【連載第9回】受験しないという選択と比べる——test-optional・総合型選抜・ギャップイヤー

受験しないという選択と比べる——test-optional・総合型選抜・ギャップイヤー

連載第9回です。ここまで「受験すること」の効果と代償を見てきました。

しかし意義は、常に「何と比べて」で決まります。第2回で見たとおり、比較対象を変えれば符号すら変わります。

だからこの回は、「学力試験を使わない」という選択肢を検討します。幸いなことに、この選択肢は米国で大規模に実験されました。250を超える大学が、コロナ禍の前からtest-optional(入試得点の提出を任意にする)政策を導入しています。

一言でいうと(この記事の結論)
試験を外すと、多様性は少しだけ上がります。ただし期待されたほどではありません。約100校を分析した研究では、ペル奨学金受給者が3〜4%、少数派が10〜12%、女性が6〜8%増加しました [1]
しかし、効果を検出できなかった研究も複数あります [2] [3]
そして——ある研究は、test-optional政策がもたらしたのは多様性ではなく「見かけ上の選抜度の向上」だったと結論しました [4]
——「試験をやめれば公平になる」は、実測では支持されていません。

結論を先に10点書きます。

  1. 約100校の分析で、ペル受給者3〜4%、少数派10〜12%、女性6〜8%の増加が検出されました [1]
  2. ただし出願数や入学手続率には、明確な変化は検出されませんでした [1]
  3. 別の研究は、黒人・先住民・ヒスパニック系が約15%、ペル受給者が約7%増加したと報告しています [5]
  4. 同じ研究は、機関奨学金の受給者数は増えたが、平均給付額は下がったとも報告しています [5]
  5. 反証。リベラルアーツ大学の分析では、多様性ではなく「見かけ上の選抜度」が向上しました [4]
  6. 反証。別の分析では、多様性にも入学者の質にも有意な効果はありませんでした [2]
  7. 効果は、その大学が「何をもって実力とするか」に依存していました [6]
  8. 実験室実験では、test-blind(得点を一切見ない)が学業準備度と多様性の両面で最悪でした [7]
  9. 入学者の学業成績には、test-optional導入による影響は見られませんでした [8]
  10. そして——第7回で見たとおり、入学優位を作っていた非学業的評価軸は、卒業後の成果と無相関か負の相関でした [9]

1. なぜ「試験を外す」実験が行われたのか

動機は明確でした。

標準化テストは「進学の見込みを測る不適切で、偏りうる尺度」だという批判を受けてきました [4]。得点は富裕層と多数派に有利に出ると長く指摘されています [10]

そこで大学側は、得点の提出を任意にするという制度を採りました。出したい人だけが出す。出さない人は、成績・小論文・活動歴・推薦状で評価する。

一言でいうと(この制度は、日本の総合型選抜に近い)
学力試験の比重を下げ、それ以外の材料で選ぶ——これが test-optional の中身です。
——日本で進行している「総合型選抜の拡大」は、方向として同じです。
だから米国の実測は、日本の議論にとって最も近い実験になります。

2. 効果があったとする側の証拠

最も丁寧な分析を先に見ます [1]

Bennett は、2005/06年度から2015/16年度のあいだに test-optional を導入した多様な約100の私立大学を、比較中断時系列分析と、マッチングを伴う差の差分析で調べました。

指標 変化
ペル奨学金(低所得層向け)受給者 3〜4%増
過小代表の人種・民族の新入生 10〜12%増
女性の新入生 6〜8%増
出願数 明確な変化は検出されず
入学手続率 明確な変化は検出されず

著者の評価は、両面的です——「入学の公平性を改善するために test-optional 政策を用いることの、可能性と限界の両方に関する証拠を提供する」 [1]

2006〜2014年に切り替えた大学を差の差で分析した別の研究は、黒人・先住民・ヒスパニック系の学生が約15%、ペル受給者が約7%増加したと報告しました [5]

ただし同じ研究は、意図しない帰結も報告しています。
「機関からの奨学金を受ける学生数は増えたが、平均給付額は減少した」 [5]
——一人あたりの支援は薄くなりました。入学させることと、卒業まで支えることは、別の問題です。

コロナ禍中の上位100大学を事象研究デザインで比較した研究は、2年目に黒人 +1.1%ポイント、ヒスパニック系 +1.1%ポイント、アジア系 −1.5%ポイントという結果を報告しています [11]

3. 効果がなかったとする側の証拠

反対向きの結果も、同じだけあります。

選抜度の高いリベラルアーツ大学を準実験的手法で分析した研究(125引用)は、次のように結論しました [4]

「平均すると、test-optional 政策は、参加機関の多様性ではなく、見かけ上の選抜度を高める」
——機序は単純です。得点の低い出願者が提出しなくなるため、公表される入学者の平均得点が上がります。
そして出願数が増えるため、合格率が下がります。大学ランキングの指標は、どちらも改善します。

他にも次の報告があります。

研究 結果
IPEDS・差の差 [2] 多様性にも入学者の質にも有意な効果なし。出願者数の一時的増加のみ
反復測定MANOVA [3] 出願・入学者数は有意に増加。ただし少数派やペル受給者の割合は有意に増加せず
IPEDS・最新 [12] 出願数変化なし。合格率 +3.4%ポイント、入学手続率 −3.0%ポイント。黒人の在籍割合は +0.7%ポイント
博士課程のGRE-optional [13] 選抜度は上がった(合格率低下)。属性構成の変化は大半が有意でなかった
構造推定 [14] 普遍的なtest-optionalは、エリート大学の少数派割合を実質的に変えない

教育測定の専門家によるレビューは、この状況を的確にまとめています——「test-optional 政策は、推進派が示唆したような多様性の万能薬でもなければ、反対派が予測したような学業成果の劣化をもたらすものでもない。ただし、帰結はある」 [15]

4. なぜ、これほど結果が割れるのか

2025年に『American Sociological Review』へ掲載された研究が、最も説得力のある説明を与えています [6]

test-optional の効果は、その大学が「何をもって実力とするか」の定義と、競合する財務上の優先順位に依存する。
要件を外すと、一般には過小代表の少数派の入学は増える。
しかし——評価において定量的な学業指標を依然として強く重視する機関では、その効果は有意に減じられる。
そして財務上の圧力が高まると、多様性の増加は減衰する [6]

実務レベルの調査も、これを裏づけています。57人の入試責任者への聞き取りは、多くの入試部門が「能力の罠」に留まり、新しい方法を探すより従来の意思決定慣行に頼っていたと報告しました [16]

一言でいうと(制度を変えても、運用が変わらなければ結果は変わらない)
「得点を見なくてよい」と決めても、審査する人が同じ基準で読んでいれば、結果は同じです。
——これは日本の総合型選抜にも、そのまま当てはまる論点です。
方式を増やすことと、評価の中身を変えることは、別の作業です。

5. 決定的な反証——試験を外すと、何が起きるのか

実験室実験による、最も直接的な検証を紹介します [7]

Chen らは、出願者が「得点を出すか隠すか」をどう決めるかを実験的に測り、構造モデルで16通りの test-optional 政策の入試結果をシミュレートしました。

  1. 自発的開示は不完全かつ選択的だった——不利な情報を隠す
  2. 大学が未提出に寛容なほど、また他の属性が良いほど、隠す確率が高かった
  3. test-blind(得点を一切見ない)は、学業準備度と多様性の両面で最悪だった
  4. test-required(全員提出)は、16の test-optional 政策のうち11より、学業準備度が高く、かつ非試験属性の多様性も高かった
  5. 両者を上回った少数の test-optional 政策は、多様性が高い代わりに学業準備度が低かった [7]

一言でいうと(直感に反する理由)
得点が見えないとき、大学は「それ以外」で判断します。
——そして「それ以外」——課外活動、推薦状、小論文、面接——は、家庭の資源がより強く反映される材料です。
第7回で見たとおり、Ivy-Plus の入学優位を作っていたのは、まさにこれらでした [9]
そしてそれらは、卒業後の成果を予測しませんでした。予測したのは入試得点でした [9]

学業成果への影響については、心配されたような劣化は観察されていません。差の差分析は、test-optional の導入が入学コホートの学業成績に影響を与えなかったと報告しています [8]つまり「試験を外すと学力が落ちる」という予測も、外れました。

6. では、どんな代替物なら機能するのか

「試験か、試験以外か」という二分法から離れます。

第4回で見たカリキュラム抽出型試験は、有望な第三の道です [17]

  • 大学の実際の授業の一部を、そのまま入試にする
  • オランダの心理学専攻の3コホートで、1年次にも3年次にも高い予測力を示した
  • 高校成績に対する増分妥当性も確認された
  • 得点が低かった出願者は、進学を取りやめる割合が高かった——自己選択を促す機能
  • 意外にも、この試験の得点は認知能力の指標と関連を示さなかった [17]

一言でいうと(日本への含意)
総合型選抜の「課題レポート」や「模擬授業+レポート」は、この型に近づける余地があります。
——学部の学びに近い課題ほど、予測力が上がり、家庭の資源の影響は相対的に下がります。
逆に「これまでの活動実績」を問うほど、資源の影響は上がります。

7. 「進学を1年遅らせる」という選択

第8回で触れたギャップイヤーを、ここで正式に扱います。

フィンランド(384人・3波)とオーストラリア(2,259人・5波)の縦断研究を、傾向スコアマッチングで分析した結果です [18]

指標 直接進学者との差
目標への関与、努力、達成の見通し、緊張 差なし
実際の大学入学 差なし
将来と職業の見通し、生活満足度 差なし
大学の中退 ギャップイヤー群のほうが高い

著者らは、発達上の移行期には「遅らせる」より「目標に直接投資する」ほうが適応的だとする生涯制御理論と、この結果が整合すると論じています [18]

ただし反証もあります。オーストラリアの別の研究は、進学を延期した学生のほうが大学での成績が高く、その優位は成績下位層、特に男子で顕著だったと報告しました [19]

8. 日本の総合型選抜に、何が言えるか

  1. 「試験を外せば公平になる」は支持されていません。多様性の効果は小さく、研究によっては検出されません [2] [4]
  2. 「試験を外すと学力が落ちる」も支持されていません。入学コホートの学業成績に影響は見られませんでした [8]
  3. 効果を決めるのは、方式ではなく評価の中身です [6] [16]総合型選抜が何を見るかが、すべてを決めます。
  4. 活動実績を重視するほど、家庭の資源の影響は上がります [9]学部の学びに近い課題を課すほど、下がります [17]
  5. 2027年度からの面接必須化は、この観点で評価できます。当サイトの総合型選抜は「楽な入試」か総合型選抜の面接が必須になると、何が変わるかをご覧ください。

9. 実務——方式をどう選ぶか

  1. 「一般入試が苦手だから総合型」という選び方は、根拠が弱い。総合型は別の資源を要求します。楽な道ではありません。
  2. 評定が高く模試が低い生徒は、総合型・学校推薦型の検討価値が高い。第4回のとおり、評定は自己調整の記録だからです。
  3. 志望学部の課題が、学部の学びにどれだけ近いかを見る。近いほど、判定は信頼できます [17]
  4. 「1年空ければ見えてくる」は、実証的にはあまり支持されていません [18]空けるなら、何をするかを先に決める。
  5. 複数方式を併用する。方式ごとに測っているものが違うため、どれか一つに全額を賭ける理由がありません。

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この回に関して、理由を3つ書きます。

  1. 総合型選抜を「楽な抜け道」として売らないこと。5節のとおり、試験以外の材料は、家庭の資源をより強く反映します [7] [9]資源の少ない家庭に総合型を勧めることは、しばしば不親切です。
  2. 方式ごとに「何を測っているか」を説明すること。当塾の面談では、一般・総合型・学校推薦型で要求される資源を、並べて比較します総合型選抜の出願要件をどう読むか)。
  3. 学部の学びに近い準備を優先すること。6節のとおり、それが最も予測力の高い準備です [17]。当塾のリベラルアーツ授業と志望理由書指導は、この考え方で組んでいます(志望理由書の構造)。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • うちの子に総合型を勧めるのは、なぜですか
  • その方式は、何を測っていると考えますか
  • その準備に、家庭はいくら・何時間かかりますか

3つ目に答えない塾は、資源の話を避けています。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 約100校で、ペル受給者3〜4%、少数派10〜12%、女性6〜8%の増加が検出されました [1]
  2. 出願数と入学手続率には、明確な変化は検出されませんでした [1]
  3. 別の分析では、少数派 約15%、ペル受給者 約7%の増加でした [5]
  4. 同時に、機関奨学金の平均給付額は下がりました [5]
  5. 反証。リベラルアーツ大学では、多様性ではなく見かけ上の選抜度が向上しました [4]
  6. 反証。多様性にも入学者の質にも有意な効果なし、という報告もあります [2] [3]
  7. 効果は、その大学の「実力」の定義と財務上の優先順位に依存しました [6]
  8. 多くの入試部門は「能力の罠」に留まり、従来の慣行に頼っていました [16]
  9. 実験室実験では、自発的開示は不完全かつ選択的でした [7]
  10. test-blind は、学業準備度と多様性の両面で最悪でした [7]
  11. test-required は、16のtest-optional政策のうち11より、両指標で優れていました [7]
  12. ただし「試験を外すと学力が落ちる」も外れました。学業成績に影響は見られませんでした [8]
  13. カリキュラム抽出型試験は、高い予測力と自己選択の促進を両立しました [17]
  14. ギャップイヤーは大半の指標で差がなく、中退確率のみ高くなりました [18]
  15. そして——効果を決めるのは方式ではなく、評価の中身です。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【約100校・比較中断時系列】Bennett, C. T. (2021). Untested Admissions: Examining Changes in Application Behaviors and Student Demographics Under Test-Optional Policies. American Educational Research Journal. DOI: 10.3102/00028312211003526
  2. 【反証・効果なし】Saboe, M. & Manalo, S. (2018). SAT optional policies: Do they influence graduate quality, selectivity or diversity? Economics Letters. DOI: 10.1016/j.econlet.2018.10.017
  3. 【反証・割合は増えず】Paris, J. (2022). The Impact of Optional: Investigating the Effects of Test-Optional Admissions Policies
  4. 【反証・見かけの選抜度】Belasco, A. S. et al. (2015). The Test-Optional Movement at America’s Selective Liberal Arts Colleges. Educational Evaluation and Policy Analysis. DOI: 10.3102/0162373714537350
  5. 【差の差・2006〜2014年導入校】Felegi, B. (2026). The Impacts of Removing College Entrance Exams: Evidence From the Test-Optional Movement. Southern Economic Journal. DOI: 10.1002/soej.70028
  6. 【効果は機関の「実力」定義に依存・ASR】Hsu, G. et al. (2025). Same Policy, No Standardized Outcome. American Sociological Review. DOI: 10.1177/00031224251352432
  7. 【実験室実験・16政策のシミュレーション】Chen, H.-Y. et al. (2025). Voluntary Report of Standardized Test Scores: An Experimental Study. SSRN. DOI: 10.2139/ssrn.5207608
  8. 【学業成績への影響なし】Felegi, B. (2025). Examining Key Impacts of the Test-Optional Movement for Early Adopters. AEA Papers and Proceedings. DOI: 10.1257/pandp.20251057
  9. 【非学業的評価軸と卒業後の成果】Chetty, R., Deming, D. J. & Friedman, J. N. (2025). Diversifying Society’s Leaders? QJE. DOI: 10.1093/qje/qjaf050
  10. 【地理的バイアスと才能の同定】Canché, M. G. et al. (2025). Standardized Testing for Diverse Talent Identification. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-024-09824-4
  11. 【コロナ期・上位100大学】Walker, B. et al. (2026). Test optional college admissions during the COVID-19 pandemic and campus diversity. Education Economics. DOI: 10.1080/09645292.2025.2610254
  12. 【IPEDS・最新の推定】Siita, S. et al. (2026). College test-optional policies and applications, admissions, enrolments, and campus diversity. Applied Economics Letters. DOI: 10.1080/13504851.2026.2721554
  13. 【博士課程・GRE-optional】Kim, H. et al. (2025). GRE-Optional Policies in PhD Admissions. Educational Evaluation and Policy Analysis. DOI: 10.3102/01623737251392929
  14. 【構造推定・エリート大学】Sirolly, A. et al. (2024). The Impact of Race-Blind and Test-Optional Admissions on Racial Diversity and Merit. ACM EC ’24. DOI: 10.1145/3670865.3673637
  15. 【総括レビュー】Camara, W. (2024). Admission Testing in Higher Education: Changing Landscape and Outcomes from Test-Optional Policies. Educational Measurement: Issues and Practice. DOI: 10.1111/emip.12651
  16. 【入試部門の「能力の罠」・57人聞き取り】Bastedo, M. et al. (2025). Dodging the Competency Trap? The Journal of Higher Education. DOI: 10.1080/00221546.2024.2446014
  17. 【カリキュラム抽出型試験】Niessen, A. S. M. et al. (2018). Admission testing for higher education: A multi-cohort study on the validity of high-fidelity curriculum-sampling tests. PLoS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0198746
  18. 【ギャップイヤー・2か国縦断】Parker, P. D. et al. (2015). I wish I had (not) taken a gap-year? Developmental Psychology. DOI: 10.1037/a0038667
  19. 【反証・進学延期者の成績】Birch, E. R. & Miller, P. W. (2007). The Characteristics of ‘Gap-Year’ Students and Their Tertiary Academic Outcomes. Economic Record. DOI: 10.1111/j.1475-4932.2007.00418.x

連載「受験という制度は、人に何をするのか」(全10回)

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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