理科の計算——比例推論(proportional reasoning)はどう育つか
中学理科で「計算が苦手」と言う生徒の多くは、実は計算そのものではなく、何と何が比例しているのかを見抜く段階でつまずいています。密度、質量パーセント濃度、化学変化の質量の比、オームの法則、圧力——中学理科の計算問題の多くは、形を変えた比例の問題です。
数学教育と理科教育の研究では、この力を比例推論(proportional reasoning)と呼び、半世紀以上調べてきました。そこで分かってきたのは、比例推論が「比の計算ができる」ことと同じではないということ、そして比例を覚えた生徒ほど、比例でない場面にまで比例を当てはめてしまうという、逆向きのつまずきがあることです。
この記事は、理科の計算問題の背後にある比例推論の発達と指導の研究を整理し、家庭でできる練習の順序を示します。
一言でいうと(この記事の結論)
比例推論には「比例でない場面を見分ける力」が含まれます [1]。子どもは加法(差で考える)から乗法(比で考える)へ移る途中で、両方を数字の見た目で使い分けてしまう段階を通ります [3]。
問題の「型」を明示する指導は、4か月後まで効果が残りました [10]。
——ただし、比例を長く大量に扱ううちに「どんな関係も比例だ」という誤った信念が育ち [13]、その誤りは学年を問わず持続します [14]。「これは比例か」を判定する練習を、計算練習と同じくらい行う必要があります。
- 比例推論は「類推」「定型の比例問題」「比例でない場面に気づく力(メタ認知的)」の3要素からなるモデルで説明された [1]。
- 小学4年〜高校1年相当755人で、比例の問題に加法を使う誤りは小学校で増えて中等教育で減り、加法の問題に比例を使う誤りは中等教育でも増え続けた [4]。
- 整数比かどうかが、どちらの方法を使うかを強く左右した [3] [4]。
- 中学3年生の理科で、比例推論の水準が上がるほど、てこ・物質の構造などの概念の達成が高かった [5]。
- 中学1年生148人の無作為化研究で、問題の型を教える指導の効果は4か月後も残ったが、州の標準テストでは差がなかった [10]。
- 反証として、比例の誤用を正す10回の授業は多くの生徒で誤用を減らしたが、今度は比例の問題に比例でない方法を使い始める生徒が出た [13]。
- 反証として、中学生935人は拡大図形の面積・体積の問題で成績が低く、一次の比例と非線形の関係を混同していた [15]。

1. 比例推論は「比の計算」ではない
中学1〜3年生に、類推・比例・非比例の3種類のテストを行った研究は、比例推論を3つの要素からなるものとして定式化しました [1]。
| 要素 | 内容 | 理科での例 |
|---|---|---|
| 類推的推論 | 言葉や数の類推を扱う | 「質量が2倍なら、体積が同じとき密度も2倍」と関係を移す |
| 定型の比例 | 欠けた値を求める・比べるといった決まった形の問題を解く | 「水100gに食塩20gなら、水250gには何g」 |
| メタ類推的な気づき | 比例でない場面を見分ける(メタ認知的) | 「電熱線を2本並列にしたら、抵抗も2倍か」を疑う |
著者らの結論は、比例推論は定型の比例問題が解けることと一致するのではなく、比例でない状況を見分ける気づきを含むというものです [1]。
オーストラリアで小学5年〜中学3年相当の2,000人を超える生徒に、答えと理由の両方を問う2段階の診断テストを行った研究も、多くの生徒が比例の方法を適切に使えず、乗法的思考と加法的思考の両方を誤って使い、比例でない状況と比例の状況を区別できないことがあると報告しています [2]。
2. 「差で考える」から「比で考える」へ——そして行き過ぎる
比例推論の発達は、単純な右肩上がりではありません。
小学3〜6年生325人に、加法の構造の問題と比例の構造の問題を半分ずつ出した研究では、低学年では加法を「どこにでも」使い、高学年では比例を「どこにでも」使う方向への発達が見られました。そしてその間に、比例の問題に加法を、加法の問題に比例を同時に使い、問題の数字によって切り替える中間段階を多くの子どもが通っていました [3]。
対象を小学4年〜高校1年相当の755人に広げた研究では、次の傾向が確認されています [4]。
- 比例の問題に加法を使う誤り——小学校で増え、中等教育で減る
- 加法の問題に比例を使う誤り——小学校から中等教育まで増え続ける
- 整数比があるかないかが、この振る舞いを強く左右する。量が離散的か連続的かの影響は小さい
一言でいうと
中学生のつまずきは「比例が分からない」より、「比例を使いすぎる」方向に移っていきます [4]。
——そして生徒は、問題の構造ではなく「数字がきれいに割り切れるか」で方法を選んでいることがあります [3]。整数比の問題ばかり練習していると、この癖は見えません。
3. 理科の成績と、比例推論の関係
理科教育では、比例推論を理科の学習の土台とみなす研究が早くからありました。
中学3年生相当の物理基礎の生徒136人を無作為に抽出し、てんびんなどの課題で比例推論の水準を4群に分けた研究は、比例推論がてこなどの単純な機械、物質の構造、等しい分数の概念の達成の根底にある要因と見られ、比例推論の水準が上がるほど達成が高かったと報告しました。さらに全体の達成水準が上がるほど、比例推論が内容理解にとってより決定的になるようでした [5]。
中学3年生相当に化学・物理の教科書の内容を使って調べた研究では、なじみのある内容の比例問題のほうが、なじみのない内容より成績が高く、なじみの程度は問題の難しさと交互作用していました [6]。
密度は、比例推論が最も問われる概念の一つです。パレスチナ・ヨルダン川西岸の51校の中学1年生1,645人を調べた研究では、通常の授業のあとの密度の理解は乏しいものでした。密度・質量・体積・部分と全体の関係・粒子の考え方を関連づけて2週間教えた介入は中程度の効果を持ち、もともと密度の一部を理解していた生徒ほど多く伸びました。密度の概念は、体積の概念や粒子の考え方と一緒に発達していました [7]。
4. 比例推論は教えられるか
具体物を使った授業
中学1年生の2学級を、物理的な教材を使う群と、教科書の標準的な手順で教える群に無作為に割り当てた研究では、具体物の群のほうが比例推論の達成が高く、1か月後の保持も優れていました [8]。
問題の型を教える指導(スキーマに基づく指導)
ある研究グループは、問題の数学的な構造(型)を重視し、解く過程を自分で監視する手がかりを与え、状況に応じて方略を柔軟に使わせる指導を開発しました。これをスキーマに基づく指導(schema-based instruction)と呼びます。
中学1年生148人の学級を無作為に割り当てた10日間の介入では、指導を受けた学級は、比と比例の文章題で比較群を上回り、その差は4か月後の遅延テストでも残っていました。ただし、州の標準化された数学の学力テストでは、両群の成績は同程度でした [10]。
その後、5学区36校・教師59人・生徒1,492人で行われた追試でも、問題解決の測定で、近いものにも遠いものにも統計的に有意な差が見られ、効果の大きさは先行研究と同程度でした [11]。
問題の見せ方
比例の誤用に抵抗させる工夫としては、図による足場を加え、比べる形の問題にすると、生徒が線形の錯覚に抵抗しやすくなったという報告があります [16]。
一言でいうと
比例推論は教えられます。効果が大きいのは、具体物で関係を見せること [8] と、問題の型を明示すること [10] [11] です。
——ただし、型の指導の効果が一般の学力テストにまで及ぶとは限りません [10]。
5. 【反証】比例を教えるほど、比例を使いすぎる
反証1:線形の錯覚は、しつこく残る
比例は単純で、使える場面が非常に多いため、生徒は「どんな関係も比例で表せる」という誤った信念を持つようになります。研究者はこれを「線形の錯覚(illusion of linearity)」と呼びます。最もよく知られた例が、図形を k 倍に拡大すると、面積や体積も k 倍になるという誤りです [13]。
ある研究は、比例でない問題に比例を当てはめる誤りが偶然ではなく、学年やテストの設定にかかわらず抵抗し、持続し、再び現れることを示し、それを「線形性」という認識論的障害の表れだと結論しました [14]。
中学生935人の研究でも、拡大図形の長さ・面積・体積の非線形の比例問題で成績は低く、使われる方略は限られ、一次の比例と非線形の比例の混同、加法的関係と乗法的関係の取り違えが深刻な障害でした [15]。
反証2:誤りを直すと、反対側の誤りが出る
中学2年生を対象に、線形の錯覚を解くための10回の実験授業を行った研究があります。事前・事後・保持テストで実験群と統制群を比べました [13]。
- 統制群の問題解決の仕方は変わらなかった
- 実験群では、比例でない図形の問題に比例を自動的に使う誤りが大幅に減った
- しかし、すべての問題に比例を使い続ける生徒もいた
- さらに、比例の問題にまで突然、比例でない方略を使い始める生徒もいた
- 著者らは、錯覚は多くの生徒で崩れたが、比例と非比例の状況の深い理解には必ずしもつながらなかったと結論した
反証3:理科の授業を受けても、比例は既定の方略として残る
中学2年生と高校2年生を、物理の該当単元を学ぶ前と後で調べた研究では、該当する物理の内容を扱う授業を受けたあとでも、線形の推論が既定の方略として使われることがありました。一方で、生徒は数学の問題解決の研究が示すより頻繁に、文脈を考慮してもいたとも報告されています [12]。
反証4:理科の文脈が悪いのではなく、数学の側が弱い
「理科になると計算ができなくなる」という訴えに対しては、逆の証拠があります。大学の化学で、同じ内容を化学の文脈で出す群と、文脈を取り去った数学の問題として出す群を比べた研究では、代数の問題はどちらもよくでき、グラフの問題はどちらでも出来が悪かった。著者らは、問題は数学を応用へ転移させる段階ではなく、数学の側にあると結論しています [9]。
一言でいうと(反証のまとめ)
比例を教えることと、比例でない場面を見分けさせることは、別の指導として要ります [13] [14]。
——そして理科の計算が苦手なとき、理科の文脈より先に、数学の比例そのものを点検するほうが研究とは整合します [9]。
6. 実務——「判定→表→計算」の順で練習する
1回15分、週3回の目安です。
- 判定(3分):計算する前に「これは比例か」を答える。問題を読んだら、「一方を2倍にすると、もう一方も2倍になるか」を先に口で言わせます。比例でない場面を見分ける力は比例推論の構成要素です [1]。週に1回は、面積・体積・並列の電熱線など比例しない問題を必ず混ぜます [15]。
- 表(4分):比の表に書き出す。「食塩 20g — 水溶液 120g」「□g — 300g」のように、対応する量を縦に並べ、単位も書きます。何倍になっているかを矢印で示します。
- 計算(5分):整数比でない数値でも解く。生徒は数字が割り切れるかどうかで方法を選ぶことがあるため [3] [4]、同じ問題の数値を「20g → 17g」のように割り切れない数に変えてもう1問解きます。
- 言葉(3分):「1あたり」で言い直す。「1cm³あたり何g」「1Ωあたり」のように、比の意味を言葉で説明させます。
理科の計算でつまずいたら、まず数学の比例の問題を同じ数値で解かせてください。数学の問題でも解けないなら、原因は理科の文脈ではなく比例推論そのものにあります [9]。
問題の内容になじみがあるほど比例問題の成績は上がるため [6]、新しい単元の最初の数問は、家庭の料理の分量や買い物の値段など、身近な文脈に置き換えてから理科の問題に戻るのも一つの方法です。
この記事で言えないこと
- 日本の中学生・日本の理科の単元を直接扱った研究は、ここでは引用できていません。パレスチナ・オーストラリアなど海外の研究や、国の明示されていない研究です。
- 引用した研究の多くは、効果量を抄録に示していません。「どれくらい伸びるか」の大きさは言えません。
- 比例推論と理科の達成の関係 [5] は1970年代の相関研究です。因果の向きは確定していません。
- 「判定→表→計算」の手順そのものを検証した研究はありません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできることがあります。
- 計算の前に「2倍にしたら2倍か」を口で言わせる
- 比例しない問題(面積・体積など)を週に1回混ぜる
- 割り切れない数値に変えて、もう1問解く
- 理科でつまずいたら、同じ数値の数学の問題で確かめる
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 理科の計算が苦手な原因を、数学の比例と切り分けて診断していますか
- 比例でない問題を、指導の中でどれくらい混ぜていますか
- 「公式に当てはめる」以外に、比の関係をどう説明させていますか
まとめ
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【比例推論の3要素モデル】Modestou, M. & Gagatsis, A. (2010). Cognitive and Metacognitive Aspects of Proportional Reasoning. Mathematical Thinking and Learning. DOI: 10.1080/10986060903465822
- 【2段階診断テスト・2,000人超】Hilton, A., Hilton, G., Dole, S. & Goos, M. (2013). Development and application of a two-tier diagnostic instrument to assess middle-years students’ proportional reasoning. Mathematics Education Research Journal. DOI: 10.1007/s13394-013-0083-6
- 【加法から乗法へ・325人】Van Dooren, W., De Bock, D. & Verschaffel, L. (2010). From Addition to Multiplication … and Back: The Development of Students’ Additive and Multiplicative Reasoning Skills. Cognition and Instruction. DOI: 10.1080/07370008.2010.488306
- 【小学4年〜高校1年相当・755人】Fernández, C., Llinares, S., Van Dooren, W. & De Bock, D. (2012). The development of students’ use of additive and proportional methods along primary and secondary school. European Journal of Psychology of Education. DOI: 10.1007/s10212-011-0087-0
- 【比例推論と理科の達成・136人】McBride, J. W. & Chiappetta, E. L. (1978). The Relationship Between the Proportional Reasoning Ability of Ninth Graders and Their Achievement of Selected Math and Science Concepts. ERIC: ED167351
- 【内容のなじみと比例推論】Saunders, W. L. & Jesunathadas, J. (1988). The effect of task content upon proportional reasoning. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.3660250106
- 【密度の指導・1,645人】Hashweh, M. Z. (2016). The complexity of teaching density in middle school. Research in Science & Technological Education. DOI: 10.1080/02635143.2015.1042854
- 【具体物による指導・中学1年】Wollman, W. T. & Lawson, A. E. (1978). The influence of instruction on proportional reasoning in seventh graders. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.3660150306
- 【反証・理科の文脈より数学の側】Potgieter, M., Harding, A. & Engelbrecht, J. (2008). Transfer of algebraic and graphical thinking between mathematics and chemistry. Journal of Research in Science Teaching. DOI: 10.1002/tea.20208
- 【スキーマに基づく指導・148人】Jitendra, A. K., Star, J. R., Starosta, K. & Leh, J. M. (2009). Improving seventh grade students’ learning of ratio and proportion: The role of schema-based instruction. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2009.06.001
- 【追試・1,492人】Jitendra, A. K., Harwell, M. R., Im, S. & Karl, S. R. (2019). Improving student learning of ratio, proportion, and percent: A replication study of schema-based instruction. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000335
- 【反証・物理での線形の過剰使用】De Bock, D., Van Dooren, W. & Verschaffel, L. (2011). Students’ Overuse of Linearity: An Exploration in Physics. Research in Science Education. DOI: 10.1007/s11165-010-9171-8
- 【反証・線形の錯覚を直す授業実験】Van Dooren, W., De Bock, D., Hessels, A. & Janssens, D. (2004). Remedying secondary school students’ illusion of linearity: a teaching experiment aiming at conceptual change. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2004.06.019
- 【反証・線形性という障害】Modestou, M. & Gagatsis, A. (2007). Students’ Improper Proportional Reasoning: A result of the epistemological obstacle of “linearity”. Educational Psychology. DOI: 10.1080/01443410601061462
- 【反証・拡大図形の面積と体積・935人】Ayan, R. & Isiksal Bostan, M. (2018). Middle School Students’ Reasoning in Nonlinear Proportional Problems in Geometry. International Journal of Science and Mathematics Education. DOI: 10.1007/s10763-016-9777-z
- 【問題の見せ方と線形の錯覚】De Bock, D., Verschaffel, L. & Janssens, D. (2002). The Effects of Different Problem Presentations and Formulations on the Illusion of Linearity in Secondary School Students. Mathematical Thinking and Learning. DOI: 10.1207/s15327833mtl0401_3
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