だけを拾い読みしてから事前テストに入ります。
第六に、誤った答えをそのまま強く覚えてしまう危険です。とくに選択式では、誤りの選択肢を読むこと自体が記憶に残ります。答え合わせを入れればこの害は減りますが、ゼロにはなりません。自分で答えを書く形(記述式)のほうが、この点では安全です。選択式を使うのは、答え合わせを確実に行える場面に限ってください。
この記事で言えないこと
引用した実験は、いずれも大学生を対象に、文章や映像講義を材料としたものです。日本の中学生・高校生が教科書で同じ手順を行った場合に、同じ効果が出るかは確認されていません。効果量についても、抄録の範囲では数値が示されておらず、この記事では大きさを書いていません。
「3問」「3分」「2問」といった数字は、研究が定めたものではなく、日常の予習に収めるための運用上の上限です。実験では問いの数も時間も条件ごとに異なります。
「選択式のほうが波及が大きい」という点も、慎重に読む必要があります。これは特定の材料と手続きのもとで得られた結果であり、教科書の単元に一般化できるとは限りません。この記事では、選択式を勧めるのではなく、使える場面を限定する形にとどめました。
また、事前テストと、既存の予習(先に読む・先にノートを作る)を直接比べた研究をここでは引用できていません。上の記事は「読むだけの予習より先に解くほうがよい」と断定するものではなく、「先に解いて、あとで確かめる形には利点が確認されている」という範囲にとどまります。成績が上がることを保証する記事ではありません。
当塾の立場
ここまでの手順は、塾に通わなくても実行できます。必要なのは紙1枚と3分だけです。今日の宿題の前に、教科書の見出しから問いを3つ作り、答えを書いてから読んでみてください。5分増えるだけで、読み方が変わります。
その上で塾を使う意味があるとすれば、問いの当て所と、答え合わせの確実な実行だと考えています。この記事の研究から分かるとおり、事前テストの効果は問われた内容に集中し、枝葉に当てると効きません。単元の中心がどこかを見極めるのは、習っていない生徒には難しい判断です。また、間違えた項目ほど「できていない」と感じるため、答え合わせのあとに正しく配分するのも一人では困難です。武蔵野個別指導塾では、次回に扱う単元の問いを講師が先に渡し、授業の冒頭でその答え合わせから始める形を取っています。問いの設計と答え合わせの固定を外に預けたい方には、この使い方を勧めます。
関連する研究の解説
- 検索練習——思い出す作業が記憶を作る——思い出す作業が記憶を作る仕組みを、研究の側から整理しています。
- 「分かったつもり」はなぜ生じるか——メタ認知的モニタリングの研究——手応えと実際の記憶がずれる現象を扱っています。
- フィードバックはなぜ逆効果になりうるのか——答え合わせの出し方で結果が変わる条件を整理しています。
出典
- Butler AC, Roediger HL (2008). Feedback enhances the positive effects and reduces the negative effects of multiple-choice testing. Memory & Cognition, 36(3), 604-616. doi:10.3758/mc.36.3.604
- Richland LE, Kornell N, Kao LS (2009). The pretesting effect: do unsuccessful retrieval attempts enhance learning? Journal of Experimental Psychology: Applied, 15(3), 243-257. doi:10.1037/a0016496
- Kornell N, Hays MJ, Bjork RA (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35(4), 989-998. doi:10.1037/a0015729
- Little JL, Bjork EL (2016). Multiple-choice pretesting potentiates learning of related information. Memory & Cognition, 44(7), 1085-1101. doi:10.3758/s13421-016-0621-z
- Yang C, Potts R, Shanks DR (2017). Metacognitive unawareness of the errorful generation benefit and its effects on self-regulated learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition.
- St Hilaire KJ, Carpenter SK (2020). Prequestions enhance learning, but only when they are remembered. Journal of Experimental Psychology: Applied, 26(4), 705-716. doi:10.1037/xap0000296
- Pan SC, Carpenter SK (2023). Prequestioning and pretesting effects: a review of empirical research, theoretical perspectives, and implications for educational practice. Educational Psychology Review, 35(4). doi:10.1007/s10648-023-09814-5
