【連載第2回】どの大学に入るかは、その後をどれだけ変えるか——合格者マッチング法が消した効果と、消えなかった層

どの大学に入るかは、その後をどれだけ変えるか

連載第2回です。第1回で分けた5つの問いのうち、①行き先の効果を扱います。

「良い大学に入れば、人生が変わる」——この命題は、教育経済学で最も長く検証されてきたもののひとつです。そして答えは、30年かけて何度も反転しました。

この記事では、なぜ反転したのかを追います。反転の理由が分かると、自分の家庭にとっての答えが出せるようになります。

一言でいうと(この記事の結論)
大学の選抜度が平均収入に与える効果は、自己選択を調整すると、ゼロと区別できない水準まで落ちました [1]
ただし、低学歴家庭の学生と人種的少数派では、効果は大きいまま残りました [1]
そして——「平均収入」ではなく「上位1%に入る確率」を見ると、効果は約50%増という大きさで現れます [2]
——「大学名は関係ない」も「大学名がすべて」も、測る量と対象層を指定しない限り、どちらも言えません。

結論を先に10点書きます。

  1. 通常の回帰では、選抜度の収益は大きく出ます [1]
  2. 出願先の平均得点で未観測の資質を調整すると、その収益はゼロ近くまで落ちました [1]
  3. 行政記録・2コホート・2007年まで追跡しても、結論は変わりませんでした [1]
  4. しかし低学歴家庭・黒人・ヒスパニック系では、収益は大きいまま残りました [1]
  5. 同じ手法を女性に適用した再分析では、男性で効果が消え、女性では残りました [3]
  6. 補欠合格の偶然変動を使うと、Ivy-Plus は上位1%到達確率を約50%高めました [2]
  7. ただし同じ研究が、入学優遇の3要因は卒業後の成果と無相関か負の相関だったと報告しています [2]
  8. ノルウェーの一斉出願制度を使った研究では、学部分野の収益差が大学進学プレミアムに匹敵しました [4]
  9. 米国の全4年制大学データでは、選抜度と収入の相関は、選抜度が低い側ではほぼゼロでした [5]
  10. そして——最も効くのは「どこに入るか」ではなく、多くの推定で「何を学ぶか」でした [4] [6]

1. なぜ単純な比較では答えが出ないのか

この問いの難しさは、一点に集約されます。

選抜度の高い大学は、卒業後に高い収入を得る資質を持つ学生を、選んで入れています。

だから「難関大卒の平均年収」と「そうでない大学の平均年収」を比べても、大学の効果と、入学時点の資質の差が、分けられません。

一言でいうと(統計用語なしで)
足の速い子ばかりを集めた陸上部と、そうでない部活の記録を比べて「あの部の指導は優れている」と言えるでしょうか。
——言えません。指導の効果と、集めた子の速さが混ざっています。
大学の「効果」を測る問題は、これと同じ形をしています。

高校の評定も入試得点も統計的に統制すればいい、と思われるかもしれません。しかし統制できるのは、研究者が観測できた変数だけです。粘り強さ、家庭の人脈、将来設計の明確さ——これらは記録に残りません。そして、まさにこれらが難関大に出願し、合格し、そして高い収入を得ることの両方に効きます。

2. Dale と Krueger の発想——「落ちた大学」を使う

1998年から2014年にかけて発表された一連の研究が、この問題に独創的な解を与えました [1]

着想はこうです。

ある学生が「東京の難関私大A、B、Cに出願し、AとBに合格、Cに不合格」だったとします。
同じ組み合わせで合否が出た学生が、もう一人いたとします。
——この二人は、入試側から見て「ほぼ同じ人」と判定されています。
その二人のうち、一人がAに、もう一人がBに進学した。
この差なら、大学の効果です。

さらに著者らは、「出願した大学群の平均得点」を統制変数として加えるという方法も使いました。どこに出願したかは、本人の自己評価と野心を反映している——つまり、観測できない資質の代理指標になるという理屈です。

結果が、冒頭の表です。

分析 選抜度の収益 備考
高校成績・入試得点を統制した回帰 大きい 両コホートで同程度の大きさ
出願先の平均得点で調整 ゼロと区別できない 1976年・1989年入学の両方
黒人・ヒスパニック系の学生 大きいまま 調整後も残存
親の学歴が低い家庭の学生 大きいまま 調整後も残存
授業料の水準 有意に収入と関連 2002年版で報告。相当の内部収益率

2011年以降の版では、自己申告の収入ではなく社会保障局の行政記録を接続し、1976年入学組を1983年から2007年まで追跡しました [1]結論は変わりませんでした。

3. 反証(1)——男性では消え、女性では残った

Dale-Krueger 法を引き継いだ再分析が、重要な限定を加えています。

Ge らは、同じ College and Beyond データに、フルタイム労働者に限定しないという変更を加えて再分析しました [3]

  • 男性——選択を統制すると、選抜度と収入の関係は消えた。学歴達成にも家族形成にも効果なし
  • 女性——効果が残った。大学の平均得点が100点高いと、大学院以上の学位取得確率と収入が上がり、結婚確率は下がった

一言でいうと(なぜ男女で違うのか)
元の研究がフルタイム労働者に限定していたことが、女性の効果を隠していた可能性があります。
——「働いているかどうか」自体が、大学の影響を受けているなら、働いている人だけを見ると効果が見えなくなります。
これは「サンプルの取り方が結論を決める」典型例です。

別の2つの全国縦断調査を分析した研究は、卒業4年後と10年後の両方で、選抜度の高い大学に通った収益は大きいと報告しています。ただし同じ研究が、フルタイムで働く女性卒業生は、同等の大学を出た男性よりかなり低い収入だったとも書いています [7]

4. 別の答え——「平均」ではなく「上位1%」を見ると

2025年に『Quarterly Journal of Economics』に載った研究が、この論争に新しい角度を持ち込みました [2]

Chetty、Deming、Friedman は、複数大学の匿名化された入試記録を所得税記録と接続し、補欠合格者(waitlist)の合否判定に含まれる、出願者の属性で説明できない偶然のばらつきを取り出しました。

推定結果です。旗艦州立大ではなく Ivy-Plus に進学すると——

結果変数 効果
収入分布の上位1%に入る確率 約50%上昇
難関大学院への進学 ほぼ2倍
威信の高い企業での就業 ほぼ3倍

一言でいうと(Dale-Krueger と矛盾していない)
測っている量が違います。
Dale-Krueger は収入の平均、Chetty らは分布の上端に届く確率です。
——平均を動かさずに、上端への到達率だけを動かすことは、数学的に可能です。
「難関大に行けば平均的に豊かになる」は弱い主張、「難関大は、ごく一部が到達する場所への切符を増やす」は強い主張——研究が支持しているのは後者です。

そして、この研究には塾業界にとって都合の悪い発見も含まれています。Ivy-Plus における高所得家庭の入学優位は、①卒業生の子への優遇 ②非学業的資質への配点 ③スポーツ推薦の3要因で説明されました。そしてこの3要因は、卒業後の成果と無相関か、負の相関でした [2]

一方で、入試得点は卒業後の成果を強く予測しました [2]

5. 効いていたのは「どこ」ではなく「何を」だった

ここが、この記事で最も実用的な部分です。

ノルウェーは、ほぼ全ての大学を一元的な出願制度で運用しています。合格ライン付近では、事前に予測できない形で合否が分かれる——この不連続を使えば、分野ごとの収益を、選択バイアスを補正して推定できます [4]

結果——分野による収益の差は、大学進学そのものの収益(大学卒プレミアム)に匹敵しました [4]
著者らの言葉——「分野の選択は、大学に進学するかどうかの決定と同じくらい重要でありうる」

英国の行政データを使った研究も同じ方向です。同程度の選抜度の学位どうしでも、収益は大きくばらついていました。そして収益が選抜度とともに上がるのは、選抜度の分布の上端でだけであり、分野によっても大きく違いました [8]

米国の全4年制大学に近いデータ(College Scorecard)を分析した研究は、さらに直接的です。

  • 選抜度が低い側の大学どうしでは、選抜度と収入の相関はほぼゼロ
  • 選抜度が高い側でだけ、強い関係が現れる
  • 大学間で収入分布は大きく重なっており、中央値だけで大学を順位づけると、順位は使う分位点によって大きく変わる [5]

専攻別に見た研究では、選抜度のプレミアムが確認されたのは、経営学と社会科学の2分野だけでした。STEM分野では、男性には名門校の効果があり、女性には無かったと報告されています [9]

6. 反証(2)——「背伸び」が裏目に出る場合

「入れるなら少しでも上へ」は、常に正しいわけではありません。

1995年の研究は、大学での成績を分析に入れないと、選抜度の効果は白人では過大に、黒人では過小に推定されると報告しました。そして自分の得点が進学先の中央値を大きく下回る学生では、黒人学生の大きな収入上昇が相殺された——理由は「ミスマッチした学生の卒業確率が低く、卒業できなかった場合の収入が低いから」です [10]

一言でいうと(実務的な含意)
効いているのは「入ること」ではなく「出ること」です。
——入学後に上位層に埋もれて卒業できなければ、選抜度の効果はマイナスにもなりえます。
志望校を決めるときに見るべきは、合格可能性だけでなく、入学後にその環境で続けられるかです。

ただし、この「ミスマッチ」論には対抗する証拠もあります。テキサス州の上位10%ルール(成績上位者に州立大進学枠を保障する制度)を使った研究は、制度によって進学機会を得た不利な高校の上位層で、進学率と卒業率が上がったこと、そして制度によって機会を失った側でも、全体の進学率・卒業率・収入に低下は見られなかったことを報告しています [11]

7. 誰に効くのか——「負の選択」という発見

直感に反する結果を、もう一つ紹介します。

常識的には、「大学に行きそうな人ほど、大学で得るものが大きい」と考えたくなります。Brand と Xie は、これを検証し、逆だったと報告しました [12]

「大学に進学する確率が最も低い人ほど、進学したときの収益が最も大きい」——負の選択仮説
2つの異なる縦断データで、男女とも、ライフコースのどの段階でも、この方向が確認されました [12]

スウェーデンの登記データを使った生涯収入の推定は、やや異なる絵を描いています。収益は親の収入とはほとんど関係せず、認知能力と非認知能力によって大きく変わりました——正規教育と非公式な技能の補完性を示唆する結果です [13]

8. 日本に当てはめるときの注意

ここまでの研究は、すべて日本のものではありません。移植するときの注意点を3つ書きます。

  1. 「選抜度」の意味が違います。米国の選抜度は合格率と入学者の平均得点で測られます。日本の偏差値は模試受験者集団の中での相対位置であり、母集団が違えば数字が動きます。当サイトの偏差値をどう読むかを併せてご覧ください。
  2. 労働市場の入口の構造が違います。日本の新卒一括採用は、米国の職種別採用と、大学名の使われ方が異なります。当サイトの学歴と就職で扱いました。
  3. 分野の収益差については、方向性は移植できる可能性が高いと考えています。ノルウェー・英国・米国という制度の違う3か国で、同じ方向の結果が出ているためです [4] [8] [6]

9. 実務——志望校を決める面談で使う4つの問い

  1. 「この家庭は、Dale-Krueger の言う『効果が残る層』に当たりますか」——保護者の学歴、家庭の人脈の有無。当たるなら、選抜度を上げる努力の価値は高くなります [1]
  2. 「変えたいのは平均ですか、上端への到達可能性ですか」——後者なら選抜度の意味は大きくなります [2]
  3. 「大学名と学部名、どちらを先に決めていますか」——研究の重心は学部側にあります [4]
  4. 「入学後、その環境で4年続けられそうですか」——効いているのは入学ではなく卒業です [10]

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この回に関して、理由を3つ書きます。

  1. 「一つでも上の大学へ」を、無条件の目標にしないこと。研究が支持するのは条件つきの主張だけです [1]。当塾は、その家庭にとって選抜度がどれだけ効くかを先に話します。
  2. 学部・分野を、大学名より先に検討すること。5節のとおり、分野の収益差は大学進学そのものの収益に匹敵しました [4]。当塾の進路面談は、ここから始めます。
  3. 「入った後に続くか」を志望校選定の基準に入れること。6節のとおり、卒業できなければ効果は反転しえます [10]

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • 志望校を上げることの利益は、うちの場合どれくらいだと考えますか
  • 学部の中身は、いつ、どうやって調べますか
  • 入学後に続かない可能性は、どう見積もっていますか

1つ目に「必ず上げたほうがいい」としか答えない塾は、研究より営業に寄っています。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 通常の回帰では選抜度の収益は大きく、自己選択を調整するとゼロ近くまで落ちました [1]
  2. 行政記録・2コホート・24年追跡でも結論は同じでした [1]
  3. 低学歴家庭・黒人・ヒスパニック系では、収益は大きいまま残りました [1]
  4. フルタイム限定を外して再分析すると、男性では消え、女性では残りました [3]
  5. 補欠合格の偶然変動では、Ivy-Plus が上位1%到達率を約50%、威信企業就業をほぼ3倍にしました [2]
  6. ただし入学優遇の3要因(同窓子弟・非学業評価・スポーツ)は、卒業後の成果と無相関か負の相関でした [2]
  7. ノルウェーの不連続設計では、分野の収益差が大学卒プレミアムに匹敵しました [4]
  8. 英国では、同程度の選抜度でも学位による収益差が大きく、選抜度が効くのは上端だけでした [8]
  9. 米国全体では、選抜度が低い側で相関はほぼゼロ。収入分布は大学間で大きく重なっていました [5]
  10. 選抜度プレミアムが確認された専攻は経営学と社会科学のみ。STEMでは男性のみでした [9]
  11. 得点が進学先の中央値を大きく下回る場合、卒業確率の低下が収益を相殺しました [10]
  12. ただしテキサス上位10%ルールでは、機会を失った側にも悪影響は見られませんでした [11]
  13. 「進学しそうにない人ほど、進学の収益が大きい」という負の選択が、2つのデータで確認されました [12]
  14. そして——「どこに入るか」より「何を学ぶか」のほうが、収益への寄与は大きいというのが、現在の証拠の重心です。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【合格者マッチング法】Dale, S. B. & Krueger, A. B. (2002). Estimating the Payoff to Attending a More Selective College. QJE. DOI: 10.1162/003355302320935089/同 (2014). Estimating the Effects of College Characteristics over the Career Using Administrative Earnings Data. Journal of Human Resources. DOI: 10.3368/jhr.49.2.323
  2. 【Ivy-Plus・補欠合格設計】Chetty, R., Deming, D. J. & Friedman, J. N. (2025). Diversifying Society’s Leaders? QJE. DOI: 10.1093/qje/qjaf050
  3. 【男女差・フルタイム限定を外した再分析】Ge, S., Isaac, E. & Miller, A. (2018). Elite Schools and Opting In: Effects of College Selectivity on Career and Family Outcomes. Journal of Labor Economics. DOI: 10.1086/717931
  4. 【分野の収益・ノルウェー不連続設計】Kirkebøen, L., Leuven, E. & Mogstad, M. (2016). Field of Study, Earnings, and Self-Selection. QJE. DOI: 10.1093/qje/qjw019
  5. 【College Scorecard・分布全体】Bloem, M. D. et al. (2026). Understanding Variation in Post-College Earnings. Education Finance and Policy. DOI: 10.1162/edfp.a.445
  6. 【選抜度 vs 専攻】Eide, E. R. et al. (2015). Is It Where You Go or What You Study? Contemporary Economic Policy. DOI: 10.1111/coep.12115
  7. 【反証・選抜度の収益は大きい】Witteveen, D. & Attewell, P. (2017). The earnings payoff from attending a selective college. Social Science Research. DOI: 10.1016/j.ssresearch.2017.01.005
  8. 【英国・学位単位の収益】Dearden, L. et al. (2021). How much does degree choice matter? Labour Economics. DOI: 10.1920/wp.ifs.2021.2421
  9. 【専攻内の選抜度プレミアム】Quadlin, N. & Conwell, J. A. (2021). Same major, same economic returns? Research in Social Stratification and Mobility. DOI: 10.1016/j.rssm.2021.100647
  10. 【ミスマッチと卒業確率】Loury, L. D. & Garman, D. (1995). College Selectivity and Earnings. Journal of Labor Economics. DOI: 10.1086/298375
  11. 【反証・テキサス上位10%ルール】Black, S. E., Denning, J. T. & Rothstein, J. (2020). Winners and Losers? The Effect of Gaining and Losing Access to Selective Colleges. AEJ: Applied Economics. DOI: 10.3386/w26821
  12. 【負の選択】Brand, J. E. & Xie, Y. (2010). Who Benefits Most from College? American Sociological Review. DOI: 10.1177/0003122410363567
  13. 【生涯収入・スウェーデン】Nybom, M. (2017). The Distribution of Lifetime Earnings Returns to College. Journal of Labor Economics. DOI: 10.1086/692475

連載「受験という制度は、人に何をするのか」(全10回)

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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