【連載第1回】「受験に意味はあるのか」を、答えの出る問いに変える——5つの下位問題への分解

「受験に意味はあるのか」を、答えの出る問いに変える

この連載は、全10回で「大学受験をすることの意義」を扱います。

ただし、いきなり答えは書きません。第1回でやるのは、問いの作り直しです。

「受験に意味はあるのか」という問いは、そのままでは答えが出ません。意味という言葉が、少なくとも5つの別々のものを指しているからです。分けないまま議論すると、賛成派と反対派が別のことを話したまま終わります。

一言でいうと(この記事の結論)
「受験の意義」は、検証できる5つの問いに分解できます。
そして——5つは、それぞれ別の答えを出します。ある問いには「効果はほぼゼロ」という答えが、別の問いには「効果は大きい」という答えが出ます [1] [2]
「受験は意味がある/ない」という一つの答えは、存在しません。存在するのは、どの問いに、誰について、何を基準にして答えるかです。

結論を先に7点書きます。

  1. 「受験の意義」は、①行き先の効果 ②準備期間の効果 ③選抜の妥当性 ④代償 ⑤配分の公正、の5つに分かれます。
  2. ①では、大学の選抜度の収益は、自己選択を調整すると多くの層でゼロに近づきました [1]
  3. ただし同じ研究が、低学歴家庭・少数派の学生では効果が大きいまま残ったと報告しています [1]
  4. 別の設計では、待機リストの偶然変動を使って、進学先が上位1%到達確率を50%引き上げたと推定されました [2]
  5. ③では、入試得点は高校成績に対して、ほぼすべての場面で増分的な予測力を持ちました [3]
  6. ④では、52研究のうち48研究が、学業プレッシャーと精神的不調の正の関連を報告しました [4]
  7. そして——④と⑤は、①②③の答えがどうであっても独立に成り立ちます。「効果があるから代償は仕方ない」は、論理として繋がりません。

1. なぜ問いを分解しなければならないのか

ご家庭の面談で、次のような会話がよく起きます。

保護者「こんなに勉強させて、意味があるんでしょうか」
講師「大学によって就職の状況は変わりますから」
保護者「でも、どこに行っても本人次第だと言う人もいます」
講師「それはそうなんですが……」

この会話が噛み合わないのは、両者が正しいからです。

保護者が心配しているのは「この子の1年半と、失われる睡眠と、家庭の空気」です。講師が答えているのは「大学の銘柄と労働市場の関係」です。別の問いに、それぞれ正しく答えているので、いつまでも合流しません。

だから、最初にやるべきは主張の応酬ではなく、問いを分けることです。

2. 5つの下位問題

「受験の意義」を、答えが出る形に切り分けます。

# 問い 何を測れば答えが出るか 本連載の担当回
行き先の効果——どの大学に入るかは、その後をどれだけ変えるか 同じ能力の人が別の大学に行った場合との差(収入・進学・職) 第2回
準備期間の効果——受験勉強そのものが本人に何を残すか 学力以外の指標(自己調整・習慣・転移)の変化 第3回・第5回
選抜の妥当性——入試は、測ると称するものを測れているか 入学後の成績・卒業率の予測力、他指標に対する増分 第4回
代償——受験は本人に何を失わせるか 精神健康・睡眠・人間関係・時間の実測 第6回・第8回
配分の公正——受験は機会を開くのか、閉じるのか 出身階層と結果の関係、制度変更の前後比較 第7回・第9回

一言でいうと(分け方の要点)
①と③は「大学と入試の側」の問いです。
②と④は「本人の側」の問いです。
⑤は「社会の側」の問いです。
——この3つは、互いの答えを決めません。①が「効果ゼロ」でも、②が「大きい」ことはありえます。逆もありえます。

3. ①行き先の効果——同じ研究が、二つの答えを出した

この分野で最もよく引かれるのは、1998年から続く一連の研究です。

Dale と Krueger は、「合格したが進学しなかった大学」の情報を使うという方法を考えました [1]。同じ大学群に合格し、同じ大学群に不合格になった学生どうしを突き合わせ、そのうえで実際の進学先が違う人を比べます。

なぜこれが必要かというと、選抜度の高い大学は、卒業後に稼ぐ資質を持つ学生を選んで入れているからです。その資質は研究者には見えません。見えないまま比較すると、大学の効果と、もともとの資質の差が混ざります。

結果です。

比較の仕方 選抜度の収益
高校成績・入試得点を統制した通常の回帰 大きい
出願先の平均得点で未観測の資質を調整 ゼロと区別できない水準まで落ちた
黒人・ヒスパニック系の学生 大きいまま残った
親の学歴が低い家庭の学生 大きいまま残った

この分析は、自己申告の収入ではなく社会保障局の行政記録に繋ぎ直され、1976年入学と1989年入学の2コホートで、2007年まで追跡して再確認されました [1]

一言でいうと(ここが決定的)
「難関大に行っても収入は変わらない」も、「難関大は人生を変える」も、同じ研究から出ています。
——違うのは「誰について」です。
親が大学に行っている家庭の子には、効果はほぼ消えました。
親が大学に行っていない家庭の子には、効果は残りました。
したがって「うちの子の場合」を決めずに一般論を語ることは、この問いについてはできません。

そして、別の設計は別の答えを出しています。Chetty らは、補欠合格者の合否判定に含まれる偶然のばらつきを使い、旗艦州立大ではなく Ivy-Plus に進学することが収入分布の上位1%に入る確率を約50%高め、上位の大学院進学をほぼ2倍にしたと推定しました [2]

なぜ答えが割れるのかは、第2回で扱います。結論だけ先に言えば、「平均収入」と「上位1%到達率」は別の量であり、比較相手をどこに置くかで符号が変わります。

4. ③選抜の妥当性——入試は何かを測れている

入試批判の定番に「あんな試験で何が分かるのか」があります。この主張は、検証できます。

192の大学のデータを分析した研究は、高校成績のほうが1年次成績の予測力は高いが、入試得点はそれに上乗せする予測力(増分妥当性)を持つと報告しました [3]。そして重要な条件つきの結論があります。

  • 選抜度が低く、平均的な成績を取れるかを見たいとき——高校成績のほうが有用
  • 選抜度が高く、高い水準の成績を取れるかを見たいとき——入試得点のほうが有用
  • ほぼすべての場面で、入試得点は高校成績に対して増分的な有用性を持った [3]

ただし反対向きの証拠もあります。カリフォルニア大学の約8万人を4年間追跡した研究は、高校成績が4年後の成績と卒業の最良の予測因子であり、しかも1年次より4年次のほうが予測の比重が上がったと報告しました [5]

なぜ両方が成り立つのかも、第4回で扱います。鍵は、高校成績と入試得点が、そもそも別のものを測っているという点です——4万7千人の分析では、高校成績の予測力は自己調整の指標で説明され、入試得点の予測力は認知能力の指標で説明されました [6]

5. ④代償——ここだけは、独立に成り立つ

①②③の答えがどうであれ、④は別に問われます。

2023年に発表された系統的レビューは、学業プレッシャーと青年期の抑うつ・不安・自傷・自殺関連の関係を国際的に統合した最初のものです。52研究のうち48研究が、少なくとも一つの精神健康指標との正の関連を報告しました [4]

著者らは同時に、39研究が横断研究であり、因果推論の強さは限られると明記しています [4]この留保は、本連載でも繰り返し出てきます。

一言でいうと(論理の話)
「受験には効果がある。だから代償は受け入れるべきだ」——この推論は成立しません。
成立するのは「効果はこれだけ、代償はこれだけ。差し引きで、この家庭はどう判断するか」という形だけです。
——差し引きを計算するのは、研究ではなく、家庭です。研究にできるのは、両側の数字を揃えることまでです。

6. ⑤配分の公正——同じ制度が、二つの顔を持つ

試験による選抜は、階層を開くのか、固めるのか。

朝鮮王朝の科挙を、5世紀・1万4千人以上の合格者について分析した研究は、両方が同時に起きていたと報告しています [7]

  • 予備試験の成績は、家柄とは独立に、その後の合格を実質的に予測した——選抜としては機能していた
  • 同時に、直接任用・現職者の再受験・臨時試験という別経路が、有力家門を体系的に有利にした
  • 著者らはこれを「層状のメリトクラシー」と呼び、複数の選抜論理の併存が、制度の長寿と最終的な形骸化の両方を説明すると論じています [7]

現代についても同種の指摘があります。学校メリトクラシーへの信念を40か国以上・8万8千人超で調べた研究は、その信念が強いほど、階層間の不平等を不公正だと感じにくくなると報告しました [8]

第7回で、この二面性を正面から扱います。

7. 日本の受験を考えるのに、なぜ海外の研究を使うのか

当然の疑問です。先に答えておきます。

理由は3つあります。

  1. 日本の入試制度を対象にした、因果推論に耐える大規模研究は、数が限られています。行政記録と入試データを接続して追跡する研究基盤が、米国・北欧・韓国ほど整っていません。「日本のデータが無いから語らない」を選ぶと、何も言えなくなります。
  2. 問いの構造は、制度をまたいで共通しています。「選抜度の高い学校に入ることの効果を、自己選択と切り分けて測る」という問題は、国が違っても同じ形をしています。効果の大きさは移植できませんが、測り方と落とし穴は移植できます。
  3. 東アジアについては、比較研究が存在します。中国・韓国・台湾・香港の高利害試験を扱った研究は多く、日本を含む比較も行われています。第6回で扱いますが、「東アジアの受験生は西洋より不安が強い」という通説自体が、実測で疑われています [9]

一言でいうと(読むときの作法)
海外研究は「日本もこうだ」の根拠にはなりません。
使えるのは「この問いは、こう測れば答えが出る」「こういう調整をしないと、こう間違える」という部分です。
——本連載では、日本に当てはめるときは、必ずその旨をことわります。

8. 反証——この連載自身の限界

先に書いておきます。

  1. 本連載が引く研究の大半は日本のものではありません。米国・中国・韓国・台湾・北欧が中心です。制度が違えば、効果量も変わります。日本に当てはめるときは、その都度ことわります。
  2. 効果量は、過大に推定されやすい傾向が知られています。この点は当サイトの再現性の危機の記事で扱いました。数字は「値」ではなく「目安」として読んでください。
  3. 「意義」の一部は、そもそも測れません。18歳の1年間に何を感じたかは、行政記録には残りません。測れないものを「無い」と扱わないことが、この連載の最低限の作法です。

9. 第1回の実務——面談で使える3つの質問

「受験に意味があるのか」と聞かれたとき、答える代わりに聞き返せる質問です。

  1. 「行き先のことですか、それとも準備期間のことですか」——①か②かを分ける
  2. 「変わってほしいのは、収入ですか、進路の選択肢ですか、本人の姿勢ですか」——結果変数を決める
  3. 「今、いちばん心配なのは何が失われることですか」——④を言葉にする

この3つを聞くと、たいてい話は具体的になります。そして具体的になった問いには、研究が部分的に答えられます。

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この連載に関して、理由を3つ書きます。

  1. 「受験には意味があります」と言い切らないこと。当塾は①〜⑤のどれについて話しているかを、面談で先に分けます。分けない説明は、営業です。
  2. 効果が小さい層と大きい層を、区別して伝えること。3節のとおり、同じ研究が層によって別の答えを出しています [1]「みんなに効きます」は、この分野では嘘になります。
  3. 代償の側の数字も出すこと。5節の52研究は、塾にとって都合の悪い結果です [4]都合の悪い数字を出さない塾は、判断の材料を減らしています。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • 「難関大に行く価値」は、うちの家庭の条件だとどう変わりますか
  • この方針で、本人が失うものは何ですか
  • 途中で降りる判断は、いつ、どの材料でしますか

3つ目に答えられない塾は、降りるべき局面でも走り続けます。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 「受験の意義」は、①行き先 ②準備期間 ③選抜の妥当性 ④代償 ⑤配分の公正の5つに分解できます。
  2. ①では、自己選択を調整すると選抜度の収益はゼロに近づきました [1]
  3. ただし低学歴家庭・少数派の学生では、効果は大きいまま残りました [1]
  4. 別設計では、Ivy-Plus進学が上位1%到達確率を約50%高めたと推定されました [2]
  5. ③では、入試得点はほぼすべての場面で高校成績に対する増分的有用性を持ちました [3]
  6. ただし4年後の成績と卒業では、高校成績が最良の予測因子でした [5]
  7. 両立する理由は、両者が別のものを測っているから——高校成績は自己調整、入試得点は認知能力 [6]
  8. ④では、52研究中48研究が学業プレッシャーと精神的不調の正の関連を報告しました [4]
  9. ただし39研究は横断研究で、因果推論の強さは限られます [4]
  10. ⑤では、科挙の500年が「選抜として機能しつつ、別経路が有力家門を有利にした」二面性を示しました [7]
  11. 学校メリトクラシーへの信念は、不平等を不公正と感じにくくする方向に働きました [8]
  12. そして——「受験は意味がある/ない」という単一の答えは、存在しません。存在するのは、どの問いに、誰について、何を基準にするかだけです。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【選抜度の収益・合格者マッチング】Dale, S. B. & Krueger, A. B. (2002). Estimating the Payoff to Attending a More Selective College. Quarterly Journal of Economics. DOI: 10.1162/003355302320935089/同 (2014). Estimating the Effects of College Characteristics over the Career Using Administrative Earnings Data. Journal of Human Resources. DOI: 10.3368/jhr.49.2.323
  2. 【Ivy-Plus・補欠合格の偶然変動】Chetty, R., Deming, D. J. & Friedman, J. N. (2025). Diversifying Society’s Leaders? The Determinants and Causal Effects of Admission to Highly Selective Private Colleges. Quarterly Journal of Economics. DOI: 10.1093/qje/qjaf050
  3. 【増分妥当性・192大学】Sawyer, R. (2013). Beyond Correlations: Usefulness of High School GPA and Test Scores in Making College Admissions Decisions. Applied Measurement in Education. DOI: 10.1080/08957347.2013.765433
  4. 【学業プレッシャーと精神健康・52研究】Steare, T. et al. (2023). The association between academic pressure and adolescent mental health problems: A systematic review. Journal of Affective Disorders. DOI: 10.1101/2023.01.24.23284938
  5. 【反証・高校成績が4年後を予測】Geiser, S. & Santelices, M. V. (2007). Validity of High-School Grades in Predicting Student Success beyond the Freshman Year. CSHE Research & Occasional Paper Series(約8万人・UC)
  6. 【なぜ両立するか・4万7千人】Galla, B. M. et al. (2019). Why High School Grades Are Better Predictors of On-Time College Graduation Than Are Admissions Test Scores. American Educational Research Journal. DOI: 10.3102/0002831219843292
  7. 【科挙500年・層状のメリトクラシー】Park, J. H. et al. (2026). Layered meritocracy: family background and multiple pathways to success in the Joseon civil service examinations, 1393–1894. The History of the Family. DOI: 10.1080/1081602x.2026.2662549
  8. 【メリトクラシー信念と不平等の正当化・40か国超】Batruch, A. et al. (2021). Belief in School Meritocracy and the Legitimization of Social and Income Inequality. Social Psychological and Personality Science. DOI: 10.1177/19485506221111017
  9. 【東アジアの試験不安という通説の検証】Rappleye, J. & Komatsu, H. (2018). Stereotypes as Anglo-American exam ritual? Comparisons of students’ exam anxiety in East Asia, America, Australia, and the United Kingdom. Oxford Review of Education. DOI: 10.1080/03054985.2018.1444598

連載「受験という制度は、人に何をするのか」(全10回)

大学受験の意義を、教育経済学・教育測定・発達心理学・教育社会学の実証研究から検討する全10回の連載です。当サイト初の連載形式の記事です。

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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