社会の複数資料問題——資料を突き合わせて読む力
高校入試の社会では、統計表・グラフ・地図・文章資料などを複数並べ、それらを組み合わせて初めて答えが出る問題がよく見られます。一つひとつの資料は読めるのに、「資料Ⅰと資料Ⅱから読み取れることを書きなさい」と言われると手が止まる——これは暗記量の問題ではなく、資料と資料を関係づける技能の問題です。
読解研究では、この技能を複数文書の理解(multiple-document comprehension)と呼び、その中核に二つの力を置いています。資料の出どころ(誰が・いつ・どんな目的で作ったか)に注意を払う「出典の吟味(sourcing)」と、複数の資料の情報を結びつける「資料間の統合(intertextual integration)」です。
この記事は、この二つの力が学習にどう効くのか、教えられるのか、そしてどんな条件で効かないのかを、研究から整理します。
一言でいうと(この記事の結論)
資料間の統合は教えられ、効果量は中〜大と報告されています [8]。出典を吟味する指導も、6週間で別の話題への遠い転移を生み、5.5週間後まで持続しました [6]。
ただし、効果が出た生徒は技能によって4〜25%にとどまった研究もあり [7]、資料を見ながら答えられることの利点は、翌日の想起では消えました [14]。
——「出どころを書く」「一致と食い違いを1つずつ探す」「資料を閉じて言い直す」を、別々の手順として練習することが要ります。
- 出典を覚えている学生ほど、文書内・文書間の深い理解が高かった(事前知識・興味を統制) [2]。
- 18の介入研究のレビューで、部分的に食い違う複数文書を使うことは成果と正に関連していた [5]。
- 高校生246人の実験で、複数の文書を読んだ生徒は、教科書を読んだ生徒より歴史の内容の得点が高く、出典の吟味と突き合わせを多く使った [9]。
- 高校での6週間の出典指導は、別の話題・状況への遠い転移課題で効果を示し、5.5週間持続した [6]。
- 食い違う主張の解消を促された読み手は、論争の理解と資料間の関係の理解で上回った [12]。
- 反証として、要約を書かせる課題のほうが、論証文を書かせる課題より理解と統合が良いことがあった [13]。
- 反証として、中学生151人の実験で、議論の型を使った群は歴史的推論では上回ったが、読解と一般的な作文力は比較群と同程度だった [11]。

1. なぜ「出どころ」を見ると理解が深まるのか
ある研究は、気候変動の原因と対策について異なる立場の文書を学生に読ませ、出典の記憶(どの主張がどの文書にあったか)と理解の関係を調べました。事前知識、興味、文章の分かりやすさの感じ方を統制しても、出典の記憶は、文書内の推論と文書間の推論の両方の深い理解を予測しました [2]。
学生に6つの食い違う文書を検索画面のような環境で読ませ、考えていることを声に出させた研究では、学生は文書の出典にも文書内で引用された出典にも注意を払い、その注意は内容の評価・予測・解釈に使われていました。最も強く対立する2つの文書で、出典への注意が最も多く見られました [3]。
中学生165人の研究では、出典の吟味は「出典の特定」「著者の専門性」「サイト選びの判断」の3次元に分かれ、事前知識や読解力などを統制したあと、資料間の統合と関連していたのは「著者の専門性」への注意だけでした [4]。
一言でいうと
「この資料は誰が何のために作ったか」を意識することは、内容の理解そのものと結びついています [2]。
——中学生でも、特に作り手の専門性に目を向けることが、資料を結びつける力と関係していました [4]。
2. 教科書1冊より、複数の資料で学ぶ
米国の2つの高校で、16〜17歳の生徒246人の8学級を4条件に無作為に割り当てた研究があります [9]。
| 内容の指導 | 方略(出典の吟味・突き合わせ・文脈化)の指導 | |
|---|---|---|
| 教科書 | 条件a | 条件b |
| 複数の文書 | 条件c | 条件d |
3週間の介入後、指導の種類にかかわらず、複数の文書を読んだ生徒は教科書を読んだ生徒より歴史の内容の得点が高く、出典の吟味と突き合わせ(corroboration)をより多く使っていました [9]。
ここで注目したいのは、「複数の資料で学ぶ」ことが、方略の使用だけでなく内容の知識も伸ばした点です。資料問題の練習は、暗記と対立するものではありません。
サンフランシスコの5校で6か月にわたって行われた「歴史家のように読む(Reading like a Historian)」の介入では、歴史的思考、事実の知識、一般的な推論、読解の4つの量的測定すべてで主効果が見られました。その中心にあったのは、講義・発問・個人作業・グループ作業・全体討論という社会科の授業の従来の形を、予測可能で繰り返せる順序に組み直した「文書に基づく授業」でした [10]。
コンピューター上で出典の吟味と突き合わせを教えるシステムを使った高校生・大学生の研究でも、通常の授業や教科書中心の同内容の学習と比べ、転移テストでの出典の吟味・文脈化・突き合わせが向上し、その話題についてより良い小論文を書きました [15]。
3. 出典の吟味と統合は、教えられるか
レビュー:統合は中〜大の効果量で教えられる
複数の文章の統合をどう促すかを扱った系統的レビューは、小学5年から大学までの研究を整理し、複数の文章をめぐる協働での話し合い、統合の明示的な指導、統合の手本を見せること、図解の枠組み、単一の文章の要約や書き込みなどの実践を特定しました。そして統合は教えることができ、効果量は中程度から大きいと結論しています [8]。
出典の吟味を対象とした18の介入研究のレビューは、低学年向けの介入は出典の信頼性を、高学年向けは解釈における出典の役割も重視していたと整理し、部分的に食い違う複数の文書を使う条件が成果と正に関連していたと報告しました [5]。
高校での6週間の介入
高校で、研修を受けた教師が6週間にわたり、対比事例(出典の信頼性が異なる事例を並べて比べる)を使って出典の吟味を教えた準実験では、介入を受けた生徒は通常の授業の生徒と比べて、次の点で上回りました [6]。
- 文章を選ぶときに出典情報をより重視した
- 選んだ文章の処理に、より多くの時間と労力をかけた
- 文章中の考えを、それぞれの出典により頻繁に帰属させた
- これらの効果は、異なる話題・状況・目的の「遠い転移」課題で見られ、5.5週間持続した
食い違いを解消させる
2つの実験を行った研究では、2つの文章の主張の食い違いを解消するよう促された読み手は、主張を理解するよう促された読み手より、論争の主題の理解と文章間の関係の理解で上回り、両方の文章の両立する情報・両立しない情報をより多く想起しました [12]。
4. 【反証】効く生徒は限られ、効き方も一様ではない
反証1:伸びた生徒は一部だった
高校生365人に、ネット上での調べ学習の段階(探す・評価する・統合する・伝える)に沿った75分×4回の教師主導の介入を行った研究では、測定した4つの技能のうち3つで統制群を上回ったものの、成績が向上した生徒は技能によって4〜25%でした。一方で、もともと出典の吟味が弱かった生徒ほど、介入から多くを得ていました [7]。
反証2:議論の型は、読解や作文一般を伸ばさなかった
中学生151人が一次資料を読んで話し合い、論証文を書く実験では、議論の型と批判的な問いを使った群は、歴史の内容の学習と、論証文における歴史的推論の質で上回りました。しかし読解と一般的な作文の測定では、比較群と同程度でした [11]。
反証3:「論証を書け」が常に良いわけではない
学部生に科学の話題の7つの文章を読ませた研究では、要約を書くよう指示したほうが、論証文を書くよう指示するより、理解と統合が良くなることがありました。この効果は、知識の確実性についての信念によって調整される場合もありました [13]。
反証4:資料を見ながら答えられても、覚えてはいない
中等学校の生徒70人が歴史の3つの説明文を読み、文書内・文書間の問いに答えた研究では、文章を見ながら答えると文書内の問いの成績は高かったが、その優位は24時間後の自由再生では消えました。読解力の高い生徒は、文章を見られる条件でより高い得点を取り、再生でもより多くの考えを思い出しました [14]。
反証5:生徒が「歴史家のように読む」ことには壁がある
研究の統合から、小学校高学年から大学生まで共通する4つの壁が指摘されています。①文書の分析は生徒の認知資源の限界を超える、②背景知識が限られ、持っている知識も誤用する、③世界の見方が素朴である、④歴史を学ぶことの意味を誤解している [16]。
個人差の研究を系統的に検討したレビューも、理論モデルが想定する個人差と出典の吟味の関係は、実証的な裏づけがかなりあいまいで、関係は測定法や話題によって変わりうると結論しています [1]。
一言でいうと(反証のまとめ)
資料を突き合わせる指導は効きますが、伸びる生徒と伸び方は限られます [7] [11]。
——そして背景知識が乏しいと、資料を読む作業そのものが認知資源を使い切ってしまいます [16]。資料問題の練習は、知識の学習の代わりにはなりません。
5. 実務——資料問題を解く前の「3行メモ」
過去問や問題集の資料問題1題につき、10〜15分でできる手順です。週2〜3題を目安にします。
- 出どころを1行で書く(2分)。各資料の横に「統計(国の調査・年)」「地図(どの範囲)」「当時の人の文章(立場)」のように、誰が・いつ・何の資料かを10字程度で書きます。出典の記憶は理解を予測しました [2]。
- 一致と食い違いを1つずつ探す(3分)。「資料ⅠとⅡで同じことを示している点」と「合わない、または片方にしかない点」を1つずつ書きます。食い違いの解消を促すと統合が進みました [12]。
- まず要約、それから答え(3分)。いきなり設問の答えを書かず、「2つの資料を合わせると何が言えるか」を2文で要約してから答えます。要約課題が統合を助けることがありました [13]。
- 資料を閉じて言い直す(2分)。答え合わせの後、資料を見ずに「どの資料のどこから、何が言えたか」を口で言います。資料を見ながら答えられた利点は翌日には消えていたからです [14]。
背景知識の復習は別に確保してください。知識が乏しいと資料の分析は認知資源の限界を超えます [16]。目安として、資料問題の練習時間と同じだけ、教科書の該当単元の確認に時間を使います。
この記事で言えないこと
- 引用した研究の多くは、歴史の文書や科学の説明文を扱っています。統計表・グラフ・地図を組み合わせる入試の資料問題に、同じ効果がそのまま出るかは分かりません。
- 対象の多くは高校生・大学生です [2] [3] [13]。中学生の研究 [4] [11] は限られます。
- 統合の指導の効果量「中〜大」 [8] は、レビューが示した大まかな範囲です。具体的な数値は抄録に示されていません。
- 「3行メモ」の手順そのものを検証した研究はありません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできることがあります。
- 資料ごとに「誰が・いつ・何の資料か」を書き添える
- 2つの資料の一致と食い違いを1つずつ探す
- 答える前に2文で要約する
- 答え合わせの後、資料を閉じて根拠を言い直す
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 資料問題の失点を、知識不足と読み取りの問題にどう分けて診断しますか
- 複数の資料を「突き合わせる」練習を、どういう手順で行いますか
- 資料問題の練習と、知識の学習の時間をどう配分しますか
まとめ
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【反証・個人差研究の系統的レビュー】Anmarkrud, Ø., Bråten, I., Florit, E. & Mason, L. (2022). The Role of Individual Differences in Sourcing: A Systematic Review. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-021-09640-7
- 【出典の記憶と深い理解】Strømsø, H. I., Bråten, I. & Britt, M. A. (2010). Reading multiple texts about climate change: The relationship between memory for sources and text comprehension. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2009.02.001
- 【自発的な出典の吟味・発話思考】Strømsø, H. I., Bråten, I., Britt, M. A. & Ferguson, L. E. (2013). Spontaneous Sourcing Among Students Reading Multiple Documents. Cognition and Instruction. DOI: 10.1080/07370008.2013.769994
- 【中学生165人・著者の専門性と統合】Incognito, O. & Tarchi, C. (2024). The association between sourcing skills and intertextual integration in lower secondary school students. European Journal of Psychology of Education. DOI: 10.1007/s10212-023-00750-0
- 【出典指導の介入18研究のレビュー】Brante, E. W. & Strømsø, H. I. (2018). Sourcing in Text Comprehension: A Review of Interventions Targeting Sourcing Skills. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-017-9421-7
- 【高校での6週間の出典指導】Bråten, I., Brante, E. W. & Strømsø, H. I. (2019). Teaching Sourcing in Upper Secondary School: A Comprehensive Sourcing Intervention with Follow-Up Data. Reading Research Quarterly. DOI: 10.1002/rrq.253
- 【反証・伸びたのは4〜25%・365人】Hämäläinen, E. K., Kiili, C., Räikkönen, E. & Lakkala, M. (2023). Teaching sourcing during online inquiry – adolescents with the weakest skills benefited the most. Instructional Science. DOI: 10.1007/s11251-022-09597-2
- 【資料間統合の指導・系統的レビュー】Barzilai, S., Zohar, A. R. & Mor-Hagani, S. (2018). Promoting Integration of Multiple Texts: A Review of Instructional Approaches and Practices. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-018-9436-8
- 【複数文書と教科書・高校生246人】Nokes, J. D., Dole, J. A. & Hacker, D. J. (2007). Teaching high school students to use heuristics while reading historical texts. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/0022-0663.99.3.492
- 【歴史家のように読む・文書に基づく授業】Reisman, A. (2012). The ‘Document-Based Lesson’: Bringing disciplinary inquiry into high school history classrooms with adolescent struggling readers. Journal of Curriculum Studies. DOI: 10.1080/00220272.2011.591436
- 【反証・読解と作文一般は同程度・151人】Wissinger, D. R. & De La Paz, S. (2016). Effects of critical discussions on middle school students’ written historical arguments. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000043
- 【食い違いの解消と統合】Kobayashi, K. (2015). Learning from Conflicting Texts: The Role of Intertextual Conflict Resolution in Between-Text Integration. Reading Psychology. DOI: 10.1080/02702711.2014.926304
- 【反証・要約課題が論証課題に勝る場合】Gil, L., Bråten, I., Vidal-Abarca, E. & Strømsø, H. I. (2010). Understanding and Integrating Multiple Science Texts: Summary Tasks are Sometimes Better than Argument Tasks. Reading Psychology. DOI: 10.1080/02702710902733600
- 【反証・見ながら答える利点は翌日に消える】Cerdán, R., Máñez, I. & Serrano-Mendizábal, M. (2021). Reading From Multiple Documents: The Role of Text Availability and Question Type. Reading Research Quarterly. DOI: 10.1002/rrq.380
- 【出典の吟味を教える学習システム】Britt, M. A. & Aglinskas, C. (2002). Improving Students’ Ability to Identify and Use Source Information. Cognition and Instruction. DOI: 10.1207/s1532690xci2004_2
- 【反証・歴史家のように読む4つの壁】Nokes, J. D. (2011). Recognizing and Addressing the Barriers to Adolescents’ “Reading Like Historians”. The History Teacher. ERIC: EJ936550
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