模試の順位は小学生の意欲をどう動かすか——上位は伸び下位は沈む、変えるべきは「見せ方」

模試の順位表は、子どものやる気を上げるのか、折るのか

中学受験の模試の結果には、得点だけでなく、偏差値、全体の順位、志望校の中での順位が並びます。塾によっては、クラス内の順位や席順を成績で決めることもあります。保護者の方からは、「順位を見せたほうが本人は燃えるのか、見せないほうがいいのか」というご相談を、ほぼ毎年いただきます。

この問いは、行動経済学と教育心理学で相対的な成績フィードバック(relative performance feedback)、あるいは順位フィードバックとして、近年とくに無作為化試験と自然実験で集中的に研究されてきました。偏差値そのものの読み方は当サイトの別記事で扱っているので、この記事では「順位を知らせること」が子どもの努力と成績をどう動かすかに絞ります。

一言でいうと(この記事の結論)
順位を知らせることは、平均すると成績を上げることがあります。高校の自然実験では、クラス平均との位置を知らせた1年間、成績が5%上がりました [1]
しかし——効果は子どもによって正反対に割れます。全国規模の自然実験で、上位の生徒は標準偏差0.15伸び、下位の生徒は0.3下がりました [3]
——問題は「見せるか見せないか」ではなく、「誰に、いつ、何と比べた形で見せるか」です。小学校の試験では、伸びを点数化した順位にすると、下位の子の意欲と算数の成績が上がり、上位の子も損をしませんでした [4]

結論を6点にまとめます。

  1. 小学校での順位は、能力を統制しても、中学での成績・自信・科目選択に長く影響した [6]
  2. 高校生への相対位置の通知は成績を5%上げたが、通知をやめると効果は消えた [1]
  3. 反証。相対位置の通知で、上位は伸び下位は下がる非対称な反応が出た [3]大学の自然実験では、成績分布の位置を知らせると成績が下がった [2]
  4. 反証。試験の直前に順位を知らせると成績が下がり、数日前なら上がった(小5・小6相当) [5]
  5. 自分の過去と比べるフィードバックは、他人と比べるフィードバックより自己効力感に有益だった(中1相当) [11]
  6. 伸びを点数化した順位は、下位の子の意欲・努力・算数を上げ、上位の子を損なわなかった(小学生400名) [4]
マインドマップ図解:模試の順位は小学生の意欲をどう動かすか——上位は伸び下位は沈む、変えるべきは「見せ方」
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 順位そのものが、子どもを変える

まず、順位が「情報」以上の働きをするという証拠です。イングランドの全児童生徒のデータを使い、小学校のクラスによって成績の分布が偶然異なることを利用した研究は、小学校でのクラス内順位が、もともとの能力とは独立に、中学での成績に長く続く影響を持つことを示しました。中学では同級生も教師も変わり、小学校での順位を知る人はいないにもかかわらず、成績・自信・科目選択に大きな効果があり、とくに男子で顕著でした [6]

著者らは、効果の仕組みとして学習そのものより非認知的な経路(自信など)を支持する結果を得ています [6]

中国の中学校で、生徒と教師がクラスに無作為に割り振られることを利用した研究も、同じ入学時の成績でも、クラス内で高い順位になった生徒はその後の成績が大きく伸びることを示しました。効果は順位が本人と親に目立つほど大きく、順位の高い生徒は自主学習の時間が長くなっていました。そして効果の経路は、①本人の自己認識と自信、②親が順位をよく理解し、勉強への要求と期待を高めること、の2つがほぼ同程度で、合わせて成績の伸びの47.70%を説明しました [7]

一言でいうと
順位は、子どもの自信と、親の関わり方を通じて、成績を動かします [6][7]
——つまり、模試の順位表は、子どもだけでなく保護者の行動も変える装置です。この記事の後半で、その使い方を考えます。

2. 順位を知らせると、成績は上がるか——支持する研究

研究 対象・デザイン 結果
Azmat & Iriberri [1] 高校の自然実験。1年間だけ、クラス平均より上か下か、その距離を通知(評価は絶対評価のまま) 成績が5%上昇、分布全体で有意。通知をやめると効果は消えた。外部採点の全国試験でも確認
Dobrescu ら 2021 [8] 大学生数千名の1年間の無作為化試験。オンライン課題で順位を個別にリアルタイム通知 その科目の全試験の平均点が標準偏差0.21上昇。分布のどの位置でも効果。仲間との交流が増えた

高校の結果で注目したいのは、通知をやめると効果が消えたことです [1]。順位の通知は、学力そのものを積み上げるというより、見せている間だけ努力を引き出す働きをしていた可能性があります。

3. 反証——順位は、子どもを二つに割る

ここからは、順位の通知に否定的な、あるいは条件つきの証拠です。

(1)上位は伸び、下位は沈む。一部の学年・一部の科目でだけ、校内と全国での相対的な成績が生徒に知らされた大規模な自然実験では、反応が非対称でした。上位の生徒は最終学年の成績が標準偏差0.15伸びた一方、下位の生徒は0.3下がりました女子は能力のどの水準でもより落胆しやすかったとされます。長期的にも、上位の生徒はより選抜性の高い学科に進み予想年収も上がった一方、下位の生徒では結果が負でした [3]

(2)知らせると、かえって下がることがある。大学生に、3年間、半年ごとに成績分布での位置を知らせた自然実験では、成績の透明化が、合格科目数と成績平均を下げました。一方、試験前の満足度は上がりました。通知がなければ多くの学生が自分の位置を低く見積もっており、成績低下はそうした「低く見積もっていた学生」で起きていました。実際より高く思っていた学生は、むしろ前向きに反応する傾向でした。ただし効果は短期的で、卒業時には差がなくなっていました [2]

(3)「平均より上」と言われたときだけ効く。大学1年生への無作為化実験とその追試では、相対位置のフィードバックが成績を上げたのは、「過去に平均より上だった」と知らせた場合だけでした [12]

(4)下位を守る工夫が、上位を損なう。成績の近い学生どうしで小さなリーグを作り、その中で順位を示す試験では、下位の学生は試験成績が標準偏差0.27上がりましたが、ストレスも増えました。そして上位の学生は、課題では頑張ったものの、試験成績は0.25下がりました [9]

(5)知らせるタイミングで、符号が変わる。中等学校の5・6年生(日本の小5・小6に近い年齢)に、前回の数学の順位(水準)や順位の変化を知らせた実地実験では、学期末の数学の試験の数日前に知らせると成績が上がり、直前に知らせると下がる傾向でした。このパターンは順位の水準の通知で全般に、順位の変化の通知では順位が下がったという通知で見られました。効果は主に男子によるもので、男子は通知を受けて自分の能力についての見込みを下方修正していました [5]

(6)順位を知りたくない学生もいる。経済学入門の授業で、中間試験の順位を知るために支払う額・知らないために支払う額を尋ねた研究では、10%の学生が順位を知らないためにお金を払う意思を示しました。無作為に順位を知らせても、最終成績への全体的な効果は見られませんでした [13]

一言でいうと(反証のまとめ)
順位の通知の効果は、平均ではなく「分布」で見る必要があります。上位を伸ばし下位を沈める [3]、自分を低く見ていた子を下げる [2]、試験直前だと逆効果 [5]——。
——「クラス全体の平均点が上がった」は、下位の子が沈んだことを隠しているかもしれません。

4. 何と比べるか——自分の過去か、他人か

比べる基準を変える研究もあります。

中国語圏の中学生を対象にした2つの研究では、英語の接頭辞の学習でテストに失敗した後のフィードバックを操作しました。中2相当の79名では、総括的な評価(点数や判定)を受けた生徒のほうが、次に何をすればよいかを示す形成的な評価を受けた生徒より、自己効力感が大きく低下しました。中1相当の77名では、自分の以前の成績と比べる形のフィードバックが、他の生徒と比べるフィードバックより、自己効力感に有益でした [11]

小学校での試験は、この考えを順位に組み込みました。400名の児童を学級単位で無作為に分けた試験で、算数のeラーニングの中で、成績そのものではなく「個人の伸び」を点数化して順位を示す方式を導入したところ、下位の児童の意欲・努力・算数の成績が有意に上がり、上位の児童は損をしませんでした。下位の児童のうち、点数を多く得て順位を上げた子ほど意欲と成績の伸びが大きく、効果は女子でとくに強かったと報告されています [4]

点数そのものか順位かについては、大学生への実験で、絶対的な点数のフィードバックは満足感や感情に強く一貫した影響を与えた一方、相対的な位置(パーセンタイル)の影響は弱いか有意でなかったという結果もあります [14]。小中高の児童生徒を対象にしたメタ分析では、成績評価(評点)はフィードバックなしと比べて学業成績を上げたが意欲には負の影響があり、コメントを受けた場合と比べると成績も意欲も劣っていました [10]

一言でいうと
「何位だったか」より「前回の自分からどれだけ伸びたか」を中心にすると、下位の子を沈めずに済みます [4][11]
——そして、点数や判定だけより、次に何をするかのコメントを添えるほうが、成績と意欲の両面で有利でした [10]

5. 実務——模試の結果の見せ方

研究を踏まえ、「誰に」「いつ」「何と比べて」を家庭で設計します。

  1. 模試の結果は、次の模試の直前ではなく、返却後すぐ〜数日以内に一緒に見る。試験直前の順位の通知は逆効果になりえました [5]。次の試験の前日に「前回は何位だったから」と言うのはやめます。
  2. 最初に見るのは順位ではなく、前回との差。保護者が結果表を先に見て、「前回より上がった教科・単元」を1つ、「次に直す単元」を1つ書き出してから子どもに渡します。自分の過去との比較が中心です [4][11]
  3. 点数・順位だけで終わらせず、コメントを1行添える。「割合の文章題の途中式が書けるようになった。次は図形の面積比」のように、次の行動を書きます [10]
  4. 子どもが自分の位置をどう見ているかを先に聞く。結果を見る前に「今回は何番くらいだと思う?」と聞きます。低く見積もりがちな子に順位を突きつけると成績が下がることがありました [2]
  5. 順位が大きく下がったときは、特に慎重に。順位が下がったという通知のタイミングで成績が左右され、能力の見込みの下方修正も起きていました [5]。「どの単元で落としたか」に話を移します。
  6. 保護者自身の反応を点検する。順位の効果の約半分は、親の期待や要求の変化を通じていました [7]。順位が上がっても下がっても、翌週の声かけや勉強時間の要求を急に変えない、と先に決めておきます。

この記事で言えないこと

  • 日本の中学受験模試での効果。引用した研究は欧州・中国・英国などの学校や大学が対象で、日本の模試の偏差値・順位表を検証したものはありません。
  • 「見せない」ことの長期的な影響。順位の非通知が数年単位でどう効くかは、本記事の研究からは言えません。大学の研究では、効果は卒業時に消えていました [2]
  • 小学生の年齢での非対称な反応の大きさ。上位と下位で反応が割れる大規模な証拠 [3] は高校生が対象で、小学生で同じ大きさの差が出るかは不明です。

当塾の立場

まず、塾に来なくても家庭でできることです。模試の結果は返却後すぐに見る、前回との差から話す、コメントを1行添える、子どもの自己評価を先に聞く、保護者の反応を先に決めておく——5節の手順は、結果表とメモ用紙があれば家庭で実行できます。

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 集団の順位ではなく、個人の伸びを基準にできること。伸びを点数化した順位は、下位の子を沈めずに意欲と成績を上げました [4]。1対1の指導では、比べる相手を前回の本人に固定できます。
  2. 順位の数字を「次に直す単元」に翻訳できること。点数だけの評価より、コメントを伴う評価のほうが成績も意欲も有利でした [10]。模試の誤答を単元に分解し、次の授業の内容に変えるのは講師の仕事です。
  3. 子どもの受け止め方の違いに合わせられること。同じ順位の通知でも、上位と下位 [3]、自分を低く見る子と高く見る子 [2] で反応は逆でした。どう伝えるかを子どもごとに変えられます。

塾を選ぶ際は、次の3つを聞いてみてください。

  • クラス内の順位や席順を、どういう目的で使っていますか
  • 成績が下がった子に、順位をどう伝えていますか
  • 模試の結果を、次の授業の内容にどうつなげていますか

まとめ

  1. 小学校での順位は、能力と独立に中学の成績・自信に長く影響した [6]順位の効果の約半分は親の関わりを通じていた [7]
  2. 相対位置の通知は平均では成績を上げたが [1][8]、通知をやめると消えた [1]
  3. 反証。上位は伸び下位は沈む [3]、低く見積もる子は下がる [2]、平均より上と言われたときだけ効く [12]
  4. 反証。試験直前の通知は逆効果になり、順位低下の通知でも同じ傾向だった [5]
  5. 自分の過去との比較 [11]、伸びを点数化した順位 [4]、コメントつきの評価 [10] が、下位の子を沈めない形だった。
  6. 模試の結果は、返却後すぐに、前回との差から、次の行動の1行とともに見る。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【高校の自然実験・成績5%上昇】Azmat & Iriberri (2009). The Importance of Relative Performance Feedback Information: Evidence from a Natural Experiment Using High School Students. SSRN Working Paper. DOI: 10.2139/ssrn.1428283
  2. 【反証・大学で成績が低下】Azmat, Bagues, Cabrales & Iriberri (2019). What You Don’t Know…Can’t Hurt You? A Natural Field Experiment on Relative Performance Feedback in Higher Education. Management Science. DOI: 10.1287/mnsc.2018.3131
  3. 【反証・上位と下位の非対称な反応】Goulas, S. & Megalokonomou, R. (2021). Knowing who you actually are: The effect of feedback on short- and longer-term outcomes. Journal of Economic Behavior & Organization. DOI: 10.1016/j.jebo.2021.01.013
  4. 【伸びを点数化した順位・小学生400名】Hermes, H., Huschens, Rothlauf & Schunk (2019). Motivating Low-Achievers—Relative Performance Feedback in Primary Schools. SSRN Working Paper. DOI: 10.2139/ssrn.3411429
  5. 【反証・通知のタイミングと枠組み】Fischer, M. & Wagner (2023). Do timing and reference frame of feedback influence high-stakes educational outcomes? Economics of Education Review. DOI: 10.1016/j.econedurev.2023.102379
  6. 【小学校の順位の長期的影響・イングランド全数】Murphy, R. & Weinhardt (2018). Top of the Class: The Importance of Ordinal Rank. NBER Working Paper. DOI: 10.3386/w24958
  7. 【目立つ順位と親の経路・中国の中学校】Megalokonomou, R. & Zhang (2024). How good am I? Effects and mechanisms behind salient rank. European Economic Review. DOI: 10.1016/j.euroecorev.2024.104870
  8. 【大学生の無作為化試験・0.21 SD】Dobrescu, L., Faravelli, Megalokonomou, R. & Motta (2021). Relative Performance Feedback in Education: Evidence from a Randomised Controlled Trial. The Economic Journal. DOI: 10.1093/ej/ueab043
  9. 【反証・リーグ制で上位が低下】Chen, J., Dobrescu, L., Foster & Motta (2024). Can leagues mitigate the demoralization effect of rank feedback? A randomized controlled trial. Labour Economics. DOI: 10.1016/j.labeco.2024.102602
  10. 【評点とコメントのメタ分析】Koenka, A. C., Linnenbrink-Garcia, Moshontz et al. (2019). A meta-analysis on the impact of grades and comments on academic motivation and achievement: a case for written feedback. Educational Psychology. DOI: 10.1080/01443410.2019.1659939
  11. 【自己参照と他者参照・中学生】Chan, J. C. Y. & Lam, S. (2008). Effects of different evaluative feedback on students’ self-efficacy in learning. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-008-9077-2
  12. 【反証・平均より上の通知だけが効く】Brade, R., Himmler & Jäckle (2022). Relative performance feedback and the effects of being above average — field experiment and replication. Economics of Education Review. DOI: 10.1016/j.econedurev.2022.102268
  13. 【反証・順位を知りたくない学生】Castagnetti, A. & Rury, D. (2023). Student Demand for Relative Performance Feedback: Evidence from a Field Experiment. EdWorkingPaper No. 23-735. ERIC: ED672231
  14. 【絶対的な点数と相対的な位置】Zhao, Q. (2022). Absolute standing feedback is more influential than relative standing feedback. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000676

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