加持祈祷事件

判例

傷害致死被告事件
【事件番号】 最高裁判所大法廷判決/昭和36年(あ)第485号
【判決日付】 昭和38年5月15日
【判示事項】 加持祈祷という宗教行為によつて病気治療行為をなし被害者を死に致した者の刑事責任―憲法第二〇条一項の趣旨
【参照条文】 憲法20
  憲法21
  刑法205
  刑法35
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集17巻4号302頁
  最高裁判所裁判集刑事147号217頁
  判例タイムズ145号168頁
  判例時報335号11頁
【評釈論文】 警察研究35巻6号114頁
  別冊ジュリスト21号32頁
  別冊ジュリスト37号10頁
  別冊ジュリスト44号38頁
  別冊ジュリスト68号46頁
  別冊ジュリスト95号66頁
  別冊ジュリスト109号12頁
  別冊ジュリスト245号86頁
  東洋法学8巻2号148頁
  法曹時報15巻9号152頁
  法律のひろば16巻8号21頁

       主   文

本件上告を棄却する。 理   由 弁護人小林康寛の上告趣意第一、第三および第五について。 所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張てあつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論は、原裁判所は予断偏見を抱いて証拠調をし、重大な事実誤認をしていると主張するが、記録を調べても、原裁判所が論旨のように予断偏見を抱いて証拠調をし、事実の認定をしたと認むべき証跡は見出だし得ず、所論はひつきよう原裁判所の裁量に属する証拠の取捨、判断および事実の認定を非難するに帰する。また、上告趣意第五中に、司法警察員作成の昭和三三年一〇月二五日付検証調書の内容である検証は、宗教的所作を、宗教を伴わないで再現しようとしたものであつて、宗教に対する冒涜であるから、かかる検証調書は、証拠能力を有しない旨の主張があるが、捜査の必要上、宗教行為としてでなく、宗教的行事の外形を再現したからといつて、その一事をもつてそれが宗教に対する冒涜であり、その状況を記載した検証調書が証拠能力を有しないものであるということはできない。のみならず、右調書を証拠に供することについては、被告人側の同意がなされていることが記録上―記録三五五丁―明らかであり、これを不同意の書証であるとの所論は誤りである。) 同第二、第四および第六について。
所論中憲法違反の主張につき考えるに、憲法二〇条一項は信教の自由を何人に対してもこれを保障することを、同二項は何人も宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されないことを規定しており、信教の自由が基本的人権の一として極めて重要なものであることはいうまでもない。しかし、およそ基本的人権は、国民はこれを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うべきことは憲法一二条の定めるところであり、また同一三条は、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする旨を定めており、これら憲法の規定は、決して所論のような教訓的規定というべきものではなく、従つて、信教の自由の保障も絶対無制限のものではない。
 
 これを本件についてみるに、第一審判決およびこれを是認した原判決の認定したところによれば、被告人の本件行為は、被害者Aの精神異常平癒を祈願するため、線香護摩による加持祈祷の行としてなされたものであるが、被告人の右加持祈祷行為の動機、手段、方法およびそれによつて右被害者の生命を奪うに至つた暴行の程度等は、医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認め得ないというのである。しからば、被告人の本件行為は、所論のように一種の宗教行為としてなされたものであつたとしても、それが前記各判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、被告人の右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであつて、憲法二〇条一項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかはなく、これを刑法二〇五条に該当するものとして処罰したことは、何ら憲法の右条項に反するものではない。これと同趣旨に出た原判決の判断は正当であつて、所論違憲の主張は採るを得ない。
その余の論旨は、単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、被告人の本件行為が、刑法三五条の正当な業務行為と認め難いとした原判決の判示は、その確定した事実関係の下においては、当裁判所もこれを正当と認める。) 記録を調べても、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。 よつて、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 昭和三八年五月一五日 最高裁判所大法廷 裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎 裁判官    河   村   又   介 裁判官    入   江   俊   郎 裁判官    池   田       克 裁判官    垂   水   克   己 裁判官    河   村   大   助 裁判官    下 飯 坂   潤   夫 裁判官    奥   野   健   一 裁判官    石   坂   修   一 裁判官    山   田   作 之 助 裁判官    五 鬼 上   堅   磐 裁判官    横   田   正   俊 裁判官    斎   藤   朔   郎 裁判官    草   鹿   浅 之 介

ポイント

「被告人の行為が、一種の宗教行為としてなされたものであったとしても、他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、被告人の右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ない」

②肯定例→牧会活動事件(神戸簡判昭50.2.20)

「内面的な信仰と異なり、外面的行為である牧会活動が、その違いの故に公共の福祉による制約を受ける場合のあることはいうまでもないが、その制約が、結果的に行為の実体である内面的信仰の自由を事実上侵すおそれが多分にあるので、その制約をする場合は最大限に慎重な配慮を必要とする」

→少年の魂への配慮に出た行為であるかぎり、全体としての法秩序の理念に反するところがなく、正

当業務行為として罪とならない

調査官解説

一審判決の終定した犯罪事実の概要は、次のとおりである。被告人は、女エ、炊事娼などをしてきたが、昭和二二年頃から真言宗の信者となり、昭和二五年仰藉に入り、昭和三一年寺院を創立してその住瞼となり、その問真言宗信仰方法の一である加持祈詣を修め、病人などの求めに応じその乎癒のため加持祈祗をすることを業としてきた。

柏告人は、昭和三= 1年(一審判決に昭和一=二年とあるのは、誤記と思われる0) 10月初、被害者A 女(死亡当時一八歳)の母や叔母などから、A が急に呉常な言動を示すようになったのでその平癒のため加持祈稿をしてもらいたいと依傾され、約一週間にわたり、経文をとなえ、じゅずで身体をなでるなどして祈踪したが、治りそうにないのをみて、A には大きな迎がついているので線呑緩摩を焚いて加持祈躊をし狸を追い出すよりほかに方法がないと考え、同月一四日午前C蒔面ICぷ“頃A の自宅で、八性、1ハ昼の問を締めきり、八畳間中央に護睾壇をつくり、そこから約半メートル雌れたところにAを位置させ、謎摩壇に線呑を焚き、線香護摩による加持祈摺をはじめたが、A が線香の熱気のため身をもがき暴れ出すと、A の父や従兄にA の身体を取りおさえさぜ、あるいは展紐などでその手足をしばらせたりして、A をむりに護際壇の近くに引き据えて線香の火にあたらせ、また、狸がのどまで出かかっていると称し、Iど狸早く出ろ」とどなりながらA の咽喉部を線香の火でけむらせ、その苛中をおさえつけ、手でなぐるなどし、午前四時頃までに線香約八〇をもやしつくしたが、その問被告人などは熱気と煙にいたたまらず、途中で室外に逃れ休息などしたのにかかわらず、A は終始燃えさかる護塵壌のすぐ傍に引き据えておくなどして暴行を加え、そのためA の全身多数箇所に熱傷および皮下出血を負わせ、これらの受傷による有害分解産物吸収による二次性シ●ックならびに身体激動による疲労困懲などにもとづく念性心臓麻痺により、同日午前四時三0分頃同所で死亡させた。

一審は、右のような事実を認定した上、被告人の所為は刑法二0五条にあたるとして、被告人を懲役二年、三年問執行猶子に処し告人は、事実誤認、法令違反、憲法逃反を主張して控訴したが、二審は、それらの主張をすべて排斥し、控訴を棄却した。

そこで、被告人から、上告の申立があったものである。

上告翰旨を要約すると、次のとおりである。

日原判決には、予断偏見、審理不尽、経験則遠反、採証法則違反があり、その結果事実誤認がある(もっとも、所論のいう予断偏見、審理不尽、経験則違反、採証法則違反の具体的内容は、明確でなく、また、所論のいうホ実誤跨の具体的内容も、あまり明確でない。ただ、このうちには、司法誓察員作成の検証調書の内容である検証は、宗教的所作を宗教を伴わないで再現しようとしたものであって、宗教に対する冒漬であるから、かかる調害は、証処能力を有しない旨の主張、および、被告人には、暴行の意思はなかった旨の主張がある。

(2)被告人の行為を罰することは、憲法二0条一項の信教の自由を侵害する。

(3)被告人の行為は、刑法三五条の正当行為であ

当審(大法廷)は、論旨け国はすべて事実誤忽、単なる法令違反の主張であって刑訴四0五条の上告理由にあたらない(なお、被告人の行為は正当な業務行為と認め難い)とし、詮旨⇔については、憲法―二条、一三条によると、信教の自由の保障も絶対無剃限のものではなく、被告人の行為は、宗教行為としてなされたものであったとしても、他人の生命、身体などに危害を及ぽす違法な布形力の行使にあたるものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、著しく反社会的なものであって、信教の自由の保隊の限界を逸脱したものであり、これを処罰することは憲法二0条一項に逢反しないとして、上告を棄却した。本判決は、信教の自由に関する袋初の設高裁判例であるが、本件被告人の行為を処罰することが憲法二0条一項に違反しないという本判決の結論には、ほとんど異論をさしはさむ余地はないように思われる。ただ、本判決は、信教の自由の保障も絶対無制限のものではないとして右結論を海いているが、学説には、信教の自由の保諾は絶対的であって制限することは許されないとする説もある(法学協会・注解日本国憲法上巷四一四頁)。しかし、かような説でも、宗教行為は絶対に処罰することができないというのではなく、著しく反社会的な行為については、信教の自由の保障に含まれないとの理由で、処罰することを妨げないと解しているから、実烈的には、本判決の見解とさほどの差異はない。問題は、宗教行為を処罰することのできる限界をどこに求めるかの点にあるが、この点については、今後の判例の集積にまつ外はないと思われる。類似の判例として、言論の自由に関するものであるが、他人の名営を毀損することは言論の自由の範囲内に属しないとした判例(昭和=二年七月四日大法廷判決、天梨ー0巻七号七八五頁)がある。なお、本件の鳩合、被告人が本件行為によって被害者の病気が治ると信じていた以上暴行の故意の成立を阻却するのではないかという問題がある。結澁としては、故意を認めてよいと思われるが、本判決は、この点については、触れていない。

(山本一郎)

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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